速報25)2012年4月の地震予報

東日本巨大地震から1年が経過したが,この1年間は歴史的にも非常に地震の多い年となった.巨大地震前の16年半について気象庁から公表されているCMT震源数が1107個である.これに対し,巨大地震から2012年3月までのCMT震源数は補充報告を加えると1090個とほぼ同程度になっている.

過去16年半においても地震活動の盛衰が明らかであるが(速報21図38),2011年か
ら2012年にかけても地震活動の盛衰が見られる.2011年3月に419個の地震が起こった後
,その個数を減少させ,12月には30個と最低を記録した.12月の地震数だけでも1995年
の17個,1996年の31個,1997年の15個の年間地震数と同程度か上回っている.その後,
2012年1月から月間地震個数が増大し,新たな活動を開始している(表6).

表6-1:気象庁からCMT発震機構解として公表された年間震源個数

1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002
震源個数 9 17 31 15 31 41 85 42 57
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
95 99 78 79 72 76 71 165 1033 120

表6-2:気象庁からCMT発震機構解として公表された2011〜2012年の月間震源個数

2011 2012
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3
震源個数 15 30 419 147 96 63 65 58 40 37 33 30 33 37 48


地震数増加の特徴は,年末年始の鳥島沖海溝外地震によって活発化したフィリピン海プレートの活動(速報24.2月の地震予報)と日本海溝の海溝外地震の活性化,そして太平洋スラブ地震の活性化である.太平洋スラブの地震は,2011年5月から7月にかけて日本海溝・千島海溝・伊豆小笠原海溝のスラブ最深部で起こったが,深度300-400kmのスラブ中上部の地震は過去16年半に比較しても非常に少なかった(速報21).しかし,2012年1月からスラブ中上部での地震が起こり,太平洋プレート沈み込みの新たな活動期に入った.そして2012年3月1日から9日にかけての宮城県沖の正断層型海溝外地震の活発化に続き,3月9日に第一鹿島海山で逆断層型海溝外地震が起こり,3月11日と15日に再び宮城県沖で正断層型海溝外地震の後,3月14日から3月30日に襟裳海山で最大M6.9を含む正断層型海溝外地震が起こった(図51).

図51.3月のCMT震源

 

図52.襟裳海山付近の拡大図.2012年3月14日から3月30日に襟裳海山の南東部に集中的 に起こった正断層型海溝外地震の初動震源(X)とCMT震源(結線の先端).3月14日18 時8分のM6.9の最初の地震のみが引張応力軸方位が179°と南北方向(青字)であるが, その後の引張応力軸方位は東西方向(黒字)である.

2011年3月11日の東日本巨大地震発生の後,明治三陸津波地震(1896年)後に起こった海溝外地震である昭和三陸津波地震(1933年)の再来が心配されていた.しかし,今回の海溝外地震は初動震源深度が太平洋プレート中深部の50km程度で,2011年3月(速報8)や8月(速報15.緊急地震予報)の海溝外地震のように深度約100kmの太平洋プレート底で起こった地震と異なり,プレートを切断して巨大津波を発生させる地震ではなか
った.

図53.第一鹿島海山付近の拡大図.第一鹿島海山の南西部で3月9日に起こった逆断層型 海溝外地震M5.3.第一鹿島海山は日本海溝軸に平行する2本の正断層によって切断され ている様子が海底地形からも知ることができる.今回の地震の震央は南西側の断層線上 に位置している.この地震襟裳海山の海溝外地震の5日前であるので,同じ太平洋プレ ートと太平洋スラブの相互作用によって起こったと考えられる.襟裳海山の地震が正断 層型であるのに対して第一鹿島海山の地震は逆断層型であるのは,日本海溝から沈み込 んだスラブが過剰による沈み込み障害による.

今回の海溝外地震は,東日本巨大地震後に多数起こった最上小円域の海溝外地震と異なり,襟裳海山(図52)および第一鹿島海山(図53)で起こっている.これらの海山は太平洋底に数千mの高さでそびえ立ち,その山頂を海面上に出していたが,太平洋底とともに日本海溝へ沈み込み,現在の水深は3735mおよび3600mになっている.山頂に海岸付近で白亜紀に堆積した石灰岩を載せ,日本海溝に平行する正断層によって切断されていることが,日仏Kaiko計画による潜水調査によっても明らかにされている.

富士山よりも巨大な海山を太平洋底に築き上げるには,膨大な量のマグマの供給が必要である.太平洋底には多数の海山が存在することから,太平洋プレートが東太平洋海膨で拡大形成された後,年代とともに冷却して厚さを増大しつつあった時期に膨大なマグマが供給され,海底から溶岩が噴出し,巨大な海山が築き上げられたことを物語っている.今回の地震が起こっている海山直下には,太平洋プレートの海底面に噴出せず,太平洋プレート内に留まり冷却固結したマグマ溜りが存在する.マグマの貫入と固結を受けた太平洋プレートは,その後も冷却して厚さを増して日本海溝に到達したが,マグマ溜まりと太平洋プレートは性質が異なるので,太平洋スラブによる強力な引張力を受け,破壊したのが今回の地震であろう.

沈み込みスラブと日本列島下のマントルの相互作用については未知の領域であるが,これから起こる地震活動と地殻変動がその手掛かりを提供するものと期待される.一つ一つの地震は,人間が地震を解明するために行っている高温高圧下の岩石破壊実験の規模をはるかに超える自然界の壮大な実験であり,個々の地震は,地下深部の貴重な情報を与えてくれる.

太平洋プレート境界から離れ、太平洋スラブの上に位置する日本列島およびその下のマントル内でも地震活動が活発になっている。浜通ではM5を越える上層正断層型地震が起こるとともに,小名浜沖と牡鹿半島沖の中層逆断層型地震も活発化しており(図54),1896年6月の明治三陸津波地震後,1898年4月に起こった第3の宮城県沖地震M7.2と1900年5月の宮城県北部地震M7.0(速報5)の再来に十分な警戒が必要である.

図54.3月の自動発震機構解による初動震源