月刊地震予報145)東海道沖M6.0,得撫島沖M6.6,日本海中部M6.1, 2021年10月の月刊地震予報

1.2021年9月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2021年9月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で13個0.460月分,千島海溝域で2個0.864月分,日本海溝域で2個0.478月分,伊豆・小笠原海溝域で3個0.536月分,南海・琉球海溝域で6個0.057月分であった(2021年9月日本全図月別).総地震断層面積規模はΣM6.8で.M6.0以上の地震は;
 9月14日伊豆海溝域東海道沖深度385kmのM6.0P WingBk
 9月21日千島海溝域得撫沖深度30kmのM6.6p CsmUr
 9月29日日本海中部深度394kmのM6.1+p VladK
の3個である(図429).

図429.2020年10月から2021年9月までの日本全域年間CMT解
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)のMと数字は,2021年9月のM6.0以上の地震と過去1年間の最大地震(6712>月刊地震予報138)の発生年月日と規模.
 地震断層面積変遷(右上下図)については図422説明参照(月刊地震予報144).
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 M6.0以上の地震の震度分布は,9月14日東海道沖のM6.0で震央に近い中部地方が震度1以下なのに関東地方・東北地方が震度3以上と典型的な異常震域となっている(図430左図).9月21日得撫島沖のM6.6では北海道と東北地方の太平洋沿岸で震度1が観測された(図430中図).9月29日日本海中部のM6.1では震央から離れた北海道から関東地方の太平洋沿岸が震度3と異常震域となっている(図430右図).

図430. 2021年9月のM6.0以上のCMT解の震度分布.
 2021年9月14日東海道沖M6.0(左),9月21日得撫島沖M6.6(中),9月29日日本海中部M6.1(右).
赤色×:震央,1-3:震度.気象庁HomePageより.
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2.東海道沖M6.0

 2021年9月14日7時16分東海道沖深度385kmの伊豆SlabでM6.0Pが発生した(図431).この深度は上部Mantle下底の相転移境界深度410kmの直上にある.

図431.2021年9月14日東海道沖M6.0Pの伊豆・小笠原海溝域半年間主歪軸方位図.
 左図:震央は半径50kmの丸印の中心の西北西向きPink色線.震源は海溝距離断面図の+印.同心円状に屈曲する太平洋Slabは小笠原海台小円区.数字とM:地震発生年月日と規模.
右上図:海溝距離dTr=0kmの海溝軸に沿う縦断面図と移動平均地震断層面積規模曲線areaM.震源は+印.
右中図:時系列図.右端の数字は2021年9月から遡って半年間の月数.左端が移動平均地震断層面積規模曲線areaMと積算地震断層面積曲線Benioff.
右下図:主歪軸方位図.中央横線が基準の海溝傾斜方位TrDip.
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 深度410kmは上部Mantleのα相(主要鉱物のカンラン石)がβ相に転移する境界である.太平洋底に随行してきたMantleのβ相への相転移に伴い,太平洋Slabが翼状に押し上げられる(図432;月刊地震予報131).押上げられた翼状SlabとVladivostokまで沈込むSlabとの間に裂目があり,地震波は中部地方に伝わらないが,翼の付け根を通過した地震波は太平洋Slabに伝わり日本海溝域の太平洋沿岸を異常震域にする.

図432.伊豆・小笠原・Mariana海溝域のMantle相転移面と太平洋の同心円状屈曲Slab・翼状Slab・鉛直Slab (月刊地震予報131,図377).
2021年9月14日東海道沖M6.0PはWingβSlab(黄緑色)の地震である.
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 今回のM6.0の震央は八丈小円区を挟んだ鹿島小円南区と伊豆小円北区との境界部に位置する(図431左の震央地図の丸印中心のPink色線・右上図の+印).この境界部の海溝軸は南北で,海溝軸に直交する海溝傾斜方位(図431右下の主歪軸方位図の中央横基準線TrDip)は西方位線Wと交わっている.
 今回のM6.0の主圧縮歪軸方位(Pink色丸印)はPlate運動方位(図431右下の主歪軸方位図の紫色線)と一致している.この歪軸方位の左上に接するほぼ同方位の青色△印は2021年6月1日伊豆海溝外深度60kmのM5.0T引張主歪軸方位である.
 6月1日海溝外引張過剰正断層型M5.0Tの3ヶ月半後にそのPlate運動方位のMantle相転移面上で圧縮過剰逆断層型M6.0Pが起ったことは,海洋底沈込に伴う随伴Mantleが深度410kmの相転移面へ影響を及ぼすには3ヶ月半を要したことになる.この間に伊勢湾の相転移深度上の深度355kmでも7月27日M4.9-npが起っている.

3.得撫島沖M6.6

 2021年9月21日5時25分に千島海溝域千島沖震源帯得撫島沖深度30kmのSlab上面付近でM6.6pが起こった(図433).この震源域では2021年7月13日にも深度30kmM6.2prが起っている(月刊地震予報143),これら逆断層型地震の圧縮主歪軸傾斜方位は主歪軸方位図(図433右下)の中央基準横線である海溝軸傾斜方位(TrDip)の島弧側と下端の海洋側との逆方位になっている.

図433.2021年9月21日千島海溝域千島沖震源帯得撫島沖M6.6の千島海溝域半年間主歪軸方位図.
 左図:震央は半径50kmの丸印の中心の西北西向きPink色線.震源は海溝距離断面図の+印.同心円状に屈曲・平面化する太平洋Slabは千島小円区.数字とM:地震発生年月日と規模.
右上図:海溝距離dTr=0kmの海溝軸に沿う縦断面図と移動平均地震断層面積規模曲線areaM .震源は+印.
右中図:時系列図.右端の数字は2021年9月以前の半年間の月数.左端が移動平均地震断層面積規模曲線areaMと積算地震断層面積曲線Benioff.
右下図:主歪軸方位図.中央横線が基準の海溝傾斜方位TrDip.
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 圧縮主歪軸の島弧側傾斜はSlabのPlate運動に伴う圧縮歪,海洋側傾斜はSlab上面と島弧地殻境界面に沿う剪断歪との判別に使用できる.島弧側傾斜はSlab上面と島弧地殻の固着,海洋側傾斜はSlab上面・島弧地殻境界面の摩擦すべりに対応する.7月13日M6.2が固着で今回の9月21日M6.6が剪断歪で,固着していたSlab上面がすべり始めたのであろう.
これらの歪軸方位は震央地図(図433左図)の半径50km丸印中心の赤線とその左に連続して作図されている赤色線である.この方位は中央基準横線より上の西方位線W付近と下端より上の東方位線E付近にあり,得撫島沖の海溝周辺に西北西のPlate運動方位(紫色折線sub)に斜交する歪場が形成されていることを示している.
 この間の2021年9月3日にほぼ同小円方位の下部Mantle上面直上の深度628kmでM5.9+pが起っている.その引張過剰圧縮歪軸方位はPlate運動方位(図432右下図の紫色折線Subに一致しており,太平洋SlabがPlate運動によって千島海溝から下部Mantle上面に到達したが,下部Mantleに沈込めずに起った地震であろう.

4.日本海中部M6.1+p

 2021年9月29日日本海中部深度394kmの上部Mantle下底面直上でM6.1+pが起った(図434).ほぼ同深度の384kmの日本海中部で2021年7月8日にもM4.6pが起っている.この深度では上述「2」の9月14日東海道沖深度385kmM6.0Pも起っている(図431).同深度の東海道沖震源は日本海溝域から同心円状屈曲・平面化してVladivostokまで沈込むSlabよりも深く,この間に異常震域の原因となる裂目の存在を確認できる(図434左の海溝距離断面図).

図434.2021年9月29日日本海中部M6.1+pの半年間主歪軸方位図.
 左図:震央は半径50kmの丸印の中心の橙色線.同心円状屈曲・平面化する太平洋Slabは襟裳小円区.震源は海溝距離断面図の+印.数字とM:地震発生年月日と規模.
右上図:海溝距離dTr=0kmの海溝軸に沿う縦断面図と移動平均地震断層面積規模曲線areaM .震源は+印.
右中図:時系列図.右端の数字は2021年9月から半年間の月数.左端が移動平均地震断層面積規模曲線areaMと積算地震断層面積曲線Benioff.
右下図:主歪軸方位図.中央横線が基準の海溝傾斜方位TrDip.
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 鹿島小円区の今回の地震M6.1とほぼ同じ小円方位の茨城沖から日本海溝への震源列がある(図434左の震央地図).この震源列の地震は5月29日深度32kmM4.9Pから開始し,8月3日深度31kmM4.7Pから連発地震になり(月刊地震予報144),8月下旬と9月中旬にも起っている.この小円方位では海溝傾斜方位TrDipとPlate運動方位(図434右下の歪軸方位図の中央横線と紫色折線)が交差しており,Plate運動による沈込が海溝傾斜に沿って最も効率よく進行する.圧縮主歪軸傾斜方位は,歪軸方位図の中央横線付近の島弧側と上下両端の海洋側に分離している.海洋側傾斜は沈込Slabと島弧地殻境界部の剪断歪による地震であり,島弧側傾斜は屈曲Slabの平面化に伴うSlab表面の伸張による引張剰逆断層型+pを主体としている.これらの地震の1-2ヶ月後に今回の地震が上部Mantle下底の相転移深度付近で発生している.

5.2021年10月の月刊地震予報

 千島海溝域の得撫島沖の太平洋Slab上面でPlate運動方位と異なるすべりに対応する剪断歪の地震が発生し,Slab下端が下部Mantle上面付近で引き込まれている.千島海溝域では2007年1月13日深度30kmM8.2・2013年5月24日深度609kmM8.3の巨大地震と静穏化を繰返してきたことから,次の巨大地震の襲来が懸念されている(月刊地震予報143).今後,千島海溝域の地震活動を注意深く見守り,巨大地震の前震となる連発地震の発生を注意深く監視する必要がある.
 日本列島全域の上部Mantle下底の地震が活発化している.特に伊豆海溝域の翼状SlabはSlab下面やSlab裂目を通り抜けるMantle流によって保持されており,海溝付近の島弧地殻・Slab上面間の歪蓄積とともにSlabが沈込むMantleに変動が起っていることも考えられ,警戒が必要である.