速報68)日本沈没が開始されたか,地震断層面積移動平均対数曲線,2015年6月の地震予報

1.2015年5月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2015年5月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で22個18.985月分,千島海溝域で0個,日本海溝域で11個2.877月分,伊豆・小笠原海溝域で8個119.805月分,南海・琉球海溝域で3個0.013月分であった(2015年5月日本全図月別).
 全国の総地震断層面積比が18.985月分とプレート運動面積の約20倍になった.この地震断層面積比は,2011年3月の252月分と2007年1月の25月分に次ぐ第3位の記録である.昨年6月から今月までの過去1年間の総地震断層面積比も2.016年分と2011年の21.061年分,2007年の2.941年分に次いで第3位である.
 M6.0以上の地震は,2015年5月11日鳥島沖海溝域M6.3pe,5月13日三陸沖M6.8p,5月30日小笠原西方沖M8.1t,5月31日鳥島沖海溝外M6.6toの4個が起こった.小笠原西方沖M8.1の深度は682kmと,2009年4月18日ウラジオストックM5.0+npの最深記録671kmを11km更新し,660kmの下部マントル上面深度を確実に超えている.

2.地震断層面積移動平均対数曲線

 地震活動とプレート運動を定量的に比較するため,本速報では地震のマグニチュードMと地震断層の長さLおよび断層のずれDについての経験式(松田,1975)を乗じて算出される面積S(km2
       S=L*D= 101.2M-9.9
を用いている(速報36).これまで地震活動の動静を縦断面図に沿う時系列図として示し,個々の地震をマグニチュードMに対応する記号の大きさや主応力軸方位棒の長さにより半定量的に表してきた.地震は時系列図に示す時間の経過に比較すると瞬間的であるので,グラフにすると細い線や点としてしか示すことができない.
 そこで,時系列図に示す時間範囲を150等分し,その区分期間内に起こった地震の総地震断層面積を算出し,その前後の区分を加えた3期間の平均を用いる移動平均曲線で示す方法を用いる(速報67:図150).

図151.2015年5月CMT発震機構解の地震断層面積移動平均対数曲線. 左下の「0.6day」は移動平均幅が0.6日であることを示す.「All」:総計,「A」:千島海溝域,「B」日本海溝域,「C」伊豆・小笠原海溝域,「D」南海・琉球海溝域.横軸の目盛は10-8から10+1までの対数で,-8から+1.

図151.2015年5月CMT発震機構解の地震断層面積移動平均対数曲線.
左下の「0.6day」は移動平均幅が0.6日であることを示す.「All」:総計,「A」:千島海溝域,「B」日本海溝域,「C」伊豆・小笠原海溝域,「D」南海・琉球海溝域.横軸の目盛は10-8から10+1までの対数で,-8から+1.

 初動発震機構解ではM1.6以上,CMT解ではM3.8以上の地震が報告されており,最大は東日本大震災のM9.0なので,地震断層面積は10-7.98から100.90 km2の範囲になる.この範囲の地震断層面積を定量的に表示するため,横軸目盛に10-8から10 km2までの対数表示-8から1を用いる.10-8km2は10-2m2であるので10cm四方の折紙程度の面積である.対数において0はマイナス無限大になるで,地震が無く移動平均値が0の場合には10-8に切り上げる.
 2015年5月のCMT解の地震断層面積移動平均対数曲線を図151に示す.縦軸は時間で,右縁の数字が2015年5月の日付になる.左端のグラフAll(合計)の下の「0.6day」は移動平均期間が0.6日であることを示し,移動平均曲線が0.2日(4.8時間)毎に算出された地震断層面積であることを意味する.赤色曲線がグラフの左縁にある場合は,地震が14.4時間以上起こっていないことを示す.移動平均期間が0.6日と短いため個々の地震が棒グラフ状に示され,C(伊豆・小笠原海溝域)でM8.1の地震が5月30日に起こったことも判別できる.

3.日本沈没が開始されたか

 海溝から沈み込んだ海洋プレートはスラブと呼ばれ,深発地震面として観測されている(図152).上部マントル内の深発地震がスラブ内でしか起こらないのは,スラブが破壊できる程低温なためと考えられている.上部マントル主要構成鉱物のカンラン石は,深度660kmの下部マントル上面の温度圧力条件下で高密度のペロブスカイトに相転移する.この相転移は低温ほど高圧を要するため,低温のスラブは下部マントル上面を通過できず停滞すると考えられる.地震波トモグラフィーで認められる下部マントル上面付近の高速度物質は,この停滞スラブに対応されている.スラブ深部で起こる地震の発震機構が逆断層型であることも(図152),下部マントル上面に沿って停滞しているスラブ先端に後続スラブが突き当たっているためと説明されている.

図152.日本列島に沿って沈み込む太平洋スラブとフィリッピン海スラブ. 1994年9月以降のCMT解の主応力軸方位.

図152.日本列島に沿って沈み込む太平洋スラブとフィリッピン海スラブ.
1994年9月以降のCMT解の主応力軸方位.

 下部マントル上面に沿って停滞するスラブ先端も次第に暖められ,ペロブスカイトに相転移を開始する.スラブ先端が下部マントルに沈み込みを開始すると,浮力を失って後続のスラブを下部マントルへ引き摺り込む.低温のスラブも引き摺り込まれると高圧になり相転移が連鎖的に進行する.連鎖的相転移はスラブを下部マントルに崩落させる.映画「日本沈没」(第2版)では,日本沈没を,停滞スラブの下部マントルへの崩落よって説明している.
 今回の小笠原西方沖M8.1は日本全国を揺るがしたが,深度が下部マントル上面の660kmよりも有意に深い682kmであり,発震機構が正断層型であることは,相転移したスラブ先端によって下部マントルへ引き摺り込まれた後続スラブ内で起こった地震であることを示している(図153).

図153.2015年5月30日小笠原西方の地震M8.1の震源. 震源は伊豆小円南区と小笠原小円区の境界部に位置し,同心円状屈曲したまま深度660kmの下部マントル上面に到達する小笠原スラブ(右)と平面化する伊豆スラブ(左)の中間の下部マントル内で起こった.平面化する伊豆スラブは,日本海溝から沈み込む一連のスラブの南端に当たり,傾斜角を次第に増大させていることを考慮すると,伊豆スラブの最南端が下部マントルに崩落し,その後続スラブ内で起こったことを示している.

図153.2015年5月30日小笠原西方の地震M8.1の震源.
震源は伊豆小円南区と小笠原小円区の境界部に位置し,同心円状屈曲したまま深度660kmの下部マントル上面に到達する小笠原スラブ(右)と平面化する伊豆スラブ(左)の中間の下部マントル内で起こった.平面化する伊豆スラブは,日本海溝から沈み込む一連のスラブの南端に当たり,傾斜角を次第に増大させていることを考慮すると,伊豆スラブの最南端が下部マントルに崩落し,その後続スラブ内で起こったことを示している.

 震央は伊豆小円南区と小笠原小円の境界付近に位置し,海溝に沿う同心円状屈曲したまま沈み込む小笠原スラブと,平面化する伊豆スラブの境界付近にある.幾何学的に同心円状屈曲したまま沈み込むスラブと平面化して沈み込むスラブとの間に裂け目が存在するはずであり,この裂け目の上に西之島が位置している(図154:新妻、2014a).

図154. 同心円状屈曲したまま下部マントル上面に達すると,低温なスラブ上面が接するため相転移しにくく,下部マントル上面に停滞し,その先端は海溝よりも海洋側に到達する.スラブ先端が相転移を開始すると海溝を海洋側に引張るので背弧海盆が拡大する.平面化したスラブの先端は相転移を起こし易いが,相転移を起こすのは海溝から離れた背弧側であるので,島弧は背弧側に引っ張られ,背弧海盆は拡大せず,むしろ縮小する.

図154. 同心円状屈曲したまま下部マントル上面に達すると,低温なスラブ上面が接するため相転移しにくく,下部マントル上面に停滞し,その先端は海溝よりも海洋側に到達する.スラブ先端が相転移を開始すると海溝を海洋側に引張るので背弧海盆が拡大する.平面化したスラブの先端は相転移を起こし易いが,相転移を起こすのは海溝から離れた背弧側であるので,島弧は背弧側に引っ張られ,背弧海盆は拡大せず,むしろ縮小する.

 下部マントル上面に接するのは,平面化したスラブでは高温のスラブ下面であるのに対し,同心円状屈曲したままのスラブでは低温のスラブ上面である.高温の方が相転移し易いことから,平面化している伊豆スラブの方が下部マントルに崩落を開始したと考えられる.伊豆スラブは南程急斜しているので,南端が最も早く下部マントル上面に到達することから,スラブ崩壊は伊豆スラブ南端から開始したと考えられる.この崩落は連鎖的に進行することから,伊豆諸島の南端から沈没を開始し,関東地方に及んで日本列島の沈没に到るであろう.
 日本沈没は,1400万年前の日本海拡大後にも起こっている(新妻,1978;1979;2007).この日本沈没は,同心円状屈曲スラブが海溝よりも海洋側から下部マントルに崩落したもので,日本海を拡大させた後に日本列島を沈没させた(図155;新妻,2014b).今回は平面化スラブの下部マントルへの崩落なので,日本海をむしろ縮小させるであろう.また平面化スラブは海洋プレートに直結しているため,崩落速度はプレート相対運動に律され,日本海拡大時のように急激に進行しないであろう.

図155.日本海拡大と同心円状屈曲スラブの下部マントルへの崩落と切断.  日本海拡大前の日本列島の位置には,同心円状屈曲したまま下部マントル上面に達するスラブが下部マントル上面に停滞し,その先端が海溝よりも海洋側に到達していた(IV).スラブ先端が相転移を開始すると浮力を失い,後続スラブを引き摺り込み連鎖的な相転移を起こして崩落し,海溝が海洋側に移動するため日本海が拡大し、日本列島は沈没する(III).下方への引張応力がスラブの破壊強度を越えてスラブが切断し,日本列島は浮上する.東北日本脊梁には巨大カルデラ列が形成される(II).現在沈み込んでいるスラブの沈み込みが開始する(I).

図155.日本海拡大と同心円状屈曲スラブの下部マントルへの崩落と切断.
 日本海拡大前の日本列島の位置には,同心円状屈曲したまま下部マントル上面に達するスラブが下部マントル上面に停滞し,その先端が海溝よりも海洋側に到達していた(IV).スラブ先端が相転移を開始すると浮力を失い,後続スラブを引き摺り込み連鎖的な相転移を起こして崩落し,海溝が海洋側に移動するため日本海が拡大し、日本列島は沈没する(III).下方への引張応力がスラブの破壊強度を越えてスラブが切断し,日本列島は浮上する.東北日本脊梁には巨大カルデラ列が形成される(II).現在沈み込んでいるスラブの沈み込みが開始する(I).

 相転移に伴い水が上部マントル下部のマントル遷移帯に放出されると考えられている(栗谷,2012).スラブから上部マントルに水が供給されると,融点降下による部分融解によってマグマが形成される.停滞スラブが下部マントルへ崩落し,マントル遷移帯に水が急速に放出されると,深度410kmのマントル遷移帯上面から水が放出され,上部マントルでマグマが形成されることも予想される.伊豆小円南区と小笠原小円区境界では西之島が噴火している.西之島噴火は,東日本大震災後2年半の2013年11月から開始しており,前回の1973年の噴火は1968年十勝沖地震後5年に起こったことから日本海溝域の巨大地震との関係がうかがわれる(速報48).そこで,今回の噴火によって殆どを覆われてしまった西之島本島の形成と1896年明治三陸地震との関係も予測された.しかし,幕末に訪れたペリー艦隊の航海日誌にその存在が記されており,明治以後の水路部による観測に噴火記録が存在しないことから明治以前であり,明治三陸地震とは無関係であることが判明した.西之島の噴火と平面化スラブの下部マントルへの崩落が関連していれば,崩落は江戸時代に既に開始していたことになる.東日本大震災前の2010年12月の小笠原海溝域の活発な地震活動(速報28速報57)を考えると,東日本大震災も伊豆平面化スラブの下部マントルへの崩落に起因しているとも考えられるが,崩落が顕在化して日本列島のテクトニクスの新たな頁が開かれたことは確かである.
 鳥島沖の2015年5月11日の海溝付近M6.3peと5月31日の海溝外M6.6toも伊豆スラブの下部マントルへの崩壊に関係しているものと考えられる.特にM8.1の翌31日の海溝外M6.8の発震機構が正断層型であることから,崩落スラブの引張力が海溝外にまで及んでいることを示している.

4.2015年5月13日三陸沖M6.8p

 この地震は,同心円状屈曲スラブと島弧マントルとが衝突している金華山沖震源域北部で起こっており,2015年2月の同心円状屈曲スラブと島弧地殻との衝突による明治三陸地震震源域の活発な地震活動(速報65)がスラブ下方に移動したものと考えられる.

5.2015年6月の地震予報:

 太平洋プレート伊豆スラブ南端の下部マントルへの崩落は,今後の日本列島における地震・火山活動に大きな影響を与える.日本列島がこれまで経験してきた歴史に残る地震や火山活動の枠を超えた異次元の活動が起こることも予想されるので,より長期的な地質記録に基づく視野での対応が必要である.
 伊豆スラブ崩落で直接影響を受けるのは,伊豆諸島であるが,下部マントルに引き摺り込まれる際に起こる大深度の地震の発生とともに,海溝付近の地震の発生の増加が予想される.また,伊豆スラブが沈み込んでいるフィリッピン海プレートへの影響も予想される.フィリピン海プレートは伊豆スラブの下部マントルへの崩落によって傾斜を増大させれば,南海トラフ・琉球海溝への沈み込み境界を後退させる.2015年4月の与那国島付近の連発地震は,台湾衝突に伴う琉球海溝南西端の後退と関係しているが(速報67),伊豆スラブによるフィリッピン海プレート全体の引き寄せに関係していたとも考えることができる.
 伊豆スラブの下部マントルへの崩落は連鎖的に北上することと,崩落に伴う平面化スラブの沈み込み速度増大は,太平洋プレート運動に律されているが,逆に太平洋プレートの運動速度を増大させ,東太平洋海膨の拡大速度を増大させることも考えられる.太平洋プレート運動速度の増大は,日本列島の地震・火山活動の活発化と直接結び着き,今後の警戒が必要である.

引用文献

栗谷 豪(2012)マントル遷移層と水.日本地球惑星科学連合ニュースレター,8(3),9-11.
松田時彦(1975)活断層から発生する地震の規模と周期について.地震第2輯,28,269-283.
Niitsuma, N. (1978) Magnetic stratigraphy of the Japanese Neogene and the development of the island arcs of Japan. Journal of Physics of the Earth, 26 Supplement, 367-378.
新妻信明(1979)東北日本弧の地質構造発達―プレートの沈み込み過程を探るー,科学,55,53-61.
新妻信明(2007)日本列島テクトニクスと海洋底沈み込み.「プレートテクトニクスーその新展開と日本列島」,共立出版,186-189.
新妻信明(2014a)小笠原スラブ沈み込み形態と西之島噴火および日本海拡大,地質学会東北支部講演.
新妻信明(2014b)屈曲スラブ沈み込みと日本海拡大.地質学会第121年学術大会講演要旨,R15-O18,136.