月刊地震予報101)地震活動表示の変更・下北半島沖地震・伊豆半島東方沖連発地震・銚子沖連発地震・択捉島沖連発地震・2018年2月の月刊地震予報

1.発震機構解の表示変更

 これまで月間・年間の地震活動を示すために気象庁から公表される発震機構解の震源位置図を掲載してきたが,地震活動の性質を示すため震源位置に主応力軸方位を表示することに変更する.逆断層型と圧縮横擦型については圧縮主応力軸方位,正断層型と引張横擦型については引張主応力軸方位を示す.
発震機構解には地震発生後直ちに公表される速報解と,精査後に公表される初動IS解およびCMT解がある.CMT解は海溝域を含む広域に起こった規模の大きい地震について公表される.陸域から沿岸域の地震については小さな規模の地震まで初動解が公表されている.
以前の速報は初動解のみであったが,近年,海外を含む広域のCMT解についても速報として公表されるようになった.速報解には地震を起こした応力場についての数値情報が含まれ,前震・本震の判定など地震予報に威力を発揮する(速報79月刊地震予報85特報4).従来は,東日本についてのみ速報解を表示してきたが,日本全域で速報解がどの程度公表されているかを示すため,表示範囲を日本全域に広げることにする.

2.2018年1月の地震活動

気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2018年1月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で19個0.149月分,千島海溝域で3個0.021月分,日本海溝域で11個0.896月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.045月分,南海・琉球海溝域で4個0.006月分であった(2018年1月日本全図月別).
2018年1月の最大地震は1月24日の下北半島沖M6.3で,他にM6.0以上の地震はなかった.連発地震は伊豆半島東方沖,銚子沖,択捉島沖であった.

2.下北半島沖地震M6.3

 2018年1月24日19時51分M6.3P深度34[スラブ上面深度-4]kmが下北半島沖の太平洋スラブ上面より4km上で起こった.CMT解の発震機構(P101+23T310+64N196+11)と非双偶力成分比-6%から,やや圧縮過剰の逆断層P型である.圧縮主応力軸は海溝側に23°傾斜しているので,島弧マントルと太平洋スラブ上面との剪断応力による海溝型地震である.
 本連発地震の下北半島沖(oSmk)にはCMT解が50個(M6.9分),初動解が174個(M7.0分)公表されているが,応力場偏角が今回のCMT解から±25°以内にCMT解44個と初動解150個が入っており,ほぼ同じ応力場の地震が起きている.
 下北半島沖の最大地震は2001年8月14日5時11分M6.4p38[-0]kmで今回のCMTからの応力場偏角は8°と良く一致している.東日本大震災後に活発化したが今回と2001年の活動には及ばない(図269).これまで静穏化していたが2001年に匹敵する地震活動が開始されたとも考えられる.

図260. 下北半島沖2018年1月24日M6.3地震域のCMT解主応力方位.
左:震央地図.右上:海溝距離断面図.右中:縦断面図.右下:時系列図(右端数字は年数,左端は積算地震断層面積ベニオフ図,右端は2018年1月24日M6.3基準の応力場偏角).

3.伊豆半島東方沖連発地震M4.2-M5.2

 2018年1月6日4時37分M4.4+np12km・1月6日5時47分M4.5+np11km・1月15日3時12分M3.4np11kmの連発地震が伊豆半島東方沖で起こった.本連発地震域はこれまでもマグマ活動と関連する群発地震が起こっており,1998年5月3日M5.9np5km,2006年4月21日M5.8-np7km,2006年5月2日M5.1-nt15km,2009年12月17日M5.0+np4km,18日M5.1np5kmのCMT解7個(M6.2分)が公表されている(図261).初動解はM1.7-5.8の92個(M6.1分)がある.連発地震後の2018年1月23日9時59分に草津本白根が噴火し,蔵王でも火山活動が活発化している.

図261.2018年1月の伊豆半島東方沖連発地震域のCMT解主応力方位.
左:震央地図.右上:海溝距離断面図.右下左:積算地震断層面積ベニオフ図.右下右:2018年1月6日M4.5基準の応力場偏角.

4.銚子沖連発地震M4.7-5.2

 銚子沖で2018年1月10日の7時20分M4.7-np34[+2]km・7時30分M5.2-tr32[0]kmの連発地震があった.この連発地震は房総三重会合点から北西方向に伸びるフィリピン海スラブ北西縁が太平洋スラブに接触している相模スラブ震源域Sgmで起こった(特報7).相模スラブ震源では東日本大震災まではCMT8個(M6.2分)しか起こっていなかったが,大震災以後2013年までは34個(M6.7分)と活発化し,その後静穏化して5個(M5.3分)起こったのみである.今回の連発地震の総地震断層面積は過去4年間分と同程度であり,新たな活動の開始を告げているのかもしれない(図262).

図262.2018年1月の銚子半島沖連発地震と相模スラブ震源(Sgm)のCMT解主応力方位.
左:震央地図.右上:海溝距離断面図.右中:十断面図.右下:時系列図(右端数字は年数,左端は積算地震断層面積ベニオフ図).

5.択捉島沖連発地震

2018年1月20日14時51分M5.1P30[-22]km・1月30日12時50分M4.7P30[-13]kmの連発地震が択捉島南東方沖の太平洋スラブ上面から13-22km上の千島弧マントル内で起こった.圧縮主応力軸が海溝側に傾斜しているので,太平洋スラブと島弧マントルとの剪断応力による地震である.最初の地震の半日前に2018年1月19日21時00分M4.7P81[+17]kmが根室沖の太平洋スラブ内で起こっている.この地震の圧縮主応力軸も海溝側傾斜であるので太平洋スラブに働く島弧マントルの剪断圧縮応力による地震である.
千島海溝に沿って太平洋スラブ上面に沿う剪断応力によるCMT解は,温祢古丹島から根室まで146個(M7.5分)が起こっているが,その圧縮主応力方位は太平洋プレートと北米プレートの相対運動(主応力方位図の中央付近の紫色直線およびその逆方位の上下枠付近)に沿っている(図263).1994年から2006年までは28個(総地震断層面積のプレート運動面積比0.014),2006年から2014年までは105個(0.081),2015年から2017年までは10個(0.015)と再び静穏化していたが,今回の連発地震が活性化を示していることも考えられる.

図263.2018年1月の択捉沖連発地震と千島下震源域(mCsm)のCMT解主応力方位.
左下:震央地図.左上:海溝距離断面図.右上:縦断面図.右中:時系列図(右端数字は年数,左端は積算地震断層面積ベニオフ図).右下:主応力方位図.

6.2018年2月の月刊地震予報

2018年1月のCMT面積比は,1997年の年間最低記録0.107に次ぐ低さの2017年の0.142(2017年日本全図年別)とほぼ等しい0.149であり,2017年1月からの静穏化が継続している.ただし,東日本大震災後の活性化後に静穏化していた千島・東北・関東地域で連発地震が起き,新たな活性化の前兆として警戒が必要である.