月刊地震予報85)鳥取県中部地震の本震判定・海溝距離深度断面図の改訂・2016年11月の月刊地震予報
2016年11月11日 発行
1.2016年10月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2016年10月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で18個0.407月分,千島海溝域で1個0.155月分,日本海溝域で7個0.141月分,伊豆・小笠原海溝域で4個0.223月分,南海・琉球海溝域で6個0.827月分であった(2016年10月日本全図月別).
2016年10月のM6以上の地震は,鳥取県中部2016年10月21日M6.6+np11km と千島海溝域の択捉島沖2016年10月24日M6.0P0kmの2個である.
択捉島沖の地震M6.0Pの初動深度は0kmと島弧地殻表層であるが,CMT深度は41kmと沈込スラブ表面にある.この震央から南南西に50kmの沈込スラブ表面で1994年10月4日北海道東方沖地震M8.1?28kmが起こっている.
2.鳥取県中部地震の本震判定
2016年10月21日14時07分に鳥取県中部でM6.6np10kmが起こり,速報発震機構解34個・精査後の初動発震機構解16個・CMT解4個が公表された.速報値は地震後約1時間半に公表され,精査後の発震機構解がその後公表されている.
最大地震M6.6の直後から,テレビ局は臨時報道を開始した.その報道で気象庁の「同程度の余震に注意」との発表を伝えたが,その後2016年4月の熊本地震(月刊地震予報79)の経験から「同程度以上の本震が起こる可能性」にも注意するよう呼び掛けがあった.最大地震M6.6が起こった時には速報発震機構解として直前に起こった10月21日12時12分M3.8について既に公表されており,15時40分には最大地震を含む8個の速報値が公表された.この時点で筆者は,震源深度・主応力方位回転角(特報4)から最大地震が本震であり,12時12分M3.8が前震と判定した.公表された発震機構速報解と初動発震機構解および最大地震M6.6の発震機構速報解を基準にした主応力方位回転・震源位置関係を以下に示す(図196).
発震時刻 主応力回転 規模型深度 距離[方位]/深度差 (精査後)
2016年10月21日
12時12分 +24.0 M4.2np10km 0/0km (+9.8 M4.2np10km 5/0km)
14時07分 基準 M6.6np10km 基準 (+10.7 M6.6np11km 5/+1km)
14時30分 -60.7 M4.6pr10km 9[270]/0km
14時33分 M4.3?0km 0/10km
14時46分 M4.3?10km 9[270]/0km
14時50分 +26.9 M4.4nt10km 0/0km
14時53分 +66.5 M5.0nt10km 0/0km (-33.0 M5.0nt9km 5/-1km)
15時02分 M4.2?10km 0/0km
15時13分 -78.5 M3.5p10km 11[180]/0km
15時27分 +62.8 M3.7p10km 9[270]/0km
15時31分 M3.7?0km 11[180]/-10km
15時47分 M3.7?10km 0/0km
15時58分 -82.4 M3.6t10km 0/0km
16時21分 M4.2?10km 9[270]/0km (-27.0 M4.3nt9km 8/-1km)
16時52分 -37.1 M4.2nt0km 0/-10km
16時59分 +41.5 M3.7nt10km 9[270]/0km (-27.8 M3.5nt10km 7/0km)
17時51分 M3.5?10km 9[270]/0km
17時55分 M3.5?10km 0/0km
17時59分 -48.8 M4.3np10km 9[270]/0km (-19.4 M4.3np9km 7/-1km)
18時35分 M3.9?10km 0/0km
19時20分 M3.7?10km 9[270]/0km
20時16分 (+12.6 M3.2np10kn 7/0km)
22時03分 +77.0 M4.0t10km 9[270]/0km
22時41分 M4.0?10km 9[270]/0km
22時53分 -74.8 M3.8tr10km 0/0km (-79.2 M3.8tr8km 5/-2km)
23時03分 -71.6 M3.7nt10km 0/0km
2016年10月22日
0時32分 (+36.3 M3.3nt8km 5/-2km)
6時17分 +19.5 M4.1np10km 9[270]/0km (-49.2 M4.0nt11km 8/+1km)
12時08分 +22.6 M3.6nt10km 0/0km
19時45分 M3.5?10km 0/0km (-49.2 M3.5nt12km 5/+2km)
21時57分 +43.2 M3.5nt10km 0/0km
前震・本震・余震
震源域の地下応力が上昇し,破壊強度に達すると,破壊強度の小さい部分から破壊が進行し前震となる.次いで最後まで残った最も大きな破壊強度の部分が破壊する本震に到る.地下応力は本震まで解放されないため,前震と本震の主応力はほぼ同じ方位を保持する.震源域の本破壊によって応力が解放され,次に急変した応力変化に対応して生ずる新たな破壊に対応する余震が起こる.余震の主応力方位は前震や本震と異なりばらつきが大きく,地下応力の解放面である地表にまで達する.
速報値は緯度・経度が0.1°精度,深度が10km精度で公表され,10km以浅は「ごく浅い」とされるが「0km」と示す.今回の地震の震源は緯度経度が±0.1以内(南北11km・東西9km以内)で一致していることから,同一破壊域で起こった前震・本震・余震として扱うことができる.前震・本震・余震の判定基準に従うと,2016年10月21日12時12分M4.2np10kmと14時7分の最大地震M6.6np10kmは震央と深度が一致し,主応力方位の回転が24.0°と小さいことからも,M4.2が前震と判定できる.最大地震後の14時30分M4.6pr10kmの主応力方位は最大地震から-60.7°回転して大きく外れ,14時33分M4.3?0kmでは深度が0kmと地表に達している理由により,M6.6が本震で,以後が余震と予想できた.14時46分?10kmでは経度が0.1°ずれ,14時50分M4.4nt10kmでは主応力方位回転が26.9°と本震方位に戻るが,14時53分M5.0nt10kmで+66.5°,15時13分M3.5p10kmで経度が0.1°ずれ-78.5°,15時27分M3.7p10kmで+62.8°と大きく外れ,15時31分M3.7?0kmで深度が地表に達している.以上からこれらの地震が余震であることが確定し,14時7分M6.6が本震であったことが確認された.この段階で,熊本地震(月刊地震予報79)や東日本大震災(特報4)で起こった最大前震後の本震の心配は無くなったと言える.速報値をホームページで公表している気象庁が,速報値情報を得た段階で解析し,地震活動が前震・本震・余震のどの段階であるかを判定理由とともに地震予報として発信すれば,地域住民の安全安心に大きく寄与すると実感した.
3.海溝距離深度断面図の改訂
震源位置を表示するために使用してきた海溝距離深度断面図では,深度0の地表を直線として作図してきた.しかし,2015年以降,660km以深の下部マントル地震が起こり,地球表面の曲率を無視することができなくなったため,断面図に地球断面図を使用することとした.
海洋プレートは同心円状に屈曲し,海溝に沿って沈込スラブになるが,地球断面図ではこの屈曲の中心を基準にし[2016年11月20日改訂],そこから下した垂線上に地球中心を位置付け,同心円状屈曲円と平面化スラブ面および,半径6366.2kmの地表,5956.2km深度410kmのマントル遷移帯上面,5706.2km深度660kmの下部マントル上面を示す(図197).
この改訂に伴い,同心円状スラブの平面化角が地表の曲率分増大し,千島小円区で46°から50°,襟裳・最上・鹿島小円区で28°から37°,伊豆小円区で75°から92°に変更した.
4.2016年11月の月刊地震予報
熊本地域の地震は,2016年10月に初動発震機構解(速報値)が3個・精査後3個・CMT解0個であり,前月9月の5個・11個・1個から明瞭に減少した.この減少には朝鮮半島の2016年9月12日M5.1・M5.7(月刊地震予報84)および鳥取県中部の2016年10月21日M6.6による応力場の変化が関係していよう.
房総三重会合点で2016年9月23日M6.7が起こった.この3~6ヶ月後に予想される今年2016年末から2017年にかけて,関東におけるM6以上の地震に厳重な警戒が必要である(月刊地震予報84).
フィリピン海プレートの沈込域の1994年9月以降のプレート運動面積に対する総地震断層面積の比は,0.484から熊本地震によって0.506に増大したが,9月までに0.503と減少し,鳥取県中部地震によって0.504に増大したもののM8.7級の巨大地震の歪が蓄積されており,警戒が必要である.