速報36)2013年1月の地震予報:2012年の地震活動・地震断層面積による地震活動の定量化・三つ目の宮城県沖地震

1. 2012年の地震活動

2013年の新年を迎えるに当たり,東日本巨大地震の影響で活発だった2012年の地震活動を振り返ってみる.2012年はCMT震源解が407個を数え,1994年以来の最多を記録した2011年(1020個)に次いで地震活動が活発であった(2012年日本全図:年別);表15).
2012年の地震活動で注目されるのは,3月の襟裳海山底地震(速報25:図52),5月の襟裳スラブ過剰域で起こった三陸沖連発地震(速報26),7月の得撫島沖地震(速報29:千島海溝域の活発化),8月の千島海溝スラブ底で最深地震(速報30:千島海溝スラブ最深地震),10月のマリアナ最遠海溝外地震(速報32:マリアナで最遠海溝外地震),そして12月7日の日本海溝外地震(速報35:一筋縄で行かない12月7日の日本海溝外地震)と多彩で,東日本巨大地震が太平洋プレート沈み込みに与えた甚大な影響が,日本全域の地震活動の枠組みを拡大した年と言える.

2.地震断層面積による地震活動の定量化

地震の個数は,マグニチュードMが小さいほど多く,Mが0.5小さくなると地震の個数はほぼ倍増する.1995年の阪神大震災を契機に整備充実された地震観測網によって,気象庁は2010年7月からCMT解公表の下限をM5.0からM4.5へ引き下げ,より多くの地震のCMT解が公表されるようになった.しかし,M4.5以下の地震のCMT解は公表されていないため,CMT解の個数のみから地震活動の程度を比較することはできない.

地下の岩石が破壊して断層に沿って変位する際に発する震動が地震であり,地震のマグニチュードMから地震断層の長さと変位量が算出できる.これらを掛け合わせることによって地震断層で変位した地震断層の面積Sf(km2)は

Sf = 10 1.2M-9.9

と算出することができる.地震断層面積はマグニチュードが0.5減ずると4分の1に減少するので,全ての地震の総地震断層面積ΣSfは,取り扱う地震のマグニチュード範囲の影響を余り受けず,過去の地震活動との比較に役立つ(速報9:歴史地震とプレート沈み込み).

一方,太平洋プレートは,北緯48.7°西経78.2°のオイラー極を中心に北米プレートの下に百万年にα= 0.79°の回転速度で沈み込んでいる(新妻,2008).太平洋プレートが1年間に沈み込む面積S(km2)は,以下のような式で算出できる.

S = 0.7074 α(sin eφ1 – sin eφ2

日本海溝の両端(北緯41.9°東経146.6°と北緯34.5°東経142.0°)のオイラー緯度eφ=8.8°と0.6°から,S = 0.0796km2となる.この沈み込み面積Sに相当する地震面積Sfを持つ地震の地震のマグニチュードM(S)は,

M(S)= ( log S + 9.9 )/ 1.2

M7.3である.M7.3の地震が毎年1回起これば,プレート相対運動面積S年を消化できる.この面積は毎月M6.4の地震が起こった場合の地震面積Sfとも等しい.このように地震面積Sfの使用によって,地震活動とプレート運動を直接比較出来る.同様に日本列島に沈み込む全てのプレートについて相対運動面積は表14のとおりである.

表14:プレート相対運動および相対運動面積SとSに相当するマグニチュードM(S).プレート名=NA:北米,PC:太平洋,PH:フィリピン海,AM:アムール,SC:南華

地域 オイラー極
(緯度・経度)
α
(°/百万年)
北東端 南西端 S
(km2
M(S) S
(km2
M(S)
相対運動
プレート
オイラー
緯度eφ1
オイラー
緯度eφ2
千島海溝 48.7N78.2W 0.79 49.0N157.0E 41.9N146.5E 0.0935 M7.4 0.0078 M6.5
NA-PC 18.7 8.8
日本海溝 48.7N78.2W 0.79 41.9N146.5E 34.5N142.0E 0.0796 M7.3 0.0066 M6.4
NA-PC 8.8 0.6
伊豆小笠原 1.2S45.8E 1.00 34.5N142.0E 34.5N147.2E 0.0668 M7.3 0.0056 M6.4
PH-PC 55.9 67.3
相模トラフ 44.4N160.5E 0.88 34.5N147.2E 34.9N138.5E 0.0069 M6.4 0.0006 M5.5
NA-PH 72.7 70.7
南海トラフ 51.4N162.4E 1.08 34.9N138.5E 30.7N132.7E 0.0382 M7.1 0.0032 M6.2
AM-PH 66.2 59.9
琉球海溝 50.3N155.1E 1.28 30.7N132.7E 21.0N 120.0E 0.1240 M7.5 0.0103 M6.6
SC-PH 64.2 49.8
日本全域 0.4090 M7.9 0.0341 M7.0

2012年の日本全域におけるプレート相対運動面積Sに対する地震面積ΣSfの比ΣSf/Sは0.893で,プレート相対運動面積S年の9割に相当する地震が起こっている.そのうち東日本では2.72年分の地震活動ΣSfがあり,2011年東日本巨大地震の113.6年分の余波が続いていることを示している.この活動は,宮城県沖地震のあった2003年の8.35年分と八戸沖地震のあった1994年の6.58年分に次ぐ活動である(表15).

表15:1994年以後の年別CMT震源個数および地震面積Sfと年間プレート相対運動面積Sとの比.

1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003
東日本 個数 2 7 12 6 17 17 23 13 19 62
面積比
(Sf/S)
6.58 0.94 0.46 0.09 0.21 0.71 0.28 0.21 0.65 8.35
日本全域 個数 9 17 31 15 31 41 85 42 57 96
面積比
(Sf/S)
1.46 0.86 0.40 0.11 0.75 0.75 1.56 0.39 0.53 1.75
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 総数
東日本 個数 52 42 23 28 40 27 65 902 304 1661
面積比
(Sf/S)
1.56 1.99 0.16 1.04 2.61 0.24 0.62 113.65 2.72 7.55
日本全域 個数 99 78 79 84 76 71 165 1020 407 2503
面積比
(Sf/S)
0.80 0.61 1.24 3.14 0.68 0.67 1.27 22.49 0.89 2.14

また,月別にみると2012年12月のCMT震源52個は本年最多を記録した.地震面積もプレート相対運動面積(S)の16.3月分で,東日本巨大地震後の2011年4月の20.6月分(134個)に次ぐ地震活動であった(2012年12月日本全域月別震源震央図).前月の2012年11月は東日本巨大地震前の2011年1月と同じ15個のCMT震源個数であったが,地震面積ΣSfも0.4月分に減少し,嵐の前の静けさのようであった(表16).

表16:2010年1月以後の月別CMT震源個数および地震面積Sfと年間プレート相対運動面積Sとの比.

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
2010 東日本 個数 2 3 4 1 0 2 12 13 13 7 4 4
面積比
(Sf/S)
0.12 3.11 2.31 0.03 0.00 0.56 0.64 0.10 0.41 0.11 0.03 0.20
日本
全域
個数 8 8 7 4 2 8 26 26 28 16 15 17
面積比
(Sf/S)
0.10 2.72 0.65 0.33 0.25 0.42 0.19 0.17 0.17 0.22 1.38 8.74
2011 東日本 個数 6 10 402 134 85 56 53 49 36 27 25 19
面積比
(Sf/S)
0.07 0.45 1285.50 20.63 2.58 5.73 14.75 3.18 3.80 1.11 1.17 0.19
日本
全域
個数 15 30 414 142 95 63 65 57 40 37 32 30
面積比
(Sf/S)
0.22 0.24 252.51 4.14 0.57 1.18 2.95 0.75 0.84 0.29 1.22 0.15
2012 東日本 個数 27 31 43 25 30 18 19 14 14 22 13 48
面積比
(Sf/S)
0.70 1.14 6.34 1.41 2.28 1.42 0.38 0.70 0.13 1.09 0.42 16.29
日本
全域
個数 34 40 48 33 46 25 36 23 20 35 15 52
面積比
(Sf/S)
1.08 0.44 1.27 0.36 0.68 0.37 0.32 2.28 0.07 0.38 0.13 3.21

3. 三つ目の宮城県沖地震

12月7日の海溝外地震M7.4については,年が明けた1月9日でも気象庁からCMT解が正式に公表されていない.最終的な解析が出来ない状態にあり,早期の公表が望まれる(本速報整備中の1月16日に公表された).

12月7日の海溝外地震は,日本海溝スラブ引きが太平洋プレートの破壊限界を越して生じた正断層型の地震である.太平洋プレートは同心円状屈曲しながら沈み込むが,曲率半径の小さなプレート深部は圧縮され,曲率半径の大きなスラブ浅部は引き伸ばされる.この同心円状屈曲形成にともなう深部と浅部の応力の相違は,非双偶力成分の深度分布と対応している(速報35).

スラブが海岸線付近に到達すると,同心円状屈曲したスラブは,逆方向に屈曲して平面状に戻る.この逆方向の屈曲によって,スラブ浅部が圧縮され,スラブ深部が引き伸ばされる.2012年12月11日7時7分まで,日本海溝付近で同心円状屈曲形成に伴う地震21個が起き(速報35),2日を置いて12月14日にも同心円状屈曲形成に伴うM4.8・M4.6の2個の地震が起きた(2012年12月東日本(月別)).

12月15日には,金華山沖のスラブ上面付近でP軸がスラブ上面に並行な同心円状屈曲を平面に戻す逆断層型地震M4.8が起こっている.その後,12月31日の年末までに,日本海溝付近で正断層t型地震8個M4.6-4.9と,金華山沖の島弧マントル底部でT軸がスラブ上面に並行なnt型地震M5.2とP軸が海溝側に傾斜するマントル衝突型の2個の逆断層p型地震M4.5・M5.5が起こっている(図84).

図84 2012年12月7日の海溝外地震M7.4とその余震の主応力軸方位.

図84 2012年12月7日の海溝外地震M7.4とその余震の主応力軸方位.
 右の震源断面図には,左の震央地図内の区画内の震源のみ示した.

12月7日の海溝外地震M7.4を契機に開始された地震活動は,太平洋プレートが日本海溝に沿って沈み込む際の同心円状屈曲とその平面化の力学過程を知るための重要な情報を提供してくれた.

i)12月7日の海溝外地震は,日本海溝付近の太平洋プレートは,海洋プレート押よりもスラブ引きが大きいこと,

ii)その後日本海溝付近で起こった多数の地震は,海溝外地震が起こるまでは同心円状屈曲形成が停止していたことを示し,海溝外で同心円状屈曲を開始すると太平洋プレートが沈み込めることを示し,

iii)沈み込んだ太平洋プレートに連なる太平洋スラブも沈み込んで平面化しなければならないが,日本海溝付近の同心円状屈曲形成地震が一段落した12月15日に平面化によるスラブ上面の圧縮による逆断層型地震が起こった.その後スラブ上面に沿う島弧マントル底との衝突によってM5以上の地震が起こっている.

心配されている三つ目の宮城県沖地震は,スラブ平面化によるスラブ上面の圧縮による逆断層型地震と予想される.M7.4の海溝外地震と海溝付近の地震活動によって太平洋プレートが沈み込んでいることは確実であり,この沈み込みと同等の平面化による地震が起こると考えられるので,M7程度の三つ目の宮城県沖地震に充分注意する必要がある.M7以上の地震は静穏期の後に起こることが多いので,M5程度の宮城県沖や福島県沖の地震後の静穏期の後に注意が必要である.

4.結論

1)2012年は,東日本巨大地震が太平洋プレート沈み込みに与えた甚大な影響が日本全域の地震活動の枠組みを拡大した年と言える.

2)2012年は,地震活動をプレート運動と直接比較できる地震面積によっても,東日本巨大地震のあった2011年に次ぐ地震活動が活発な年であった.

3)日本海溝で同心円状屈曲した太平洋スラブが平面化する際に起こる三つ目の宮城県沖地震に警戒が必要である.

参考文献

新妻信明(2008)プレートダイナミクス入門.共立出版,276p.