月刊地震予報166)2023年6月の襟裳半島M6.2,2023年7月の月刊地震予報
2023年7月20日 発行
1.2023年6月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解によると,2023年6月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で18個0.218月分,千島海溝域で4個0.122月分,日本海溝域で8個1.082月分,伊豆・小笠原海溝域2個0.056月分,南海・琉球海溝域で4個0.052月分であった(2023年6月日本全図月別).
2023年6月の総地震断層面積規模はΣM6.5で,最大地震は,2023年6月11日の北海道襟裳半島深度129㎞の東北平面化震源帯uBdJ襟裳震源区Erm M6.2Tであった.
2023年6月11日の襟裳M6.2Tの震度分布は,震央の襟裳半島を最大震度5弱,北海道と東北本州の太平洋側を震度2以上,関東域を震度1で覆っている(図506).太平洋底が島弧側に凸の千島海溝と日本海溝の接合部から沈込むと,Slab過剰になり襞が形成される.今回の地震はその襞で起こり,襟裳岬の南西海岸に沿って最大震度の5弱が並び,襞の縮小に応じて震度1以上の分布幅が東北本州で縮小している.
2022年1月から2023年6月までの18ヶ月間のCMT解254個の総地震断層面積規模はΣM7.7で,Plate運動面積規模はM8.1,その比は0.314である(図507の中図上).Benioff曲線には東北前弧沖震源帯ofAcJの2022年3月M7.3(月刊地震予報151)と琉球海溝域の歪解放周期更新の2022年9月M7.0(月刊地震予報157)の2つの大きな段差が緩い傾斜の静穏期の中に認められる(図507右図左端のTotal/4).
千島海溝域Aは,Plate運動との比が0.035と静穏化しているが,4ヶ月毎にM6.1以下であるが段差が生じており,2023年6月にもM5.6があり(図507右図右端),2023年7月に何が起こるか警戒が必要である.
日本海溝域 B では,横幅を総地震断層面積に合せているので目立たないが上端に,2023年の5月と6月の2個のM6.2段差が加わっている.
2.2023年6月11日東北平面化震源帯uBdJ襟裳区Erm深度129㎞のM6.2P
2023年6月11日18時54分襟裳小円南区の深度129㎞で東北平面化震源帯uBdJ襟裳震源区ErmのCMT解M6.2Tがあった.
東北平面化震源帯uBdJは,北海道の釧路沖から本州東北部を経て関東までの太平洋Slab深層に分布し,1922年以降の観測記録では,総地震断層面積規模がΣM7.9で,最大は襟裳震源区Erm 1993年1月15日釧路沖地震M7.5である.この最大地震以前はM6.3以上の地震が12個あり,Benioff曲線が増大していたが,最大地震以降静穏化して平坦化した.ただし,2011年3月の東北弧沖平成巨大地震M9.0の前の2008年7月24日M6.8と後の2013年2月2日M6.9の2個の段差が認められる(図508).
今回のM6.2があった襟裳震源区Ermは東北平面化震源帯uBdJの北端に位置し,総地震断層面積規模はΣM7.8で震源帯uBdJの4分の3を占め(図509),最大地震は1993年1月15日M7.5で,次大が1962年4月23日M7.1,そして2013年2月2日と1981年1月23日のM6.9が続く.
襟裳震源区Ermは震源帯uBdJの主体を占め,震源帯uBdJを代表しており,Benioff曲線は震源帯uBdJ(図508)とほとんど変わらない(図509).
東北平面化震源帯uBdJは,NA北米Plateに対するPC太平洋Plateの運動によって日本海溝から同心円状屈曲して沈込んだ太平洋Slabが,東北日本弧Mantle深部に達して平面化する際に伸長歪を解放する震源帯である.Slabが屈曲すれば,Slab表層が伸長し,Slab深部は収縮する.平面化には逆に,Slab表層が圧縮し,Slab深部が伸長する.この伸長に対応するのが,東北平面化震源帯uBdJである.
震源帯uBdJのCMT解49個中,正断層型が28個,引張横擦型が9個で,9個の逆断層型を圧倒しており,平面化Slab深部で伸長歪優勢であることが確認される(図510左下凡例).
震源帯uBdJのCMT解主歪軸方位は全般的に,PC-NAの西北西向Eler緯線に沿い(図510左震央地図),主引張T歪軸傾斜方位が海溝軸傾斜方位(TrDip)付近の紫色折線(Sub)のPlate運動方位に沿って分布しており(図510中海溝距離断面図青線・図510右下図△印),太平洋SlabのPlate運動に関係する平面化であることを示している.
ただし,今回のM6.2Tの震源帯uBdJ北端の襟裳震源区Ermでは,主引張T軸方位が北北西でEuler緯線方位から時計回りに回転している.この回転は,沈込Slab過剰による襞形成と関係していよう(図510左図・右下図).
襟裳震源区uBdJErmの最大CMT解は襟裳小円北区2013年2月2日M6.9Tで,次大は襟裳小円南区2008年7月24日M6.8-tで,次が今回のM6.2Tある.
今回のM6.2Tは,PC-NAのEuler緯度-7.8°で年間8.7cmのPlate運動をしている太平洋Slab内で発生した.Slab上面深度43㎞の初動震源で規模M6.2の破壊を開始し,上方に破壊伸展してSlab上面深度37㎞のCMT震源で規模M6.2の主破壊に至った.初動震源・CMT震源そして主中間N歪軸78+19の載る地震断層は,東西走向(265°)で北急斜(70°)の正断層である.非双偶力成分比は+11%で,引張歪Tが圧縮歪Pの1.42倍の引張過剰である.
3.2023年7月の月刊地震予報
千島海溝域は,2013年5月24日M8.3の千島和達深発震源帯Kamchatka震源区WdtiCKamc以降静穏化しており,大地震が襲来する第一の候補域である.M6.1以下であるが,昨年7月から4ケ月毎に地震が起こっており,2023年6月23日にもM5.6があり,4ヶ月後の2023年7月には警戒が必要である.