月刊地震予報174 (2024年3月31日)2024年2月12日小笠原海台小円区M6.1,2024年3月の月刊地震予報

1.2024年2月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2024年2月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で18 個0.112月分,千島海溝域で0個,日本海溝域で10個0.144月分,伊豆・小笠原海溝域で3個0.540月分,南海・琉球海溝域で5個で0.028月分であった(2024年2月日本全図月別).
 2024年2月の総地震断層面積規模はΣM6.3で,最大地震は,2024年2月12日小笠原海台小円区深度261㎞のM6.1Tで,他にM6.0以上の地震はない.
 2024年2月までの日本全域2年間のCMT解は385個で,その総地震断層面積規模はΣM8.0,Plate運動面積規模はM8.3で,その比は0.442である(図556の中図上).Benioff曲線(図556右図上左端Total/4)には東北前弧沖震源帯ofAcJの2022年3月M7.3(月刊地震予報151)と琉球海溝域の歪解放周期更新の2022年9月M7.0(月刊地震予報157)の2つの大きな段が緩い傾斜の静穏期の中に認められる.2023年9月から千島・伊豆・琉球海溝域のM6級の活動によってTotal/4のBenioff曲線の全体的傾斜が増大し,2023年12月28日択捉M6.5(月刊地震予報172,)に続き2024年1月1日能登M7.5が起こり(月刊地震予報173)最大の段が加わった.
 

図556 .2024年2月までの日本全域2年間CMT解.
 左図:震央地図,中図:海溝距離断面図.数字とMは,2年間のM7.0以上のCMT解に加え2024年2月のM6.0以上のCMT解年月日・規模.
 右図:時系列図は,海洋側から見た海溝域配列に合わせ,右から左にA千島海溝域Chishima,B日本海溝域Japan,C伊豆・小笠原海溝域OgsIz,D南海・琉球海溝域RykNnk,日本全域Total,を配列.縦軸は時系列で,設定期間の開始(下端2022年3月1日)から終了(上端2024年2月29日)までの731日間で,右図右端の数字は年数.設定期間の250等分期間2.9day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36特報5).
 Benioff図(右上図)の横軸はPlate運動面積で,各海溝域枠の横幅はこの期間のPlate運動面積に比例させてあり,左端の日本全域Total/4のみ4分の1に縮小.
 階段状のBenioff曲線は,左下隅から右上隅に届くように横幅を合わせ,上縁に総地震断層面積のPlate運動面積に対する比を示した.下縁の鈎括弧内右の数値[8.3] [7.9] [7.6] [7.5] [7.9]は設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模で,日本全域ではこの間にM8.3の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.上図右下端の(M6.1step)は,等分期間2.9日以内にM6.1以上の地震がTotal/4のBenioff曲線に段差与える.
 地震断層移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は地震断層面積規模で,等分期間「2.9day」に前後区間を加えた8.7日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積規模「M2 M5 M8」.右下図上縁の数値は総地震断層面積(km2単位)である.
 areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,逆断層型を赤色・横擦断層型を緑色・正断層型を黒色.
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2.2024年2月12日小笠原海台小円区M6.1

 下部Mantle上面に同心円状屈曲したまま載る太平洋Slab内の伊豆和達深発海台弧震源区WdtiPcAcPlの深度261㎞で2024年2月12日20時19分M6.1Tが起こった(図556).
 震度が観測されたのは小笠原の震度1のみであった(図557).

図557.2024年2月12日小笠原海台小円区深度261㎞,伊豆和達深発海台弧震源区WdtiPcAcPl M6.1Tの震度分布
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 伊豆・小笠原・Mariana海溝域のCMT解662個を「断層長円表示」(月刊地震予報173)したのが図558である.総地震断層面積ΣM8.4は,Plate移動面積PC-PH M8.6と釣り合いが取れている(図558右の時系列図左下).この総地震断層面積の7割は南側のMariana・小笠原海台・小笠原小円区の正断層型と横擦断層型の地震が解放しており(図558右上の縦断面Benioff図),残る3割をMantle相転移境界に沿う翼状Slabの逆断層型地震が解放している(図558中の海溝距離断面図).
 主歪軸方位は,断層長円中に表示してあるが,2015年5月30日M7.9tの最大CMTでも凡例の中円(M8.0)以下で,「断層長円表示」の円の直径は,震央地図(図558右図)・海溝距離断面図(図558中図)・縦断面図横軸(図558右図)の実寸大としているため殆どのCMTが点として作図され,主歪軸方位が読み取れない.

図558.伊豆・小笠原・Mariana海溝域のCMT解の「断層長円」表示.
 震央地図(左)の右下脇の円凡例の「M9.0」と「8.0」は,規模M9.0の地震断層長を直径とする外円で,その4分の1の直径の中円の規模がM8.0,16分の1の中心点の規模がM7.0.
 震央地図(左)の左から右下方への曲線はPlate運動PC-PHのEuler緯線.上縁にPlate運動のEuler定数,右縁にEuler緯度(年間移動距離cm).
 震央地図(左)の黒色短線は,海洋底地磁気縞模様.
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 規模の小さな震源について円直径を拡大するため,ΔMを導入してある.「ΔM+1.0」とすると,表示円直径算出に用いる震源規模にΔMを加算し,作図円直径を4倍に拡大できる.「ΔM+0.5」の場合は2倍に拡大する.CMTについて「ΔM+1.0」として4倍に拡大したのが図559であり,2024年2月12日M6.1Tがかろうじて円として作図される.
 震央地図(図559左図)の「断層長円」内の直線で示した主歪軸方位は,海溝軸(青曲線)より東側では北東-南西方向の太平洋底地磁気縞模様(黒色線)に揃っているが,西側では西-東南東方向の曲線のPlate運動PC-PHのEuler緯線に揃っている.海溝軸に沿って同心円状屈曲を開始する段階の主歪軸方位が太平洋底拡大形成海嶺軸の記録である地磁気縞模様に沿っていることは,地震発生の力学機構を構築する際の限定条件となるであろう.
 また,本海溝域の南端の小笠原海台小円区とMarina小円区のM7.5以上の大きな青円(引張過剰の正断層T型)2016年7月30日M7.7T深度222㎞・2000年3月26日M7.6Tr深度151㎞は,海溝よりも西側に位置するがEuler緯度曲線に沿わず,地磁気縞模様に沿っている.この2つの青円は海溝から同心円状屈曲する太平洋Slab深部に位置し(図559中海溝距離断面図),Slab沈込によって行き場を失った太平洋底下の随行Mantleが加速しながら下方に移動する位置に当たっており(月刊地震予報131),下方加速流出に太平洋Slab下面が引張られて破壊したと考えられる.Slab上面付近の破壊が海溝軸から東側で起こっているが,同心円状屈曲部のSlab下面付近の破壊においても,主歪軸方位が太平洋底の地磁気縞模様に沿っていることは,Slabの上面から下面まで太平洋底拡大軸に沿う構造が存在していることを示している.
 Slab下底が破損する程,随行Mantle流に引き摺られていることは,随行MantleがSlabを沈込ませていることを示唆している.同心円状に屈曲したまま下部Manlte上面に載る伊豆和達α震源帯の在る小笠原海台・Mariana小円区がPlate運動を駆動しており,その南北両脇にSlabが垂直に下部Mantleへ沈込む伊豆和達δ震源帯が付いている(月刊地震予報171).

図559.伊豆・小笠原・Mariana海溝域のCMT解の「断層長円」表示.
 図下の凡例1行目末のΔM+1.0(赤色)は,規模にM1.0加算して断層長円(直径を4倍)を作図していることを示しており,震央地図(左)の右下脇の円凡例の規模も赤色表示してある.
 数字とM:2024年2月12日の本地震M6.1.
 震央地図(左)の左から右下方への曲線はPlate運動PC-PHのEuler緯線:海溝(青曲線)から西側の主歪軸(円内の直線)がほぼ揃っている.
 震央地図(左)の黒色短線は,海洋底地磁気縞模様:海溝(青曲線)から東側の主歪軸(円内の直線)が揃っている.
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3.2024年3月の月刊地震予報

 千島海溝域は今年2024年で,2014年の静穏期入りから10年になるが,前回の静穏期が1996年から2006年までの10年間であったことから活動期に入ることが予想される.得撫島等の千島列島中央部でM8級の巨大地震について警戒が必要である.
 日本列島の大黒柱が破損した2024年1月1日能登半島地震M7.5の影響が出てくることが予想される.関東・東北・西南域の直下型地震に警戒が必要である.
 伊豆海溝域では,Plate運動の原動力となる小笠原海台小円区の随行Mantleに引き摺られたM6.1が起こったことから,地震活動の活発化に警戒が必要である.
 琉球海溝域では,歪解放周期(月刊地震予報139)が2022年9月18日琉球海溝震源帯M7.3によって第3周期に更新されたが(月刊地震予報157,),第2周期末の沖縄海盆震源帯の地震活動も続いており,続く流海溝平面化震源帯の活動に至っていないので琉球海溝域のM7級の地震に警戒が必要である.