速報63)八重山沖フィリッピン海スラブ最深地震・福島沖太平洋スラブ平面化地震・2015年1月の地震予報
2015年1月23日 発行
1.2014年12月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2014年12月の地震個数と,プレート運動面積に対する総地震断層面積の比(速報36)は,日本全域で16個0.184月分,千島海溝域で4個0.094月分,日本海溝域で6個0.454月分,伊豆・小笠原海溝域で4個0.055月分,南海・琉球海溝域で2個0.161月分であった(2014年12月日本全図月別).
2014年に入ってからの地震断層面積比は0.248年分で,1994年からのCMT解で最も小さかった1997年の0.114年分に及ばないが,次いで小さかった2001年の0.393年分よりも小さく,最小第二位となった(2014年12月日本全図年別).前年2013年の面積比0.677年分の3分の1に減少しており,東日本大震災による活動期を脱したと言える.東日本大震災本震が起こった日本海溝域でも,2014年の地震断層面積比が0.726年分で,震災前の1.570年分の半分以下,2013年の1.156年分からも低下している.
2.2014年12月のM6.0以上の地震
2014年12月のM6.0以上の地震は,2014年12月11日6時3分に花蓮小円区の八重山沖フィリピン海スラブで起こったM6.1圧縮過剰逆断層P型地震と(図145),2014年12月20日18時29分に最上小円区の福島県沖太平洋スラブ上面境界で起こったM6.0引張過剰逆断層+p型地震の2個である(2014年11月東日本CMT月別).
1)八重山沖フィリピン海スラブ内地震M6.1
12月11日にフィリピン海スラブで起こったM6.1の深度は250kmで,1994年9月以降のCMT発震機構解における2010年8月8日沖縄沖M5.1P深度228kmの最深記録を更新した.これまでの最深記録に次いでいたのは,2014年1月7日八重山沖M4.9-t深度223kmであったことからも,深度記録の大幅更新であることが分る.これらの地震はいずれも,台湾北部から八重山を含む花蓮小円区のスラブ上面から100km以深で起こっており.フィリピン海プレートの台湾東部の海岸山脈に沿う衝突によって,スラブがほぼ垂直に沈み込んでいることと対応している.琉球海溝・台湾域では, 2008年にはM6.0以上の地震が1個と静穏であったが,2009年7月14日台湾M6.5から活発化し,2009年のM6.0以上の地震が9個と急増した.2010年にも2010年2月27日沖縄本島沖M7.2を含むM6.0以上の地震が6個と活発であった.しかし,東日本大震災の2011年にはM6.0以上の地震は,海溝距離最遠記録335km(2005年9月20日M5.1)に迫る海峡距離333km で起こったM7.0(2011年11月8日)の1個に留まった.M6.0以上の地震は,2012年に2個,2013年に4個,2014年に3個と多少増加している.2013年8月6日八重山沖M5.0は2005年の最遠海溝距離335kmを343kmに更新している.2009年から2010年の地震活動の活発化は,フィリピン海プレート運動が活発化したことを示しており,フィリピン海プレート東縁の伊豆・小笠原海溝域における2010年末の活発な地震活動(速報21)の要因となって東日本大震災へ導いたとも考えられる.2013年から地震活動は復活しているがM7.0以上の地震が起こっておらず,東日本大震災前の地震断層面積比0.463の3分1以下の0.138に留まっている.しかし,最深記録や海溝距離の最遠距離を更新していることは,フィリピン海プレートの新たな運動の開始を示唆している.
2)福島県沖太平洋スラブ上面境界M6.0
最上小円区と鹿島小円区との境界付近の福島沖の地震は,同心円状屈曲して沈み込んだ太平洋スラブが平面化する海溝距離167km深度44kmの太平洋スラブ上面付近で起こった.発震機構が引張過剰逆断層+p型であることは,屈曲して沈み込むスラブを平面化するために上向きに引上げる引張応力が本地震を起こしたことを示している(特報1).
本地震域(海溝距離150~200km;スラブ上面範囲35km;最上小円方位114~126°)では,1896年8月1日M6.5,1922年1月23日M6.5,1942年2月21日M6.5と1987年4月7日M6.6の歴史地震が起こっている.1896年8月1日M6.5は,1896年6月15日明治三陸津波地震M81/4の1月半後である.1922年1月23日M6.5は,明治三陸津浪地震と1933年の昭和三陸津波地震との間に起こっている.1987年4月7日M6.6は,1978年6月12日宮城県沖地震M7.4の9年後である.
同心円状屈曲して沈み込む太平洋スラブが平面化してM7.0以上の地震を起こしてきた牡鹿半島沖では,2011年3月11日の東日本大震災M9.0の約1月後の4月7日に一つ目の宮城県沖地震M7.3を起こしたが,それまで地震を起こしていなかった.しかし,今回の福島沖震源域では,2011年に東日本大震災3日後の3月14日M4.7を始めとして,M4.7~5.9の地震17個を起こし,本震後8月後の11月24日にM6.1を起こしている.2012年にM4.6~5.9の地震が5個,2013年にM4.7~5.4の地震8個,2014年には今回の地震M6.0を最大にM4.6以上の地震が7個起こっており,東日本大震災以後もスラブ沈み込みに関係する地震活動が継続していることを示している.
3.2015年1月の地震予報
琉球海溝域の地震断層面積比は東日本大震災前の3分の1以下であるが,2014年12月に起こった八重山沖のフィリピン海スラブ内地震M6.1は最深記録を更新し,2013年8月6日八重山沖M5.0は海溝距離最遠記録を更新している.東日本大震災後,2012年8月千島スラブ(速報30),2013年5月マリアナスラブ(速報42)において最深記録が更新されており,日本海溝域で沈み込みを停止させられていた太平洋スラブが東日本大震災で沈み込みを再開し(特報2),スラブ先端の地震発生域が深部へ進展していることを示している.太平洋スラブの西側に接するフィリピン海スラブ先端でも最深記録や海溝距離最遠記録を更新していることは,フィリピン海スラブの沈み込み先端にも東日本大震災の新たな影響が現われていると考えられる.この影響が海溝域に波及すれば,警戒されている南海巨大地震へ結び付くので,西南日本における今後の地震活動の進展に注意が必要である.
平面化した太平洋スラブの傾斜方位は牡鹿半島を通過し(特報3),平面化のための地震活動が最も激しい震源域となっている.その南側に位置する福島沖の平面化地震の活動は,牡鹿半島沖でM7.0以上の三つ目の宮城県沖地震の前兆とも考えられるので,警戒が必要である.