速報55)飛騨の地震が東日本大震災の引き金を引いたか?

1.飛騨の地震

 1997年10月以降の地震について,気象庁が公開している初動発震機構解(精査後)を解析した.日本列島の地震の中では,飛騨の年間地震個数が東日本大震災の2011年に第1位の61,第2位1998年の21を大きく上回っており,飛騨の地震と東日本大震災との関連が予想される(西南日本IS年別).
 飛騨は日本列島の中央に位置し,飛騨山脈を擁する高地からなる.飛騨山脈では,第四紀のカルデラが横倒しになっており(原山,2006),現在も激しい地殻変動が進行している.飛騨は本稿の小円区分では,フィリピン海プレートが足柄地域の神縄断層に沿って沈み込む足柄小円西区に位置する.
 東日本大震災の本震断層は,強震計記録の解析から50m変位したと言われている(速報28).もし,50mの変位をもたらした歪が日本列島の地殻に蓄積していたとすると,破壊せずに歪を蓄えることのできる地殻の幅は,歪の10万倍程度と言われており,5000kmの幅が必要になる.本震域から西方5000kmはウラル山脈で,その間に日本海や多くの巨大断層が地殻を切断している.一方,東方は,ハワイを越えて東太平洋海膨まで均質な海洋地殻が広がり,歪を均質に蓄積できる.また,アリューシャン・千島・日本・伊豆・小笠原・マリアナ海溝の外側に「周縁隆起帯」が連続し,太平洋底の歪を蓄積している(図125:青色実線が周縁隆起帯,特報2).

図125.東日本大震災本震断層(×印)のずれ方位に沿う500kmと5000kmの地点と太平洋プレートの周縁隆起帯(青色実線).橙色の10km間隔等深線は,海洋プレートが沈み込んだスラブ深度.正射図法.

図125.東日本大震災本震断層(×印)のずれ方位に沿う500kmと5000kmの地点と太平洋プレートの周縁隆起帯(青色実線).橙色の10km間隔等深線は,海洋プレートが沈み込んだスラブ深度.正射図法.

 東日本大震災本震は太平洋スラブと日本列島地殻との接触面で起こっていることから(速報34),太平洋プレートの沈み込みを阻止していたのは日本列島の地殻である.日本列島の地殻は朝鮮海峡を挟んでアジア大陸に接続しており,日本列島の地殻が最も大きな歪を蓄積できるのは,西南日本の地殻である.飛騨はその中央に位置している.

2.飛騨の月別地震

 飛騨の地震と東日本大震災との関係を解析するために月別解析を行った.飛騨月間地震数の第1位は1998年8月の17で,第2位が2011年2月の15,第3位が東日本大震災の2011年3月と2014年5月の14である(西南日本IS月別速報56).
 飛騨の月間地震数第1位の1998年8月の3ヶ月前1998年5月4日に琉球海溝域CMT発震機構解最大の琉球海溝外地震M7.7が起っている(全国年別).
 第2位の2011年2月は,2月6日に最初の飛騨の地震M3.7が起こり,その10日後の2月16日から22日まで東日本大震災の前震4個M4.8-5.5が起こった.そして2月26日と27日にM5.2の前震が1個ずつ起こっている(速報8 ).この再開した前震直前の2月26日に飛騨ではM2.8の地震,直後の2月27日からM2.8~5.5の地震13個が起こった(図126).これらの飛騨の月別総地震断層面積(断層長×断層のずれ;速報36)はプレート相対運動面積の8.6月分に達した.本震が起こった3月も第3位14個の地震が起こっているが,地震断層面積は2月の数分の1の1.3月分に過ぎず,日本列島の地殻に集積した歪も,東日本大震災によって解放されたことを示している.

図126.足柄小円西区の飛騨の地震.  左図:震央地図,中上図:海溝距離/深度断面図.右上図:小円方位に沿う縦断面図,右下図:1997年10月-2014年5月時系列図,中下図:2011年1月-2011年4月時系列図および月間地震断層面積比と地震個数.  震源は実線(主応力方位)で示す.実線の色は発震機構(赤:逆断層,黒:正断層,綠:横ずれ断層型).

図126.足柄小円西区の飛騨の地震.
 左図:震央地図,中上図:海溝距離/深度断面図.右上図:小円方位に沿う縦断面図,右下図:1997年10月-2014年5月時系列図,中下図:2011年1月-2011年4月時系列図および月間地震断層面積比と地震個数.
 震源は実線(主応力方位)で示す.実線の色は発震機構(赤:逆断層,黒:正断層,綠:横ずれ断層型).

3.飛騨の地震と東日本大震災の関係

 2011年2月の飛騨の地震が東日本大震災の前震に先行し,相補的に起こっていることは,飛騨の地震と東日本大震災が関係していることを示している.
 本震断層のずれ方位は,太平洋プレート運動方位とほぼ一致している(速報11).また,震災前に起こっていなかった太平洋プレート屈曲沈み込みに対応する地震が震災後に多数起こっていることから,東日本大震災が停止していた太平洋プレート沈み込みを再開させたと言える(特報1).
 日本海溝域で太平洋プレートの沈み込みを阻止していた日本列島地殻の歪が,限界に達して飛騨で地震を起した.そのため,東日本大震災震源域の応力状態が変化し,前震が起きたと考えることができる.このような力学的な関係が存在していたとすると,飛騨の地震は東日本大震災の引き金を引いたことになる.

引用文献

原山 智(2006)爺ケ岳転倒コールドロン―横倒しのカルデラ火山岩類.地方地質誌「中部地方」,朝倉書店(東京),326-327.