月刊地震予報154)琉球海溝域台湾M6.4,伊豆海溝域小笠原 M6.1,能登震度6弱への東北日本弧の歪の伝搬,2022年7月の月刊地震予報

1.2022年6月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2022年6月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で15個0.329月分,千島海溝域で0個,日本海溝域で4個0.073月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.425月分,南海・琉球海溝域で10個0.681月分であった(2022年6月日本全図月別).総地震断層面積規模はΣM6.7で.最大地震は琉球海溝域の琉球海溝域台湾の2022年6月20日 M6.4poである.M6.0以上の地震は,6月21日伊豆海溝域小笠原の M6.1+pを加えて2個である.

図474.2021年1月から2022年6月までの日本全域18ヶ月間のCMT解
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字とMは発生年月日と規模.
 地震断層面積変遷(右上下図):右縁の数字は月数(図422説明参照(月刊地震予報144).
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 南海・琉球海溝域では0.681月分と2021年11月から活発な活動を継続している.伊豆海溝域でも2022年4月からの活動を継続し,日本海溝域では2022年3月からの活動が続いている.

図475.2022年6月のM6.0以上の地震の震度分布.
 最大地震の2022年6月20日 琉球海溝域台湾 M6.4poについては震度1以上の分布が公開されていないので割愛し,6月21日伊豆海溝域小笠原 M6.1+pのみ掲載する.


 
 最大地震の琉球海溝域台湾2022年6月20日M6.4poについては震度1以上の分布が公開されていないが,2022年6月21日伊豆海溝域小笠原M6.1+p では小笠原諸島に最大震度2の震度分布があった.

3.琉球海溝域台湾2022年6月20日 M6.4po

 琉球海溝域台湾小円区北縁の海岸山脈深度0㎞の琉球海溝震源帯TrPh台湾震源区Twで2022年6月20日10時05分M6.4poが発生した(図476).この震源区は,Philippine海Plateが沈込めず海岸山脈として台湾に衝突しているPlate境界で,24個のM6.0以上のCMT解があり,その最大は2022年3月31日深度55㎞のM7.0Peである.

図476.琉球海溝域の2021年1月から2022年6月までの18ヶ月間のCMT解.
震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図下)の数字とMは2022年6月の最大地震発生年月日と規模.震央地図の黒色円は最大地震から震央距離100㎞の範囲.
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 本地震から震央距離100㎞以内には,ここ18ヶ月間に,琉球海溝震源帯TrPhのM6.0以上のCMT解が,2021年10月24日TrPhTw M6.3Pr(刊地震予報146),2022年1月3日TrPhRk M6.3+p(刊地震予報149),2022年3月23日TrPhTw M6.6Po (月刊地震予報151),2022年5月9日TrPhRk M6.6+p(月刊地震予報153)の4個ある.これらは全て逆断層型(図476の赤色)である(図476左図).
 琉球海溝全域CMT解では,琉球海溝震源帯TrPhの逆断層型と沖縄海盆震源帯RifPhOkwの正断層型(図476の黒色)が半分ずつを占めて,2021年11月から正断層型と逆断層型CMT解の積算地震断層面積が直線的に増大している(図476右中時系列図左端のBenioff曲線).
 琉球海溝域の地震活動が.沖縄海盆拡大から琉球海溝沈込への移行期にあり(月刊地震予報144),今後,M7級の琉球海溝震源帯の巨大地震に警戒が必要である.

4.2022年6月21日伊豆海溝震源帯小笠原区 M6.1+p

 2022年6月21日16時14分伊豆海溝震源帯TrPc小笠原震源区Ogの深度48㎞でM6.1+pがあった(図474・図475・図477).

図477.伊豆海溝域の2021年1月から2022年6月までの18ヶ月間のCMT解.
震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図下)の数字とMは地震発生年月日と規模.震央地図の黒色円は今回の地震M6.1から震央距離100㎞の範囲.海溝距離断面図と縦断面図(右上図)の+印は今回の地震の震源.
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 先月2022年5月の伊豆海溝震源帯の連発地震(月刊地震予報153)は先月中に終息し,活動域を南方の小笠原震源区に移した.作図間隔(3.6day:図477右中図左端下凡例)の3倍10.8日間に1個のCMTもない2022年1月4日から4月1日までの基底状態終了後の活動が北側の鹿島小円南区から伊豆小円南北区に限定されていたが,今回の地震が小笠原小円区で起こり,活動域が南方に拡大した.

5.能登震源区 M5.4+p震度6弱への東北日本弧からの歪伝搬

 2022年6月19日15時08分に西南日本海岸震源帯能登震源区JscPhNotoの深度13㎞でM5.4+pが起こった.最大震度は6弱(図474・図478右)で鳥居倒壊などの被害があった.2020年3月13日にも能登震源区で,規模が0.1大きいM5.5Pが起き,今回より震度1以上の分布範囲が広かったが,最大震度は5強と小さかった(図478中図). 

図478.能登震源区2022年6月19日M5.4最大震度6弱と2020年3月13日M5.5Pおよび東北日本海岸沖出羽震源区2019年6月18日M6.7pのの震度分布

 能登震源区の今回の活動期間には,東北日本海岸沖震源帯出羽震源帯oJscJDwと東北日本前弧沖震源帯阿武隈震源区ofAcJAbkの活動もあるので,それらの関連について述べる.
 これら3つの震源区は,2016年11月22日阿武隈震源区M7.4-t(月刊地震予報86)以降約3年間,M5.8を超すCMT解のない静穏期であったが,2019年6月から2022年6月にM6.0以上の地震が発生する活動期に移行した.
 3震源区のCMT解の総地震断層面積を図幅に合わせた積算地震断層面積曲線(図479上図左端縁Total CMTのBenioff)には,2019年6月18日M6.7からの最初の段[I],2021年2月13日M7.3の2つ目の大きな段[II],2022年3月16日の3つ目の大きな段[III](図479上図左端縁の赤色I・II・III)が認められる.

図479.JscPhNoto M5.4+pへの東北日本弧からの歪伝搬.
Total 総計,西南日本海沿岸帯JscPh能登震源区Noto,東北日本弧沖震源帯ofAcJ阿武隈震源区Abk,東北日本海沿岸沖震源帯oJscJ出羽震源区Dw.
CMT:Centroid Moment Tersor主要動重心発震機構,IM:Initial Motion 初動発震機構,Prel:Preliminary 速報発震機構解.
時系列図(上図):左端縁の赤色I・II・IIIはTotal CMTBenioff曲線の段差番号.
震央地図(下左図),海溝距離断面図(下右図):〇印・数値・MはCMT観測網整備の契機となった奥尻地震津波の震源・発生年月日・規模.

 東北日本弧は,太平洋Slabと日本海Slabに沈込まれており,Slab沈込に伴って海面上に押上げられ島弧となっている.島弧下の上部Mantleは,深度増加に伴い高温になるため地震が発生せず,情報に乏しかった.しかし,東北日本海沖震源帯渡島震源区oJscJOsmの奥尻島を襲った1993年7月12日M7.8の津波(図479)を契機に整備されたCMT解観測網によって,主歪軸方位(発震機構)に加え地震断層面(速報33)や主歪比(速報37月刊地震予報148)を算出できる非双偶力成分比nonDCを含むCMT解が気象庁から1994年9月以降のM4.0以上の地震について公表され,東北日本弧の上部Mantleを介した歪伝達についての解析が可能になった.
 2016年以降静穏期の続いた東北日本弧では,東北日本海岸沖震源帯出羽震源区oJscJDwの新潟・山形地震2019年6月18日M6.7(月刊地震予報118;図478左;図479上右端)によって日本海Slabが走向傾斜N27E32Eの地震断層面に沿って沈込み,東北日本弧の地殻と上部Mantle表層を押上げた.震源域では,8ヶ月後の2019年11月11日M3.8pまでに初動発震機構IM解10個の余震が続いた(図479右端).
 この余震期間に,太平洋Slab沈込を阻止していた東北日本弧上部Mantle表層縁の東北日本前弧沖震源帯阿武隈震源区ofAcJAbkで誘発地震が2019年8月4日M6.4pから開始された.島弧地殻縁の西南日本海岸震源帯能登震源区JscPhNotoでも余震期間の2019年8月27日にM3.8が誘発され,2020年3月13日にM5.5Pが発生した[I](図478中;図479上左中).
 7ヶ月の静穏期の後,阿武隈震源区で東北新幹線を10日間停止させた2021年2月13日M7.3(月間地震予知138)[II],3か月の静穏期の後に東北新幹線を脱線させた2022年3月16日M7.4P(月刊地震予報151)[III]が起こった.この2つのCMT解は,太平洋SlabのMantleがSlabのMoho付近の地震断層面N9E46WとN12E49Wに沿って沈込んだことを示している(図479下右上).この間の能登震源区の地震活動は,阿武隈震源区と交互していたが,2022年4月以降は同日内にも起り,両震源区間の相補的活動から同時活動へと密接さを増し,今回の2022年6月19日M5.4+pに到った.
 能登震源区のCMT解の発震機構は逆断層P型(図479の赤色)で,圧縮P歪軸は島弧地殻に沿いほぼ水平で(図479下右下),それに直交する引張T軸はほぼ垂直である.
 それらの歪比T/Pは,
非双偶力成分比nonDCが「0」の場合には;双偶力状態で,「1」であるが,
正の引張過剰の場合には; T/P = ( 1 + nonDC) / ( 1 – 2*nonDC) で,
負の圧縮過剰の場合には; T/P = ( 1 + 2*nonDC) / ( 1 – nonDC) である.
 T/Pは,[I]の2020年3月13日に0.69,[II]を経た2021年9月16日に0.75と増加したが7割程度に留まっていた.2022年3月10日には0.92と同程度にまで増大した.[III]を経た2022年6月19日には2.85と3倍近くにまで増大した.翌2022年6月20日も2.85を保持していることから,この比が局地的あるいは一過性ではないと考えられる.
 島弧地殻の上下引張歪は,地殻引き降しによって増大する.地殻を引き降ろせるのは,地殻下の上部Mantleであるが,能登震源区の島弧地殻下の上部Mantleは太平洋Slab上面まで続いている.太平洋Slabが東北日本前弧沖震源帯から沈込めば,背弧側のSlab上面が低下して上部Mantleの体積を増大させる.上部Mantle体積の増大は上部Mantleを減圧し,島弧地殻を下に引き降し,上下引張歪を増大させる.
 能登震源区の引張歪比が,太平洋Slab沈込に対応する阿武隈震源区の地震活動[II]・[III]に追随して増加していることは,太平洋Slabの沈込に伴う島弧上部Mantleの減圧が島弧地殻の引張歪を増大させていることを支持する.引張過剰の歪T/P=2.85が2022年6月19日M5.4+pによって上下方向の震動として解放されたため,垂直に建立された鳥居が倒壊したのであろう.一方,2020年3月13日M5.5P震度5強はP型で圧縮過剰のT/P=0.69で上下歪が小さかったことが,被害を少なくしたのであろう.

図480.2019年から2022年の東北日本における新幹線脱線・鳥居崩壊を含む被害地震についての歪伝達とPlate運動(新妻,2022).

 東北日本弧の3つの震源区は東北日本の島弧地殻・上部Mantle表層の周縁部に位置し,島弧地殻・上部Mantle表層の歪伝達によって相互に作用している.出羽震源区では日本海Slabが,阿武隈震源区では太平洋Slabが島弧地殻・上部Mantle表層に接しているが,CMT解から算出される地震断層面方位と歪軸方位から,地震に伴うSlab沈込と東北日本弧地殻・上部Mantle表層の押上げを判別できる.地殻と上部Mangtle表層が押上げられれば,水平圧縮歪が解放され,誘導地震を起こすとともに,阻止されていたSlab沈込を誘導する.太平洋Slabの沈込はSlab上面から上の島弧上部Mantleの体積を増大させ,島弧地殻の上下引張歪を増大させる.
 2019年6月から開始された出羽震源区における日本海Slab沈込は,東北日本弧の地殻・上部Mantle表層の歪を減少させ,阿武隈震源区と能登震源区に誘発地震をもたらした.この誘発地震で上部Mantle表層の圧縮歪が減少し,阿武隈震源区では太平洋Slab沈込みが促され,能登震源区との相補的から同時的な地震活動が起き,太平洋Slabの本格的沈込みで,島弧上部Mantleを減圧して島弧地殻を引き下げ,T/Pを増大させたと結論できる.

6.2022年7月の月刊地震予報

 琉球海溝域では,沖縄海盆拡大期の次に予想される琉球海溝震源帯のM7.0以上の大地震を待つ状態にあるのは変わらず(月刊地震予報147),警戒が必要である.
 伊豆海溝域では,伊豆海溝震源帯の活動が北端の伊豆小円区から小笠原海溝域に拡大していることから,太平洋Slab沈込に伴う新たな活動に注意が必要である.
 日本海溝域では,日本海溝から沈込む太平洋底を同心円状屈曲させている前弧沖震源帯で新幹線を脱線させた2022年3月16日M7.4Pが起こり,余震活動は数か月続くと予想されたが,3ヶ月目の6月にIM解の数も終息に向かっている.

引用文献

新妻信明(2022)日本海沿岸沖2019年6月18日M6.7,東北前弧沖2021年2月13日M7.3・2022年3月16日M7.4,能登2022年6月19日M5.4の地震活動伝搬および新幹線脱線と地震断層面・歪軸方位の関係.日本地質学会2022年会予稿集,
G5-P-6.