月刊地震予報143)2021年7月13日千島海溝域得撫島沖M6.2のBenioff図解析,2021年8月の月刊地震予報
2021年8月31日 発行
1.2021年7月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解によると,2021年7月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で14個0.130月分,千島海溝域で2個0.253月分,日本海溝域で4個0.087月分,伊豆・小笠原海溝域で2個0.074月分,南海・琉球海溝域で6個0.057月分であった(2021年7月日本全図月別).
日本全域総地震断層面積比は2021年1月の0.085月分から,2021年2月の1.786月分への急増の後,3月には0.647月分,4月に0.044月分に静穏化したが,5月に0.612月分へ活発化して,6月に0.041月分に静穏化し,7月に0.130月分と活発化に転じている.
8月に起こった最大の地震は,千島海溝域2021年7月13日M6.2得撫島沖であり.日本全域の総地震断層面積規模はΣM6.4で,最大地震の他にM6.0以上の地震はなかった.
2.2021年7月13日千島海溝域得撫島沖M6.2のBenioff図解析
千島海溝域の得撫島沖で2021年7月13日9時30分M6.2pr深度30kmがあった(図416).
2021年の千島海溝域では3月3日択捉沖M5.9・5月16日十勝沖M6.1(月刊地震予報141)と今回の7月13日得撫沖M6.2が起り,巨大地震の前兆か心配される(図417).
日本全域のCMT解は日本列島を覆うように分布しているが(図418上左図:震央地図), 1994年9月のCMT解観測以前については1922年1月から震度分布観測地震があり,遜色のない分布が認められる(図418下左図:震央地図).
海溝から沈込む海洋底Slabに沿う震源の分布は,千島海溝域(A),日本海溝域(B),伊豆・小笠原海溝域(C),南海・琉球海溝域(D)で異なっている(図418右図:海溝距離断面図).沈込む海洋底Slabと島弧間のPlate運動によって蓄積する歪により地震が発生するが,海溝域による震源分布の相違は,歪を蓄積する位置や規模が異なっているからであろう.
蓄積する歪の規模や地震としての解消をBenioff図(特報5)を用いて解析する(図419).Benioff図の横軸は海溝域のPlate運動によって海溝から沈込む海洋底の面積であり,縦軸は作図開始(下:1994年9月)から終了(上:2021年7月)までの経過時間である.この縦軸には2年毎に横線区切と右端に10年毎の西暦年数を付してある.2011年3月11日の東北沖巨大地震(本予報では年号を入れて「東北沖平成巨大地震」と呼ぶ)の横線も加えてある.海溝配列に合わせ,右から左に千島海溝域Chishima(A),日本海溝域Japan(B),伊豆・小笠原海溝域OgsIz(C),南海・琉球海溝域RykNnk(D)と日本全域TotalのBenioff図を配列した.各海溝域のBenioff図の幅は,各海溝域のPlate運動面積に比例させてあり,日本全域については4つの海溝域総計の4分1(Total/4)にした.各海溝域のPlate運動面積は図下端の鈎括弧内に[9.2] [8.8] [8.5] [8.5] [8.8]のように規模を示す.日本全域のPlate運動面積の規模はM9.2で,Plate運動による歪が1個の地震で開放されれば,その地震の規模がM9.2になることを意味する.
枠の左下端から積算を開始したPlate運動積算直線(灰色)は右上端に到達する.CMT解の地震断層面積の積算も枠の左下端から出発し,逆断層型(p pr赤色)・横擦断層型(np nt緑色)・正断層型(t tr灰色)の順に右方に積算した曲線がBenioff曲線である.右端の黒色曲線が総地震断層面積である.総地震断層面積のPlate運動面積に対する比は上端の数字「1.45 0.36 1.31 6.07 0.82」と示した,日本全域では,Plate運動の1.45倍の地震が発生しており,南海・琉球海溝域では3分の1しか発生していない,比が1を超えると,総地震断層面積曲線は海溝域枠から右外にはみ出す,1.45の日本全域は右隣のD ,1.31のCについてはBの上にはみ出させ重ねて作図した(図419上).
東北沖平成巨大地震M9.0によって6.07倍になっている日本海溝域(B)については,図の右端を遥かに越えてしまう(図419上).そこで,期間終了までの総地震断層面積Benioff曲線が枠右上端に到達するよう横軸を伸縮させ,全てのBenioff曲線を枠内に収めたのが図419の下図である.横軸の伸縮によってPlate運動直線の傾斜は変化し,比が1以下であれば枠右縁と交差し,1以上であれば枠上縁と交差する.伸縮合致させた場合には総地震断層面積のPlate運動面積比の数字の後に「F」を付して区別し,下縁の鈎括弧内の数値には総地震断層面積規模を[9.3] [8.5] [8.6] [9.1] [8.7]と示す.日本海溝域(B)ではPlate運動面積規模がM8.5 であるが(図419上),総地震断層面積はその6.07倍でその規模がM9.1である(図419下).
Benioff図は開始から終了までの作図期間を150等分した等分割期間毎に地震断層面積を集計している.その分割期間は下縁左端に日数で「65.5days」と示した.Benioff曲線の横軸座標が変化する地震断層規模は下縁右端に(7.4step)と示した.約2ヶ月の分割期間内にM7.4以上の地震が発生すればBenioff曲線は右に変化する.
日本全域では東北沖平成巨大地震に対応する大きな段差があるが,その前後の総地震断層面積曲線はPlate運動面積直線とほぼ並行し,Plate運動による歪がほぼ定常的に地震として解放されていることを示している.千島海溝域(A:図419右端)のBenioff曲線は2013年M8.3(逆断層型:赤色)と2007年M8.2(正断層型:灰色)の大きな段差の巨大地震とその前後の静穏期によって特徴付けられる.
千島海溝域では,1922年からの震度分布地震とSeno & Eguchi (1983)をCMT解に併せると,M6.0以上の地震が290個,総地震断層面積規模はΣM9.1に達する(図420).巨大地震と長い静穏期の交互する千島海溝域は,1930年から1950年までの長い静穏期後,1970年まではPlate運動面積増加に沿って増大し,以後1994年までの静穏期を経て活動期に入っている.
千島海溝域では1922年以降M8.0以上の地震が7個(図420)あり;
1. 2013年5月24日Kamchatka西方沖深度609km M8.3,
2. 2007年1月13日松輪東方沖深度30km M8.2,
3. 1994年10月4日択捉沖深度28km M8.2,
4. 1963年10月13日択捉沖深度0km M8.1,
5. 1958年11月7日択捉沖深度13km M8.1
6. 1952年11月5日Kamchatka沖0kmM8.2
7. 1923年2月4日Kamchatka沖0kmM8.3
これらの地震は,時系列図(図420右中図)左縁のBenioff曲線の段差に対応し,地震断層面積移動平均規模areaM曲線の嶺に対応する.
震源分布にも周期的変動が認められる.1930年から1950年までの静穏期の末期には,千島小円区で殆ど地震が起らず空白になっている.この様な空白は東北沖平成巨大地震の前にも認められ,この対応が正しければ,今後,Plate運動に沿ってM8.0級の地震が連発することも考えられる.
3.2021年8月の月刊地震予報
静穏化していた千島海溝域の地震活動が活発化しており,今後の地震活動の推移に警戒が必要である.
引用文献
Seno, T. & Eguchi, T. (1983) Seismotectonics of the western Pacific region. Geodynamics of the western Pacific-Indonesian region, Geodynamics Series, 11, American Geophysical Union, 5-40.