速報53)精査後初動発震機構解震源の公開・伊予灘地震と2014年4月の地震予報

1.2014年3月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2014年3月の地震個数と,プレート運動面積に対する総地震断層面積の比は,日本全域で18個0.360月分,千島海溝域で1個0.005月分,日本海溝域で7個0.105月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.022月分,南海・琉球海溝域で9個0.753月分であった(2014年3月日本全図月別).
 日本全域での地震面積比0.360月分は,1月0.084月分・2月0.071月分の東日本大震災前の水準から脱した.この面積比増大を担ったのは,1月0.039月分・2月0.017月分と極めて小さく心配されていた南海Through-琉球海溝-台湾域の0.753月分への急増である.他の海溝域では,いずれも震災前の水準以下に低下している.
 2月3日に台湾の南側のマニラ海溝沿いで起こった地震M5.0に基づき,南海トラフから台湾にかけてのフィリピン海プレート西縁の地震活動の変調を予報したが(速報52),3月に入り震源域を北に拡大しながら,3月14日には伊予灘に達し,琉球海溝では3月26日に南西引き正断層型海溝外地震が3月26日に起こっている.個々の地震の発震機構型・深度・マグニチュードを以下に示す.
・3月3日沖縄本島西方np型深度116kmM6.4・P型深度47kmM5.0
・3月10日奄美大島北東沖T型深度44kmM4.5
・3月14日伊予灘+p型深度78kmM6.2
・3月16日台湾付近+p型深度11kmM4.5
・3月17日与那国島近海+p型深度21kmM5.4
・3月19日台湾付近+p型深度21kmM6.0
・3月22日伊予灘+p型深度77kmM4.2
・3月26日薩南諸島東方沖to型深度77kmM5.3

2.精査後初動発震機構解震源の公開

 気象庁は発震機構解の公表形式を年度末に更新した.自動発信の発震機構解を「速報」と呼び,係官による精査後にCMT発震機構解とともに初動発震機構解を公表してきたが,これらを「精査後」の発震機構解と呼んでいる.
 CMT発震機構解は1994年9月から公表されているが,精査後の初動発震機構解は1997年10月まで遡って公表された.本速報では,地震予報の資料として精査後の初動発震機構も合わせて使用し,「東北日本IS(年別)」と「西南日本IS(年別)」として公開する.

3.伊予灘の地震と2014年4月の地震予報

 フィリピン海プレート西縁の地震活動は,台湾南方のマニラ海溝から2014年2月3日に開始し,北方に震源域を拡大しており,その動向が心配される.

図124 2010以後の西南日本における精査後初動発震機構震源の変遷. 左図:震央地図,中図:震源断面図,右上図:震源縦断面図,右下図:時系列図. 時系列図の2011年区間下部の横実線は3月11日の東日本大震災に対応している.東日本大震災後,左端の足柄小円北区では逆断層型地震(赤色)が突然起こり出した.

図124 2010以後の西南日本における精査後初動発震機構震源の変遷.
左図:震央地図,中図:震源断面図,右上図:震源縦断面図,右下図:時系列図.
時系列図の2011年区間下部の横実線は3月11日の東日本大震災に対応している.東日本大震災後,左端の足柄小円北区では逆断層型地震(赤色)が突然起こり出した.

 今回の伊予灘の地震と日本列島全体の地震活動との関連を検討するため,2010年以降の西南日本の精査後初動発震機構解の震央地図・震源断面図・震源縦断面図・時系列図(図124)を作成した.この図で注目されるのは,時系列図の右端の足柄小円東区の逆断層型震源(赤色)が東日本大震災(横実線)直後に急増していることである.この震源は足柄から沈み込むフィリピン海プレートが,関東地域で太平洋プレート上面との接触相互作用によって起こっている.
 震災後急増した足柄スラブ内地震も2013年9月から沈静化したが,2014年1月から再び活発化している.東日本大震災と同期する活発化は,太平洋プレートの沈み込み再開と対応している.しかし,2014年1月からの活発化は,2月から3月にかけて起こったフィリピン海プレート西縁で起こった地震が示しているように,フィリピン海プレート運動に起因している.
 足柄スラブ内地震の増大と対応し,紀南小円とその周縁の紀伊水道域の浅い逆断層型地震活動が,震災後の2011年と2013年前半に活発化している.また,九州小円区と南海小円区境界部の日向灘-安芸灘域では,正断層型地震の活動が活発化している.3月14日伊予灘M6.2の地震も活発化に対応している.
 今後,西南日本の地震活動の拡大と活発化が予想されるので,警戒が必要である.他の海溝域の活動度は,東日本大震災前の水準以下に低下しているが,大地震の準備期間とも考えられるので,警戒が必要である.