速報71)伊豆・小笠原・マリアナ海溝外地震,2015年9月の地震予報

1.2015年8月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2015年8月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で25個0.147月分,千島海溝域で2個0.023月分,日本海溝域で13個0.205月分,伊豆・小笠原海溝域で3個0.458月分,南海・琉球海溝域で7個0.097月分であった(2015年8月日本全図月別).
日本全域の面積比が0.147と数分の1月分以下の地震しか起こっておらず,本年2015年1月の0.084に次ぐ少なさである. 日本海溝域では2015年に入って逆断層型地震が75個,正断層型地震が19個起こっているが,2015年8月には逆断層型が8個,正断層型が5個起こり,正断層型地震数が増大している(2015年8月東日本(月別)).
M6.0以上の地震は,2015年8月17日マリアナ海溝外M6.1To深度12kmが1個起こっている(図163).

図163.2015年8月の日本全域CMT解の主応力軸方位図・ベニオフ図・地震断層面積対数移動平均図.  ベニオフ図(右上)の各海溝域の幅は1ヶ月間のプレート運動面積であり,黒色斜線がプレート運動の積算面積,赤色曲線が地震断層積算面積.左端のTotalは各海溝域合計の4分の1(特報5).  対数移動平均図(右下)の横軸は地震断層面積(km2)の対数(速報68).  右図右端の数値は2015年8月の日付.

図163.2015年8月の日本全域CMT解の主応力軸方位図・ベニオフ図・地震断層面積対数移動平均図.
 ベニオフ図(右上)の各海溝域の幅は1ヶ月間のプレート運動面積であり,黒色斜線がプレート運動の積算面積,赤色曲線が地震断層積算面積.左端のTotalは各海溝域合計の4分の1(特報5).
 対数移動平均図(右下)の横軸は地震断層面積(km2)の対数(速報68).
 右図右端の数値は2015年8月の日付.

2.伊豆・小笠原・Mariana海溝域の海溝外地震

 2015年8月17日M6.1To深度12kmがマリアナ海溝外で起こったが,海溝外地震は,海洋底プレートの押応力と沈み込みスラブの引応力の関係を最も明快に示すことから海洋プレートの沈み込み力学において重要である(速報18).
八丈小円区からマリアナ小円区までの伊豆・小笠原・マリアナ海溝域の海溝外地震のCMT解は44個あり,正断層型が35個,逆断層型が6個,横ずれ断層型が3個,と正断層型が圧倒的に多く,スラブ引が海洋プレート押より優勢であることを示している.逆断層型海溝外地震は伊豆小円南区と小笠原小円区中軸でのみ起こっている(図164).

図164 伊豆・小笠原・マリアナ海溝域の海溝外地震CMT解の引張主応力T軸方位.  T軸方位の色は発震機構型に対応している.右の縦断面図・時系列図・主応力方位図において,逆断層型地震(赤・ピンク・橙色)が伊豆小円南区の海溝沿いに集中している.T軸方位は主応力方位図(右下)において海溝傾斜方位[TrDip]とその逆方位の上下端に集まっている.

図164 伊豆・小笠原・マリアナ海溝域の海溝外地震CMT解の引張主応力T軸方位.
 T軸方位の色は発震機構型に対応している.右の縦断面図・時系列図・主応力方位図において,逆断層型地震(赤・ピンク・橙色)が伊豆小円南区の海溝沿いに集中している.T軸方位は主応力方位図(右下)において海溝傾斜方位[TrDip]とその逆方位の上下端に集まっている.

CMT解では地震発生時の応力状態を,互いに直交する圧縮・中間・引張の3主応力軸方位で表している.海溝外地震と海溝距離150km以内の地震の発震機構型判定は,傾斜補正をせず主応力軸方位をそのまま使用している.中間主応力N軸傾斜が45°以上の場合には「横ずれ断層型」になるが,45°以下の場合は「逆断層型」あるいは「正断層型」になる.圧縮主応力P軸と引張主応力T軸は中間主応力N軸に直交する平面上に載り直交している.P軸傾斜がT軸傾斜よりも小さい場合に「逆断層型」,大きい場合に「正断層型」と判定される.
この海溝域の海溝外地震の中間主応力N軸は緩傾斜で海溝軸に沿っているため,P軸とT軸は海溝軸に直交し,ほぼ直立する平面上に載る.P軸傾斜が45°以下の場合はT軸傾斜が45°以上になり「逆断層型」に判定されるが,P軸傾斜が45°以上の場合はT軸傾斜が45°以下になり「正断層型」に判定される.
「逆断層型」と判定された地震の海溝距離は1~11kmであるのに,「正断層型」の海溝外地震は5~93kmと外側に広く分布している.スラブによる下方への引張応力は海溝軸付近にしか働かないことと,「逆断層型」海溝外地震のT軸が島弧側に傾斜していることから,「逆断層型」海溝外地震は「正断層型」海溝外地震よりもT軸傾斜の大きな地震と言える.
「逆断層型」海溝外地震が平面化する伊豆スラブ南端の伊豆小円南区に集中していることは,伊豆スラブ南端が下部マントルに崩落していること(速報68,速報69)と関係していよう. 
最初の「逆断層型」海溝外地震が2002年3月20日M5.9poであることは,伊豆スラブ南端の下部マントルへの崩落が2002年に既に開始していたことを示唆している.

3.2015年9月の地震予報

伊豆スラブ南端の下部マントルへの崩落が進行している中で地震活動は静穏であり,日本列島下に如何なる歪が集積されているか懸念される.日本海域における正断層型地震の増加が,その異変を示しているのかもしれない.いずれにせよ,警戒が必要である.