月刊地震予報84)朝鮮半島の地震・房総三重会合点と鳥島沖の地震・2016年10月の月刊地震予報

1.2016年9月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2016年9月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で29個0.750月分,千島海溝域で2個0.007月分,日本海溝域で12個0.414月分,伊豆・小笠原海溝域で12個4.097月分,南海・琉球海溝域で3個0.060月分であった(2016年9月日本全図月別).
2016年9月のM6以上の地震は,鳥島沖の伊豆海溝軸付近の2016年9月21日M6.5pe50km と房総三重会合点の2016年9月23日M6.7pe32kmの2個である.
注目される地震としては,2016年9月12日に朝鮮半島で観測史上最大の地震M5.1np10kmとM5.7-np10kmが起こった.これまで起こったことのない地震が起こったことは,日本列島周辺の応力場に変化が進行していることを示唆している.

2.朝鮮半島の地震と沖縄トラフ拡大

2016年9月12日に朝鮮半島で観測史上最大の地震M5.1np10km・M5.7-np10kmが起った(図192).この地震についてはCMTの速報値のみ公表され,精査後の値は公表されていない.

図192.朝鮮半島の地震・熊本地震・沖縄トラフ拡大地震の震央分布.  2015年11月から2016年9月までのCMT発震機構解の主応力軸方位.

図192.朝鮮半島の地震・熊本地震・沖縄トラフ拡大地震の震央分布.
 2015年11月から2016年9月までのCMT発震機構解の主応力軸方位.

速報のCMT発震機構解によると,圧縮主応力P軸と引張主応力T軸の方位(北を0とし360°法で時計回の角)と傾斜(方位方向の傾斜角を+)はM5.1npでP253+17T346+11,M5.7-npでP249+17T345+19である.横擦断層型の共役地震断層面は圧縮主応力P軸と引張主応力T軸の二等分面を通る直交する2つの面の何れかになる.今回の地震断層面として朝鮮半島南東部海岸線に並行する面を選べば,その動きは右横擦になる(震源分布図の解説,).
朝鮮半島の東海岸は日本海拡大の際に西南日本との右横擦境界となっている(新妻,2007・2010).今回の発震機構が海岸線に平行する右横擦であれば,日本海が拡大傾向にあることになる.
 朝鮮半島域では,2カ月前の2016年7月5日に朝鮮半島南東沖でM4.9-nt37km(月刊地震予報82)が起っている.この地震の主応力軸もP66+10T157+5と傾斜は逆であるが方位は変わらず,今回同様朝鮮半島の海岸線に並行な断層面であれば,右横擦の日本海拡大傾向である.これ以前には唯一,2004年5月29日M5.1+p43kmが公表されている.この主応力軸はP84+12N178+16であり.逆断層型地震断層面は中間主応力N軸方位178であり,朝鮮半島の東海岸線に平行する.
 朝鮮半島の地震は,2016年4月16日の熊本地震M7.3の余震が続く2016年7月5日に開始しており,熊本地震の原因となった2015年11月14日の沖縄トラフ拡大最大地震M7.1の影響が九州を越えて朝鮮半島にまで及んだと考えられる.沖縄トラフ拡大は,台湾衝突の進行に伴う琉球海溝の南東方向への前進による背弧海盆の拡大である(新妻,2007・2010).

3.房総三重会合点と鳥島沖の地震

 房総三重会合点は,3つのプレート沈込境界である日本海溝・伊豆海溝・相模トラフが,房総半島沖で会合する点である.房総三重会合点は,この型のプレート三重会合点として地球上唯一の存在である(新妻,2007・2010).
 房総三重会合点では2016年9月23日9時14分M6.7pe32kmに続きM4.0tre34km,M5.7+nt28km・M5.7-nt27km・M5.7-nt9km・M4.7-nt24kmが起こり,翌9月24日のM5.2pre15km・M5.1Pre20kmが続いた.この3週間前の2016年9月2日にM5.3Pe27km,1週間前の2016年9月15日にM4.5Pe29kmが起こっている.この間の2016年9月21日に鳥島沖でM6.5pe50km,9月24日にもM5.0pe45kmが起っており,房総三重会合点と鳥島沖の地震活動には密接な関係がある(図193).

図193.2016年9月の房総三重会合点と鳥島沖の地震の震央分布と時系列図.  左:震央地図,中:海溝距離断面面図,右:縦断面図(上)・時系列図・ベニオフ図[赤色:逆断層型,青色:横擦断層型,黒色:正断層型].

図193.2016年9月の房総三重会合点と鳥島沖の地震の震央分布と時系列図.
 左:震央地図,中:海溝距離断面面図,右:縦断面図(上)・時系列図・ベニオフ図[赤色:逆断層型,青色:横擦断層型,黒色:正断層型].

 房総沖三重会合点における今回以前のCMT解は35個あるが,M6以上の地震は1996年11月20日M6.2+np57km,1999年3月2日M6.3P53km,2002年12月11日M6.1+pe35km,2004年5月30日M6.7pe23km,2005年1月19日M6.8po31km,2011年3月12日M6.1P32km,2011年4月14日M6.0po28kmの7個である.今回の活動は,最大の活動である2004-2005年に次いで大きい(図194).

図194.房総三重会合点のCMT解による地震活動変動(1994年9月-2016年9月).  左:震央地図,中:海溝距離断面面図,右:縦断面図(上)・時系列図・ベニオフ図[赤色:逆断層型,青色:横擦断層型,黒色:正断層型].

図194.房総三重会合点のCMT解による地震活動変動(1994年9月-2016年9月).
 左:震央地図,中:海溝距離断面面図,右:縦断面図(上)・時系列図・ベニオフ図[赤色:逆断層型,青色:横擦断層型,黒色:正断層型].

 房総三重会合点西側の関東のCMT解は247個あるが,東日本大震災後に急増している.東日本大震災前には逆断層型地震(赤色)が主体を占めていたが,震災後には横擦断層型(青色)・正断層型(黒色)の割合が半数以上を占めている(図195右下左端のベニオフ図).M6以上の地震は2000年6月3日M6.1P48km ,2005年4月11日M6.1P52km,2005年7月23日M6.0P75km,2011年3月15日M6.4np14km,2011年3月16日M6.1T10km ,2011年4月12日M6.4+nt26km,2011年4月21日M6.0pr46km,2012年3月14日M6.1T15km,2012年6月6日M6.3-nt37kmの9個である.これらの中で,2011年の東日本大震災の余震活動が最大であるが,次に房総三重会合点最大の2005年の活動が大きい.

図195.関東のCMT解による地震活動変動(1994年9月-2016年9月).  左:震央地図,中:海溝距離断面面図,右:縦断面図(上)・時系列図・ベニオフ図[赤色:逆断層型,青色:横擦断層型,黒色:正断層型].

図195.関東のCMT解による地震活動変動(1994年9月-2016年9月).
 左:震央地図,中:海溝距離断面面図,右:縦断面図(上)・時系列図・ベニオフ図[赤色:逆断層型,青色:横擦断層型,黒色:正断層型].

4.2016年10月の月刊地震予報

熊本地域の地震は,2016年9月に初動発震機構解(速報値)が5個・精査後11個・CMT解1個であり,前月8月の5個・7個・2個と変わらない.熊本地震M7.3の余震活動が終息するかに見えた7月にも地震活動は衰えず,長期化傾向を保持している(月刊地震予報82).この長期化傾向は,沖縄トラフ拡大最大地震2015年11月14日M7.1の影響が,熊本地震2016年4月16日M7.3以後も継続していることを示している(2016年4~9月西南日本月別IS).この長期化傾向への移行期の2016年7月5日に朝鮮半島の地震が開始されており,沖縄トラフ拡大に関連する応力場の変動に因るものと考えられ,今後,山陰地方を含む西南日本における警戒が必要である.
2016年9月23日に房総三重会合点で2005年以降最大の地震M6.7が起った.最大の房総三重会合点地震は2005年1月1月19日M6.8であるが,関東でその3ヶ月後の2005年4月11日にM6.1P52km,そして6ヶ月後の2005年7月23日にM6.0P75kmが起こっている.この連鎖関係に基づけば,今年2016年末から来年2017年にかけ関東においてM6以上の地震が想定され,厳重な警戒が必要である.
フィリピン海プレートの沈込域の1994年9月以降のプレート運動面積に対する総地震断層面積の比は,熊本地震が起こり0.484から0.506に増大したが,9月までに0.503と減少し,西南日本から琉球域にM8.7級の巨大地震の歪が蓄積されており,警戒が必要である.

引用文献

新妻信明(2007)プレートテクトニクス-その新展開と日本列島.共立出版,292p.
新妻信明(2010)プレートダイナミクス入門,共立出版,276p.