月刊地震予報83)マリアナスラブと伊豆スラブの地震・三陸沖の地震・2016年9月の月刊地震予報
2016年9月7日 発行
1.2016年8月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2016年8月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で20個0.573月分,千島海溝域で0個,日本海溝域で12個2.112月分,伊豆・小笠原海溝域で4個1.549月分,南海・琉球海溝域で4個0.025月分であった(2016年8月日本全図月別).
2016年8月のM6以上の地震は,2016年8月15日小笠原海台小円区のマリアナスラブ内M6.4P534km,三陸沖の2016年8月20日M6.4P11km・2016年8月21日M6.2p12km,伊豆小円区の伊豆スラブ内の2016年8月26日M6.1np498kmの4個である.
2.マリアナスラブの同心円状屈曲と伊豆スラブの平面化
小笠原海台小円区のマリアナスラブで2016年8月5日M6.4P534kmが起こった.今回の地震は,2013年5月14日M7.3p619kmによって明らかになった小笠原・マリアナ海溝から沈込むマリアナスラブが同心円状屈曲したまま下部マントル上面に到達していること(2013年日本全図年別,速報45,速報48)を支持する地震である(図190).
これまで,マリアナスラブが同心円状屈曲したまま下部マントル上面に達するとの論拠となっていたのは,1998年2月7日M6.4T552kmと2013年5月14日M7.3p619kmの2つの地震のみであった.今回の震源は1998年2月7日の震源に近接しており,同心円状屈曲の論拠を確かなものとした.2013年5月14日の地震はこれまでの最大地震記録M7.3を保持していたが,その座を2016年7月30日M7.7T233kmに譲った(月刊地震予報82).マリアナスラブは活発な活動をしており,今後更なる同心円屈曲を支持する地震の発生が期待される.
同心円状屈曲したまま下部マントルに到達するマリアナスラブの北側には,平面化して下部マントルにまで沈込む伊豆スラブが接していることが,伊豆スラブ南端の2015年5月30日M8.1t682kmと2015年6月3日M5.6-t695kmによって明らかになった(速報69).平面化した伊豆スラブの傾斜は,下部マントルまで沈込む南端でほぼ垂直に近いが,北に向かって次第に減じている.伊豆小円北区で2016年8月26日M6.1np498kmが起こった.この地震の前に伊豆小円南区で2016年8月22日M5.8+np419kmも起こっているが平面化スラブの傾斜が増大していることが分かる(図190).
3.三陸沖の地震
2016年8月20日M5.4P41km・M6.4P11km・8月21日M6.2p12km・M5.5p11km・M5.3p8km・M5.2p27km・8月22日M5.4P18kmの7個連発地震が,1896年明治三陸地震M8.5・1994年12月三陸はるか沖地震M7.6・1968年十勝沖地震M8.1を起こした明治三陸Mjs震源域と襟裳南方沖sErm震源域で起きた(図191左上図).
今回と同様の明治三陸Mjs震源域の連発地震は,2012年5月19日から5月22日にM4.5~6.5の11個連発地震(速報26),2015年2月17日から2月25日にM4.7~6.9の9個連発地震(4010速報65)が起こっている(図191右上図).
この震源域では日本海溝から沈込んだ太平洋スラブと日本列島側地殻が衝突して地震を起こしている.スラブの島弧地殻に対するプレート相対運動が原動力であるが,プレート境界には摩擦抵抗があるため剪断力が働き,圧縮主応力P軸は海溝側に傾斜する逆断層型発震機構になる.
三陸沖は襟裳小円南区と最上小円区に含まれ,その地震活動は,日本海溝から沈込む海洋プレートの太平洋スラブ内地震および同心円状屈曲する太平洋スラブと日本列島地殻・マントルとのプレート間地震が日本海溝に並行に起こっている.
スラブ内地震は,日本海溝外[offTr]の東日本大震災東余震Eafo震源域,同心円状屈曲スラブの平面化地震帯[unBend]の下北Smk震源域・久慈Kuj震源域・北上Ktk震源域に区分される.
プレート間地震は,外側[outerBend]の襟裳南沖sErm震源域・明治三陸Mjs震源域・東日本大震災前震Fore震源域・本震Main震源域,内側[innerBend]の下北沖oSmk震源域・久慈沖oKuj震源域・金華山沖oKks震源域に区分できる(図191中下).
これらの地震は,気象庁HPにCMT発震機構解および初動IS発震機構解(精査後)として公表されている.CMTは全域を網羅するM4以上の691地震,ISは日本列島沿岸部のM3以上の963地震が公表されている.
地震面積対数移動平均図[logArea](速報68)で注目されるのは外プレート間地震帯南部のFore・Mainで2015年から地震が起こっていないことである(図191右上).以前にも1998年以前と2006年から2007年末まで起こっていない.
海溝外Eafoの地震活動は外プレート間地震帯南部Fore・Mainと相補的に起こっている.外プレート間地震帯南部最後の2014年11月8日M5.2+pの後,海溝外地震が2015年1月14日M4.5-toを先頭に活発化している.これら地震帯における地震活動における時系列関係は三陸沖の太平洋スラブの力学挙動を知るために重要である.
4.2016年9月の月刊地震予報
熊本地域の地震は,2016年8月に初動発震機構解(速報値)が5個・精査後7個・CMT解2個であり,4月の186個・17個・10個から,5月の33個・8個・0個,6月の10個・4個・1個,7月の7個・11個・1個と7月からの長期化傾向を保持しており,警戒が必要である(2016年4月・5月・6月・7月・8月西南日本月別IS).
2016年8月のマリアナスラブ・伊豆スラブの地震は,同心円状屈曲したまま下部マントル上面に達するマリアナスラブと平面化して下部マントルに突入する伊豆スラブの活動が活発化していることを示している.この活発化は,太平洋スラブ全体の下部マントルへの崩落の鍵を握っていることから,両スラブの間に予想されるスラブの裂け目上に位置する西之島の火山活動の動向(速報48),日本列島全体における応力状態の改編に対応した新たな地震の発生にも注意が必要である.
フィリピン海プレートの沈込域の1994年10以降のプレート運動面積に対する総地震断層面積の比は,熊本地震が起こり0.484から0.506に増大したが,8月までに0.505と減少しており,西南日本から琉球域の巨大地震への警戒が必要である.