速報60)御岳噴火と地震活動・2014年10月の地震予報

1.2014年9月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2014年9月の地震個数と,プレート運動面積に対する総地震断層面積の比(速報36)は,日本全域で15個0.068月分,千島海溝域で2個0.024月分,日本海溝域で7個0.204月分,伊豆・小笠原海溝域で2個0.073月分,南海・琉球海溝域で4個0.032月分であった(2014年9月日本全図月別).
 日本全域の地震断層面積比が0.068月分と,地震断層面積がプレート相対運動面積の15分の1に減少した.2014年に入ってからの地震断層面積比も0.282で,1997年の0.114に次いで小さい状態を保っている(2014年9月日本全国年別).

2.2014年9月のM6.0以上の地震

 2014年9月にはM6.0以上の地震が起こらなかった.2014年のM6.0以上の地震は,3月3個・5月2個・6月1個・7月3個・8月2個と合計11個起こっており,本速報で解説してきた.M6.0以上の地震が起こらなかったのは5ヶ月ぶりである.

3.御嶽の噴火と地震活動

 御嶽火山が2014年9月27日11時52分に突然噴火し,数十名が犠牲になった.御嶽はジュラ紀付加体「美濃帯」およびそれを覆う「濃飛流紋岩」の中生代基盤岩の上に載る活火山である(図135).

図135.御嶽火山(↑←):ジュラ紀付加体「美濃帯」(灰色)およびそれを覆う「濃飛流紋岩」(桃色)の中生代基盤岩の上に載る活火山(暗褐色).百万分の1地質図(地質調査所,1982).

図135.御嶽火山(↑←):ジュラ紀付加体「美濃帯」(灰色)およびそれを覆う「濃飛流紋岩」(桃色)の中生代基盤岩の上に載る活火山(暗褐色).百万分の1地質図(地質調査所,1982).

その噴火活動は,8万年前に御嶽第1軽石On-Pm1を広域に堆積させたことで地質学的には知られていたが,観測されたのは1979年10月28日,1991年5月,2007年3月である.最初に観測された1979年の噴火は1978年6月12日宮城県沖地震M7.4の16ヶ月後であり,今回の噴火は東日本大震災の42ヶ月後に当たる.東日本大震災の引き金を引いた飛騨の地震が起こっていた地域内( 速報55)の噴火であり,その関連も考えられる.
 2007年・2014年の御嶽火山噴火と初動発震機構解(1997年10月以降)との関連を検討し,以下の諸点に注目した.
1) 御嶽火山の位置する中部地方には南海トラフからフィリピン海プレートが沈み込み,その下に日本海溝・伊豆海溝から太平洋プレートが沈み込んでいる.ただし,御嶽周辺ではフィリピン海スラブ内地震は起こっていない(図136).御嶽火山のマグマは太平洋スラブに起因すると考えられており,フィリピン海スラブ内で地震が起こらないのは,太平洋スラブからのマグマ活動によるのか,またはフィリピン海スラブが御嶽周辺まで到達していないためと考えられている.
2) 御嶽南側のフィリピン海スラブ内では2007年・2014年に地震活動が認められ,関連が予想される(図136).

図136.南海トラフ域フィリピン海スラブ内初動発震機構解(精査後).  御嶽(+印)周辺でスラブ内地震は起こっていない.御嶽が噴火した2007年・2014年に足柄小円西区の静岡域で地震活動が認められる.

図136.南海トラフ域フィリピン海スラブ内初動発震機構解(精査後).
 御嶽(+印)周辺でスラブ内地震は起こっていない.御嶽が噴火した2007年・2014年に足柄小円西区の静岡域で地震活動が認められる.

3) 中部地方の上部地殻内地震については銭州から三宅島にかけての地震が2007年・2013年末に起こっており関連が予想される.また,能登で2007年に逆断層型地震活動がある(図137).

図137.南海トラフ域上部地殻内初動発震機構解(精査後).  駿河小円区の三宅島を含む銭州海嶺に沿う地域に2007年・2013年に地震活動が認められ,能登で2007年に逆断層型地震がある.

図137.南海トラフ域上部地殻内初動発震機構解(精査後).
 駿河小円区の三宅島を含む銭州海嶺に沿う地域に2007年・2013年に地震活動が認められ,能登で2007年に逆断層型地震がある.

4) 南海トラフに沿って沈み込むフィリピン海スラブ全体を見ると,九州小円区に2007年・2014年の活動が認められる(図138).

図138.南海トラフ域のフィリピン海スラブ内の初動発震機構解(精査後).  九州小円区では御嶽噴火のあった2007年・2014年に地震活動が認められる.

図138.南海トラフ域のフィリピン海スラブ内の初動発震機構解(精査後).
 九州小円区では御嶽噴火のあった2007年・2014年に地震活動が認められる.

5) 日本海溝域の中層(島弧マントル)では,下北沖と日高の逆断層型地震が2007年・2014年に活発化している(図139).

図139.日本海溝域島弧マントル内の初動発震機構解(精査後).  襟裳小円区の下北沖・日高で逆断層型地震活動が御嶽噴火の2007年・2014年に活発化している.

図139.日本海溝域島弧マントル内の初動発震機構解(精査後).
 襟裳小円区の下北沖・日高で逆断層型地震活動が御嶽噴火の2007年・2014年に活発化している.

 ここに示した地震活動が御嶽の噴火活動にどのように関連しているかは,現段階で分らないが,火山活動と地震活動は日本列島に沈み込む海洋スラブによって起こされるので,噴火活動も日本列島の応力状態と関係しているとの観点に立ち,関連資料を集積する必要がある.

5.2014年10月の地震予報

 2014年9月のCMT発震機構解にはM6.0以上の地震がなく,震源個数15個・地震断層面積のプレート相対運動面積に対する比が0.068とプレート運動の15分の1以下と静穏であった.しかし,2014年3月の伊予灘M6.2( 速報53)に続いて8月に日向灘M6.0が日向灘-芸予灘地震帯で起こり( 速報59),静穏であった西南日本の地震活動が活発化することが心配されたが,9月27日に御嶽が7年ぶりに噴火を開始した. 1979年の噴火は2日で収まったが,今回の噴火は2週間以上続いている.これらの噴火に関連する地震と考えられる1978年の宮城県沖地震M7.4と東日本大震災M9.0の規模が,噴火期間の差に対応していれば,西之島噴火( 速報48)のように長期化とともに噴火規模の拡大が心配されるので警戒が必要である.
 初動発震機構解(精査後)によると,9月3・4日に栃木県北部で圧縮横ずれ断層np型地震5個M3.3-5.1が起こり,浜通でもM3.3-3.9の地震4個が起こり,関東平野下に沈み込むフィリピン海スラブ内地震も活発化している(2014年9月東北日本月別)ので警戒が必要である.