月刊地震予報171)2023年11月19日・24日の伊豆海溝域MarianaM5.9とM6.9,2023年12月の月刊地震予報

1.2023年11月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2023年11月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で11 個0.682月分,千島海溝域で1個0.012月分,日本海溝域で3個0.290月分,伊豆・小笠原海溝域で3個4.132月分,南海・琉球海溝域で4個0.041月分であった(2023年11月日本全図月別).
 2023年11月の総地震断層面積規模はΣM7.0で,最大地震は,2023年11月24日MarianaのM6.9(7.5)で,M6.0以上の地震は2023年11月19日MarianaのM5.9(6.5)があった(括弧内は初動IM規模).
 2023年11月までの日本全域2年間のCMT解は361個で,その総地震断層面積規模はΣM7.8,Plate運動面積規模はM8.2,その比は0.317である(図534の中図上).Benioff曲線には東北前弧沖震源帯ofAcJの2022年3月M7.3(月刊地震予報151)と琉球海溝域の歪解放周期更新の2022年9月M7.0(月刊地震予報157)の2つの大きな段が緩い傾斜の静穏期の中に認められる(図534右図上左端のTotal/4).2023年9月から千島・伊豆・琉球海溝域のM6級の活動によってTotal/4のBenioff曲線の全体的傾斜が増大しており,M7級地震に警戒が必要である.
 

図534 .2023年11月までの日本全域2年間CMT解.
 左図:震央地図,中図:海溝距離断面図.数字とMは,2年間のM7.0以上のCMT解に加え2023年11月についてはM6.0以上のCMT解年月日・規模.
 右図:時系列図は,海洋側から見た海溝域配列に合わせ,右から左にA千島海溝域Chishima,B日本海溝域Japan,C伊豆・小笠原海溝域OgsIz,D南海・琉球海溝域RykNnk,日本全域Total,を配列.縦軸は時系列で,設定期間の開始(下端2021年12月1日)から終了(上端2023年11月30日)までの730日間で,右図右端の数字は年数.設定期間の250等分期間2.9day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36特報5).
 Benioff図(右上図)の横軸はPlate運動面積で,各海溝域枠の横幅はこの期間のPlate運動面積に比例させてあり,左端の日本全域Total/4のみ4分の1に縮小.
 階段状のBenioff曲線は,左下隅から右上隅に届くように横幅を合わせ,上縁に総地震断層面積のPlate運動面積に対する比を示した.下縁の鈎括弧内右の数値[8.2] [7.9] [7.6] [7.5] [7.9]は設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模で,日本全域ではこの間にM8.2の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.上図右下端の(M6.2step)は,等分期間2.9日以内にM6.2以上の地震がTotal/4のBenioff曲線に段差与える.
 地震断層移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は地震断層面積規模で,等分区間「2.9day」に前後区間を加えた8.7日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積規模「M2 M5 M8」.右下図上縁の数値は総地震断層面積(km2単位)である.
 areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,逆断層型を赤色・横擦断層型を緑色・正断層型を黒色.
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2.2023年11月19日の伊豆海溝域MarianaM5.9

 伊豆海溝域のMariana小円区の深度612㎞で,2023年11月19日13時01分M5.9prが起こった.破壊開始の初動規模はM6.4で,破壊開始震動が本破壊震動の10倍近く大きい.
 本地震の深度612㎞は下部Mantle上面660㎞から48㎞上で,下部Mantleにほぼ真下に垂れ下がる同心円状屈曲Slabの末端に位置する(図534).本震源域では2013年5月14日M6.8p深度620㎞と2010年3月8日M6.0p深度463㎞が在り,本地震は3個目で,同心円状屈曲Slabが下部Mantleにほぼ真下に垂れ下がる「伊豆和達δ震源帯WdtiPcD」の様相が明確になった.本震源域は,これまで海台小円区に分布する同心円状屈曲Slabが下部Manlte上面に載る「伊豆和達α震源帯WdtiPcAlf」の南方延長としていたが,「伊豆和達δ震源帯WdtiPcD」の「伊豆和達δMariana震源区WdtiPcDM」と呼ぶことにする(図535).
 「伊豆和達δMariana震源区WdtiPcDM」の3個のCMT解の発震機構は全て逆断層p型である(図535右下の主歪軸傾斜方位図).Slabには,Slab重による下方引張歪が予想されるが,Slab先端が下部Mantleに突入すれば下部Mantleからの浮力を受け,上方圧縮歪が集積する.今回の地震の逆断層型発震機構はSlab先端が下部Mantleに突入して浮力を受けていることを示唆する.

図535.伊豆和達δ震源帯WdtiPcDと伊豆和達α震源帯WdtiPcAlfの観測震源分布.
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字とMは,「伊豆和達δ震源帯WdtiPcD」の観測震源発生年月日と規模.
 海溝距離断面図で観測震源発生年月日と規模を付けていない同心円状屈曲するSlab上面より下側に分布する震源が「伊豆和達α震源帯WdtiPcAlf(紺色)」である.「伊豆和達δ震源帯WdtiPcD(紫色)」の震源は,同心円状屈曲Slab上面を深度410㎞付近から離脱してほぼ垂直に垂れ下がる様に分布している.
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 「伊豆和達δ震源帯WdtiPcD」の震源区は,小笠原小円区の「伊豆和達δ小笠原震源区WdtiPcDog」のみであったが(月刊地震予報170),「伊豆和達δMariana震源区WdtiPcDM」が加わり,海台小円区の「伊豆和達α震源帯WdtiPcAlf」を間に挟んで南北に分離することになる(図536).
 「伊豆和達δ震源帯WdtiPcD」が分離して分布する小笠原小円区とMariana小円区の小円中心は,島弧側に位置し,「伊豆和達α震源帯WdtiPcAlf」が分布する海台小円区では海洋側に位置している.小円中心が島弧側に位置する小円区では,海溝に沿って沈込んだSlabの面積が沈込に伴って不足し,海洋側に位置する小円区では,過剰になる.下部Mantle上面付近に到達したSlab先端が垂直に垂れ下がって下部Mantleに突入するか同心円状屈曲したまま横たわるとSlab過不足との関連を示唆している.
 Mariana震源区と小笠原震源区に分離した「伊豆和達δ震源帯WdtiPcD」の観測地震の[節番号]・発生年月日・深度・規模・発震機構・(初動規模)は;
 Mariana 小笠原
[6] 2023年11月19日612㎞M5.9pr(6.5)
[5] 2018年2月6日490㎞M5.3np(5.6)
[4] 2015年10月20日325㎞M5.6np(5.8)
2015年6月15日390㎞M4.9P(5.5)
2015年6月3日695㎞M5.0-t(5.6)
2015年5月30日688㎞M7.9t(8.1)
[3] 2013年5月14日620㎞M6.8p(7.3)
[2] 2010年3月8日463㎞M6.0p(6.5)
[1] 2009年9月23日435㎞M5.2p(5.7)
2009年5月26日462㎞M4.7+np(5.0)
[0] 1993年3月20日366㎞(M4.7)
[-1] 1985年12月3日436㎞(M6.0)
[-2] 1970年5月20日350㎞(M7.1)
である.「伊豆和達δMariana震源区WdtiPcDM」の観測地震が2010年以降に限られているのは,観測限界外であったとも考えられるので2010年以前に起こっていなかったは不明であるが,小笠原震源区とMariana震源区の活動は同期していない.

図536.伊豆海溝域で裂けて沈込む太平洋Slab.
 震源帯名は上から同心円状屈曲を開始する「伊豆海溝TrPc」(黒色),屈曲Slabと島弧地殻・Mantleの衝突による「伊豆前弧fAcPc」(橙色),引き裂かれる前の「伊豆和達島弧WdtiPcAc」(青色),横臥状に同心円状屈曲したまま深度660㎞の下部Mantle上面に載る「伊豆和達αWdtiAlf」(紺色),垂直に下部Mantle上面を突き抜く「伊豆和達δWdtiPcD」(紫色),深度550㎞のγ相への相転移面で押し流される「伊豆和達γWdtiPcG」(緑色),深度410㎞のβ相への相転移面で押し流される「伊豆和達βWdtiPcB」(黄緑色).日本海溝から沈み込むSlabの「東北和達震源帯列WdtiJ」(薄紫色).引き裂かれたSlabの隙間からPlate運動に随行してきた太平洋底下のMantleが流出する.
 「伊豆和達δWdtiPcD」(紫色)の分布を小笠原小円区のみとしていたが(月刊地震予報131月刊地震予報170),2023年11月19日612㎞M5.9prに基づきMariana小円区にも分布していることが判明した.
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3.2023年11月24日の伊豆海溝域MarianaM6.9

 伊豆海溝域のMariana小円区で11月24日18時05分深度10㎞のM6.9Trが在った.破壊開始の初動規模はM7.5で,破壊開始震動が本破壊の10倍近く大きい.
 本地震は,太平洋Plateが伊豆・小笠原海溝に沿って同心円状屈曲Slabとして沈込む際に,Slab上面と接する島弧地殻・MantleとのPlate境界に沿う「伊豆前弧震源帯fAcPc」のMariana震源区fAcPcMの島弧地殻・Mantle側で起こった(図537).非双偶力成分比は+24%で,引張T歪が圧縮P歪の2.4倍の引張過剰である.引張歪軸傾斜方位は330+20°で,北緯20.4°の震源におけるPlate運動PC-PH方位303°から27°時計回り回転しており(図537右下図の主歪軸傾斜方位図の左下の青色△が紫色のSub折線の下方に位置している),Coliolis力を受けていることを支持する.
 Coriolis力によって,正断層型CMT解の引張T歪軸方位がPlate運動方位から緯度程度の時計回り回転することが千島海溝域と琉球海溝域の琉球裂開沖縄震源区で認められているが,伊豆海溝域では反時計回り回転が認められおり,伊豆弧の西南日本との衝突の影響が予想されていた(月刊地震予報170).本地震は,伊豆海溝域の最南端Marianaに位置し,西南日本との衝突の影響が及ばないことと大きな引張過剰であることから,Coliolis力による回転が認められたのであろう.
 「伊豆前弧沖Mariana震源区fAcPcM」のCMT解3個の[節番号]・発生年月日・深度・規模・発震機構・(初動規模)は:
[3] 2023年11月24日10㎞M6.9Tr(7.5)
[2] 2016年12月14日16㎞M6.1+nt(6.3)
[1] 2007年1月31日24㎞M6.7-np(7.1)
である.

図537.伊豆小笠原海溝域の「伊豆前弧震源帯fAcPc」の観測地震.
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字とMは,発生年月日・規模.
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4.2023年12月の月刊地震予報

 千島海溝域は静穏化しているが,2023年9月にM6級の地震が2個起こった後,10月1個M5.3・11月1個M5.1と静穏化しているが,2-3月周期で活動していることから,得撫島域のM8級の巨大地震に警戒が必要である.
 伊豆海溝域は,11月にMarianaでM6.9・M5.9が発生したが,10月にも伊豆裂開震源帯RifIのM6.3が起こり,八丈島の津波と硫黄島の噴火があり,警戒が必要である.
 琉球海溝域では,11月にΣM5.6と静穏化しているが,2022年9月に歪解放周期第4節第1小節の西南海溝震源帯のM7.4が起き,2023年9月に第2小節の舞台となる西南平面化震源帯uBdPhでM6.3,2023年10月に第3小節の舞台となる西南裂開沖縄震源区RifPhOkwでM5.7が起こっており,第4節の第2小節への移行が予想される.第2小節では被害地震が少ないが,次の第3小節では前の第3節の第3小節で2016年4月の熊本地震M7.1が起こっている.また,第-1節の第3小節で最大地震M7.2が今回の震源域で起こっており津波も伴っていたことから,今後に経過を注意深く見守る必要がある.