月刊地震予報126)千島海溝域択捉島沖M7.2,千島海溝域巨大地震と沈込Slab,2020年3月の月刊地震予報

1.2020年2月の地震活動

気象庁が公開しているCMT解によると,2020年2月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で11個1.504月分,千島海溝域で1個4.098月分,日本海溝域で6個0.311月分,伊豆・小笠原海溝域で2個0.044月分,南海・琉球海溝域で2個0.042月分であった(2020年2月日本全図月別).2019年8月まで4割以上を保持していた日本全域総地震断層比が1割以下へ急減し,1割前後の異常静穏化が5ヶ月に渡り継続したが(月刊地震予報125),2020年2月の千島海溝域の4ヶ月分によって停止した.ただし,千島海溝域以外では異常静穏化が継続しており,1611年慶長奥羽地震から1677年延宝地震までの異常静穏期(月刊地震予報122)との対応が破れたかは,当時の千島海溝域と他海溝域との地震活動の関連性が不明なので注意深く見守る必要がある.
最大地震は2020年2月13日の千島海溝域択捉島沖M7.2tで,他にM6.0以上の地震は無かった.

2.千島海溝域択捉島沖M7.2

 2020年2月13日19時33分,千島海溝域の択捉島沖深度155km(Slab深度+79km)M7.2tが単独で起った.千島海溝域のM7.0以上の地震は,2018年12月21日にKamchatka海溝とAleutian海溝接合部外の深度17kmで起ったM7.3+nto(月刊地震予報112)以来で,以後静穏化していた(図357).

図357.2020年2月13日千島海溝域択捉島沖M7.2.
 千島海溝域のCMT解:年月日と規模は択捉島沖M7.2・Kamchatka沖 M7.3の震源.
 Clickすると拡大します.

海溝に沿って太平洋Plateが同心円状屈曲して沈込むSlabの表層は伸張し,深層は圧縮する.Slabが沈込むと太平洋底下を並進してきたMantleが行場を失い,Slabを押上げ,Slabは平面化する(月刊地震予報124).平面化すると圧縮されていた深層は伸張し,伸張していた表層は圧縮して地震を起こす.
今回のM7.2はSlab深層の平面化(unbend)に伴う最大のCMT解である.本予報では択捉島沖のSlab深層平面化地震をuBdとし,千島のCと択捉のEtrを付してuBdCEtrと略称する.uBdCの東端は新知(しむしる)島沖まで起っているが,今回はその中間の択捉島東方沖で起った.
Slab表層の平面化は島弧の隆起をもたらし,前弧(foreArc)の海岸付近で地震を起こすのでfAcと略称する.Mantle相転移の深度350/550km範囲に対応する千島海溝域の地震はVladivostokに向かって沈込む深発地震面の北東部に成るのでVlacCと略称する.

3.千島海溝域巨大地震と沈込Slab

日本列島における地震計観測網による地震記録は気象庁Home Pageの震度Databaseとして公表されている(月刊地震予報124).震度1の地震には震源の詳細不明が多く,震源が決定された地震規模もM1からM2が主で,CMT解やIS解と比較するためのM4.0以上の地震の最大震度は3以上になる.ただし,千島・伊豆・琉球海溝域については観測点が疎らなため,M6.0以上の地震でも最大震度2になるので,震度2以上でM4.0以上の地震をSeno & Eguchi(1983 )・宇佐美(2003)・渡辺(2011)に加えて解析に使用する.
1922年1月からの気象庁観測地震によると千島海溝域ではM8.0以上の地震が7個あった(図358).M8.0以上の巨大地震は1994年から2013年(5-7),1952年から1963年(2-4)と1923年(1)に起っている.

図358.千島海溝域のM8.0以上の地震.
 右中の時系列図左縁の数字(1-7)は巨大地震番号.
Clickすると拡大します.

 千島海溝域のM8.0以上の巨大地震は,
7)2013年5月24日14時44分M8.3 VladKamcP609(+87)km
6)2007年1月13日13時23分M8.2CtrSmsTe30(+17)km
5)1994年10月4日22時22分M8.2ofAcCEtr28(-1)km
4)1963年10月13日14時17分M8.1CtrEtr0(-18)km
3)1958年11月7日7時58分M8.1oCsmEtr13(-20)km
2)1952年11月5日1時58分M8.2Kamc0(-68)km
1)1923年2月4日1時1分M8.3Kamc0(-55)km
の7個である.KamcはKamchatka,Smsは新知(しむしる),Etrは択捉である.
 これらの巨大地震は,Slabが海溝に沿う同心円状屈曲沈込のCtrC地震(6・4),Slabと島弧地殻の衝突によるoCsm地震(3),島弧Mantleとの衝突によるofAcC地震(5)およびKamc地震(1・2),平面化したSlabが併進Mantleに押されたり,下部Mantle表面との衝突による深発地震面Vlad地震(7)である.
これらの巨大地震の震源を黄色に塗潰し,Slab深層の平面化地震uBdCの海溝距離面図・震央地図・縦断面図・時系列図・歪主応力方位図に挿入し,対応関係を示す(図359).

図359.千島海溝域のSlab深層の平面化地震uBdCの海溝距離断面図・震央地図・縦断面図・時系列図・歪主応力方位図.
 M8.0以上の巨大地震の震源の丸印を黄色に塗潰して挿入.右中の時系列図左縁の数字(1-7)は巨大地震番号.
Clickすると拡大します.

 縦断面図左端の襟裳小円北区の根室沖に多数の震源が集まっているが,巨大地震の期間には震源分布が右側に広がり,Slab平面化の強度とともに変化し,巨大地震と対応している.
 千島海溝域のSlab深層平面化地震uBdCの総地震断層面積規模移動平均曲線areaMは過去百年間の千島海溝域の並走Mantleの押出し量変動を表している.この変動はSlab表層平面化地震fAcCや平面化後の深発地震面VladCとも関係し,更に日本海溝域の襟裳小円区の深発地震面VladE・最上小円区のVladM・鹿島小円区VladK,そして伊豆海溝区の翼状SlabのWβ・Wγとも関係していると考えられる.これらの関係を解析するため,総地震断層面積規模移動平均曲線areaMと積算地震断層面積Benioff図を比較する(図360).

図360.伊豆海溝域翼状Slab WγWβ・日本海溝域深発地震面VladKME・千島海溝域深発地震面VladC・Slab表層平面化fAcC・Slab深層平面化uBdCの総地震断層面積の変動.
 総地震断層面積規模移動平均曲線をareaM,積算地震断層面積図をBenioffと示す.Benioffの下の数値は,総地震地震断層面積のPlate運動面積に対する比.下のΣMは総地震断層面積を規模に変換した値,243.5dayは移動平均算出幅,nは地震個数.左縁の数字は西暦年数,右縁の数字は千島海溝域のM8.0以上の巨大地震番号.
Clickすると拡大します.

 千島海溝域のSlab深層平面化地震uBdCと表層平面化地震fAcCのBenioff曲線は巨大地震5近くに大きな段差を有し,共通する変動を記録している.ただし,areaM曲線の対応は不明瞭である.areaM曲線については,現在から巨大地震6までのuBdCとVladCに類似する変動が認められ,伊豆海溝域のWγWβにも認められる.

4.2020年3月の月刊地震予報

 2019年9月から継続していた地震活動静穏化は,2020年2月13日千島海溝域択捉島沖M7.2によって日本全域の総地震断層面積のPlate運動面積に対する比が1.5と2018年12月21日Kamchatka沖M7.3(月刊地震予報112)以来13ヶ月ぶりに1を超えた.千島海溝域はM8.0以上の巨大地震によってPlate面積を消化してきており(図357),次の巨大地震が心配されるが,多様な巨大地震間隔のため(図358),今回と2018年のM7級の地震が前兆であるかは分からない.
太平洋Plateの海溝に沿う同心円状屈曲沈込と平面化は,日本列島の巨大地震を支配し,巨大地震は集積歪を解放し,日本列島の歪分布と沈込・平面化の様相を改変すると考えられる.千島海溝域のSlab平面化地震uBdCと深発地震面地震VladC,更に伊豆海溝域の翼状Slabの地震WγWβに東日本巨大地震を挟む期間で共通する変動が認められたことは,異常静穏化が進行してる他海溝域に変動をもたらすことも充分考えられるので注意深く見守る必要がある.

引用文献

Seno, T. &Eguchi, T. (1983) Seismotectonics of the western Pacific region. Geodynamics of the western Pacific-Indonesian region, Geodynamics Series, 11, American Geophysical Union, 5-40.
宇佐美龍夫(2003)日本被害地震総覧.東京大学出版会,605p.
渡辺偉夫(2011)日本被害津波総覧(第2版)東京大学出版会,238p.