速報74)沖縄トラフ北端地震M7.1・千島海溝域北東端地震M6.1・小笠原海溝域地震M6.3・2015年12月の地震予報

1.2015年11月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2015年11月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で27個1.390月分,千島海溝域で5個0.270月分,日本海溝域で7個0.137月分,伊豆・小笠原海溝域で2個0.766月分,南海・琉球海溝域で13個3.193月分であった(2015年11月日本全図月別).日本全域の面積比が1.390と半年ぶりに1月分を越した.M6.0以上の地震は,11月14日沖縄トラフ北端M7.1・11月17日千島海溝域M6.1・11月20日小笠原海溝域M6.3の3個起こり日本全域にわたり活発であった(図170).

図170.2015年11月の日本全域CMT解の主応力軸方位図・ベニオフ図・地震断層面積対数移動平均図.  ベニオフ図(右上)の各海溝域の幅は1ヶ月間のプレート運動面積であり,黒色斜線がプレート運動の積算面積,赤色曲線が地震断層積算面積.左端のTotalは各海溝域合計の4分の1(特報5).  対数移動平均図(右下)の横軸は地震断層面積(km2)の対数(速報68).  右図右端の数値は2015年11月の日付.

図170.2015年11月の日本全域CMT解の主応力軸方位図・ベニオフ図・地震断層面積対数移動平均図.
 ベニオフ図(右上)の各海溝域の幅は1ヶ月間のプレート運動面積であり,黒色斜線がプレート運動の積算面積,赤色曲線が地震断層積算面積.左端のTotalは各海溝域合計の4分の1(特報5).
 対数移動平均図(右下)の横軸は地震断層面積(km2)の対数(速報68).
 右図右端の数値は2015年11月の日付.

2.沖縄トラフ北端の地震

沖縄トラフの北端で2015年11月14日M7.1+nt(14km)が起こった.本地震は,2007年4月20日八重山小円区M6.7T(21km)の最大地震記録を更新するものである.
 フィリピン海プレートの沈み込み域では,2001年まではプレート運動面積との地震面積比が0.74とほぼ同等であったが,2002年以後は0.36に半減していた(図171右中:ベニオフ図).静穏化している中で沖縄トラフの北端で本地震が起こった.

図171.琉球海溝域のCMT解.  琉球海溝に沿って逆断層型地震活動が活発で,琉球弧-台湾に対応している.琉球弧と東シナ海大陸棚の間には背弧海盆の「沖縄トラフ」があり,横擦断層型と正断層型の深度の浅い地震が対応している.これらの地震断層面積は,2001年まではほぼプレート運動面積に対応していたが,2002年以降は半減している(ベニオフ図:右中)

図171.琉球海溝域のCMT解.
 琉球海溝に沿って逆断層型地震活動が活発で,琉球弧-台湾に対応している.琉球弧と東シナ海大陸棚の間には背弧海盆の「沖縄トラフ」があり,横擦断層型と正断層型の深度の浅い地震が対応している.これらの地震断層面積は,2001年まではほぼプレート運動面積に対応していたが,2002年以降は半減している(ベニオフ図:右中)

沖縄トラフは琉球弧と東シナ海大陸棚の間にある.トラフ地形に対応して地震活動があり,拡大軸部では熱水活動も観察され,拡大しつつある背弧海盆といえる(図172).沖縄トラフが九州に近付くと二股に分れるが,震源分布も分れている.本地震は北側に分れた北端で起こった.

図172.沖縄トラフの赤色立体地図(アジア航測社提供)とCMT解主応力方位図.  琉球弧と東シナ海大陸棚の間に位置する沖縄トラフと地震活動(図173)は良く対応している.九州に近付くとトラフも震源も二股に分れる.今回は北側に分れたトラフの北端で起こった.

図172.沖縄トラフの赤色立体地図(アジア航測社提供)とCMT解主応力方位図.
 琉球弧と東シナ海大陸棚の間に位置する沖縄トラフと地震活動(図173)は良く対応している.九州に近付くとトラフも震源も二股に分れる.今回は北側に分れたトラフの北端で起こった.

琉球海溝に沿って沈込でいたフィリピン海プレートが,台湾で沈込めず衝上断層によって切断され重複し,台湾山脈を隆起させている.台湾で重複したスラブの北東方延長は重複の度合いを減少させながら琉球海溝から沈込んだスラブに連続しているはずである.そこで,沈込む前のフィリピン海プレートを海底に留めようとすると,幾何学的に沈込境界を南東方向に前進させなければならない(新妻,2007;2010).
沖縄トラフは,台湾におけるフィリッピン海プレートの衝突に伴うスラブ重複によって琉球海溝が南東に前進し,その背弧で拡大している.琉球弧の前進は地震および地殻変動によっても確認されている(例えば,安藤他,2015).
本震源域では12個の地震が起こっており,その発震機構は横擦断層型10個,正断層型2個であり,引張過剰の大きな正非双偶力成分比を持ち,琉球列島が南東方向に引張られていることを示している.最初の地震は本震源域東方薩摩中部の川内で起こった2015年10月3日M4.1nt(9km)である(速報73).この地震と本地震の発震機構の間のEuler角(特報6)は-25.4と本震と変わらず,その後の余震の発震機構Euler角も+7.1±33.2と主応力軸方位が維持されている.
 本地震M7.1の震源域では,これまでCMT発震機構解(1994年9月以後)の報告は無く,空白域であった.しかし,10月3日の最初の地震の震源域では,1997年3月26日M6.6+nt(12km)・4月3日M5.7+nt(15km)・5月13日M6.4+nt(9km)薩摩中部の川内・阿久根で全壊26の被害・2004年12月12日M5.1nt(15km)・12月14日M5.3T(19km)・2006年2月4日M5.1+np(12km)・2012年8月17日M4.9+np(10km)のCMT解が報告されている(図173右中:時系列図).
 フィリピン海プレートは台湾における衝突重複沈込によって変形し,琉球海溝を前進させ,沖縄トラフを拡大する.これまで最大記録であった八重山小円区の2007年4月20日M6.7T(21km)を更新し,これまで空白域であった琉球小円区の北端で本地震M7.1が起こった.

図173.沖縄トラフの地震活動.  2015年11月14日M7.1+ntは沖縄トラフ北端で起こった.本地震に先立つ2015年10月3日M4.1ntは薩摩中部の川内付近で起こっているが,この震源域では1997年3月から2012年8月にM4.9からM6.6の横擦断層型と正断層型地震が起こっている.しかし,本地震M7.1の震源域はCMT解の報告のない空白域であった.本地震は,八重山小円区2007年4月20日M6.7Tの最大地震記録を更新した.

図173.沖縄トラフの地震活動.
 2015年11月14日M7.1+ntは沖縄トラフ北端で起こった.本地震に先立つ2015年10月3日M4.1ntは薩摩中部の川内付近で起こっているが,この震源域では1997年3月から2012年8月にM4.9からM6.6の横擦断層型と正断層型地震が起こっている.しかし,本地震M7.1の震源域はCMT解の報告のない空白域であった.本地震は,八重山小円区2007年4月20日M6.7Tの最大地震記録を更新した.

3.千島海溝域地震

2015年11月17日千島海溝域M6.1p(30km)が東経155°の温祢古丹(オンネコタン)島南方の前弧域で起こった.圧縮主応力P軸が海溝側に傾斜しており,太平洋スラブ沈込による剪断を示している.この震源域は,太平洋スラブと北米プレートの相対運動方向が海溝軸にほぼ直交している(図174右下:主応力方位図の中軸線が海溝傾斜方位・紫色線がプレート運動方位).
千島海溝域では,海溝から同心円状屈曲したスラブが平面化し,下部マントル上面直上の深度654kmまで地震が起こっている.平面化角は北海道付近から北東に向かって高角化する.
今回の地震は,多数の地震が起こっている千島海溝域の北東端に当たっており,ここからカムチャツカ半島までのCMT解は報告されていない.また,東経152°新知(シムシル)島付近以東のCMT解が報告されたのは2006年9月26日M5.5p以後である(図174)

 図174.千島海溝域の地震活動. 1994年9月以降のCMT解の主応力軸方位.北海道から千島弧に沿ってカムチャツカ半島の手前までCMT解が分布する.今回の2015年11月17日千島海溝域M6.1pは,北東端部で起こった.この北東端部のCMT解として最初に報告されたのは2006年9月26日M5.5pである(右中:右端の数字は年数).

図174.千島海溝域の地震活動.
1994年9月以降のCMT解の主応力軸方位.北海道から千島弧に沿ってカムチャツカ半島の手前までCMT解が分布する.今回の2015年11月17日千島海溝域M6.1pは,北東端部で起こった.この北東端部のCMT解として最初に報告されたのは2006年9月26日M5.5pである(右中:右端の数字は年数).

4.小笠原海溝域地震

2015年11月20日M6.3pe(0km)が小笠原海台小円区の北端付近の海溝距離17kmの海溝域で起こった.海溝域および海溝外地震の発震機構は,海溝に沿って沈込むスラブが引かれているか,押されているのかを判定するために重要である(速報18).小笠原海溝に沿って沈込む小笠原スラブは同心円状屈曲したまま下部マントル上面に達しているのに対し(速報57),伊豆海溝に沿って沈込む伊豆スラブは同心円状屈曲後に平面化して沈込むが,平面化角は南方程急角になる.小笠原海溝との境界付近では急斜した伊豆スラブが下部マントル上面を突き抜けている(速報68).下部マントル上面を突き抜けたスラブは浮力を喪失して後続スラブを引込み高圧化し,下部マントルへ相転移させるので,連鎖的に崩落すると予想されている.
2015年に起こった海溝距離25km以内の海溝域地震と海溝外地震を検討すると,4月末から地震活動が活発化している(図175右中:ベニオフ図・時系列図).この活発化は,2015年5月30日M8.1の伊豆スラブ南端下部マントル地震以前に開始している.
今回の地震は,崩落する伊豆スラブの南側の同心円状屈曲したまま沈込む小笠原スラブの上の深度0kmで起こっている.発震機構は圧縮P軸が海溝側に傾斜する逆断層型であり,主応力方位図の上端の丸印で示され(図175右下),スラブ沈込に伴う島弧地殻中の剪断によることを示している.

図175.2015年の伊豆・小笠原海溝域の海溝距離25km以内の海溝域地震と海溝外地震のCMT解主応力軸方位. 2015年4月末から地震活動が活発化し(右中図:ベニオフ図・時系列図),5月30日と6月3日に下部マントル地震が起き,今回の2015年11月20日小笠原海溝域M6.3peが起こった.今回の地震の発震機構は圧縮P軸が海溝側に傾斜する逆断層型であり,主応力方位図の上端の丸印で示され(右下図),スラブ沈込に伴う島弧地殻中の剪断によることを示している.

図175.2015年の伊豆・小笠原海溝域の海溝距離25km以内の海溝域地震と海溝外地震のCMT解主応力軸方位.
2015年4月末から地震活動が活発化し(右中図:ベニオフ図・時系列図),5月30日と6月3日に下部マントル地震が起き,今回の2015年11月20日小笠原海溝域M6.3peが起こった.今回の地震の発震機構は圧縮P軸が海溝側に傾斜する逆断層型であり,主応力方位図の上端の丸印で示され(右下図),スラブ沈込に伴う島弧地殻中の剪断によることを示している.

海溝外地震の場合には,沈込まれる島弧地殻との影響がなく,スラブに働く応力を判定できる.図175には海溝外地震が5個あり,発震機構は3個が正断層型(-t紫:4月・t黒:5月・T青:8月)・1個が横擦断層型(np緑:8月)・1個が逆断層型(p赤:1月)である.伊豆小円南区で1月に逆断層型であったのが,4月に正断層型に変換した後,下部マントル地震が起き,8月に小笠原小円区とマリアナ小円区で横擦断層型と正断層型の海溝外地震が起こっている.これらの変遷は下部マントルまで到達した伊豆スラブがどのような影響を及ぼすかを知るために重要である.

5.2015年12月の地震予報

2002年以降半減していたフィリピン海プレート沈込域の地震活動は,今回の沖縄トラフ最大の地震M7.1によってフィリピン海プレート沈込障害が除かれ正常化し,活発化するであろう.これまで空白域であった北東端で最大の地震が起こったことは,沖縄トラフ拡大様相の変化を示唆しており,九州における地震活動や火山活動の活発化が予想される.本地震の前月に地震があった薩摩中部の川内には,日本で唯一再稼働した原発があり,特に厳重な警戒が必要である.
千島海溝域北東端の地震と小笠原海溝域の地震は,太平洋スラブ沈込が2015年5月30日の下部マントル地震によって活発化していることを示唆している.フィリピン海プレートと太平洋プレートの沈込は相互に関連しており,双方が活発化していることから,日本全域で警戒が必要である.

引用文献

安藤雅孝・生田領野・Tu Yoko・他(2015)2013年4月沖縄トラフの群発地震とダイク貫入について,S-CG62-07,地球惑星科学連合2015年大会.
新妻信明(2007)背弧海盆の拡大と衝突によるスラブ重複,「プレートテクトニクス―その新展開と日本列島―」,5.17,共立出版,120-129.
新妻信明(2010)プレート運動モデルと異なる宇宙測距結果,「プレートダイナミクスに入門」,11.3,共立出版,204-206.