月刊地震予報168)2023年8月11日ofAcJSmk M6.1t,2023年8月25日oAcJKj M5.9p, 2023年9月の月刊地震予報

1.2023年8月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2023年8月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で14 個0.132月分,千島海溝域で1個0.002月分,日本海溝域で9個0.777月分,伊豆・小笠原海溝域0個,南海・琉球海溝域で4個0.065月分であった(2023年8月日本全図月別).
 2023年8月の総地震断層面積規模はΣM6.4で,最大地震は,2023年8月11日襟裳小円南区深度36㎞の東北前弧沖震源帯ofAcJ下北震源区SmkのM6.1tで,次大は2023年8月25日襟裳小円南区深度15㎞の東北弧沖震源帯oAcJ久慈震源区KjのM5.9pであった.
 2023年8月までの日本全域2年間CMT解は332個で,その総地震断層面積規模はΣM7.8で,Plate運動面積規模はM8.2,その比は0.282である(図512の中図上).Benioff曲線には東北前弧沖震源帯ofAcJの2022年3月M7.3(月刊地震予報151)と琉球海溝域の歪解放周期更新の2022年9月M7.0(月刊地震予報157)の2つの大きな段差が緩い傾斜の静穏期の中に認められる(図512右図左端のTotal/4).
 千島海溝域Aは,Plate運動との比が0.041と静穏化しているが,4ヶ月毎にM6.1以下であるが段差が生じており,2023年6月にもM5.6があり(図512右図右端),2023年10月まで警戒が必要である.
 日本海溝域 B では,横幅を総地震断層面積に合せているので目立たないが上端に,2023年の5月と6月の2個のM6.2段差に8月のM6.1とM5.9が加わっている.
 

図512 .2023年8月までの日本全域2年間CMT解.
 左図:震央地図,中図:海溝距離断面図.数字とMは,M7.0以上と2023年8月のM5.9以上のCMT解年月日・規模.
 右図:時系列図は,海洋側から見た海溝域配列に合わせ,右から左にA千島海溝域Chishima,B日本海溝域Japan,C伊豆・小笠原海溝域OgsIz,D南海・琉球海溝域RykNnk,日本全域Total,を配列.縦軸は時系列で,設定期間の開始(下端2021年9月1日)から終了(上端2023年8月31日)までの730日間で,右図右端の数字は年数である.設定期間の250等分期間2.9day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図している(速報36特報5).
 Benioff図(右上図)の横軸はPlate運動面積で,各海溝域枠の横幅はこの期間のPlate運動面積に比例させてあり,左端の日本全域Total/4のみ4分の1に縮小している.
 階段状のBenioff曲線は,左下角から右上角に届くように横幅を合わせ,上縁に総地震j断層面積のPlate運動面積に対する比を示した.下縁の鈎括弧内右の数値[8.2] [7.9] [7.6] [7.5] [7.9]は設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模で,日本全域ではこの間にM8.2の地震1個に相当するPlate運動歪が集積する.上図右下端の(M6.2step)は,等分期間2.9日以内にM6.2以上の地震がTotal/4のBenioff曲線に段差与える.
 地震断層移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は地震断層面積規模で,等分区間「2.9day」に前後区間を加えた8.7日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積規模「M2 M5 M8」.右下図上縁の数値は総地震断層面積(km2単位)である.
 areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型線形比例内部段彩は,逆断層型を赤色・横擦断層型を緑色・正断層型を黒色.
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2.2023年8月11日9時11分東北前弧沖震源帯下北震源区ofAcJSmkM6.1t

 2023年8月11日9時11分に襟裳小円南区深度36㎞で東北前弧沖震源帯ofAcJ下北震源区SmkのM6.1が発生した.
 前弧沖震源帯は,海溝から同心円状屈曲して沈込んだ太平洋Slab上面と島弧最強のMoho直下のMantlとの衝突域である.観測地震は2485個で,総地震断層面積規模はM8.5に達し,Plate運動面積規模M9.0に対する比は0.242である.最大地震は鹿島小円北区のCMT深度35㎞の勿来震源区Nksの2011年3月11日15時15分のM7.7pである.次大は最上小円区初動深度40㎞の金華山震源区Kksの1978年6月12日M7.4の宮城県沖地震と,最上小円区初動深度61㎞の金華山震源区Kksの1936年11月3日M7.4である.
 本地震の下北震源区ofAcJSmkの最大観測地震は,初動深度60㎞の1945年2月10日M7.1と初動深度24㎞の1943年6月13日M7.1で,最大CMTは,深度41㎞の2018年1月24日M6.4Pである.
 本地震の震度分布は,東北地方脊梁に沿って最大の震度4で,北海道から関東地方まで震度1を記録している(図513).
 本地震のCMT解の破壊開始の初動IM震源から本破壊のCMT震源震央は1㎞西と殆ど変化ないが,深度はSlab上面1㎞上から7㎞下に8㎞増大している.この両震源と主歪面に直交する主中間N歪軸が載る断層面の走向傾斜は,N44W83Sで北西‐南東方向に直立する正断層である.
 本地震には破壊開始の初動IM解(P82+13T287+76N173+6)と本破壊のCMT解(P116+35T309+55N210+6)が報告されている.歪軸方位はPlate境界のSlab上面とSlab上部で時計回りに40.8°回転している.Plate運動方位は西北西で,CMT解の主圧縮P軸傾斜方位116と逆方位であることは,本地震の本破壊がSlab上面に沿うPlate運動による剪断歪であることを示している.本地震は,Slab上面の局地的歪によって破壊を開始し,Plate運動によるSlab上部の剪断歪を解放したことが分かる.

図513 .2023年8月11日9時11分ofAcJSmkM6.1tの震度分布.

3.2023年8月25日東北弧沖震源帯久慈震源区oAcJKjのM5.9p

 2023年8月25日7時48分に襟裳小円南区深度15㎞の東北弧沖震源帯oAcJ久慈震源区KjでM5.9pが発生した.本地震の震度分布は,仙台から盛岡の東北本線に沿う北上低地帯を最大震度3とし,東北地方を震度1以上で覆っている(図514).
 東北弧沖震源帯は,日本海溝に沿って沈込む太平洋lSlab上面と島弧下部地殻とのPlate衝突境界域である.東北弧沖震源帯oAcJの観測地震は1145個あり,その総地震断層面積規模はM9.1で,Plate運動面積規模M9.0に対する比は1.294倍で,日本海溝に沿うPlate運動面積を超過している.
 最大地震は最上小円区深度10㎞の平成震源区Hs2011年3月11日M9.0であり,次大は襟裳小円南区初動深度54㎞の十勝震源区Tk1952年3月4日M8.2である.最大地震のM9.0を除いても総地震断層面積はΣM8.7で,Plate運動面積に対する比は0.415と日本海溝域で最大歪解放率を保持している.
 本地震破壊開始の初動IM震源から本破壊のCMT震源はSlab上面から2㎞の深度を変化させず北北西に4㎞移動している.両震源と主歪面に直交する主中間N歪軸が載る地震断層は走向傾斜が北北西で西緩傾斜N16W6Wの衝上断層である.
 CMT解(P110+38T297+51N203+4)の主圧縮P歪軸傾斜方位が西北西のPlate運動と逆方位であることは,本地震がPlate境界のSlab上面に沿う剪断歪を解放したことを示している.

図514 .2023年8月25日7時48分oAcJKjM5.9pの震度分布.

4.2023年9月の月刊地震予報

 日本海溝に沿って沈込む太平洋Slab上面に沿う剪断歪が2023年8月15日M6.1と8月25日M5.9によって解放されたことから,千島海溝域の地震活動の活発化に警戒が必要である.千島海溝域は,2013年5月24日M8.3の千島和達深発震源帯Kamchatka震源区WdtiCKamc以降静穏化しており,大地震が襲来する第一の候補域である.M6.1以下であるが,昨年7月から4ケ月毎に地震が起こっており,2023年6月23日にもM5.6があり,4ヶ月後の2023年10月には警戒が必要である.