速報34)震源表示断面枠組みの改訂
2012年12月15日 発行
1.震源表示断面
日本列島周辺で起こる地震は多数の地震計によって観測され,即日処理が行われて気象庁から公表されている.
本HPでは震央を地図上に示し,震源深度を震源断面図に示すことで,どのプレートのどの位置で地震が起きたか,が判るように掲載してきた.
ただし,これまでの断面図では,海洋プレートが海溝に沿い同心円状屈曲して沈み込むと仮定し,どの海洋プレート沈み込み境界についても相互に比較できるように,海溝における同心円の半径と中心位置を一定とした枠組みを採用してきた(速報2:図2).
海洋プレートが沈み込んだスラブは, 傾斜が30°になるまで同心円状屈曲するとして震源断面図を作図してきたが,スラブ傾斜が約30°なのは日本海溝から沈み込む日本海溝スラブのみである.千島海溝スラブや伊豆海溝スラブ・琉球海溝スラブは30°以上傾斜しており,小笠原海溝スラブは90°と直立している.
今後,沈み込む海洋プレートにどのような応力が働いているかを詳細に解析するため,同心円状屈曲半径と中心位置を,海溝に沿う小円区毎に個別設定した震源断面図を使用する.
2.スラブ境界線の算出
海洋底がスラブとして,海溝に沿い地球深部まで沈み込んでいる様子を示す最も直接的な証拠は,和達清夫が発見した深発地震面の存在である(Wadati,1935:図75).気象庁から公表されている1994年以降のCMT震源分布が,各小円区のスラブ上面と適合するように,同心円状屈曲半径と傾斜を算出した.さらに,海洋プレートの海溝に沿う沈み込みについては,スラブ上面は人工地震学的に求められた海洋プレートのモホ面(例えば,日野ほか,2011;吉井,1979;など)の深度より少し浅い所を通過するように,同心円状屈曲中心の海溝からの距離を調整した.
改訂した断面図に1994年以降のCMT震源を表示すると,良く適合していることが分かる(図76).断面図C(伊豆海溝・小笠原海溝・Mariana海溝)ではスラブの傾斜が,日本海溝に沿う緩い傾斜からほぼ直立する小笠原海溝へと変化する断面を合わせて作図しているので,震源が幅広く広がっている.
3.モホ面とプレートダイナミクス
地震は地下の岩石がその破壊強度よりも強い応力を受け,破壊する際に発する振動である.地下の岩石の強度は,岩石の鉱物組成によって支配される.地球は地震波探査によって地表から上部地殻・下部地殻・マントルに区分されている.それらを代表する構成鉱物は,上部地殻が石英,下部地殻が長石,マントルがカンラン石である.これらの鉱物は深度とともに上昇する温度によって次第に強度を減じ,溶融する.石英は磁器の上薬として使用され,長石は陶器の材料であり,カンラン石は耐火煉瓦に使用されている.従って,地下深部を構成する鉱物ほど溶融しにくく,破壊強度が大きい.
しかし,地下の地震波速度がコンラッド面やモホ面を境界に急変することから,地震波速度不連続面で,これらの異なる岩石が接していると考えられている.同じ温度の境界面であっても,そこで接する下部地殻の岩石はマントルの岩石よりも破壊強度が小さく,同じ応力が働いた場合には破壊しやすい.プレートの力学を扱うプレートダイナミクスの解析に,モホ面は重要な役割を担っていることから,モホ面も震源断面図に記入し,今後の解析に使用することにする(図77右の黄緑色線).この震源断面図に記入したモホ面の人工地震探査位置を結び黄緑色線で震源地図に示す(図77左).地形断面図の側線位置も赤色線で示す.
この図に,東日本巨大地震の際の地殻変動から算出された測地断層面および東日本巨大地震の本震および同日余震の地震断層面M・N・S・E(速報33:図73)も示した.本震の地震断層面は最上小円断面図の同心円状屈曲するスラブ上面上に完全に載っている.測地断層面はスラブ上面よりも少し上で,島弧側のモホ面の東端と交差している.スラブ上面の下に並行しているのが沈み込んでいる海洋底のモホ面である.襟裳小円と鹿島小円の断面図では,測地断層面が同心円状屈曲するスラブ上面に載っている.同日余震NとSはスラブ最上部で起こっている.同日余震Eは海洋底モホ面よりずっと深い所で起こっている.
引用文献
Wadati, K. (1935) On the activity of deep-focus earthquakes in the Japan Islands and neighborhoods. Geohysical Magazine, 8, 305-325.
日野亮太・鈴木健介・伊藤喜宏・金田義行(2011)東北地方太平洋沖地震の前震・本震・余震の分布.科学,81(10),1036-1043.
吉井敏剋(1979)日本の地殻構造,東京大学出版会,121p.