月刊地震予報99)海溝外太平洋スラブ地震・八丈島連発地震・韓半島稀発地震・関東平野丹沢スラブ連発地震・台湾のCMT解・2017年12月の月刊地震予報

1.2017年11月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2017年11月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で11個0.179月分,千島海溝域で2個0.041月分,日本海溝域で4個0.379月分,伊豆・小笠原海溝域で4個0.614月分,南海・琉球海溝域で1個0.028月分であった(2017年11月日本全図月別).
2017年11月の最大地震は11月13日の日本海溝の海溝外M6.0で,M6以上の地震はこの他に11月16日の八丈島M6.0がある.韓半島では稀発地震,関東平野では丹沢スラブで連発地震があった.
今年に入ってからのCMT解は171個で面積比が0.170と1割代に留まっている(2017年11月日本全図年別).

2.海溝外太平洋スラブの東誘導震源域地震M6.0

 2017年11月13日7時24分M6.0to深度56(スラブ深度+50)kmが日本海溝外の東誘導震源域Eind(月刊地震予報98の略称Eafを変更)であった.東日本大震災前にはEind震源域で,CMT解が6個しかなかったが,大震災後323個に急増している.大震災により総地震断層面積も急増したが,地震断層面積の対数移動平均曲線(logArea)が2016年まで直線的に減少しており,等比級数的に減少したことが分かる(図252).

図252.東誘導震源域Eind連発地震のCMT主応力軸方位.
 左図:震央地図,中:海溝距離断面図,右上:縦断面図,右中:時系列図(右端数字:年数),右中図左端(logArea):総地震断層面積の169.8日移動平均の対数曲線で彩色は発震機構型による線形内部配分,右下:主応力軸方位図.

 しかし,2017年9月3日18時01分M4.7-te深度50(+42)km(月刊地震予報96)以後,2017年10月6日16時58分M6.3深度57(+51)km(月刊地震予報98),そして本M6.0とM6.0以上のCMT解が3個連発している(図253).M6.0以上のCMT解は大震災前に2005年11月15日6時38分M7.2toのみであったが,大震災後に15個に急増した.その内の12個が2013年までで,2014年から2016年には起こっておらず,残りの3個が今回起こった.2017年9月以降に起こったM6.0以上の地震の中で,2017年10月6日M6.3以外の震央は,大震災本震直後の最大地震20110311M7.5や大震災前唯一の20051115M7.2とほぼ一致している.

図253.2017年9月から11月の東誘導震源域EindのCMT主応力軸方位.
 左図:震央地図,中:最上小円区海溝距離断面図,右上:縦断面図,右中:時系列図(右端数字:2017年の月数),右中図左端(logArea:総地震断層面積の移動平均の対数曲線),右下:主応力軸方位図.

東誘導震源区の地震は太平洋プレートが日本海溝に沿って沈込む際に同心円状屈曲し,プレート表層が伸長するために起こる正断層型地震であり,引張T軸方位は西北西のプレート相対運動(図252右下の主応力軸方位図中央付近の紫色折れ線)と一致している.このような機構で起こる総地震断層面積は日本海溝を通過して太平洋スラブになる太平洋プレートの面積に比例するであろう.2017年9月から11月までの最上小円区への太平洋プレート沈込面積に対する東誘導震源域の総地震断層面積の比は0.51で,大震災前の0.04の12倍以上であり,大震災前に太平洋スラブ沈込停止状態であったことを示している.東日本大震災によって沈込障害が除去され,沈込再開によってこれまでの停止分を取戻す勢であった東誘導地震も,2016年までにその勢を失った後に今回の活動が起こっている.
この活性化に関連する地震として,2016年1月2日13時22分M5.7P681(+77)kmの下部マントル地震(速報76)と2017年7月13日4時48分M6.3-np603(+92)kmの平面化スラブ震源域VladE地震がある(月刊地震予報94).
沈込阻止のない太平洋スラブ沈込は観測されておらず,未知の状態にあるが,2017年から開始された活性化が,定常的な太平洋スラブ沈込によるものか,昭和三陸地震のような海溝外巨大地震の前兆であるか,2009年4月に開始された太平洋スラブの下部マントルへの崩落(速報69)に関係しているのか,現時点で予想することは困難であり,今後の動静が注目される.

3.八丈島連発地震

 伊豆小円北区の八丈島南東沖で2017年11月16日18時43分M6.0p46(+2)kmが太平洋スラブ上面で起った(図254).本地震前に八丈島東方沖の伊豆海溝付近の島弧地殻上部で11月9日16時42分M5.9p10(-9)kmと11月10日3時45分M5.2p11(-9)kmが起き,本地震後に八丈島南方沖の島弧マントルで11月18日18時00分にM4.8t30(-93)kmが起こっている.これらの規模はM4.8~M6.0で平均M5.7である.10日以内に八丈島付近の島弧地殻内・太平洋スラブそして島弧マントル内の地震が4個起こったことは珍しい.最大地震の太平洋スラブ上面M6.0pの発震機構(P292+29T61+48N186+27)を基準に応力場極性区分(月刊地震予報87)を比較すると,逆応力場極性のPexT・TPexNであり,応力場はスラブ上面と島弧マントルの間で逆転している(図254).

図254.2017年11月の八丈島連発地震のCMT主応力軸方位(上)・応力場極性区分偏角(下).
 左図:震央地図,中:伊豆小円区海溝距離断面図,右上:縦断面図,右下:時系列図(右端数字:2017年11月の日数),右上図下左端(Benioff:積算地震断層面積のベニオフ曲線),右下図左端(Stress Polarity Π:最大地震2017年11月16日M6.0基準の応力場極性区分偏角).

スラブ上面から島弧マントル・地殻にかけての地震は,2015年5月3日から6月3日に伊豆小円南北区境界付近の須美寿島沖でも起こっている(月刊地震予報).規模はM4.5~M6.3で平均M5.9と今回と類似している.この期間末の2015年5月30日と6月3日に太平洋スラブで深度660km以上の下部マントル上面以深の地震が起こっており(速報68速報69),今後の地震活動に警戒が必要である.

4.韓半島稀発地震

 2017年11月15日14時29分韓半島東縁でM5.6p深度11kmが起こった(図255).CMTの記録が全くなかったこの震源域JpsKで2016年7月5日M4.9-nt深度37kmと2016年9月12日M5.8-nt深度36km・M5.2nt深度40kmが起こり希発地震域として注目された(月刊地震予報82).この震源域に最も近いCMT解は韓半島東方沖の2004年5月29日M5.1+pr深度43kmのみである.

図255.韓半島稀発地震のCMT主応力軸方位.
 左図:震央地図,中:南海小円区海溝距離断面図,右上:縦断面図,右中:時系列図(右端数字:年数,左端のBenioff:積算地震断層面積のベニオフ曲線で彩色は発震機構型による線形内部配分),右下:主応力軸方位図.

 これまでの地震の深度が36~43kmと大陸下部地殻・マントル深度であったのに対し,今回の深度は11kmと上部地殻深度である.韓半島は地震の起きない大陸地殻で,韓半島の東縁に沿って日本海が拡大した1500万年前に局部的に海水に覆われた記録が存在するのみであった.しかし,2016年7月に開始された地震活動が1年以上後に再開し,その深度も上部地殻に及んでいることから,日本海拡大に相当する大変動に進展することも考えられる.

5.関東平野の丹沢スラブ連発地震

 CMT解の報告はないが,初動解が2017年11月4日15時51分M3.2p42(-4)kmから11月10日0時37分M3.7p49(-2)kmまで丹沢スラブ五霞・下妻・下館震源密集域(特報7)で5個の連発地震が起こった(図256).

図256.2017年11月の丹沢スラブ連発地震のIS主応力軸方位.
左図:震央地図,中:石堂小円区海溝距離断面図,右上:縦断面図,右中:時系列図(右端数字:2017年11月の日数,左端のBenioff:積算地震断層面積のベニオフ曲線),右下:主応力軸方位図.

 規模はM3.2~M4.0で,平均規模がM3.7である.同震源密集域では20日後の2017年11月30日22時02分M3.9p42(-5)kmも起こっている.最初の発震機構方位(P145+32T292+53N45+16)を基準にした主応力場極性偏角(月刊地震予報87)は,いずれも基準極性区分orgの12.2~29.3と変わらなかった.震源は石堂小円区の相模スラブ上面やや上に位置している.
この震源密集域では2017年7月から8月にも連発地震が起きている(月刊地震予報95).

6.台湾のCMT解

 本月刊地震予報に使用している気象庁のCMT解は,台湾の地震計記録も含めた一元化処理によって算出していると言われている.しかし,2017年11月下旬に台湾を訪問した際に台湾西部の地震M5.2が報道されていたが,CMT解として掲載されなかった(2017年11月日本全図月別).台湾小円区の最小規模最新CMT解は2015年5月26日M4.5-tr0(-10)kmである.

7.2017年12月の月刊地震予報

2017年11月の日本全域CMT個数は12個と先月12個と変わらず,地震断層面積のプレート運動面積に対する比は先月の0.193から0.170に減少している.今年に入ってからのCMT解は171個で比が0.146の1割に留まり,1997年の最小比0.107と2014年の次席比0.280の間に位置する静穏さである.嵐の前の静けさは続いている.
2017年9月から日本海溝の太平洋スラブで海溝外地震が連発している.この連発は,2016年に東日本大震災によって沈込障害を解除された太平洋スラブの沈込再開活動が終息した後に起こっている.標準となるべき沈込障害のない太平洋スラブの沈込についての観測がないため,今後の地震活動については,現段階で困難であるが,2017年の連発地震と太平洋スラブ深部の地震活動との関連が予想されることから,太平洋スラブ沈込様相が変化しており,警戒が必要なことは確かである.
八丈島の連発地震は太平洋スラブ様相の変化や太平洋スラブの下部マントルへの崩落との関連も考慮する必要がある.韓半島の地震は,日本列島と韓半島を含む広域応力場がこれまで観測されたことのない変動を蒙っていることを示している.関東平野の連発地震もこれらの変動と関係しているか注目される.
気象庁の発震機構解の公開は,地震警戒宣言発令から解除に充分使える段階に到達しているが(月刊地震予報97),西南日本の地震活動と密接な関係にある台湾で起こったM5.2の地震について発震機構解が公表されていない.的確な地震予報確立のために早急な改善が望まれる.