月刊地震予報162)千島海溝域のM6.1,2023年3月の月刊地震予報
2023年3月31日 発行
1.2023年2月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解によると,2023年2月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で8個0.117月分,千島海溝域で4個0.218月分,日本海溝域で1個0.010月分,伊豆・小笠原海溝域2個0.249月分,南海・琉球海溝域で1個0.012月分であった(2023年2月日本全図月別).
2023年2月の総地震断層面積規模はΣM6.3で,最大地震は,2023年2月25日の千島海溝域襟裳小円北区深度61㎞のM6.1である.
2022年1月から2023年2月までの14ヶ月間のCMT解は194個で,その平均規模はM5.9であった(図495).2022年(月刊地震予報160,)に続く2ヶ月であるが,日本海溝域 B では新幹線が脱線した東北前弧沖震源帯阿武隈震源区ofAcAbkの2022年最大CMT解M7.4P(月刊地震予報151)以降,静穏化し,Plate運動面積に対する積算地震断層面積比は1.017にまで低下し,この1年の間にM7.4級のPlate運動歪が既に集積している.
南海・琉球海溝域RykNnk D は,2022年9月18日琉球海溝震源帯台湾震源区TrPhTwのM7.3によって歪解放周期を更新して海溝域解放期に入ったが(月刊地震予報159),2023年に入ってから活動が無い.
伊豆・小笠原海溝域OgsIzu C のPlate運動面積に対する累積地震断層面積比は0.249と静穏化しているが,今月2023年2月5日と28日に伊豆海溝震源伊豆震源区TrPcIでM5.6PとM5.3+pがあり,活発化の前兆とも考えられるので警戒が必要である.伊豆海溝域は,琉球海溝域と同調して活動するので(月刊地震予報159),琉球海溝域についても警戒が必要である.
千島海溝域Chishima A は2020年3月25日の千島海溝震源帯Kamchatka震源区TrCKamcのM7.5(月刊地震予報127)以降静穏化していたが,今月に最大地震M6.1が起ったので,今後の警戒が必要である.
2.2023年2月の千島海溝域のM6.1
2023年2月25日22時27分に襟裳小円北区の深度61㎞(Slab深度+37km)で,千島平面化震源帯釧路震源区uBdCKsrのM6.1Pが起こった.最大震度は北海道東部の5弱で,東北日本太平洋岸に沿って関東まで震度1以上であった(図496).
千島平面化震源帯uBdCでは,千島海溝に沿って同心円状屈曲して沈込んだ後に海洋底Slab深部が平面化する際に伸長して集積した歪が地震として解放される.
千島平面化震源帯uBdCには181個の観測震源があり,その最大は,1995年12月20日に今回と同じ釧路震源区uBdCKsr深度10㎞のM7.4である.
CMT解には破壊開始点に対応する初動震源と共に主破壊重心に対応するCMT震源が付いている.CMT解の発震機構には主破壊についての歪軸方位と非双偶力成分比がある.気象庁はCMT解とは別に初動発震機構IM解も報告している.今回の地震についてはCMT解と共にIM解もある.破壊開始点の初動震源の深度は,CMT震源より深い63㎞(Slab深度+40㎞)で,規模も0.1小さくM6.0tで,発震機構は正断層型で屈曲Slab平面化による伸長歪に対応している.しかし,CMT解の発震機構は圧縮過剰の逆断層型Pであり(2023年2月東北日本月別),圧縮P軸傾斜方位が海溝側を向くSlab上面に沿う剪断歪で初動発震機構と異なっている.今回の地震は,引張歪が集積した深度の大きなIM震源から破壊を開始し,Slab上面に沿う剪断歪の集積しているSlab浅部に伸展したのであろう.
千島海溝域のここ14ヶ月のCMT解の地震断層面積移動平均曲線AreaM(図495右下図の右端)の中で2023年2月の活動は2022年の8月と11月の活発化程度である.今回の活発化によって活動期に入ることも考えられるので警戒が必要である.
3.2023年3月の月刊地震予報
千島海溝域では長い静穏期が続いており,歪集積が巨大地震として開放されることが心配されているが,今回の最大地震M6.1がその前兆とも考えられるので警戒が必要である.
伊豆海溝域ではM5.6とM5.3があり,活発化も心配される.伊豆海溝域とPhilippine海Plateを共有する琉球海溝域・南海Trough域・相模Trough域の警戒も必要である.