月刊地震予報176)2024年4月の台湾花蓮M7.4・M6.1・M6.1・M6.8,南海M6.3,東北日本M6.1,小笠原M6.8・M6.6,2024年5月の月刊地震予報
2024年5月18日 発行
1.2024年4月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解によると,2024年4月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で37 個3.643月分,千島海溝域で2個0.008月分,日本海溝域で5個0.881月分,伊豆・小笠原海溝域で3個4.697月分,南海・琉球海溝域で27個で7.525月分であった(2024年4月日本全図月別).
2024年4月の総地震断層面積規模はΣM7.6で,最大地震は,2024年4月3日花蓮小円区深度31㎞のM7.4Poで,M6.0以上の地震は最大地震の他に,4月4日最上小円区深度41㎞のM6.1p,4月5日Mariana小円区深度220㎞のM6.8+p,4月17日南海小円区深度35㎞のM6.3Tr,4月23日台湾小円区深度12㎞・20㎞のM6.1Po・M6.1Po,4月27日伊豆小円南区深度525㎞のM6.6-npの7個であった.
2024年4月までの日本全域2年間のCMT解は398個で,その総地震断層面積規模はΣM8.0,Plate運動面積規模はM8.3で,その比は0.501である(図562の中図上).Benioff曲線(図562右図上左端Total/4)には琉球海溝域の歪解放周期更新の2022年9月M7.0(月刊地震予報157)と2024年1月1日能登半島M7.5(月刊地震予報173)の2つ目の大きな段に続き,2024年4月3日の台湾海溝震源帯のM7.4が3つ目の段として加わった.台湾の段に伊豆海溝域C・日本海溝域Bも呼応している.千島海溝域AのareaM曲線(図562右下図)も呼応しているが,規模が小さくBenioff曲線に現れていない.千島海溝域では,2023年12月の段から4ヶ月以上静穏期が続いており,次の段に警戒が必要である(月刊地震予報175).
2.2024年4月3日台湾花蓮小円区M7.4と4月17日南海震源区M6.3Tr
2024年4月に琉球海溝域では16個のCMT解あり,その中に花蓮のM7.4Poと南海のM6.3Trが含まれている.これらの震度分布と琉球海溝域の海底地形図を図563に示す.
2024年4月3日花蓮深度31㎞のM7.4Poの震度分布(図563左上図)は,震源から東方の宮古島までで,震度4が最大であった.
2024年4月17日南海深度35㎞のM6.3Trの震度分布(図563右上図)は,最大震度が6弱で,九州から紀伊半島までを震度3以上でおおい,伊豆から飛騨までも震度1としているが,2024年1月1日M7.5のあった能登半島(月刊地震予報173)にまで及んでいない.また,花蓮M7.4の震度分布と重複しないことから,西南日本の島弧地殻・上部Mantleが九州南縁と伊勢湾・琵琶湖・敦賀湾で断絶していることが示唆される.
2024年4月23日台湾深度20㎞のM6.1Poの震度分布(図563左下図)は,八重山諸島を最大震度2とした.
琉球海溝は,九州沖からほぼ直線的に南西に向かうが,八重山小円区で北西方に屈曲し,花蓮小円区で台湾に上陸し,台湾小円区ではPlate境界が脊梁山脈と東岸の海岸山脈の間を通過する.台湾以南では,沈込方位を逆転させ,西側の南華海底がPhilippine海Plateの下に沈込む.この逆転は,Philippineから北方に続くPhilippine海南西縁の水深1000m以浅の高まりが沈込めず,台湾に衝突しているからであろう(図563右下図).
台湾東岸には沈込めないPhilippine海底が衝突して短冊状に切断され,折重なって台湾を海面上に押上げていると考えられている.この折重なりの程度は次第に減じ,宮古島より北方では一連のSlabとして琉球海溝から沈込んでいると予想される.
1)完全に重複している台湾・花蓮小円区,2)重複程度を次第に減じる八重山小円区西半部のSlab上面,そして3)衝突・沈込前のPhilippine海底の3つの平面を考える.一連の平面であった1)2)3)は,1)の台湾・花蓮小円区の重複に従い,花蓮を頂点とする三角錐になる.平面上の直線であった境界線は,衝突・沈込の進行とともに花蓮を頂とする三角錘として成長し,2)重複度を次第に減じるSlabの沈込境界線は時計回りに屈曲する(図564:新妻,2010).屈曲に伴う背弧側に位置する沖縄Troughが2000m等水深線(赤色)以深になっている(図563右下図).また,前弧側では2000m等深線が南東に張り出し琉球海溝に沿う急崖を形成しており,沖縄Troughの形態と対応している.
2024年1月1日能登半島地震M7.5が丹沢・伊豆衝突によって中央構造線を北側に大屈曲させているPhilippine海Plate運動により発生したため(月刊地震予報173),Philippine海Plateに関係する地域の誘発地震活動への警戒が呼び掛けられたが,2024年4月になりM6.0以上の地震が7個発生した.その最大が4月3日台湾M7.4である.台湾では4月23日にもM6.1が2個発生しているが,その間に4月17日豊後水道でM6.3があった.台湾の地震と豊後の地震では震度分布が重複せず隔離している(図563)ことから,島弧地殻・Mantleが歪を伝達したとは考えらず,衝突・沈込んでいるPhilippine海Plateが歪を伝達したのであろう.
花蓮小円区・台湾小円区境界付近の衝突している海岸山脈の深度31㎞で発生した2024年4月3日M7.4Poの発震機構は圧縮過剰T/P=0.44逆断層P型で,その主圧縮P歪軸傾斜方位はPlate運動PH-SC方位と逆で(図565中下図・右下図),摩擦によって固着していた短冊状既存断層面に沿う剪断歪が解放されたことを示している.
台湾小円区の海岸山脈深度20㎞の2024年4月23日M6.1Poの発震機構も圧縮過剰T/P=0.5逆断層P型であるが,その主圧縮P歪軸傾斜方位はPlate運動方位で,短冊状既存断層の再活動の最大CMTM7.4により誘発された浅所の圧縮P歪増大が座屈破壊によって解放されたこと示している.
南海小円区深度35㎞の西南日本弧の大黒柱である島弧上部MantleとSlab上面境界で発生した2024年4月17日M6.3Trは,西南日本背弧Manlte震源帯bAmPhに属する.発震機構は引張過剰T/P=2.28正断層T型で,主引張T歪軸傾斜はSlab傾斜方位のSlab沈込による伸長破壊で歪を解放している.この伸長T歪は,2024年4月3日花蓮M7.4PoによるPhilippine海Plsteの沈込に誘導されたものであろう.また,西南日本島弧地殻を通過する中央構造線の大屈曲を進行させた2024年1月1日M7.4の能登半島地震(月刊地震予報173)とも関連しているであろう.
1700年以降の琉球海溝域の地震について「地震断層長円」表示(月刊地震予報173)で検討すると(図566),1900年から1930年までのBenioff曲線(図566右中の時系列図左縁)の左下端から右上に伸びるPlate運動累積面積直線に並行して総地震断層面積を増大させ,Plate運動歪をほぼ全て地震で解放している.縦断面図時系列図では,大きな円が左の花蓮小円区から右の九州小円区までの琉球海溝全域に並んでいる.しかし,1930年以降にはBenioff曲線の傾斜は3分の1に減小している.1900年以前は,地震記録の不完全さもあるが,更にその傾斜は小さい.1930年以降,M8級地震の発生もなく,最大CMT解も1999年M7.6集集地震である.
Plate運動歪を全て地震によって解放すれば,Plate運動面積と総地震断層面積は等しくなる.琉球海溝全域で台湾のようにSlabが沈込めず衝突していれば,全てのPlate運動歪は地震として開放されるであろう.Plate運動面積と総地震断層面積がほぼ等しい1909年11月M7.6から1920年6月M8.3までの異常活動期は,Slab沈込停止を示唆する.1930年以降は琉球海溝域でSlab沈込が再開し,Slabの平面化や背弧海盆拡大によってPlate運動歪の3分の2が解放され,地震による解放が3分の1に低下したのであろう.
Slab沈込が停止する原因には,沈込んだSlab面積の不足がある.輪郭が海洋側に凸に屈曲した海溝軸から沈込むSlabは,沈込に従ってSlab面積が不足する.このSlab不足分はSlabが裂けるか,隣接する海溝域から補充されなければ,沈込めなくなる.
輪郭が島弧側に凸に屈曲した海溝軸から沈込むSlabはTable Clothの襞の様に面積過剰になる.琉球海溝と南海Troughの接合部の海溝軸輪郭が島弧側に凸に屈曲しているのでSlab面積過剰になる(図563右下図).
1909年からの異常活動期は.海洋側に凸の琉球海溝におけるSlab面積不足による沈込停止が原因と予想される.Plate運動速度は年間8cm程度であるので(図563右下図),1700年から現在までの324年間でも26mに過ぎないことから,余剰Slab補充との均衡が崩れたのであろう.余剰Slab補充との均衡が崩れれば,M8.0以上の巨大地震来襲への警戒も必要である.
3.2024年4月4日東北日本最上小円区M6.1p
2024年4月4日最上小円区深度41㎞で M6.1pがあった.本地震は,東北日本弧の大黒柱である上部Mantle上端が,太平洋Slabを同心円状屈曲させ沈込ませているPlate境界の東北前弧沖震源帯ofAcJに属している.
本地震による震度分布は関東から東北日本そして北海道の太平洋岸に及び,最大は震度4であり,日本海溝から千島海溝に沈込むSlabに沿って震動が伝達していることを示している.
震源は太平洋Slab上面に位置し,発震機構は逆断層p型で主圧縮P歪軸方位はPlate運動PC-NAのEuler緯線に沿っている(図568左図)が歪軸傾斜方位は東南東とSlab上面傾斜と逆で(図568右下主歪軸傾斜方位図の下端赤○印),Slab上面が摩擦で固着している間に累積した剪断歪が解放されたことを示している.
1600年以降の東北前弧沖震源帯ofAcJの最大地震は1763年宝暦M7.9であり,Benioff曲線に大きな段を与えて(図569),その後の静穏期を経て1897年M7.4以降ほぼ一定の傾斜で現在に至っている.
最大CMTは2022年3月16日M7.3Pであり,以後2年程静穏化し,今回2024年4月4日M6.1pが発生したが,1897年以降の一連の活動とみなすことができる.
4.2024年4月5日Mariana小円区M6.8+pと4月27日伊豆小円南区M6.6-np
2024年4月5日20時03分Mariana小円区深度220㎞ M6.8+pと伊豆小円南区深度525㎞のM6.6-npがあった.Mariana小円区M6.8+pは遙か南方であるので(図562),震度観測は父島のみの震度2であった(図567右上).伊豆小円南区M6.6の震度分布は小笠原諸島の最大震度3と東北日本太平洋岸が震度2を記録した(図567右下).小笠原海溝から沈込む太平洋Slabが日本海溝域にも連続していることを示している.
2024年4月5日Mariana小円区のM6.8+pは,同心円状屈曲Slabの弧和達震源帯WdtiPcAcに属し,発震機構は逆断層-p型でT/P=1.92の引張過剰である.主引張歪軸傾斜方位は132+61と南東傾斜でEuler緯線に沿い(図570の表示歪軸は圧縮P軸231+5),海溝傾斜と逆方位に傾斜している.震源は太平洋Slab下面付近に位置し,海溝に沿うSlab沈込によって行き場を失った太平洋底随行Mantleの同心円状屈曲の中心に向かう加速流によるSlab下面の引張歪が累積して解放されたと考えられる.
2024年4月27日伊豆小円南区のM6.6-npは,γ和達震源帯WdtiPcGに属し,発震機構は圧縮横擦断層-np型であり,主圧縮P軸方位はEuler緯線に沿っており,深度550㎞のMantle相転移面に沿う. 行き場を失った随行Mantleが背弧側に流出し深度550㎞のMantle相転移面に沿って押上げられた沈込Slab内で起こっている.
1922年以降の小笠原海溝域観測地震(図571)の総地震断層面積のPlate運動面積に対する比は0.428で,Benioff曲線(図571右中の時系列図左端)はPlate運動面積積算直線の半分の傾斜で増大する中に1955年5月30日M7.5 ・1984年3月6日M7.6・2000年3月28日M7.6T・2015年5月30日M7.9の段が認められる.今回のM6.8・M6.6は,最後の緩傾斜の静穏期の中の定常的活動であろう.
5.2024年5月の月刊地震予報
千島海溝域では,2023年12月の段から4ヶ月以上静穏期が続いており,次活動期のM8級巨大地震に警戒が必要である(月刊地震予報175).
日本列島の大黒柱が破損した2024年1月1日能登半島地震M7.5(月刊地震予報173)の影響が出てくることが予想される.関東・東北日本・西南日本域の直下型地震に警戒が必要である.
琉球海溝域では,歪解放周期(月刊地震予報139)が2022年9月18日琉球海溝震源帯M7.3によって更新された第3周期(月刊地震予報157)の海溝解放期において2024年4月3日M7.4が起こった.琉球海溝域の花蓮・台湾小円区2024年4月3日M7.4の主歪軸方位は,4月27日M5.4までのCMT解22個において押引逆方位が確認されておらず,M7.4の歪が完全に解放されていないことから,M7級の地震に警戒が必要である.歴史被害地震記録によると,琉球海溝全域が台湾のような衝突境界となった1900年から1930年代にM8級地震があったことから,M8級巨大地震への警戒も必要である.
引用文献
新妻信明(2010)プレートダイナミクス入門,共立出版,276p.