速報66)琉球域と九十九里スラブ震源域の連発地震・2015年4月の地震予報

1.2015年3月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2015年3月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で18個0.072月分,千島海溝域で1個0.007月分,日本海溝域で11個0.152月分,伊豆・小笠原海溝域で3個0.064月分,南海・琉球海溝域で3個0.073月分であった(2015年3月日本全図月別).
 全国の総地震断層面積比が0.072月分とプレート運動面積の10分の1以下に戻った.昨年4月から今月までの過去1年間の総地震断層面積比も0.356年分であり,1997年の0.107年分・2014年の0.280年分・2001年の0.368年分に次いで少なく静穏であった.M6.0以上の地震はなかった.

2.2015年3月の連発地震

同一震源域の発震機構解が連続する場合がある.このように連続した発震機構解を与える地震を連発地震と呼ぶことにする.連発地震は定常的な発震機構解検討において捉え易く,大地震の前震として起ることも多い.東日本大震災の引き金を引いた飛騨の地震(速報55)や東日本大震災の前震(特報4)なども連発地震である.連発地震の監視は地震予報において重要であり,これまで検討してきたM6.0以上の地震と共に検討する.
1) 2015年3月のCMT発震機構解の連発地震
 ①3月20日八重山沖M4.5Pr・3月23日台湾東方沖M5.6po:フィリピン海プレート沈込境界域で起こった(2015年3月日本全図月別).この沈込境界では2月14日台湾東方沖M6.2も起こっており,フィリピン海プレート運動の活発化を示している(2015年日本全図年別).
 ②3月27日阿武隈沖M5.3t・M5.0t:最上小円区・襟裳小円北区境界線上の阿武隈沖マントル上部の深度24km.この連発地震の9時間半前に,同じ小円区境界線上の日本海溝外でM5.3-toが起こっている(2015年3月東日本月別).
2) 初動発震機構解(精査後)の連発地震
 ①3月5日浦河沖M3.6p・3月6日M4.9nt:襟裳小円北区・南区境界線部の太平洋スラブと日高山地マントルとの接触部(2015年3月東北日本月別).
 ②3月14日M3.6pr・M3.4p・M3.3tそして3月16日M3.3p・3月17日M3.8nt・3月18日M3.6t・3月19日M3.2pr・3月20日M3.8p・M3.4tおよび3月31日M3.3p・M3.9 p: 利根川沿いの九十九里スラブと太平洋スラブとの接触部(2015年3月東北日本月別).これら一連の連発地震活動の中の3月24日M4.6+pについてはCMT解も報告されている(2015年3月東日本月別).
 ③3月14日飛騨M3.2p・M3.3p:白山付近の深度10kmの上部地殻(2015年3月西南日本月別).
 ④3月19日鹿島小円区の太平洋スラブ内M3.7nt・M4.3tr:九十九里海岸の深度93kmと飛騨山地神岡の深度255km(2015年3月東北日本月別

3.九十九里スラブ震源域の地震活動

 利根川沿いには,フィリピン海プレートとして50万年前まで沈み込んでいた九十九里スラブが存在し,関東地方の地震活動の大部分を起こしている.また,九十九里スラブは太平洋スラブと接触しており,接触した太平洋スラブ内にも地震を起こしている.2015年3月の連発地震活動を起こした九十九里スラブ震源域の地震活動は,CMT解と初動発震機構解(精査後)で見ると,東日本大震災後に活発化している(図148・図149).地震個数と総地震断層面積の鹿島小円南区の太平洋プレート・北米プレート相対運動面積に対する比は,東日本大震災前から震災後では,CMTが35個0.074(16.5年間)から174個0.598(4年),初動が568個0.084(13.4年間)から572個0.278(4年)へと増加している.CMTの個数が5倍・面積比が8倍になっているのに対し,初動の個数が変わっていないのは,震災後の期間が3分の1以下になっているからであり,地震断層面積比は3倍以上に増加している.この増加は,太平洋スラブが東日本大震災の際に50m急激に沈み込んだためであろう.

図148.鹿島小円北区における九十九里スラブ震源域のCMT発震機構解.  震央分布(左)・断面図(中):全期間(上段)・東日本大震災以後(中段)・東日本大震災以前(下段).震央分布図(左)の「T」は,房総沖沈込プレート三重会合点.  鹿島小円北区の縦断面図(右上)・時系列図(右中)・発震機構方位図(右下).発震機構方位図(右下)中央の黒色横実線が太平洋スラブ傾斜方位(TrDip)で,紫色実線はプレート相対運動方位(Sub).

図148.鹿島小円北区における九十九里スラブ震源域のCMT発震機構解.
 震央分布(左)・断面図(中):全期間(上段)・東日本大震災以後(中段)・東日本大震災以前(下段).震央分布図(左)の「T」は,房総沖沈込プレート三重会合点.
鹿島小円北区の縦断面図(右上)・時系列図(右中)・発震機構方位図(右下).発震機構方位図(右下)中央の黒色横実線が太平洋スラブ傾斜方位(TrDip)で,紫色実線はプレート相対運動方位(Sub).


図149.鹿島小円北区における九十九里スラブ震源域の初動発震機構解(精査後).  震央分布(左)・断面図(中):全期間(上段)・東日本大震災以後(中段)・東日本大震災以前(下段).震央分布図(左)の「T」は,房総沖沈込プレート三重会合点.  鹿島小円北区の縦断面図(右上)・時系列図(右中)・発震機構方位図(右下).発震機構方位図(右下)中央の黒色横実線が太平洋スラブ傾斜方位(TrDip)で,紫色実線はプレート相対運動方位(Sub).

図149.鹿島小円北区における九十九里スラブ震源域の初動発震機構解(精査後).
 震央分布(左)・断面図(中):全期間(上段)・東日本大震災以後(中段)・東日本大震災以前(下段).震央分布図(左)の「T」は,房総沖沈込プレート三重会合点.
鹿島小円北区の縦断面図(右上)・時系列図(右中)・発震機構方位図(右下).発震機構方位図(右下)中央の黒色横実線が太平洋スラブ傾斜方位(TrDip)で,紫色実線はプレート相対運動方位(Sub).

 九十九里スラブ震源域の地震は,日本海溝から屈曲して沈み込む太平洋スラブの上部から九十九里スラブにかけて広く分布しており,関東地方が太平洋スラブと九十九里スラブの衝突域に在ることを示している.また,その北限は関東地方で利根川沿いにあるが,その東方延長は南東方に向きを変え,房総沖沈込プレート三重会合点の逆三角形(図148の「T」)の左下辺に当たる伊豆弧東縁の延長線に向かう.
 九十九里スラブ震源域の主応力軸方位は,正断層型発震機構の引張T軸(△:黒色・青色・紫色・空色)が北米プレートと太平洋プレートの相対運動方位(図148・図149の発震機構方位図(右下)の紫色線「Sub」)に沿う分布をしているのに対し,逆断層型発震機構の圧縮P軸(○:赤色・桃色・橙色・黄緑色)はスラブ傾斜「TrDip」およびプレート相対運動方位の逆方向を示す発震機構方位図の上下縁付近に分布している.
 フィリピン海プレートの運動が九十九里スラブの北米プレート内における位置関係を変動させ,九十九里スラブと太平洋スラブの衝突状態に影響を与えるため,九十九里スラブ震源域の地震活動は日本列島全域の応力状態を反映する.初動発震機構解では,定位置で同じ発震機構型の地震が断続的に起こっており,時系列図(図149右中図)で縦に連なる点群をなしている.その消長は日本列島全域の応力状態を知る手掛かりを与えているので,今後の地震予報に役立てたい.

4.2015年4月の地震予報:

 日本列島では異常な静穏期が続いているが,激しい地震活動前の静寂期間であることが心配される.
 琉球海溝域で連発地震が起き,フィリピン海プレート運動が活発化していることは確かである.九十九里スラブ震源域でも連発地震が続き,南海トラフの巨大地震・伊豆弧の衝突とともに関東地方の地震活動に波及することが心配される.今後の警戒が必要である.