速報33)震源断層面の算出:もっと大きな津波を起こしたかもしれない東日本大震災

1.地震動を発する断層運動

図69.1917年静岡県中部地震の初動押し引き分布(志田,1929)

震源の周囲に配置した複数の地震計で地震の初動を観測すると,震源から押される区域と震源へ引かれる区域に区分されることが,1917年の静岡県中部地震によって示された(図69:志田,1929).この押し引きの区分は,直交する同じ大きさの偶力DC(Double Couple:双偶力)が震源に働いて発生する震動の特徴であることが明らかにされた(Honda, 1931).また,地下の岩石の断層面に沿う変位が,双偶力による地震動を発生させることが分かり,地震動は地下の岩石の断層面に沿う変位によって発生すると理解されるようになった(松浦,2010など).ここでは,変位によって地震動を発する断層面を「地震断層面」と呼ぶことにする.

2.CMT解の断層面解

図70.東日本巨大地震のCMT解に掲載されている2つの断層面解本震と主応力軸方位.平射図法下半球投影.灰色:震源からの押領域,白色:震源への引き領域.

CMT解には「断層面解1・2」が掲載されている.この断層面解は,剪断破砕によって断層面が形成されるとの仮定に基づき,最大剪断方向と中間主応力N軸方位から算出されている(図70:表11).しかし,いずれの断層面の変位でも同じ震動を発生するので,いずれの断層面で地震が起こったかは判定できない.

表11.CMT解に掲載されている東日本巨大地震の本震と同日余震の2つの断層面解.

地震 断層面解1 断層面解2
走向 傾斜 変位方位 走向 傾斜 変位方位
本震M 24 81 92 193 10 79
同日余震N 23 80 93 187 10 74
同日余震S 20 61 90 200 29 90
同日余震E 22 49 -78 184 43 -103

3.測地学的に求められた地震断層面

物体に切断面を入れ,切断面に沿って変位を与えて生じる変形と,測地学的に求められた地殻変動を比較して,地震断層面が推定されている(松浦,2010など).2011年3月11日の東日本巨大地震については,3月14日に国土地理院から走向202°傾斜18°と,走向201°傾斜15°の北南二つの地震断層面の暫定値が公表された(図71).

図71.東日本巨大地震(M)の本震と同日余震(N・S・E)の2つ震源.×:初動震源,結線の先端:CMT震源,色:発震機構.四角:国土地理院によって求められた地震断層面.

測地学的に算出された地震断層面は,傾斜10°の断層面解2に近かったが,もし,傾斜81°の断層面解1で起こっていれば,地震に伴う海底地形の変形が大きく,はるかに大きな津波に襲われていたことになる.

4.二つの震源

気象庁から公表されているCMT解には,「震源位置」と「セントロイド位置」が掲載されている.「震源位置」は,地震破壊開始時の地震波初動(Initial Shock)を発した「初動震源」の位置を表し,「セントロイド位置」は,主地震動の重心(Centroid)の位置「CMT震源」を表す(表12;図71).「地震発生時刻」は初動を発した時刻で,「セントロイド時刻」は主地震動発生時刻である.

表12.CMT解に掲載されている東日本巨大地震の本震と同日余震の2つの震源

地震 初動震源 CMT震源 時刻差
北緯 東経 深度 北緯 東経 深度
km km
本震M 38 6.2 142 51.6 24 37 48.8 143 2.5 10 73.1
同日余震N 39 50.3 142 46.8 32 39 48.4 142 46.5 21 4.0
同日余震S 36 6.5 141 15.9 43 36 10.0 141 14.1 35 25.0
同日余震E 37 50.2 144 53.6 34 38 5.0 144 54.4 25 19.1

地震波の初動を発する地震断層面形成開始位置の「初動震源」も,地震断層面に沿う変位によって発する主地震動の重心「CMT震源」も,地震断層面上に位置すると考えられる.また,地下の岩石が周囲の応力によって破壊する場合には,中間主応力N軸は破壊面上に位置する.

N軸方位はCMT解で与えられており(図72),初動震源とCMT震源も与えられているので,地震断層面を二つの震源とN軸の載る平面として算出することができる.

図72.東日本巨大地震(M)の本震と同日余震(N・S・E)の中間主応力N軸方位.色:発震機構.四角:国土地理院によって求められた地震断層面.

5.東日本巨大地震と同日余震の地震断層面の算出

東日本巨大地震の初動震源の緯度・経度・深度と,CMT震源の緯度・経度・深度から,CMT震源から初動震源の方位は334°,傾斜21°で,その間の距離は38kmであり,「地震発生時刻」と「セントロイド時刻」の差73.1秒から 震源移動速度は秒速0.53kmと算出される(表13).

表13.「初動震源」と「CMT震源」の2つの震源間の震源移動方位と中間主応力N軸方位から
算出される地震断層面.断層面解:CMT解掲載の2つの断層面解の近い方の番号.

地震 震源移動 N軸 地震断層面
方位 傾斜 距離
km
速度
km/s
方位 傾斜 走向 傾斜 断層
面解
本震M 334 21 38 0.53 204 2 200 28 th 2
同日余震N 7 72 12 2.89 203 3 203 85 nm 1
同日余震S 157 49 11 0.42 20 0 20 59 rv 1
同日余震E 182 18 29 1.50 194 9 161 41 nm 2

図73.東日本巨大地震の地震断層面算出.緑色:算出地震断層面の大円と走向Strike・傾斜Dip,赤色IsCmt:震源移動方位,赤色axN:中間主応力N軸方位.平射図法下半休投影.

CMT解掲載のN軸方位204°傾斜2°と震源移動方位334°傾斜21°の二つの方位を結ぶ大円が地震断層面になる.地震断層面の大円と水平面が交わる方位として定義される走向(Strike)は200°で傾斜(Dip)が28°と算出される(図73).走向は傾斜が右側になる方位で,算出された地震断層面は,走向が南南西で西に28°傾斜している.

ここに算出された地震断層面は,測地学的に求められた地震断層と良く合っている.同日余震について算出された地震断層面は,NとSがCMT解の断層面解1に近く,Eが断層面解2に近い方位である(表13;図74).


図74.東日本巨大地震の本震(M)と同日余震(N・S・E)について算出された地震断層面の走向と傾斜.色:断層型.四角:国土地理院によって求められた地震断層面.

6.地震断層の断層型判定

地震断層面が算出されれば,CMT解に主応力軸方位が与えられているので,地震断層の断層型を判定できる.

地震断層面と圧縮主応力P軸方位から,地震断層面に沿う変位方向を算出できるので,断層型を判定することが可能になる.ここでは,スラブ内地震の解析も念頭に置き,震源の海溝からの距離と深度から算出される見掛の傾斜を補正して,断層型を判定する.断層型には正断層・逆断層・横ずれ断層があるが,ここでは,見掛傾斜面から45°以内の変位方向の場合を横ずれ断層とし,右横ずれ断層をdx(dexitral strike slip fault),左横ずれ断層をsn(sinisitral strike slip fault)とする.正断層と逆断層については,見掛傾斜面に対する地震断層面の傾斜が30°以上の場合,正断層nm(normal fault)と逆断層rv(reverse fault)とし,30°以下の場合に滑動sl(slide)と衝上断層th(thrust)と区分した.

東日本巨大地震はthに区分でき,同日余震Nはnm,同日余震Sはrv,同日余震Eはnmに区分できる(図74).

7.まとめ

気象庁が公表している地震のCMT解には,主応力軸方位とともに初動震源とCMT震源,および2つの断層面解が掲載されている.

直交する2つの偶力である「双偶力(DC)」による地震動は,2つの断層面解のいずれの断層面で変位が起こっても同じ地震動を起こし,地震動の観測のみから地震動を起こした「地震断層面」を特定することはできない.

東日本巨大地震では,2つの断層面解のうちの傾斜の小さな断層面解に近い「地震断層面」が変位して多大な津波被害を起こしたが,傾斜の大きな断層面解で変位すれば,はるかに大きな被害を起こしていたであろう.つまり,東日本巨大地震が傾斜の大きい断層面解1で起こっていれば,M8級であっても今回と同規模の津波を起こしていた可能性がある.

CMT解に掲載されている2つの震源,「初動震源」・「CMT震源」,と中間主応力N軸方位を用いて「地震断層面」の算出法を考案した.この算出法によって求められた東日本巨大地震の「地震断層面」は,測地学的に求められた「地震断層面」と合致している.CMT解は地震発生後,10分程度で得られると言われている.CMT解が得られた段階で2つの断層面解とは独立に「地震断層面」を算出できることは,的確で迅速な津波予報に役立つであろう.

引用文献

Honda,H.(1931) On the initial motion and the types of the seismogapms of the North Idu and the Ito earthquakes. Geophysical Magazine, 4, 185-213.

松浦充宏(2010)変形と破壊.「地球連続力学」,地球惑星科学(新装版),6,5,175-237.

志田 順(1929)「地球及び地殻の剛性並びに地震動に関する研究」回顧.東洋学芸雑誌,45,275-289.