速報37)発震機構表示の変更
2013年2月10日 発行
1.発震機構区分の改訂
本速報では,発震機構を基準面に対する主応力軸方位に基づいて正断層型,逆断層型,横ずれ断層型に区分してきた.正断層型の引張主応力T軸方位と逆断層型の圧縮主応力P軸方位が,海溝軸に直交する場合に「t型」と「p型」とし,海溝軸に並行している場合には「tr型」および「pr型」と区別した.横ずれ断層型では,海溝軸に直交する主応力軸がT軸の場合に「nt型」,P軸の場合に「np型」としてきた.基準面として,海溝距離が100km以内の地震については水平面,100km以上の地震については海溝距離と震源深度から算出される傾斜面を使用している(解説;速報11:地震断層).
2012年12月7日の日本海溝域の地震M7.3とその余震を解析した結果,非双偶力(非DC:non Double Couple)成分比が重要な役割を担っていることが明らかになった(速報35:非双偶力成分).今回,非双偶力成分比も考慮して,発震機構区分を細分改訂する.
2.正断層型と逆断層型
T軸が基準面に並行な正断層型については,非双偶力成分比が±5%以内のほぼ双偶力の地震を従来のまま正断層「t型」とする.非双偶力成分比が-5%以下の圧縮応力過剰な負非双偶力成分比の地震を「-t型」とし,大きな押す力によって押し広げられて正断層が形成されるので「押広正断層型」と呼ぶ.+5%以上の正非双偶力成分比の引張応力過剰な地震を「T型」とし,大きな引く力によって引き裂かれるように正断層が形成されるので「引裂正断層型」と呼ぶ(図85).
P軸が基準面に並行な逆断層型については,非双偶力成分比が±5%以内のほぼ双偶力の地震を従来のまま「p型」とする.-5%以下の負非双偶力成分比の圧縮応力過剰な地震を「P型」とし,大きな押す力で逆断層が形成されるので,これを「衝突逆断層型」と呼ぶ.+5%以上の正非双偶力成分比の引張応力過剰な地震を「+p型」とし,引き剥がされる時に引き寄せられるように逆断層が形成されるので「引剥逆断層型」と呼ぶ(図85).
3.横ずれ断層型と応力軸の入替
中間主応力N軸が基準面に対し直立している発震機構を横ずれ断層型と定義するが,本速報ではN軸がT軸およびP軸よりも傾斜している発震機構を横ずれ断層型として,正断層型および逆断層型から区分している.ここで用いられているN軸は,T軸とP軸が作る平面に直交する応力軸と定義される.
もし,主応力軸方位がいずれの方位にも同じ比率で向いているとすると,半球面上でN軸が通ることのできる範囲が横ずれ断層型の比率になる.半球面上でN軸が通る範囲の面積に比例することになる.横ずれ断層型のN軸が通る半球面上の範囲は,基準面に直交する方向からほぼ45°以内の範囲であり,その面積S90-45は,
S90-45 = sin 90 – sin 45 = 1 – 0.707 = 0.293
となる.この面積は半球面の29.3%であるので,横ずれ断層型が占める比率も29.3%と予想される.しかし,1994年9月以後現在まで日本全域で起こった2547個の地震の中で横ずれ断層型の地震は358個しかなく,全体の14.1%で予想の半分にすぎない.このように横ずれ断層型地震数が少ないことは,地球重力がT軸とP軸を水平と垂直方向に保持していることを示している(表17).
表17:1994年9月以降に日本全域で起こった地震の発震機構別個数
および非双偶力(non Double Couple)成分比別の個数.
発震機構型 | 地震個数 | 比率 | 非双偶力成分比(nonDC%) | ||
---|---|---|---|---|---|
<-5 | =-5<=+5 | +5< | |||
圧縮応力過剰 | 双偶力 | 引張応力過剰 | |||
正断層型 | 935 | (36.7%) | 399 | 243 | 293 |
逆断層型 | 1256 | (49.3%) | 482 | 463 | 309 |
横ずれ断層型 | 358 | (14.1%) | 144 | 68 | 146 |
nt | 176 | 55 | 29 | 92 | |
np | 182 | 89 | 39 | 54 | |
合計 | 2549 | (100%) | 1025 | 774 | 748 |
横ずれ断層型も非双偶力成分によって3分できるが,非双偶力成分比が5%以内の双偶力型の個数は20%と有意に少なく,「nt型」では引張応力過剰が,そして「np型」では圧縮応力過剰がそれぞれ50%を占め有意に多い.この偏りは,応力軸入替で説明できる.
正断層「t型」において,圧縮主応力の大きさが減少すると引裂正断層「T型」になるが,圧縮主応力が更に減少して水平な中間主応力より小さくなると,応力の大きさの順番が入れ替わるので,水平な中間主応力N軸が圧縮主応力P軸へ,そして垂直なP軸がN軸へと応力軸入替が起こり,N軸が直立する引張主応力過剰な横ずれ断層「nt型」になる.
CMT解のモーメントテンソルでは,引張主応力を正,圧縮主応力を負とする一連の数値で表し,3つの主応力の合計が0になる.引張主応力が最大で,圧縮主応力が最小,中間主応力がそれらの中間の値を持つ.非双偶力成分の無い双偶力の場合には,引張主応力と圧縮主応力の絶対値が等しく,中間主応力が0になる.
応力軸入替において非双偶力成分がどの様に変化するか定量的に検討してみる.引張主応力の大きさをTとし,正断層「t型」の発震機構において圧縮主応力Pが小さくなって中間主応力Nの大きさと等しくなった場合を考える.3つの主応力の合計が0であるので,
T + P + N = 0
N = P = -T/2
となる.引張主応力Tと圧縮主応力P = -T/2の絶対値の大きな方をMとすると,正の引張主応力Tが大きいのでM = Tとなる.非双偶力成分比nonDC%の定義により,
nonDC% = – N / M ×100 = – (-T/2) / T ×100 = 1/2 ×100 = 50
このように圧縮主応力Pが小さくなって中間主応力Nに入れ替わる時,非双偶力成分比は最大値+50%となることが分かる.
逆断層「p型」の場合には,水平な中間主応力N軸と引張主応力T軸が入替わり,圧縮主応力過剰な横ずれ断層「np型」になる.入替わり時の非双偶力成分比は最小値の-50%になる.
このような応力軸入替によって,正断層「t」型から横ずれ断層型になれば引張応力過剰な正非双偶力成分比を持つ「nt型」になり,逆断層「p型」から横ずれ断層型になれば圧縮応力過剰な負非双偶力成分比を持つ「np型」になるが,これらを非双偶力成分比±5%以内の双偶力型と合わせて調整移動「nt型」および圧縮移動型「np型」とする.
圧縮主応力過剰な-5%以下の負非双偶力成分比を持つ「nt型」,引張主応力過剰な+5%以上の正非双偶力成分比を持つ「np型」を,挟込移動「-nt型」・引出移動「+np型」として区別するが,応力軸方位が海溝軸に直交せず並行した「tr型」と「pr型」が応力軸入替したものと考えられる(図85).
今後,本速報および年別・月別震源震央図では非双偶力成分比に基づき定量的な応力値も考慮に入れて細分した新しい発震機構型を使用する.