月刊地震予報165(2023年6月30日)2023年5月の能登半島M6.2・房総M6.2,2023年6月の月刊地震予報

1.2023年5月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2023年5月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で27個0.407月分,千島海溝域で1個0.009月分,日本海溝域で4個0.896月分,伊豆・小笠原海溝域8個0.568月分,南海・琉球海溝域で14個0.523月分であった.
 27個の日本全域CMT解は,5個であった先月2023年4月の5倍を超し,総地震断層面積も0.025月分であった先月の16倍に達している(2023年5月日本全図月別).
 2023年5月の総地震断層面積規模はΣM6.8で,最大地震は,2023年5月5日の能登半島深度10㎞の西南日本海岸震源帯JscPhの能登震源区Noto M6.2Pと2023年5月26日の房総半島深度43㎞の関東房総震源帯KwtBsの飯岡震源区Iok M6.2pであった.
 2023年5月5日の能登M6.2Pの震度分布は,最大震度6強の能登を中心とする楕円状に本州全域を震度1以上で覆い,本州島弧地殻が連続して均質であることを示している(図500左図).
 2023年5月26日房総M6.2pの震度分布は,最大震度5弱の関東東部を中心に本州北東部を震度1以上で覆っている.その南西縁が伊豆半島から若狭湾で,日本海溝から沈込む太平洋Slab縁と合致している.今回の地震は,房総半島に沈込む伊豆Slabが太平洋Slab上面に衝突して起き,太平洋Slabがその地震動を伝達している(図500右図).

図500.2023年5月5日能登半島M6.2と2023年5月26日房総半島M6.2の震度分布.
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 2022年1月から2023年5月までの17ヶ月間のCMT解は236個で,その総地震断層面積規模はΣM7.7,この間のPlate運動面積規模はM8.1で,それらの比は0.320である(図501の右上図左端のTotal/4).
 日本海溝域 B では,新幹線を軌道から脱輪させた東北前弧沖震源帯ofAcJの阿武隈震源区Abkの2022年最大CMT解M7.4P(7222>月刊地震予報151)が2022年3月の最大の段差を与えた後静穏化していた.横幅を総地震断層面積に合せているので目立たないが上端に,今回のM6.2の段差も加わっている.
 南海・琉球域Dでは,日本海溝域Bの最大地震M7.4Pに誘発された2022年3月能登M5.4(7324月刊地震予報154)の段差に次いで,琉球海溝域の歪解放周期更新の2022年9月の台湾M7.0(7444>月刊地震予報159)の段差以降静穏化していたが,今月のM6.2の段差が加わった.

図501.2022年1月から2023年5月までの日本全域17月間CMT解
 左図:震央地図,中図:海溝距離断面図.数字とMはこの期間のM7.0以上と2023年5月のM6.0以上のCMT解の年月日と規模.
 右図:時系列図は,海洋側から見た海溝域配列に合わせ,右から左にA千島海溝域Chishima,B日本海溝域Japan,C伊豆・小笠原海溝域OgsIz,D南海・琉球海溝域RykNnk,日本全域Total,を配列.縦軸は時系列で,設定期間の開始(下2022年1月1日)から終了(上2023年5月31日)までの516日間で,右図右端の数字は月数である.設定期間の250等分期間2.1day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計している(速報36特報5).
 Benioff図(右上図)の横軸はPlate運動面積で,各海溝域枠の横幅はこの期間のPlate運動面積に比例させてあり,左端の日本全域Total/4のみ4分の1に縮小している.
 階段状のBenioff曲線は,左下角から右上角に届くように横幅を合わせ,上縁に総地震j断層面積のPlate運動面積に対する比を示した.下縁の鈎括弧内右の数値[8.1] [7.8] [7.4] [7.4] [7.7]は設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模で,日本全域ではこの間にM8.1の地震1個に相当するPlate運動歪が集積する.上図右下端の(M6.1step)は,等分期間2.1日以内にM6.1以上の地震がBenioff曲線に段差与える.
 地震断層移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は地震断層面積規模で,等分区間「2.1day」に前後区間を加えた6.3日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積規模「M2 M5 M8」.右下図上縁の数値は総地震断層面積(km2単位)である.
 areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型段彩は,逆断層型を赤色・横擦断層型を緑色・正断層型を黒色.
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2.2023年5月5日西南日本海岸震源帯JscPhの能登震源区Noto深度10㎞のM6.2P

 2023年5月5日14時42分足柄小円西区の深度10㎞で西南日本海岸震源帯JscPhの能登震源区NotoのCMT解M6.2Pがあった.
 西南日本海岸震源帯JscPhは,能登半島から中国地方を経て九州の日本海岸沿いの震源帯で,江戸時代以降の地震記録から総地震断層面積規模はΣM8.1で,最大は近畿震源区Knk 1927年3月7日北丹後地震M7.3である.この最大地震以降,1960年までBenioff曲線が急傾斜する活動期になった.1960年以降,静穏化したが,2000年以後活発化している(図502).

図502.江戸時代以降の西南日本海岸震源帯JscPhの地震記録.
 南海Tr域の1600年以降の西南日本海岸震源帯JscPhの被害歴史地震・1922年以降の観測地震・1994年以降のCMT解の震央地図(左図)・海溝距離断面図(中図)・縦断面図(右上図)・時系列図(右中図)・CMT解主歪軸傾斜方位図(右下図).
 縦断面図・時系列図・主歪軸傾斜方位図(右図)の横軸はPH_AM Plate相対運動のEuler緯度.
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 今回のM6.2があった西南日本海岸震源帯JscPhの能登震源区Notoの総地震断層面積規模はΣM7.3で(図503),最大地震は1729年8月1日M7.0であり,次大が2007年3月25日M6.9np,そして1993年2月7日M6.6,1892年12月9日M6.4,1892年12月11日M6.3が続く.
 Benioff曲線では1729年と1892年の段差とその後の静穏化が明瞭であるが,1993年以降は斜め線状に増大し,今回の活動に続いている.1995年1月には南隣の西南日本裂開RifPh震源帯で阪神大震災が起こっていることと関連していることも予想され,今後の活動に警戒が必要である.

図502.江戸時代以降の西南日本海岸震源帯JscPhの地震記録.
 南海Tr域の1600年以降の西南日本海岸震源帯JscPhの被害歴史地震・1922年以降の観測地震・1994年以降のCMT解の震央地図(左図)・海溝距離断面図(中図)・縦断面図(右上図)・時系列図(右中図)・CMT解主歪軸傾斜方位図(右下図).
 縦断面図・時系列図・主歪軸傾斜方位図(右図)の横軸はPH_AM Plate相対運動のEuler緯度.
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 この地震の主破壊重心のCMT震源の深度は10㎞・規模はM6.2であるが,破壊開始の初動震源の深度は12㎞・規模はM6.5で,地震断層破壊が上方に伸展して規模を減少させている.これらの震源と主歪面に直交する主中間N歪軸223+4の載る断層面は,東北東走向で南南東に14°傾斜する衝上断層である.CMT震央は初動震央の北方9㎞にあり,断層面が地表に達するのは45㎞北方の日本海底であり,新聞報道(河北新報2023年6月15日朝刊など)のような震央直下の垂直に近い断層に沿う流体移動による地震とは考え難く,能登半島や富山湾形成に関連する大規模構造運動に関係していると考えられる.
 能登震源区Notoは,Amur Plateの東縁に位置し,南からPhilippine海Plate(図503左図 PH_AM)・東から太平洋Plate(図503中図 PC_AM)が沈込んでいる.PlateはEuler緯線(図503左・中図右縁の数値)に沿って運動し,その速度は緯度の余弦に比例する(図503左・中図右縁の括弧内の数値).Philippine海Plateは北西,太平洋Plateは西北西とほぼ同じ方向に沈込んでいるが,その速度は年間4.6cmと10.2cmと倍以上異なっている.能登半島は,太平洋Plateによる東西押しとPhilippine海Plate運動による伊豆弧の衝突で大きく屈曲した中央構造線の頂部に位置しているので,両Plate沈込の影響を受けていることを念頭に能登震源区の地震活動の検討が必要である.
 能登では昨年2022年6月19日震度6弱のM5.4+pが発生した.この地震の非双偶力成分比は+24%で,水平な圧縮P歪の2.85倍の垂直な引張T歪が解放され,下方に強く引張られて戻る際に鳥居が引き抜かれ倒壊する被害が発生した(月刊地震予報154).今回のCMT解の非双偶力成分比は‐16%から+7%で,前回のような引張過剰ではない.圧縮P軸歪は,今回が313+11で前回の327+3から,傾斜が8°増したが,北北西の方位は殆ど変わりなく,太平洋PlateとPhilippine海Plateの沈込方位の範囲内にある.

3.2023年5月26日関東房総震源帯KwtBsの飯岡震源区Iok深度43㎞のM6.2pr

 2023年5月26日19時03分,相模Trough域石堂小円区の深度43㎞で関東房総震源帯震源帯KwtBsの飯岡震源区IokでM6.2prが発生した.
 関東房総震源帯KwtBsは,成田無震領域Narita aSeismic Areaの東側に位置する震源帯である(特報7).700万年前の伊豆半島の東方まで続いていた現在の三宅島と伊豆海溝の間の前弧海底地殻・Mantleの北方延長が,伊豆半島の丹沢への沈込・衝突によって関東平野下に沈込んだのが伊豆Slabで,それに関係して関東房総震源帯KwtBの地震が起こる.
 日本海溝からは太平洋Slabが太平洋Plate運動PCによって年間8.8cmの速度で沈込んでいる(図504右図の左の震央地図右縁の括弧内).太平洋Slabは,海溝付近では北米Plate NAの東北日本弧上部地殻と衝突して下方に同心円状屈曲する.この屈曲Slabは島弧下部地殻と衝突して島弧沖震源帯oAcJを形成し,更に島弧Mantleと衝突して前弧沖震源帯ofAcJを形成する.同心円状屈曲によってSlab表層は伸長し,Slab下層は短縮する.屈曲Slabは島弧Mantle深部に達すると平面化し,Slab表層は逆に短縮して前弧震源帯fAcJを形成し,Slab深部は伸長し平面化震源帯uBdJを形成する.衝突Plate境界の震源帯はSlab上面に沿う剪断歪の解放による逆断層型CMT解を主体とする(海溝距離断面図:図504右図下の「P #p +p」).太平洋Slab上面線下の平面化震源帯uBdJの CMT解が,東北日本弧域と同様に関東域にも認められることは(図504右図上の震央地図・右図下の海溝距離断面図),太平洋Slabが関東域まで連続していることを示している.
 関東域では(海溝距離断面図:図504左図左下),東北日本域同様に同心円状屈曲する太平洋Slab上面に沿って剪断歪解放の逆断層型CMT解の赤色圧縮P歪軸傾斜方位が主歪軸傾斜方位図(図504左図右下)の上下端に並んでいることから,東北日本弧の地殻・Mantleと同様,伊豆Slabが太平洋Slab上面と衝突していることが確認できる.Philippine海Plate PHの伊豆半島に対する太平洋Plate PCのPlate運動のEuler緯線が(震央地図:図504左図左上)CMT解の歪軸方位に沿っていることも伊豆Slabが太平洋Slab上面で衝突していることを支持する.

図504.関東房総震源帯の地震活動と日本海溝から沈込む太平洋Slabと東北日本との衝突による地震活動の比較.
 左図:関東房総震源帯KwtBsのCMT解,右図:東北日本弧の太平洋Slab衝突に関係するCMT解.
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 関東房総震源帯KwtBsの飯岡震源区Iokでは1756年2月20日M6.0の歴史地震と17個の観測地震,そして27個のCMT解と143個のIM解が報告されている,総地震断層面積規模はΣM6.9で,最大は2011年3月の東北日本弧沖M9.0直後の2011年4月21日M6.2と今回の2023年5月26日M6.2である(図505).Benioff曲線(図505の右下左縁)は昭和東南海M8.0の1940年代から2000年に傾斜を増し,2000年以降は更に活発化している.

図505.関東房総震源帯KwtBs飯岡震源区IokのCMT解と江戸時代以降の地震活動.
 震央地図(左図),日本海溝からの海溝距離断面図(右上図),縦断面時系列図(右下図).
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 今回の2023年5月26日M6.2の破壊開始点に当たる初動震源の深度・規模は50㎞・M6.2で,主破壊重心であるCMT震源は43㎞・M6.2,主歪面に直交する主中間N歪軸の方位・傾斜が358+10である.これらが同一平面に載る地震断層は,走向が南北(357°)で東急斜(85°)の逆断層と算出される.深度50㎞で破壊を開始し,上方に伸展して太平洋Slab上面下3㎞の深度43㎞で主破壊に至ったと算出される.

4.2023年6月の月刊地震予報

 2023年5月は.嵐の前の静けさのように全国的に静穏化していた先月2023年4月の数倍の個数と十数倍の総地震断層面積の活発な地震活動があり,今後更に活発化することが予想される.特に,今回の能登震源区M6.2のような島弧地殻で起こる直下型地震に警戒が必要である.