速報76)ウラジオストックスラブ最深記録681km・カムチャツカM7.2・浦河沖M6.7とスラブ平面化地震・琉球海溝台湾域のスラブ沈込活性化

1.2016年1月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2015年12月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で16個1.979月分,千島海溝域で3個4.544月分,日本海溝域で6個2.536月分,伊豆・小笠原海溝域で3個0.366月分,南海・琉球海溝域で4個0.158月分と活発であった(2016年1月日本全図月別).
最大地震は2016年1月30日カムチャツカ半島の千島スラブ深度161kmM7.2-npであり,M6以上の地震は,1月6日マリアナスラブ深度185kmM6.0Tr,1月12日北海道西方沖千島スラブ深度265kmM6.2tr,1月14日浦河沖深度52kmM6.7P,の4個であった(図175)

図175.2016年1月の日本全域CMT解の主応力軸方位図・ベニオフ図・地震断層面積対数移動平均図.  ベニオフ図(右上)の各海溝域の幅は1月間のプレート運動面積であり,黒色斜線がプレート運動の積算面積,赤色曲線が地震断層積算面積.左端のTotalは各海溝域合計の4分の1(特報5).  対数移動平均図(右下)の横軸は地震断層面積(km2)の対数(速報68).  右図右端の数値は2016年1月の日数.

図175.2016年1月の日本全域CMT解の主応力軸方位図・ベニオフ図・地震断層面積対数移動平均図.
 ベニオフ図(右上)の各海溝域の幅は1月間のプレート運動面積であり,黒色斜線がプレート運動の積算面積,赤色曲線が地震断層積算面積.左端のTotalは各海溝域合計の4分の1(特報5).
 対数移動平均図(右下)の横軸は地震断層面積(km2)の対数(速報68).
 右図右端の数値は2016年1月の日数.

2.太平洋スラブの地震

 2016年1月のM6以上の地震は,千島海溝・日本海溝・マリアナ海溝から沈込む太平洋スラブ内と上面で起こっており,太平洋スラブ全体に活動が及んでいる.1月2日に起こったウラジオストックの深度681kmM5.7Pが引き金となったのであろう.
海溝から沈込むスラブは深度660kmの下部マントル上面を通過できず,660km以深の地震は起きないと言われてきたが,2015年5月30日と6月3日に伊豆スラブ南端の深度682km でM8.1tが,695kmで M5.6-tが起こった.これらの地震は太平洋スラブが下部マントル上面を突き抜いている証拠とみることができる(速報68速報69).
 日本海溝から沈込む太平洋スラブの先端が位置するウラジオストックにおいても,2009年4月18日に深度671kmM5.0npの下部マントル上面以深の地震が起こっている.震源には初動震源とCMT震源があり,2016年1月2日の初動震源深度は681kmで最深記録を更新したが,CMT震源深度は641kmである.一方,2009年4月18日の初動震源深度とCMT震源深度はともに671kmであり,下部マントル上面以深である.発震機構型は2016年1月2日は圧縮過剰逆断層P型であるが,2009年4月18日は圧縮横擦np型と異なっている(図176).

図176.ウラジオストックスラブの200km以深のCMT解の初動震源位置(×)とCMT震源位置(結線先端).2009年4月18日の地震は両震源とも深度671kmで下部マントル上面以深に位置するが,2016年1月2日の地震は初動震源深度が681kmであるがCMT震源深度が641kmと下部マントル上面より浅い.また,2016年1月2日の発震機構が下部マントル上面に停滞するスラブに優勢な逆断層P型であるが,2009年4月18日は横擦np型と異なっている.時系列図の左縁には積算地震断層面積のベニオフ図を付してある.断面は地球表面の曲率をそのまま表現する地心3次元断面(特報3).

図176.ウラジオストックスラブの200km以深のCMT解の初動震源位置(×)とCMT震源位置(結線先端).2009年4月18日の地震は両震源とも深度671kmで下部マントル上面以深に位置するが,2016年1月2日の地震は初動震源深度が681kmであるがCMT震源深度が641kmと下部マントル上面より浅い.また,2016年1月2日の発震機構が下部マントル上面に停滞するスラブに優勢な逆断層P型であるが,2009年4月18日は横擦np型と異なっている.時系列図の左縁には積算地震断層面積のベニオフ図を付してある.断面は地球表面の曲率をそのまま表現する地心3次元断面(特報3).

 襟裳小円南区・最上小円区・鹿島小円北区の200km以深の51個の深発地震の年間発生数を見ると(図176),1994年から2001年までの7年間は年間0-2個の計8個であったが,2002年から2008年の7年間は年間1-3個の計17個と倍化し,2009年には最多の5個が起こったが,その中に太平洋スラブ最初の下部マントル地震が含まれている.2010年3個・2011年2個・2012年4個・2013年5個・2014年3個・2015年3個と,2009年から2015年までの7年間には年間2-5個の計25個が起こり,1994年からの3倍を越している.最多年間個数に達した2009年に下部マントル地震が起こっている.
 下部マントル上面からスラブが沈込めず停滞する理由として,スラブの主要構成鉱物が低温ほどペロブスカイト(下部マントル主要構成鉱物)へ相転移し難いからと言われている.沈込スラブで最も低温なのは海底で冷却された上面であり,下面に近い2009年4月の震源付近は最も冷却されていないため相転移し易く,停滞していたスラブを最初に相転移させる箇所としては最適である.一方2016年1月の震源はスラブの最先端の上面側で相転移し難い位置にあり,発震機構も停滞スラブに一般的な逆断層型である.初動震源(破壊開始点)は下部マントル上面以深にあるが,CMT震源(主要破壊)が下部マントル上面以浅であることは,下部マントルに引き込まれた停滞スラブの地震であることを示唆している.
 千島小円東端のカムチャツカ半島で2016年1月30日深度161kmM7.2-npが起こった.千島小円域では2004年11月7日の深度507kmM6.0prの最深記録を,東日本大震災後の2011年5月25日深度585kmM5.4+npが大幅に更新した.そして,2012年8月14日には下部マントル上面直上の深度654kmでM7.3pが起った(速報30).大地震としては,2013年5月24日に深度609kmでM8.3Pが起こっている(速報43). 東日本大震災前の大地震は,2006年11月15日深度30kmM7.9P,2007年1月13日深度30kmM8.2Te,2009年1月16日深度30kmM7.4Peが起こっている.これらは,2009年4月18日のウラジオストック下部マントル地震の先行活動として注目される.
 小笠原海台小円域の同心円状屈曲のまま下部マントル上面に到達しているマリアナスラブで2016年1月6日深度185kmM6.0Trが起こった.その3日前の2016年1月3日に北西のほぼ同深度179kmでM5.3ntが起こっている.

3.浦河沖地震と屈曲スラブの平面化地震

 北海道西方沖2016年1月12日深度265kmM6.2trが千島スラブで起こり,その2日後の2016年1月14日襟裳小円北区浦河沖深度52kmM6.7Pが起こった.この地震の発震機構は圧縮過剰逆断層P型でそのP軸は海溝側に24°傾斜しており,スラブ沈込による島弧マントルとの剪断による地震である.この地震の後に最上小円区と鹿島小円北区の太平洋沿岸で屈曲スラブの平面化地震が起こっている(2016年1月精査済初動震源(月別)).これらの地震も太平洋スラブ沈込の活発化を反映している.

4.台湾・琉球海溝域地震

 琉球小円区北端の琉球海溝外で2016年1月5日深度58kmM5.6Toが起こった.この地震は,沖縄トラフ最大地震2015年11月14日M7.1(速報74)によってフィリッピン海プレートの沈込障害が除かれ,スラブ引張によって起こった海溝外地震である.その後,1月9日奄美大島近海深度28kmM5.4pr・台湾東方沖1月11日深度35kmM4.8+npo・1月19日深度29kmM5.8+npoが起こっている.
 琉球海溝台湾域ではプレート運動に対する総地震面積比が,1994年9月から2002年12月までは0.72であったのに,2003年1月から2009年12月までが0.27と急減し,2010年1月から2016年1月までが0.37と増加に転じている.九州から台湾まで起こった今月2016年1月の面積比は0.21に過ぎないが,昨年2015年は0.64と活発であった.
 

5.2016年2月の地震予報

2016年1月は下部マントル地震を含む太平洋スラブ地震が千島海溝域・日本海溝域・マリアナ海溝域で起こり,スラブ沈込による地震活動が活発化することが予想される.
フィリピン海プレートと太平洋プレートは伊豆・マリアナ海溝で接しているが,このプレート境界で地震が起こらなければ,太平洋プレートの運動がそのままフィリピン海プレーとの北西縁に伝わるため,南海トラフ・琉球海溝・台湾域にも影響が及ぶ.琉球列島の背弧海盆である沖縄トラフで2015年11月に最大地震が起こり,琉球スラブの沈込障害が除かれたため,九州沖の琉球海溝外で2016年1月5日に地震が起こり,2002年以降プレート運動面積の3分の1以下であった地震活動が復活することが予想されるので警戒が必要である.