月刊地震予報108)小笠原海台区の最大地震M6.6,千島列島東端温祢のM6.4Tと下北半島沖連発地震,駿河湾連発地震,琉球海溝外連発地震,2018年9月の月刊地震予報

1.2018年8月の地震活動

気象庁が公開しているCMT解によると,2018年8月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で16個0.488月分,千島海溝域で2個0.472月分,日本海溝域で9個0.220月分,伊豆・小笠原海溝域で3個1.838月分,南海・琉球海溝域で2個0.008月分であった(2018年8月日本全図月別).2018年5月の0.103月分から0.1月分台を保持してきた月間総地震断層面積比が2018年8月に入り0.488月分に急増した.これまでの静穏を脱し,活動期に移行したことを示している.
2018年8月の最大地震は2018年8月17日小笠原海台小円区のM6.6Pで,この他にM6.0以上の地震は2018年8月11日千島小円区東端の温祢M6.4Tがあった.
連発地震は,襟裳小円区の下北沖と駿河小円区であった.また,琉球海溝域では海溝外地震活動が続いている.

2.小笠原海台区の最大地震M6.6

2018年8月17日3時23分に小笠原海台小円区の同心円状屈曲する太平洋スラブ下部で2018年8月の最大地震M6.6P深度93kmが起こった(図287).翌日の8月18日7時06分にも震央距離28kmでM5.8p深度114kmが起こり,連発地震となった.最大地震のCMT解主応力軸方位[P80+37T255+52N348+3]を基準に連発地震の応力場極性偏角を算出すると14.9°と小さく,最大地震によって応力場が変化しておらず,歪は解消されていない.これから起こる大地震の前震とも考えられる.

図287.小笠原海台の2018年8月最大地震M6.6と震央距離100km以内のCMT解発震機構型・主応力軸方位.
 左図:震央地図・海溝距離断面図.
 右上図:縦断面図.
 右中図:時系列図(右縁の数字:年数,左端図:地震断層面積規模).
 右下図:主応力軸方位図.

本最大地震から震央距離100km以内に2009年以降のCMT解が8個ある(図287).本最大地震に次ぐ規模のCMT解は2017年9月12日2時35分M5.9-tr深度0kmである.
太平洋Slabでは,2018年7月2日の千島海溝から伊豆海溝に到るマントル遷移帯で地震が起こり,伊豆海溝域でも7月2日M3.9np372(+80)kmのIS解があった(月刊地震予報107).2018年7月28日9時50分鳥島沖のM4.7P深度46kmに続き,2018年8月3日22時07分に伊豆海溝の太平洋SlabでM5.0-np深度536kmが起こり(図287),太平洋SlabのMantle遷移帯における活動が継続している.
伊豆・小笠原海溝域で最大の出来事は,小笠原小円区の西之島北方で2015年5月30日M8.1t深度682km・6月3日M5.6-t深度695kmがほぼ垂直に垂れ下がり下部Mantleまで達した太平洋Slab内で起こったことである(速報68速報69).西之島より南方の小笠原・Mariana海溝から沈込む太平洋Slabは同心円状屈曲したまま深度660kmの下部Mantle上面にまで達しており(図287),北方に伊豆海溝から垂直に沈込むSlabの間に切れ目が存在する.本最大地震同心円状屈曲して海溝から沈込始めた太平洋Slabと島弧地殻で起こっている.

3.千島小円区東端温祢のM6.4Tと得撫島沖・下北半島沖連発地震

2018年8月11日3時12分千島列島最東端の温祢(オンネ)震源域mCsmOneでM6.4T30kmが起こった(図288の+および×印).引張主応力T軸方位124°は太平洋Plate相対運動の逆方位とほぼ一致している(図288右下図の黒色三角印).
本震源域ではCMT解が2006年11月以降17個報告されているが,本地震が最大地震であり,本地震以外は全て逆断層型でその圧縮主応力P軸方位は138±19°と太平洋Plate相対運動の逆方位と一致している(図288右下図丸印).

図288.2018年8月11日M6.4と温祢震源区CMT解のM6.4主応力軸方位基準応力場極性偏角区分.
 左図:海溝断面図・震央地図.
右上図:縦断面図.
右中図:時系列図(右縁の数字:年数,右端:応力場極性・地震断層面積Benioff図)
右下図:主応力軸方位図.
One:温祢(オンネ)震源区,Sms:新知(シムシル)震源区,Urp:得撫(ウルップ)震源区,oSmk:下北沖震源区.

本地震のCMT解主応力軸方位[P328+66T124+23N218+9]を基準にしたこれまでのCMT解の応力場極性偏角区分(月刊地震予報87)はOrg1/3PTexN10TPexN3と逆極性が76%を占めている.地震活動が活発化したのは東日本大震災前の2009年2月4日M5.1P30kmからで,2014年1月11日M5.5p30kmの正極性への変換から静穏化していた(図288右中図左のBenioff図).
千島小円区の温祢震源域西隣の新知(シムシル)震源域Smsでは2007年1月13日に千島海溝域最大のM8.2Te30kmが太平洋Slab内で起こっており,2006年11月15日M7.9P30kmと2009年1月16日にM7.4Peも起こり,温祢震源域の地震活動の活発化と関連している(図288Sms).
太平洋SlabのMantle漸移帯の広域地震(月刊地震予報107)は千島小円区の2018年7月2日5時45分M5.6-np488kmから開始され,7月7日14時42分にもM4.7+pr524kmが起こっている(図288Sms).また,千島列島得(ウルップ)撫震源区Urpでは2018年7月29日17時12分M4.9P38(+10)kmと7月29日22時00分M5.1P31(-8)kmの連発地震(月刊地震予報107),千島海溝西端に当たる下北沖震源区oSmkで,2018年8月24日23時15分M5.1p深度32km・8月23日0時06分M4.9p深度35kmの連発地震が起こった(図288Urp・oSmk).
下北半島沖の連発地震は太平洋Slabと島弧Mohoの接触部で起こっているが,2018年7月2日20時53分にもM5.0p深度39kmが起こっている.また,島弧Moho以深のSlabでも2018年7月2日2時27分M4.9p深度64km・7月10日13時55分M4.9p深度68km・8月5日17時44分M4.2P62kmが起こっている.(図289).

図289.2018年7月・8月の下北沖震源区連発地震の発震機構型.
oSmk:下北沖震源区
左上図:震央地図.
左下図:海溝距離断面図:
右上図:縦断面図:
右中図:時系列図(右縁数字:月数,左端:地震断層面積規模・Benioff図)

千島海溝域では静穏期の後のM8級地震が予想される状況(月刊地震予報105)の下,2018年9月7日に胆振東部地震M6.7が起こった.この詳細については次号の月間地震予報109で報告する.

4.駿河湾連発地震

2018年8月10日駿河湾で21時18分M4.4Pr22kmのCMT解・IS解の後,22時03分M2.6nt22km・22時28分M2.5pr21kmのIS解が報告された.CMT解M4.4の主応力軸方位[P14+4T280+50N108+40]基準のIS解の応力場極性偏角はM4.4prが37.9,M2.6ntが23.9,M2.5prが33.4°と殆ど変化していない.M4.4による歪解消によっても応力場が変化していないことは,この地震活動が前震である可能性を示唆する(図290).

図290.2018年8月の駿河湾連発地震のT軸方位
 左図:CMT解の海溝距離断面図・震央地図.
 中図:IS解の海溝距離断面図・震央地図.
 右上図:IS解の縦断面図.
 右中図:時系列図(右縁の数字:年数,右端:地震断層面積規模・Benioff図)
 右下図:主応力軸方位図(紫色右下がり線Sub:Plate運動方位)

 駿河小円区の東南海Philippine海Slab震源区tnkPhでは2009年から5個のCMT解(図290右上下図)と1997年から269個のIS解(図290中・右図)が報告されているが,最大は2009年8月11日M6.3+nte18km(CMT解)・M6.5pre23km(IS解)で,その引張主応力T軸方位は291(CMT解)・285(IS解)とほぼPlate相対運動方位に沿い,今回と共通している.IS解全てのT軸方位はPlate相対運動方位(図290右下のT軸方位図左縁のSubからの右下がり紫色線)とその逆方位(図290右下のT軸方位図の上下端)に集中している.

5.琉球海溝外連発地震

琉球海溝域で起こった海溝外地震2018年7月25日13時20分M5.3+nto10(+4)kmの海溝距離は152kmと2010年5月26日M6.4To10(+4)kmの最遠記録88kmを大幅に更新したが(月刊地震予報107),2018年8月14日18時22分に同所でM4.9nto39kmが起こり,連発地震となった(図291).

図291.琉球海溝外連発地震のT軸方位.
 左図:震央地図.
 中図:海溝距離断面図.
 右上図:縦断面図.
 右中図:時系列図(右縁の数字:年数,左端:地震断層面積規模・Benioff図)

これらの地震は正断層型・引張横擦断層型であり,琉球海溝外のPhilippine海Plateに異常な引張応力が働いていることを示している.2009年から2010年の間に大きな変化があるが,駿河湾域の変化(図290)と対応している.

6.2018年9月の月刊地震予報

2割以下の月間地震断層面積のPlate運動面積に対する比を持つ静穏化も2018年7月で終了し,2,018年8月には5割近くに急増し,静けさも終了して嵐の到来である.
太平洋SlabのMantle遷移帯深度における地震が,2018年7月にオホーツク海,伊豆海溝域と同期して起こったが,8月には千島海溝域と小笠原海溝域でM6以上の地震が起こった.これらの地震は,東日本大震災前の状況と類似していることから警戒が必要である.
この異常は太平洋Slab沈込域のみならずPhilippine海Slab沈込域の駿河湾や琉球海溝域にも大地震前の異常が進行していることを示しており,警戒が必要である.