東日本巨大地震の前震・本震・余震の震央を記入した赤色立体地図

新妻地質学研究所へようこそ

2011年3月11日午後2時46分、東日本巨大地震発生。
今、仙台、東北、日本、環太平洋、地球で何が起こっているのか?

プレートテクトニクス一筋で
地球科学を研究してきた仙台在住の著者が考えます。

月刊地震予報128)小笠原沖垂直Slab内地震M6.8,気仙沼沖島弧Mantle・Slab境界地震M6.2,飛騨連発地震,歪伝搬速度,2020年5月の月刊地震予報

1.2020年4月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2020年4月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で18個0.612月分,千島海溝域で1個0.004月分,日本海溝域で5個0.738月分,伊豆・小笠原海溝域で2個2.951月分,南海・琉球海溝域で10個0.123月分であった(2020年4月日本全図月別).日本全域総地震断層面積比が2019年9月から1割以下に急減し,1割前後の異常静穏化が5ヶ月継続したが(月刊地震予報125),2020年2月の千島海溝域の4ヶ月分によって停止し(月刊地震予報126),2020年3月の千島海溝域9ヶ月分によって更に3ヶ月分を越していたが(月刊地震予報127),2020年4月に6割に減少した.
 最大地震は2020年4月18日の小笠原海溝から沈込む垂直Slab内地震M6.8Pであった.M6.0以上の地震は,4月20日の北上沖島弧Mantle・Slab境界地震M6.2がある.飛騨では4月22日から連発地震が起っている.

2.小笠原海溝から沈込む垂直Slab内地震M6.8P

 2020年4月18日17時25分小笠原沖でM6.8P/深度477kmが,垂直に沈込むSlab内で起こった(図362).この地震のCMT解の圧縮P歪軸傾斜は57°とSlab同様に垂直に近い.垂直Slabの下部では2015年5月30日M8.1t/682km・6月3日MM5.6-t/695kmが深度660kmの下部Mantle上面以深で起こっており(速報69),下部Mantleより密度の小さいSlabには,自重と下部Mantleからの浮力に挟まれて圧縮歪が蓄積すると考えられる.今回の地震はこの圧縮歪が限界に達して解放されたのであろう.

図362.2020年4月18日小笠原沖の垂直沈込Slab内地震M6.8P/477km.
△:活火山.
数字とM:地震発生年月日と規模:本地震と下部Mantle上面以深の地震.
Clickすると拡大します.

 2020年2月13日択捉沖で千島海溝に沿う同心円状屈曲Slabの平面化地震M7.2(月刊地震予報126)が起こって太平洋Plateの沈込障害が除かれ,Kamchatka沖の千島海溝軸で3月25日M7.5が起こっている(月刊地震予報127).これらの地震は,千島海溝に沿う太平洋Slabを沈込ませ,小笠原海溝における太平洋Slabの沈込を促進させ,Slab上部からの歪を増大させ,今回の地震が起こったと考えられる.

3.気仙沼沖の北上島弧Mantle・Slab境界地震M6.2p

 2020年4月20日5時39分宮城県気仙沼沖でM6.2p/46kmが,同心円状屈曲して沈込むSlab上面からの深度(Slab深度)+2kmで起こった(図363).この地震は,島弧で最大の力学的強度を持つ上部Mantleと沈込Slab上面との境界で起こった.この境界面の摩擦はSlab沈込障害になると共に,Slab上面に摩擦力で固着した島弧に圧縮歪を蓄積する.

図363.2020年4月20日気仙沼沖の北上島弧Mantle・Slab衝突地震M6.2/46km.
△:活火山.
数字とM:地震発生年月日:本地震・飛騨連発地震.
Clickすると拡大します.

 今年2020年の2月と3月には千島海溝域でSlab沈込が進行し,4月18日には小笠原海溝でもSlab下部の地震M6.8によって沈込が進行した.日本海溝における沈込は両脇の千島海溝と小笠原海溝で進行したSlabの沈込によって促進され,摩擦力が限界に達して今回の地震になったと考えられる.
 今回の地震のCMT解の圧縮P軸の方位は海溝傾斜方位(図363右下の主歪方位図の中軸線TrDp及び上下縁)よりもやや下方の右寄りでPlate運動方位(図363右下の主歪方位図中軸部の紫色折線)に沿っており,傾斜が海溝側に傾斜していることは(図363中の海溝距離断面図),島弧側に傾斜する島弧MantleとSlabの境界面に沿う滑りの圧縮歪に加え,摩擦による境界面に直交する抗力による歪が合成されていること示している.
 4月18日小笠原沖M6.8がSlab沈込を促進し,36時間14分後に気仙沼沖M6.2を起こしたとすると,両震源間の距離が1325kmであることから,歪伝達速度を時速36.6km以上と算出できる.

4.飛騨連発地震

 2020年4月22日2時26分M3.8np/4kmから開始した飛騨連発地震は東北日本と伊豆の活火山弧が交叉する焼岳の北東方で起こった(図363).本連発地震についてはCMT解4個(図363)・IS解12個(図364)の計13個の地震解が報告されている.
 IS解には地震開始の初動の発生時刻・震央・深度・発震機構,CMT解には初動と複数の主動の重心(Centroid)についての発生時刻・震央・深度および主動の発震機構と非双偶力成分比がある.M4.7からM5.2のCMT解発震機構は全て圧縮横擦np型で,M3.2からM5.5のIS解の発震機構は圧縮横擦np型11個と正断層型1個である.

図364.2020年4月の飛騨連発地震のIS解主歪軸方位.
△:活火山.
数字とM:地震発生年月日(規模):飛騨連発地震・犬山と伊勢湾奥の地震.
Clickすると拡大します.

 3個のCMT解地震はIS解も兼備する地震(月刊地震予報109)である.最大地震は2020年4月23日13時44分の最初の兼備地震で,初動M5.5np/3km・主動M5.2np/10kmである.連発地震全ての震央は最大地震震央の3km以内に収まり,初動深度は3-6km,主動深度は10kmと集中している.
 発震機構の主歪軸方位は,西北西-東南東のP軸と北北東-南南西のT軸そして垂直に近いN軸を持ち,P軸とT軸が載りN軸に直交する主歪面はほぼ水平である.地下岩石に分布する歪は方位によって変化し,圧縮歪が最大となる方位をP軸方位とし,引張歪が最大となる方位をT軸方位とする.P軸方位における圧縮歪の大きさを負,T軸方位の引張歪の大きさを正とする一連の値で表す.P軸方位とT軸方位の載る主歪面に直交する方位を中間N軸方位とし,これらの軸が互いに直交しているとして算出されるのが主歪軸方位である.N主歪軸方位の歪の大きさは負のPと正のTとの中間の値を持つが,0になるのは地下岩石に働く応力が双偶力の場合であり,現実には多少ずれる.CMT解ではこのずれを非双偶力nonDC成分比として算出している.
 主歪軸方位を変化させない一様な引張歪を地下岩石に与えると,TとNの値は増大し,Pの値は減少し,非双偶力成分比は引張過剰の正になる.一様引張歪がP歪を相殺するまで増大させると,非双偶力成分比は最大の+50%に達する.一様な圧縮歪を与えれば非双偶力成分比は負になり,T歪を相殺するまで増大させると最小非双偶力成分比-50%に達する.一様な圧縮歪の増減は,震源深度に対応する静岩圧の増減と対応する.
 直交3主歪軸は,正から負への歪の順にT・N・P軸と名付けられる.N軸歪の値のみが変化し,P軸の圧縮歪の値より小さい圧縮過剰になると,自動的にP軸とN軸は入替わる.このような入替はP軸圧縮歪とN軸圧縮歪との差の小さい引張過剰の正非双偶力成分比に起こり易い.
 地表は歪を伝達しない大気に覆われているため引張応力場にあり,Plate運動等で地表に並行な圧縮応力が懸かれば東北日本のように水平な圧縮歪と垂直な引張歪の逆断層型歪が蓄積する.地下深部の温度が上昇すると地下岩石が次第に部分溶解し,歪を伝達できず地震も起せなくなる.歪を伝達できなくなる境界面には圧縮P歪軸と引張T歪軸が載り,歪主面となる.歪主面が水平であれば歪主面に直交するN歪軸は垂直になり,そこで起こる地震の発震機構は中国地方や中部地方のように横擦型になる.
 今回の飛騨連発地震が横擦型であることは地下に部分溶融した歪主面が存在することを示唆し,震央南西に活火山の焼岳が存在するとともに(図364),世界で最も新しい第四紀の滝川花崗岩等が地表に露出していること(原山,2006)が地質学的根拠を与えている.
 本震源西方の白山連峰の毘沙門岳からは,Slab溶融によるMagnaを特徴付けるadakiteが噴出している(石渡,2006).adakiteの噴出は中国地方の大山にも知られており(佐々木,2009),1500万年前に拡大直後で高温の四国海盆北縁が日本海拡大に伴って西南日本に載り上げられ(高橋,1986),700万年前から沈込で深度100km付近の西南日本北縁に達しadakaite Magmaを供給していると考えられている.中部地方と中国地方では下部地殻から上部Mantleで地震が発生せず,上部地殻の地震が横擦型であることが高温Slabの存在を支持している.
 飛騨の地震は,2011年3月11日東北沖巨大地震M9.0の前震と交互して2011年2月27日にM5.0とM5.5が起こったことで注目されている(速報55速報56).東北沖巨大地震後も2011年10月5日にM5.4・M5.2が起こり静穏化した後,2017年6月25日M5.6が起こって3年後に今回の活動が起こった.
 今回の活動は,2020年4月20日5時39分北上島弧Mantle・Slab衝突地震M6.2の42時間40分後から開始している.これらの地震が歪の伝搬によって関係しているとすると両震源間距離490kmから,歪伝搬速度は時速11.5km以上と算出される.Slab上面摩擦による東北日本弧の圧縮歪は4月20日M6.2によって解放され,Slabが沈込み,周辺のSlab上面の摩擦力は増大して東北日本弧の圧縮歪は増大する.この圧縮歪の増大が飛騨にも及んだと考えられる.
 最大地震は4月23日13時44分の最初の兼備地震で,初動M5.5np深度3kmの発震機構は[P323+0T53+15N233+75],主動重心M5.3np/10km非双偶力成分比-4%の発震機構は[P134+18T40+13N276+67]である.以後の歪方位偏角の算出には最大主動の発震機構を基準とする.最大地震の初動の偏角は20.1°と算出される.13分後の2つ目の兼備地震は,初動M5.0/5km偏角10.1°・主動重心M4.7/10km-6%偏角3.9°と殆ど変化していない.これらのCMT解以前のIS解の震央は最大地震の震央の南側で起こっているが,以後は北西側で起こっている.
 2つ目の兼備地震の6時間50分後の4月23日20時47分に南南西114kmの犬山付近でM3.6nt/47km偏角39.6°が起こった(図364).この地震が2つ目の兼備地震による歪解放と関係していれば歪伝達速度は時速16.7kmと算出される.飛騨連発地震初動偏角は10.1-20.1と小さかったが,犬山の地震後には36.5-52.4°に増大する.
 4月26日1時16分には飛騨から南南西154kmの伊勢湾奥でM2.8p/16km偏角104.2°が起こり(図364),1時間6分後の4月26日2時22分に3つ目の兼備地震の初動M5.0np/6km偏角38.1°・主動M4.8+np/10km 非双偶力成分比+14%偏角11.6°が起こった.その2時間48分後の4月26日5時00分にIS解唯一の正断層型M3.2t/5km偏角63.7°が起こった.この正断層型地震は,圧縮歪の減少による垂直なN軸と水平なP軸の入替によるであろう.正断層型地震以後4月30日までに,IS解2個とCMT解1個あるが,偏角は12.5-28.5°と基準に近付き,非双偶力成分比も-23%と圧縮過剰に変化し,引張歪の解放を示している.
 これらの経過をまとめると,4月20日の北上島弧Mantle・Slab境界地震M6.2によって東北日本弧の圧縮歪が増大し,4月22日から横擦型の飛騨連発地震が南端から開始された.4月23日には最大のM5.5とM5.0によって圧縮歪が解放され,歪方位が変化し震央も北西方に移り,南南西方の犬山でM3.6が起きた.4月26日には伊勢湾奥のM2.8に続き飛騨で引張過剰のM5.0の後に正断層型M3.2が起きた後,引張歪が解放され開始時の歪方位に戻った.

5.2020年5月の月刊地震予報

 千島海溝域の2020年2月Slab平面化地震M7.2と3月の海溝軸部地震M7.5に続き今月4月の小笠原海溝域でSlab内地震M6.8が起こった後に,日本海溝域で北上島弧Mantle・Slab境界地震M6.2が起こり,飛騨連発地震が続いた.日本海溝域と飛騨・関東域の地震活動の活発化に警戒が必要である.
 飛騨は地震観測網の中央に位置し,M3.0以下の地震についても発震機構解が報告され,日本列島地殻の歪変化を監視するための重要な地域である.飛騨の地震が歪の伝搬と解放によってどの様に支配されているかが明らかになれば,地震予報に大きな役割を担うであろう.

引用文献

原山 智(2006)爺ケ岳転倒コールドロン―横倒しのカルデラ火山岩類.地方地質誌「中部地方」,朝倉書店(東京),326-327.
石渡 明(2006)中部地方の火成岩.地方地質誌「中部地方」,朝倉書店(東京),83-88.
木村純一(2009)第四紀の火山岩.地方地質誌「中部地方」,朝倉書店(東京),354-361.
高橋正樹(1986)日本海拡大前後の“島弧”マグマ活動.科学,56,103-111.

月刊地震予報127)Kamchatka沖千島海溝の同心円状屈曲地震M7.5,2020年4月の月刊地震予報

1.2020年3月の地震活動

気象庁が公開しているCMT解によると,2020年3月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で9個3.117月分,千島海溝域で2個8.786月分,日本海溝域で3個0.047月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.009月分,南海・琉球海溝域で3個0.074月分であった(2020年3月日本全図月別).日本全域総地震断層比が2019年9月から1割以下へ急減し,1割前後の異常静穏化が5ヶ月継続したが(月刊地震予報125),2020年2月の千島海溝域の4ヶ月分によって停止した(月刊地震予報126).2020年3月は千島海溝域の9ヶ月分によって更に3ヶ月分を越した.ただし,千島海溝域以外では1割以下の異常静穏化が継続している.
最大地震は2020年3月25日のKamchatka沖の千島海溝M7.5Pで,他にM6.0以上の地震は無かった.

2.Kamchatka沖千島海溝の同心円状屈曲地震M7.5

 2020年3月25日11時49分, Kamchatka沖千島海溝軸部の深度77km(Slab深度+43)M7.5Pが起った.圧縮主歪P軸方位(丸印)はPlate運動方位(方位図中央付近の紫色斜線Sub)とほぼ一致しており,太平洋Plate運動による同心円状屈曲に対応している(図361).

図361.千島海溝域の2020年1月から3月までのCMT解.
 左:海溝距離断面図・震央地図.右上:縦断面図,右中:時系列図,右下:主歪軸方位図. 英数字:月日・規模・発震機構型.Clickすると拡大します.

千島海溝域のM7.0以上の地震は,7年ぶりに先月2020年2月13日択捉島沖で正断層型地震M7.2tが深度155(Slab深度+79)kmで起った(月刊地震予報126).今月2020年3月7日にもM7.2の震源から南西(236°)方106kmの択捉島沖深度151(+73)kmでM4.7Tの正断層型地震が起っている.この2つの正断層型地震の主歪軸偏位角(速報29)は23°と小さく,海溝に沿う同心円状屈曲に伴い圧縮した太平洋Slab深部が平面化によって伸張していることを示している.
平面化による正断層型地震は,先々月の2020年1月15日に根室沖深度91(+66)kmでM4.8tが起こっており,次いで2020年1月28日に根室沖深度96(+30)kmで逆断層型地震M5.5pが起っている(図361).逆断層型のSlab深度が30kmと,正断層型の66kmよりも浅い.同心円状屈曲に伴いSlab深部は圧縮され,平面化によって伸張するが,Slab表層は逆に同心円状屈曲に伴い伸張して平面化によって圧縮することSlab深度の差が良く対応している.従って,同心円状屈曲と平面化に伴う圧縮と伸張の境界Slab深度は30kmと66kmの間に位置するのであろう.
今回のKamchatka 沖のM7.5のSlab深度40kmは境界Slab深度付近であり,Slab深部の同心円状屈曲に伴う逆断層型なのか,太平洋Plate押がSlab引張りを上回っての逆断層型である.2020年1月以降の平面化地震の発生は平面化の進行を示しており,平面化はSlab沈込の障害を減少させて海溝軸付近のSlabに引張力を及ぼすと考えられるので,今回のM7.5の逆断層型はSlab深層の同心円状屈曲による圧縮によるであろう.
東日本巨大地震の際に,日本海溝域ではSlabが50m沈込むと共に平面化も起ったが,千島海溝域の海溝軸付近の沈込や平面化が進行しなかったので,今年に入り平面化と海溝軸部の沈込が進行しているのであろう.

3.2020年4月の月刊地震予報

 千島海溝域で2020年2月に平面化の最大地震M7.2の翌月にM7.5の海溝軸部地震が起ったことは,M8.0以上の巨大地震の発生も予想され,警戒が必要である(月刊地震予報126).不明な点の多い異常静穏化を継続している千島海溝域以外との力学的関係の構築を目指し,今後の地震活動を注意深く監視することにする.

月刊地震予報126)千島海溝域択捉島沖M7.2,千島海溝域巨大地震と沈込Slab,2020年3月の月刊地震予報

1.2020年2月の地震活動

気象庁が公開しているCMT解によると,2020年2月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で11個1.504月分,千島海溝域で1個4.098月分,日本海溝域で6個0.311月分,伊豆・小笠原海溝域で2個0.044月分,南海・琉球海溝域で2個0.042月分であった(2020年2月日本全図月別).2019年8月まで4割以上を保持していた日本全域総地震断層比が1割以下へ急減し,1割前後の異常静穏化が5ヶ月に渡り継続したが(月刊地震予報125),2020年2月の千島海溝域の4ヶ月分によって停止した.ただし,千島海溝域以外では異常静穏化が継続しており,1611年慶長奥羽地震から1677年延宝地震までの異常静穏期(月刊地震予報122)との対応が破れたかは,当時の千島海溝域と他海溝域との地震活動の関連性が不明なので注意深く見守る必要がある.
最大地震は2020年2月13日の千島海溝域択捉島沖M7.2tで,他にM6.0以上の地震は無かった.

2.千島海溝域択捉島沖M7.2

 2020年2月13日19時33分,千島海溝域の択捉島沖深度155km(Slab深度+79km)M7.2tが単独で起った.千島海溝域のM7.0以上の地震は,2018年12月21日にKamchatka海溝とAleutian海溝接合部外の深度17kmで起ったM7.3+nto(月刊地震予報112)以来で,以後静穏化していた(図357).

図357.2020年2月13日千島海溝域択捉島沖M7.2.
 千島海溝域のCMT解:年月日と規模は択捉島沖M7.2・Kamchatka沖 M7.3の震源.
 Clickすると拡大します.

海溝に沿って太平洋Plateが同心円状屈曲して沈込むSlabの表層は伸張し,深層は圧縮する.Slabが沈込むと太平洋底下を並進してきたMantleが行場を失い,Slabを押上げ,Slabは平面化する(月刊地震予報124).平面化すると圧縮されていた深層は伸張し,伸張していた表層は圧縮して地震を起こす.
今回のM7.2はSlab深層の平面化(unbend)に伴う最大のCMT解である.本予報では択捉島沖のSlab深層平面化地震をuBdとし,千島のCと択捉のEtrを付してuBdCEtrと略称する.uBdCの東端は新知(しむしる)島沖まで起っているが,今回はその中間の択捉島東方沖で起った.
Slab表層の平面化は島弧の隆起をもたらし,前弧(foreArc)の海岸付近で地震を起こすのでfAcと略称する.Mantle相転移の深度350/550km範囲に対応する千島海溝域の地震はVladivostokに向かって沈込む深発地震面の北東部に成るのでVlacCと略称する.

3.千島海溝域巨大地震と沈込Slab

日本列島における地震計観測網による地震記録は気象庁Home Pageの震度Databaseとして公表されている(月刊地震予報124).震度1の地震には震源の詳細不明が多く,震源が決定された地震規模もM1からM2が主で,CMT解やIS解と比較するためのM4.0以上の地震の最大震度は3以上になる.ただし,千島・伊豆・琉球海溝域については観測点が疎らなため,M6.0以上の地震でも最大震度2になるので,震度2以上でM4.0以上の地震をSeno & Eguchi(1983 )・宇佐美(2003)・渡辺(2011)に加えて解析に使用する.
1922年1月からの気象庁観測地震によると千島海溝域ではM8.0以上の地震が7個あった(図358).M8.0以上の巨大地震は1994年から2013年(5-7),1952年から1963年(2-4)と1923年(1)に起っている.

図358.千島海溝域のM8.0以上の地震.
 右中の時系列図左縁の数字(1-7)は巨大地震番号.
Clickすると拡大します.

 千島海溝域のM8.0以上の巨大地震は,
7)2013年5月24日14時44分M8.3 VladKamcP609(+87)km
6)2007年1月13日13時23分M8.2CtrSmsTe30(+17)km
5)1994年10月4日22時22分M8.2ofAcCEtr28(-1)km
4)1963年10月13日14時17分M8.1CtrEtr0(-18)km
3)1958年11月7日7時58分M8.1oCsmEtr13(-20)km
2)1952年11月5日1時58分M8.2Kamc0(-68)km
1)1923年2月4日1時1分M8.3Kamc0(-55)km
の7個である.KamcはKamchatka,Smsは新知(しむしる),Etrは択捉である.
 これらの巨大地震は,Slabが海溝に沿う同心円状屈曲沈込のCtrC地震(6・4),Slabと島弧地殻の衝突によるoCsm地震(3),島弧Mantleとの衝突によるofAcC地震(5)およびKamc地震(1・2),平面化したSlabが併進Mantleに押されたり,下部Mantle表面との衝突による深発地震面Vlad地震(7)である.
これらの巨大地震の震源を黄色に塗潰し,Slab深層の平面化地震uBdCの海溝距離面図・震央地図・縦断面図・時系列図・歪主応力方位図に挿入し,対応関係を示す(図359).

図359.千島海溝域のSlab深層の平面化地震uBdCの海溝距離断面図・震央地図・縦断面図・時系列図・歪主応力方位図.
 M8.0以上の巨大地震の震源の丸印を黄色に塗潰して挿入.右中の時系列図左縁の数字(1-7)は巨大地震番号.
Clickすると拡大します.

 縦断面図左端の襟裳小円北区の根室沖に多数の震源が集まっているが,巨大地震の期間には震源分布が右側に広がり,Slab平面化の強度とともに変化し,巨大地震と対応している.
 千島海溝域のSlab深層平面化地震uBdCの総地震断層面積規模移動平均曲線areaMは過去百年間の千島海溝域の並走Mantleの押出し量変動を表している.この変動はSlab表層平面化地震fAcCや平面化後の深発地震面VladCとも関係し,更に日本海溝域の襟裳小円区の深発地震面VladE・最上小円区のVladM・鹿島小円区VladK,そして伊豆海溝区の翼状SlabのWβ・Wγとも関係していると考えられる.これらの関係を解析するため,総地震断層面積規模移動平均曲線areaMと積算地震断層面積Benioff図を比較する(図360).

図360.伊豆海溝域翼状Slab WγWβ・日本海溝域深発地震面VladKME・千島海溝域深発地震面VladC・Slab表層平面化fAcC・Slab深層平面化uBdCの総地震断層面積の変動.
 総地震断層面積規模移動平均曲線をareaM,積算地震断層面積図をBenioffと示す.Benioffの下の数値は,総地震地震断層面積のPlate運動面積に対する比.下のΣMは総地震断層面積を規模に変換した値,243.5dayは移動平均算出幅,nは地震個数.左縁の数字は西暦年数,右縁の数字は千島海溝域のM8.0以上の巨大地震番号.
Clickすると拡大します.

 千島海溝域のSlab深層平面化地震uBdCと表層平面化地震fAcCのBenioff曲線は巨大地震5近くに大きな段差を有し,共通する変動を記録している.ただし,areaM曲線の対応は不明瞭である.areaM曲線については,現在から巨大地震6までのuBdCとVladCに類似する変動が認められ,伊豆海溝域のWγWβにも認められる.

4.2020年3月の月刊地震予報

 2019年9月から継続していた地震活動静穏化は,2020年2月13日千島海溝域択捉島沖M7.2によって日本全域の総地震断層面積のPlate運動面積に対する比が1.5と2018年12月21日Kamchatka沖M7.3(月刊地震予報112)以来13ヶ月ぶりに1を超えた.千島海溝域はM8.0以上の巨大地震によってPlate面積を消化してきており(図357),次の巨大地震が心配されるが,多様な巨大地震間隔のため(図358),今回と2018年のM7級の地震が前兆であるかは分からない.
太平洋Plateの海溝に沿う同心円状屈曲沈込と平面化は,日本列島の巨大地震を支配し,巨大地震は集積歪を解放し,日本列島の歪分布と沈込・平面化の様相を改変すると考えられる.千島海溝域のSlab平面化地震uBdCと深発地震面地震VladC,更に伊豆海溝域の翼状Slabの地震WγWβに東日本巨大地震を挟む期間で共通する変動が認められたことは,異常静穏化が進行してる他海溝域に変動をもたらすことも充分考えられるので注意深く見守る必要がある.

引用文献

Seno, T. &Eguchi, T. (1983) Seismotectonics of the western Pacific region. Geodynamics of the western Pacific-Indonesian region, Geodynamics Series, 11, American Geophysical Union, 5-40.
宇佐美龍夫(2003)日本被害地震総覧.東京大学出版会,605p.
渡辺偉夫(2011)日本被害津波総覧(第2版)東京大学出版会,238p.