2025年1月29日 発行
1.2024年12月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解によると,2024年12月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で7個0.521月分,千島海溝域で2個1.375月分,日本海溝域で2個0.062月分,伊豆・小笠原海溝域で3個0.316月分,南海・琉球海溝域で0個であった(2024年12月日本全図月別).
2024年12月の総地震断層面積規模はΣM6.9で,最大地震は2024年12月27日の千島小円区深度171㎞の千島平面化得撫uBdCUr震源区M6.8npで,M6.0以上はこれ1個のみである.
最大地震2024年12月27日M6.8の震度分布は,震源から離れた北海道と本州北部についてしか観測点不在のため得られていない.海溝輪郭が島弧側に凸に屈曲している千島海溝と日本海溝の会合点から沈込む太平洋Slabは過剰となり,机の角のTableclothのように襞ができる.その襞となる屈曲部で震度1で,襞の外縁で震度2と大きくなっている(図597).この震度分布は千島海溝と日本海溝から沈込む太平洋Slabが一連であり,Slabに襞ができていることを示唆している.

図597.2024年12月のM6.0以上のCMT解震度分布.
2024年12月27日千島平面化震源帯得撫uBdCUr震源区の深度171㎞ M6.8np.
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2024年12月までの日本全域2年間のCMT解は377個で,その総地震断層面積規模ΣM8.0の,Plate運動面積規模M8.3に対する比は0.545である(図598の中図上).日本全域のBenioff曲線(図598右図上左端Total/4)には2024年1月1日能登半島M7.5(月刊地震予報173),2024年4月3日の台湾海溝震源帯M7.4(月刊地震予報176),2024年8月8日九州小円区深度36㎞の日向灘M7.0(月刊地震予報180)の3つの段が認められ,それ以降静穏化していたが,2024年末に千島海溝域(図598右図右端A)に3つ目の段が認められ,Total/4(図598右図左端)にも4段目の兆しが出ている.

図598 .2024年12月までの日本全域2年間CMT解.
左図:震央地図,中図:海溝距離断面図.震源円の直径は地震断層長である(月刊地震予報173)が,この期間の地震規模は小さいので実際のCMT規模に1.5を加えΔM+1.5とし,8倍拡大.数字とMは,M7.0以上及び2024年12月のM6.0以上のCMT解発生年月日・規模.
右図:時系列図は,海洋側から見た海溝域配列に合わせ,右から左にA千島海溝域Chishima,B日本海溝域Japan,C伊豆・小笠原海溝域OgsIz,D南海・琉球海溝域RykNnk,日本全域Total,を配列.縦軸は時系列で,設定期間開始(下端2023年1月1日)から終了(上端2024年12月31日)までの731日間で,右図右端の数字は年月数.設定期間の250等分期間2.9day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36;特報5).
Benioff図(右上図)の横軸はPlate運動面積で,各海溝域枠の横幅はこの期間のPlate運動面積に比例させてあり,左端の日本全域Total/4のみ4分の1に縮小.
階段状のBenioff曲線は,左下隅から右上隅に届くように横幅を合わせ,上縁に総地震断層面積ΣMのPlate運動面積に対する比を示した.下縁の鈎括弧内右の数値[8.3] [7.9] [7.6] [7.5] [7.9]は設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模で,日本全域ではこの間にM8.3の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.上図右下端の(M6.1step)は,等分期間2.9日以内にM6.1以上の地震がTotal/4のBenioff曲線に段差与える.
地震断層面積移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は地震断層面積規模で,等分期間「2.9day」に前後期間を加えた8.7日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積規模「M2 M5 M8」.右下図上縁の数値は総地震断層面積(km2単位)である.
areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,座屈逆断層型pdを橙色・剪断逆断層型psを赤色・横擦断層型nを緑色・正断層型tを黒色.
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2.千島平面化得撫uBdCUr震源区M6.8np
2024年12月27日21時47分,千島平面化得撫uBdCUr震源区の深度171㎞でM6.8npが発生した.それに先立ち,東北東(方位53°)120㎞で千島平面化松輪uBdCMtw震源区の深度205㎞でも2024年12月8日にM4.8ntが発生している.
千島海溝域の過去2年間CMT解Benioff曲線(図598)には,2024年1月の能登半島地震の2024年8月の日向灘の地震に同期する段差と2024年12月の本地震による段差が認められるが,それらの総地震断層面積はPlate運動面積の4分の1以下の0.238と小さい.しかし,過去約百年間の観測地震記録では,0.564と倍以上に達している(図599).また,そのBenioff曲線は,傾斜がPlate運動累積面積と同程度の活動期(図599右中時系列図左端の桃色)と殆ど増加しない静穏期(空色)が繰り返している(月刊地震予報180,新妻,2024).
この活動期と静穏期の境界を活動期の最初と最後の大地震とすると,2024年12月の現在は,2013年5月24日 M8.3Pb WdtiCdKamc 632kmまでの第3活動期の後に続く第3静穏期にあり,第4活動期の開始のM8級大地震を待っている状態にある;発生年月日・規模発震機構型・震源区 /深度;[地震個数]・総地震断層面積規模ΣM/Plate運動集積面積規模M・最大地震max;
第3静穏期 [262] ΣM7.9/M8.5 max2020/3/25 M7.5Pb TrCKamcP/53km
2013/5/24 M8.3Pb WdtiCdKamc/632km
第3活動期 [504] ΣM8.7/M8.7 max2007/1/13 M7.8Te TrCMtwte/10km
1994/10/4 M8.2左逆 oAcCEtr/28km
第2静穏期 [864] ΣM8.3/M8.8 max1993/1/15 M7.5? uBdJErm/101km
1969/8/12 M7.8逆 oAcCEtr/38km
第2活動期 [357] ΣM8.7/M8.7 max1958/11/7 M8.1逆 oAcCEtr/13km
1952/11/5 M8.2? oAcCKamc/0km
第1静穏期 [375] ΣM8.4/M8.9 max1937/2/21 M7.6? TrCEtr/12km
1923/2/4 M8.3? oAcCKamc/1km
静穏期の総地震断層面積規模のPlate運動面積規模との差ΔMは-0.5から-0.6で,地震として開放される断層面積はPlate運動面積の4分の1以下で,残る4分3は歪として累積し,活動期のΔMは0.0と累積するPlate運動歪をそのまま地震断層面積として開放している.活動期の活動が停止し,静穏期となるのは,累積していた歪が地震として開放され尽くすからであろう.

図599.千島海溝域(Kamchatka小円区・千島小円区・襟裳小円北区)観測地震の地震断層長円表示.
左図:震央地図,右下方への曲線は北米Plateに対する太平洋Pllate運動PC-NAのEuler緯線.Plate運動のEuler極と回転角は上縁,Euler緯線の緯度と年間速度cm/yearは右縁に表示.
中図:海溝距離断面図.震源円の直径は地震断層長である(月刊地震予報173).数字とMは,M8.0以上と今月2024年12月のM6.0以上の地震発生年月日・規模.
右図:時系列図の縦軸は,設定期間開始(下端1922年1月1日)から終了(上端2024年12月31日)までで,右図右端の数字は年数.設定期間の250等分期間150.5day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36;特報5).
階段状のBenioff曲線(右中図左端)は,左下隅から右上隅に届くように合わせ,上縁に総地震断層面積ΣM9.1のPlate運動面積に対する比「0.564」を示した.設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模はM9.3で,この規模の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.右中図右下端の(M7.6step)は,等分期間150.5日以内にM7.6以上の地震がBenioff曲線に段差与える.
地震断層面積移動平均規模図areaM(右中図左端)の横軸は地震断層面積規模で,等分期間「150.5day」に前後期間を加えた451.5日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.
areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,不明?を灰色・座屈逆断層型pdを橙色・剪断逆断層型psを赤色・横擦断層型nを緑色・正断層型tを黒色.
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千島海溝域(Kamchatka小円区・千島小円区・襟裳小円北区)全域(Total 図600上左端)の総地震断層面積のPlate運動面積に対する比は「0.564」であるが,その半分以上の「0.309」を担っているのは島弧地殻と太平洋Slab上面の島弧沖oAc震源帯(図600下右端から2番目)で,次いで「0.094」が下部Mantle上面に突入する太平洋Slab先端の和達Wdti震源帯(図600下左端)と「0.090」の太平洋Slabが同心円状屈曲して沈込を開始する海溝Tr震源帯(図600下右端),そして「0.017」の平面化uBd震源帯(図600左から2番目)である.これら9割以上の歪を地震として開放している4つの震源帯の中で,通常想定されているPlate境界面の摩擦抵抗によって蓄えた剪断歪を解放する剪断逆断層型ps(赤色)は島弧沖oAc震源帯のみで,残りの半分近くは太平洋Slabの同心円状屈曲・平面化(正断層型t黒色)・下部Mantle上面への突入(座屈逆断層型pd橙色)地震によって蓄えた歪を開放している.
第3活動期末の和達Wdti震源帯 M8.3以外の活動期・静穏期境界大地震は,島弧沖oAc震源帯が占め,活動期内の最大地震も島弧沖oAc震源帯および海溝Tr震源帯である.しかし,静穏期内に歪を破壊限界まで蓄積し最大地震として開放しているのは海溝Tr震源帯と平面化uBd震源帯で,島弧沖oAc震源帯を含まない.静穏期に島弧沖oAc震源帯は破壊限界に達せず歪を蓄積しているのであろう.
Benioff曲線にはほぼ一様に増大する震源帯と明確な段を持つ震源帯がある.一様に増大するのは平面化uBd震源帯(図600下左から2番目)と前弧沖ofAc震源帯(図600下右から3番目)であるが,歪の蓄積と解放が釣り合って平衡状態にあるものと考えられる.
明確な段を持つBemopffl曲線は図600上列の左端(Total)を除く島弧地殻・Mantleの震源帯であるが,いずれも第1静穏期と第2活動期内に収まっている.左から2番目の日本海岸沖oJsc震源帯は,日本列島地殻に日本海底が沈込むAmur Plateと北米PlateのAM-NA境界であるが,その段に先行して太平洋Plateと北米PlateのPC-NAによる日本列島地殻圧縮による近海nSh震源帯と太平洋岸Pfc震源帯の段が認められる.

図600.千島海溝域(Kamchatka小円区・千島小円区・襟裳小円北区)観測地震の活動期と静穏期における震源帯別地震断層面積移動平均規模曲線areaM・地震断層面積累積曲線Benioff.
桃色:活動期,空色:静穏期,赤数字:活動期番号,青数字:静穏期番号.縦軸の数値は年号.
areaM・Benioff曲線の発震機構型による線形内分比彩段は,灰色:?不明・橙色:座屈型逆断層・赤色:剪断型逆断層・緑色:横擦断層・黒色:正断層.
上列左端:全域Total,右端:海溝距離断面における震源帯.
上列(島弧地殻・Mantleの震源帯):日本海岸沖oJsc震源帯・日本海岸Jsc震源帯・近海nSh震源帯・太平洋岸Pfc震源帯.
下列(太平洋Slabの震源帯):和達Wdti震源帯・平面化uBd震源帯・前弧fAc震源帯・前弧沖ofAc震源帯・島弧沖oAc震源帯・海溝Tr震源帯.
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東北弧沖震源帯平成oAcJHs震源区の2011年3月11日M9.0については,太平洋Slabが深度660㎞の下部Mantle上面に先立って突入する東北和達δVladivostok WdtiJdVlad震源区の次々大・最大・次大地震が約十年前と1年前に在ったが;
2010/2/18 WdtiJdVladp M6.9pb 631㎞
2002/6/29 WdtiJdVlad+pb M7.2+pb 617㎞
1999/4/8 WdtiJdVlad+pb M7.1+pb 610㎞
千島海溝域でも約10年前に最大・次大地震そして規模は小さいが昨年・一昨年と起こっており;
2024/6/6 WdtiCdSmsP:1] M5.9Ps 深度607km
2021/9/3 WdtiCdUr M5.8+pb 深度601km
2013/5/24 WdtiCdKamc M8.3Pb 深度632km
2012/8/14 WdtiCdUr M7.7pb 深度610km
千島海溝域でもM8級の巨大地震の発生が危惧される.
M8.0以上の巨大地震はKamchatka域と択捉域でその間の得撫域が空白域となっており,今月の千島平面化震源帯の連発地震も起こっていることから(図599),第4活動期の前震とも考えられるので警戒が必要である.
3.2024年12月の月刊地震予報
伊豆弧北端の丹沢・伊豆衝突による西南日本の土台骨を破損した2024年1月1日能登半島地震M7.5(月刊地震予報173)後の2024年4月の台湾M7.4Psおよび2024年8月の日向灘M7.0psに続き11月の吐噶喇沖M6.1Tは,琉球海溝域の歪解放が西南海溝TrPh震源帯で継続していることを示しており,更なる活動が心配される.特に,衝突境界である台湾での地震に警戒が必要である.
2024年8月にはOkhotskでM6.5Pbその10日後にKamchatkaでM7.0psが発生し,2024年12月には千島平面化得撫uBdCUr震源区の深度171㎞でM6.8npが発生している.これらの活動を含めても,過去2年間のPlate運動歪に対する総地震断層面積は0.238と4分の1に過ぎず,2013年5月24日の太平洋Slab先端の下部Mantle突入以来10年以上続いている第3静穏期は,Slab沈込開始の同心円状屈曲とその平面化によるPlate歪の累積も解放しており,第4活動期開始の島弧沖震源帯のM8級巨大地震襲来が懸念される.今後の動向に警戒が必要である.
引用文献
新妻信明(2024)「2011年3月11日の東北弧沖平成巨大地震M9.0と太平洋Slabの下部Mantleへの沈込および千島海溝域の巨大地震」.日本地質学会,山形年会,T7-O-8..
2024年12月30日 発行
1.2024年11月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解によると,2024年11月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で21個0.264月分,千島海溝域で1個0.021月分,日本海溝域で6個0.057月分,伊豆・小笠原海溝域で6個0.390月分,南海・琉球海溝域で8個で0.508月分であった(2024年11月日本全図月別).
2024年11月の総地震断層面積規模はΣM6.6で,最大地震は2024年11月26日能登域深度10㎞のM6.2pb,次大が2024年11月17日琉球小円区深度29㎞のM6.1Tで,M6.0以上のCMT解はこの2個であった.規模は小さいが2024年11月16日から20日まで陸奥湾で連発地震があった.
2024年11月17日西南海溝九州TrPhKys震源区深度29㎞ M6.1Tの震度分布は,(図589左上)では,最大震度3で沖縄本島から中国・四国西部まで震度1以上であった.11月26日西南日本海岸越前JscPhEcz震源区深度10㎞ M6.2pb(図589左下)では,震央部の最大震度5弱から震度1まで同心円状に本州を覆っている.陸奥湾連発地震最大の11月20日東北脊梁下北BkbJSmk震源区深度10㎞ M4.8+psでは最大震度4で震央の陸奥湾を同心円状に覆っている(図589右上).

図589.2024年11月のM6.0以上と連発地震最大のCMT震度分布.
左上:2024年11月17日深度29㎞西南海溝九州TrPhKys震源区M6.1T.
右上:2024年11月20日深度10㎞東北脊梁下北BkbJSmk震源区M4.8+ps.
左下;2024年11月26日深度10㎞西南日本海岸越前JscPhEcz震源区M6.2pb.
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2024年11月までの日本全域2年間のCMT解は378個で,その総地震断層面積規模はΣM8.0,Plate運動面積規模はM8.3で,その比は0.527である(図590の中図上).Benioff曲線(図590右図上左端Total/4)には2024年1月1日能登半島M7.5(月刊地震予報173),2024年4月3日の台湾海溝震源帯M7.4(月刊地震予報176),2024年8月8日九州小円区深度36㎞の日向灘M7.0(月刊地震予報180)の3つの段が認められ,それ以降は静穏化している.

図590 .2024年11月までの日本全域2年間CMT解.
左図:震央地図,中図:海溝距離断面図.震源円の直径は地震断層長であるが,この期間の地震規模が小さいので実際のCMT規模に1.5を加えΔM+1.5とし,8倍拡大.数字とMは,M7.0以上及び2024年11月のM6.0以上のCMT解年月日・規模.
右図:時系列図は,海洋側から見た海溝域配列に合わせ,右から左にA千島海溝域Chishima,B日本海溝域Japan,C伊豆・小笠原海溝域OgsIz,D南海・琉球海溝域RykNnk,日本全域Total,を配列.縦軸は時系列で,設定期間開始(下端2022年12月1日)から終了(上端2024年11月30日)までの731日間で,右図右端の数字は年数.設定期間の250等分期間2.9day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36;特報5).
Benioff図(右上図)の横軸はPlate運動面積で,各海溝域枠の横幅はこの期間のPlate運動面積に比例させてあり,左端の日本全域Total/4のみ4分の1に縮小.
階段状のBenioff曲線は,左下隅から右上隅に届くように横幅を合わせ,上縁に総地震断層面積ΣMのPlate運動面積に対する比を示した.下縁の鈎括弧内右の数値[8.3] [7.9] [7.6] [7.5] [7.9]は設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模で,日本全域ではこの間にM8.3の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.上図右下端の(M6.1step)は,等分期間2.9日以内にM6.1以上の地震がTotal/4のBenioff曲線に段差与える.
地震断層面積移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は地震断層面積規模で,等分期間「2.9day」に前後期間を加えた8.7日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積規模「M2 M5 M8」.右下図上縁の数値は総地震断層面積(km2単位)である.
areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,座屈逆断層型pdを橙色・剪断逆断層型psを赤色・横擦断層型nを緑色・正断層型tを黒色.
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2.西南日本海岸越前JscPhEcz震源区M6.2pb
2024年11月26日西南日本海岸越前JscPhEcz震源区の深度10㎞でM6.2pbが発生した.この震源区は,能登半島西岸を境界として西南日本海岸能登JscPhNoto震源区と接している.能登JscPhNoto震源区では2024年1月1日「能登半島地震」M7.5が発生したが,その歪軸は北北西‐南南東の伊豆丹沢衝突方位であった(月刊地震予報173).
本地震の越前JscPhEcz震源区のCMT解歪軸方位は北西-南東で太平洋PC-北米NA Plate方位に揃っている(図591中).両震源区の南側の西南脊梁飛騨BkbPhHida震源区でも越前JscPhEcz震源区と同じPC-NAに揃っている(図591左).
CMT解の時系列図(図591中行)において,飛騨BkbPhHida震源区(図591左列)のBenioff 曲線には4個の段があるが,2番目の段は2011年3月11日M9.0の東北弧沖平成oAcJHs巨大地震の前震に対応していた(速報55).それに先行する越前JscPhEcz震源区の最初で最大の段2007年3月25日M6.6PbについてはM9.0始動との関連が予想される.

図591.2024年11月26日M6.2pbが発生した西南日本海岸越前JscPhEcz震源区(中図)と能登JscPhNoto震源区(右図)および西南脊梁飛騨BkbPhHida震源区(左図)のCMT解歪軸方位とPlate運動Euler緯線.
上図:震央地図とPlate運動に沿うEuler緯線.上縁にPlate PC NA PH AMとPlate運動Euler極緯度・経度・運動速度算出式.右縁にEuler緯度(年間運動速度cm).
中図:時系列図.左端が地震断層面積移動平均規模曲線areaM.中がBenioff曲線.右がCMTの縦断面位置と.右縁の数値は発生年.
下図:歪軸方位図.中央横線は基準の海溝傾斜方位 TrDip.紫色折線(Sub)はPlate運動方位.左・中・右何れの震源区においても中央の紫色線付近とその逆方位の上下端に主圧縮P軸(〇印)が集中し,Euler緯線算出に使用したPlate運動が歪軸方位と合致していることを示している.
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西南日本海岸越前JscPhEcz震源区では126個の地震が記録されているが(図592),その9大地震は;
6] 2007/3/25 M6.6Pb
3] 1961/8/19 M7.0 「北美濃地震」
7] 1952/3/7 M6.5 「大聖寺沖地震」
1] 1948/6/28 M7.1 「福井地震」
9] 1930/10/17 M6.3
9] 1892/12/11 M6.3 死者1.
8] 1892/12/9 M6.4
1] 1858/4/9 M7.1 「飛越地震」死者426.
4] 1855/3/18 M6.8 死者12.
4] 1640/11/23 M6.8 人畜の死傷多.
死者多数のM7級の活動がBenioff曲線の1600年代・1800年代・1900年代3つの段に認められるが,それに続き2000年代の活動期に入ったことも予想されることから,更なる警戒が必要である.

図592.西南日本海岸越前JscPhEcz震源区の歴史地震記録.
左図:震央地図.震央は地震断層長円で表示しているが,地震規模が小さいのでΔM=+0.5を加え,地震断層長円径を2倍に拡大.
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3.西南海溝九州TrPhKys震源区M6.1T
2024年11月17日西南海溝九州TrPhKys震源区の吐噶喇列島沖の深度29㎞Slab内でM6.1Tが起こった(図590).
琉球海溝域には,Philippine海Plate PHが南華Plate SC Plateに沈込んでおり,そのPlate運動累積面積(図593下図右端のBenioff図左下隅から右上方に伸びる直線)の3分の1ではあるものの,ほぼ一定の速度で地震断層面積として解放されている.しかし,震源帯別では,Benioff曲線に段差が認められ,前弧から背弧側へ「海溝TrPh」・「平面化uBdPh」・「拡大RifPh」と歪解放の震源帯が順次移行している(図592下右端図,月刊地震予報122,月刊地震予報159).
歪解放の最大地震帯である西南海溝TrPh震源帯の段差を歪解放周期の開始とするとCMT解は「0」から「3」までの4つの歪解放周期に区分できる.各歪解放周期は「海溝Tr解放期」・「平面化uBd解放期」・「裂開Rif解放期」を一巡する.
現在は,第3周期の海溝解放期 「3Tr」にあるが,平面化震源帯の段差が認められず,海溝震源帯の更なる段差も発達しており,海溝震源帯の更なる活動が危惧される.特にPlate衝突境界の台湾の地震活動に警戒が必要である.

図593.琉球海溝域の震源帯別歪解放周期.
左から「西南裂開RifPh」・「西南平面化uBdPh」・「西南海溝TrPh」震源帯,そして右端が全CMT解「Total」.
上図:震央地図.CMT解の規模から算出される地震断層長円表示「Circle」において,CMT規模が小さいためΔM=+1を加算し,直径を4倍に拡大(震央地図列の右下凡例).表示されている震央円面積の16分の1の歪面積が解放される.表示期間のPlate運動による累積面積規模はM8.8で,ほぼ凡例外円の面積.
下図列:左がCMT解の地震断層面積移動平均規模areaM曲線.右がBenioff曲線.右縁の数値は年数.CMT解全体(右端Total)のBenioff曲線は左下隅から右上隅にほぼ直線状に増大しているが,震源帯別では明確な段が認められ,各震源帯によって歪が順次解放されていることを示している.震源帯別図の右縁の数記号は歪解放周期番号と歪解放期名.0から3まで4回の歪解放周期があり,前弧から背弧側へ「海溝Tr」・「平面化uBd」・「裂開Rif」の震源帯の解放期が巡回している.現在は第3歪解放周期の「海溝Tr」解放期にある.
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4.陸奥湾の連発地震と東北脊梁「下北BkbJSmk」震源区
2024年11月16日M4.6+bpから下北半島西方の陸奥湾の「東北脊梁BkbJ震源帯」で連発地震が開始し,11月20日M5.1+psを最大として11月21日M4.1psまで続いた.
東北脊梁震源帯BkbJは北海道渡島半島から信越域まで連なる脊梁活火山帯に沿い,北から渡島Osm・下北Smk・陸羽Rik・栗駒Krk・蔵王Zao・猪苗代Inw・日光Nik・信越Sezの8つの震源区に区分される(図594左端図).

図594.東北脊梁BkbJ震源帯震源区とCMT解震源分布・発震時系列・歪軸方位.
左端図:初動IM発震機構解分布と東北脊梁震源帯震源区の区分.
右図:CMT発震機構解の震源分布・時系列・歪軸方位.震央地図には北米Plate NAに対する太平洋Plate PCの相対運動のEuler緯線が作図されている.中央横線を海溝傾斜方位とする歪軸方位図では,Euler緯線方位が中央横線付近の紫色折線(Sub)で表される.東北脊梁BkbJ震源帯のCMT解の主圧縮歪軸方位(〇印)は紫色折線およびその逆方位の上下端に揃っており,PC-NA Plate相対運動が日本列島脊梁の隆起を支配していることを示している.
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東北脊梁下北BkbJSmk震源区は恐山・八甲田山の活火山を含み,1858年M6.0以降30個の地震が記録されている(図595). 東北脊梁下北BkbJSmk震源区の9大歴史地震は;
8] 2024/11/20 M4.8+ps
8] 1986/8/10 M4.8
2] 1978/5/16 M5.8
2] 1978/5/16 M5.8
7] 1972/4/25 M5.1
4] 1947/3/15 M5.5
6] 1946/7/9 M5.2
5] 1930/12/6 M5.3
1] 1858/9/29 M6.0
最大は,最初の1858年9月29日M6.0で,米倉潰れ道路亀裂発生し,それに先行し津波被害が大きく死者5の1856年8月23日前弧沖下北ofAcJSmk M7.5,土蔵破損と堤水門破損の1858年7月8日前弧沖下北ofAcJSmk M7.3,死者426の1958年4月9日「飛越地震」JscPhEcz M7.1が起こっている(宇佐美,2003). 2024年11月も,東北脊梁下北BkbJSmk震源区の連発地震と西南日本海岸越前JscPhEcz震源区が起こっており,両震源区の関連が予想される.
次大の1978年5月16日の2個のM5.8については負傷者2が報告されている(宇佐美,2003).それに先行し,死者25の1978年1月14日「伊豆大島近海地震」PfcIK M7.0,1978年3月7日伊豆Slabの WdtiPcGi M7.2,1978年3月23日択捉oAcCEtr M7.0,1978年3月25日択捉oAcCEtr M7.3があり,後には死者18の1978年6月12日「宮城県沖地震」ofAcJKksM7.4,1978年7月23日台湾TrPhTw M7.1,1978年7月30日琉球TrPhRk M7.4,1978年12月6日択捉fAcCEtr M7.2があり,M7.0級の多発期に起こっている.10年以上静穏化の続く千島海溝域(/7961>月刊地震予報175)の活動と関連していることは,今回の連発地震が千島海溝域のM8級地震の前駆活動とも考えられるので,警戒が必要である.

図595.東北脊梁下北BkbJSmk震源区の歴史地震記録.
地震規模が小さいのでΔM=+2.0を加え,地震断層長円径を16倍拡大.
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東北脊梁BkbJ震源帯の歴史地震は,島弧上部地殻内で発生して甚大な被害を与え,現在も脊梁が隆起していることを顕示している(宇佐美,2003,図596).9大歴史地震と被害は;
4] 2008/6/14 BkbJKrk M7.0ps 大規模山体崩壊,死者・不明者23.
4] 1902/1/30 BkbJRik M7.0 家屋倒潰焼失,死者1.
3] 1896/8/31 BkbJRik M7.2 「陸羽地震」千屋断層・川舟断層が形成,死者2百以上.
2] 1847/5/8 BkbJSez M7.4 「善光寺地震」山崩れ水没,温泉停止・噴上.死者8千以上.
4] 1683/10/20 BkbJNik M7.0 山崩れによる湖生じ,40年後に決壊して大洪水.
4] 1683/6/18 BkbJNik M7.0 寺院の石垣残らず崩れ,赤薙山北方崩,前・余震多数.
4] 1659/4/21 BkbJInw M7.0 城石垣崩れ,死者48.
9] 1611/9/27 BkbJInw M6.9 若松城の石垣悉く崩れ殿守破損,大寺破損,死者3700余.
1] 818/?/? BkbJNik M7.5 山崩れ圧死者多数.
脊梁震源帯は日本列島の中央を貫き,居住域に近接して直下型地震となる為,多大な被害を齎すが,再来間隔が長く不意打ちされることが多く,その対策に地震予報が期待される.他震源区や他震源帯との関連についての解析,及びその力学的裏付けが急務である.

図596.東北脊梁BkbJ震源帯の歴史地震記録.
地震規模が小さいのでΔM=0.5を加え,地震断層長円径を2倍に拡大.
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5.2024年12月の月刊地震予報
伊豆弧北端の丹沢・伊豆衝突による西南日本の土台骨を破損した2024年1月1日能登半島地震M7.5(月刊地震予報173)後の2024年4月の台湾M7.4Psおよび2024年8月の日向灘M7.0psに続き11月の吐噶喇沖M6.1Tは,琉球海溝域の歪解放が西南海溝TrPh震源帯で継続していることを示しており,更なる活動が心配される.特に,衝突境界である台湾での地震に警戒が必要である.
2024年8月にはOkhotskでM6.5Pbその10日後にKamchatkaでM7.0psが発生している千島海溝域では,この2つの活動を含めても,2年間のPlate運動歪に対する総地震断層面積は0.179と数分の1に過ぎず,静穏期は10年以上も続いており,M8級巨大地震襲来が懸念されている.2024年11月の東北脊梁下北BkbJSmkの連発地震はその前触れとも考えられるので警戒が必要である.
引用文献
宇佐美龍夫(2003)日本被害地震総覧.東京大学出版会(東京),605p.
2024年11月15日 発行
1.2024年10月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解によると,2024年10月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で6個0.025月分,千島海溝域で1個0.002月分,日本海溝域で3個0.050月分,伊豆・小笠原海溝域で2個0.113月分,南海・琉球海溝域で0個であった(2024年10月日本全図月別).
2024年10月の総地震断層面積規模はΣM5.8で,最大地震は,2024年10月18日小笠原海台小円区深度13㎞のM5.5Psで,M6.0以上の地震は無かった.
2024年10月までの日本全域2年間のCMT解は372個で,その総地震断層面積規模はΣM8.0,Plate運動面積規模はM8.3で,その比は0.521である(図588の中図上).Benioff曲線(図588右図上左端Total/4)には2024年1月1日能登半島M7.5(月刊地震予報173),2024年4月3日の台湾海溝震源帯M7.4(月刊地震予報176),2024年8月8日九州小円区深度36㎞の日向灘M7.0(月刊地震予報180)の3つの段が認められ,それ以降は静穏化している.

図588 .2024年10月までの日本全域2年間CMT解.
左図:震央地図,中図:海溝距離断面図.震源円の直径は地震断層長であるが,この期間の地震規模が小さいので実際のCMT規模に1.5を加えΔM+1.5と,8倍拡大してある.数字とMは,M7.0以上と2024年10月の最大CMT解年月日・規模.
右図:時系列図は,海洋側から見た海溝域配列に合わせ,右から左にA千島海溝域Chishima,B日本海溝域Japan,C伊豆・小笠原海溝域OgsIz,D南海・琉球海溝域RykNnk,日本全域Total,を配列.縦軸は時系列で,設定期間の開始(下端2022年11月1日)から終了(上端2024年10月31日)までの731日間で,右図右端の数字は年数.設定期間の250等分期間2.9day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36;特報5).
Benioff図(右上図)の横軸はPlate運動面積で,各海溝域枠の横幅はこの期間のPlate運動面積に比例させてあり,左端の日本全域Total/4のみ4分の1に縮小.
階段状のBenioff曲線は,左下隅から右上隅に届くように横幅を合わせ,上縁に総地震断層面積ΣMのPlate運動面積に対する比を示した.下縁の鈎括弧内右の数値[8.3] [7.9] [7.6] [7.5] [7.9]は設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模で,日本全域ではこの間にM8.3の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.上図右下端の(M6.1step)は,等分期間2.9日以内にM6.1以上の地震がTotal/4のBenioff曲線に段差与える.
地震断層面積移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は地震断層面積規模で,等分期間「2.9day」に前後期間を加えた8.7日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積規模「M2 M5 M8」.右下図上縁の数値は総地震断層面積(km2単位)である.
areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,座屈逆断層型を橙色・剪断逆断層型を赤色・横擦断層型を緑色・正断層型を黒色.
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2.2024年11月の月刊地震予報
伊豆弧北端の丹沢・伊豆衝突による西南日本の土台骨を破損した2024年1月1日能登半島地震M7.5(月刊地震予報173)後の2024年4月に台湾M7.4Psおよび2024年8月に西南日本・関東域のPlate境界の日向灘M7.0ps・足柄M5.0があり,その2日後にOkhotskでM6.5Pbそして10日後にKamchatkaでM7.0psが発生した.千島海溝域では,この2つの活動を含めても,2年間のPlate運動歪に対する総地震断層面積は0.180と数分の1に過ぎず,静穏期は10年以上も続いており,M8級巨大地震襲来が懸念される.その前震となるM7級の連発地震に警戒が必要である(月刊地震予報175).