2024年9月29日 発行
1.2024年8月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解によると,2024年8月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で16個1.367月分,千島海溝域で4個2.767月分,日本海溝域で4個0.029月分,伊豆・小笠原海溝域で2個0.043月分,南海・琉球海溝域で6個で2.199月分であった(2024年8月日本全図月別).
2024年8月の総地震断層面積規模はΣM7.3で,最大地震は,2024年8月8日九州小円区深度36㎞のM7.0で,M6.0以上の地震は,8月10日千島小円区深度417㎞のM6.5・8月16日台湾小円区深度18㎞のM6.1・8月18日千島小円区深度47㎞のM7.0である.
2024年8月までの日本全域2年間のCMT解は386個で,その総地震断層面積規模はΣM8.0,Plate運動面積規模はM8.3で,その比は0.564である(図577の中図上).Benioff曲線(図577右図上左端Total/4)には琉球海溝域の歪解放周期更新の2022年9月M7.0(月刊地震予報157),2024年1月1日能登半島M7.5(月刊地震予報173),2024年4月3日の台湾海溝震源帯M7.4の3つの段(月刊地震予報176)に,今月2024年8月に日向灘M7.0と千島海溝域AのM6.5・M7.0が4つ目の段として加わった.千島海溝域の今回の段は2013年からの静穏期を破る巨大地震の前兆とも考えられるので警戒が必要である(月刊地震予報175).
図577 .2024年8月までの日本全域2年間CMT解.
左図:震央地図,中図:海溝距離断面図.震源円の直径は地震断層長であるが,直径が小さいので実際のCMT規模に1.5を加えΔM+1.5とし,8倍に拡大してある.数字とMは,M7.0以上と2024年8月のM6.0以上のCMT解年月日・規模.
右図:時系列図は,海洋側から見た海溝域配列に合わせ,右から左にA千島海溝域Chishima,B日本海溝域Japan,C伊豆・小笠原海溝域OgsIz,D南海・琉球海溝域RykNnk,日本全域Total,を配列.縦軸は時系列で,設定期間の開始(下端2022年9月1日)から終了(上端2024年8月31日)までの731日間で,右図右端の数字は年数.設定期間の250等分期間2.9day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36;特報5).
Benioff図(右上図)の横軸はPlate運動面積で,各海溝域枠の横幅はこの期間のPlate運動面積に比例させてあり,左端の日本全域Total/4のみ4分の1に縮小.
階段状のBenioff曲線は,左下隅から右上隅に届くように横幅を合わせ,上縁に総地震断層面積のPlate運動面積に対する比を示した.下縁の鈎括弧内右の数値[8.3] [7.9] [7.6] [7.5] [7.9]は設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模で,日本全域ではこの間にM8.3の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.上図右下端の(M6.1step)は,等分期間2.9日以内にM6.1以上の地震がTotal/4のBenioff曲線に段差与える.
地震断層移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は地震断層面積規模で,等分期間「2.9day」に前後期間を加えた8.7日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積規模「M2 M5 M8」.右下図上縁の数値は総地震断層面積(km2単位)である.
areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,座屈逆断層型を橙色・剪断逆断層型を赤色・横擦断層型を緑色・正断層型を黒色.
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2.2024年8月10日千島小円区深度417㎞のM6.5と 8月18日千島小円区深度47㎞のM7.0
2024年8月10日12時28分千島小円区深度417㎞の千島面βγ震源帯択捉震源区WdtiCbgEtrでM6.5Pbが発生した(図577).本震源は深度410㎞のMantle遷移帯のβ相転移面直下で,圧縮過剰の座屈逆断層Pb型であり,太平洋Slabの押し込まれ相転移に伴ったことを示している.
本地震の最大震度3は東北地方北部で観測されているが,震源に近い北海道では震度2止まりである.千島小円区から襟裳小円区への海溝軸輪郭は島弧側に凸であるため,Slabが沈込とともに余分になり,Tableclothの様に襞状になっていることと対応している(図578).
図578.2024年8月10日12時28分千島小円区深度417㎞の千島面震源帯択捉震源区WdtiCEtr M6.5Pbの震度分布.
気象庁Home Pageによる.
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2024年8月18日4時10分Kamchatka小円区深度47㎞の千島弧沖震源帯Kamchatka震源区oAcCKamcでM7.0psが発生した(図577).本地震は,島弧地殻と沈込太平洋SlabとのPlate境界域の既存断層面再活動の剪断逆断層ps型である.
千島海溝域の今回の2個の地震は過去2年間において最大の活動であるが(図577),過去百2年間の観測地震のBenioff曲線では,その間のPlate運動M9.4の70.5%のΣM9.2が地震によって解放されている(図579).
1923年2月4日に最大地震の千島弧沖震源帯Kamchatka震源区oAcCKamc M8.3(図579の5大震源番号「1」)が発生した後,Benioff曲線が真上に向かう静穏期になり,この間に集積したPlate運動歪は,1952年3月4日東北弧沖震源帯十勝震源区oAcJTkのM8.2(図579の5大震源番号「3」)と1952年11月5日千島弧沖震源帯Kamchatka震源区oAcCKamcのM8.2(5大震源番号「3」)によって不十分ながら解放された.その後,Benioff曲線はPlate運動歪集積直線に並行するPlate運動歪順次解放期になる.1969年からBenioff曲線は真上に向かう静穏期になり,その間に集積したPlate運動歪は1994年10月4日千島弧沖震源帯択捉震源区oAcCEtr M8.2(図579の5大震源番号「3」)によって不十分ながら解放され,2013年5月24日千島面δ震源帯Kamchatka震源区WdtiCdKamcのM8.3Pb(図579の5大震源番号「1」)までPlate運動歪順次解放したが,その後現在まで10年以上静穏期となっている.
図579.千島海溝域の観測地震の地震断層長円表示.
数字は5大震源番号.Clickすると拡大します.
Plate運動歪順次解放期は,東北弧沖震源帯平成震源区oAcJHsの2011年3月11日巨大地震M9.0前の日本海溝域のCMT解にも確認され(図580),太平洋Slab先端の下部Mantle上面突入との関連が指摘されている(新妻,2024).
図580の5大震源「1」の 2003年9月29日M8.0ps東北弧沖震源帯十勝震源区oAcJTkから5大震源「2」の平成巨大地震最大前震2011年3月9日 M7.3ps東北弧沖震源帯大船渡震源区oAcJOfuまでのBenioff曲線(図580右中図左端)は,Benioff図の左下端から右上方へのPlate運動歪累積直線(灰色)にほぼ並行し,Plate運動歪を地震として順次解放して平成巨大地震に至っている.Plate運動歪累積直線に並行するBenioff曲線は5大震源「3」の2002年6月29日東北面δ地震帯Vladivostok震源区WdtiJdVlad M7.2+pbから5大震源「1」へも認められる.5大震源「3」の深度は,下部Mantle上面直上の617㎞であり,最初の5大震源「4」も深度610㎞で座屈逆断層bp型と,Slabが下部Mantleに突き刺さる際の座屈破壊によって発生している.下部Mantle上面の相転移は,低温程転移し難いため,低温のSlabは突入し難いことと対応している.
図580. 2011年3月11日東北弧沖震源帯平成震源区oAcJHs M.9.0平成巨大地震直前までのCMT解地震断層長円表示.
地震断層長円の直径は震央地図(左図)・海溝距離断面図(中図)において2倍(ΔM+0.5)に拡大.数字は5大震源番号.
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日本海溝域における2011年3月11日M9.0巨大地震は,太平洋Slabの下部Mantle上面突入による座屈逆断層型地震を契機とするPlate運動歪順次解放地震に続いて発生している.千島海溝域の深度632㎞の2013年5月24日千島面δ震源帯Kamchatka震源区WdtiCdKamcのM8.3Pbの下部Mantle突入地震(図579の5大震源番号「1」)までPlate運動歪順次解放されていたが,その後,現在まで静穏期が10年以上続き日本海溝域と異なるが,M8級巨大地震の前震となるM7級の連発地震に警戒が必要である.
3.2024年8月8日九州小円区深度36㎞の日向灘M7.0と8月16日台湾小円区深度18㎞のM6.1
2024年8月8日の16時43分M7.0psは南海Troughと琉球海溝の会合部から118㎞の九州小円区日向灘の西南海溝帯九州震源区TrPhKysで発生した.その最大震度は6弱で震度分布は東方に近畿地方,南方に吐噶喇列島まで及んだ(図581).
図581.2024年8月8日の16時43分M7.0ps西南海溝帯九州震源区TrPhKysの震度分布.
気象庁Home Pageによる.
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今回の震源の西南海溝震源帯九州震源区TrPhKysに於ける最大地震は1662年10月31日M7.8である.最大観測地震は1923年7月13日M7.3であるが,その2か月後に西南海溝震源帯相模震源区TrPhSgmで1923年9月1日大正関東地震M7.9(図582の5大震源番号「2」)が起こっている.今回の地震M7.0psは,最大CMT解であるが,翌日に足柄震源区TrPhAsgで最大震度5弱の2024年8月9日19時57分M5.0Psが起こり(図583),日向灘域と伊豆・丹沢衝突域との密接な関係を再認識させた.
図582.西南日本の江戸以降地震記録の地震断層長円表示.
数字は5大震源番号.
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図583.2024年8月9日19時57分M5.0Ps西南海溝震源帯足柄震源区TrPhAsgの震度分布.
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2024年1月1日の能登半島地震M7.5は,そのCMT歪軸傾斜方位から伊豆・丹沢衝突域からの圧縮によって発生したと考えられていた(月刊地震予報173).その後公開された国土地理院の衛星測距資料によって,伊豆・丹沢北方域が能登半島地震に伴い北西方への偏移していたが確認され(図584),伊豆・丹沢衝突との関係が支持された.この変位は中央構造線を北西方に屈曲させることから,能登半島地震は中央構造線を屈曲したと言える.中央構造線の屈曲が進行すれば,Philippine海Plateと西南日本の固着を緩め,Plate境界の地震活動を誘発する.日向灘M7.0psと足柄M5.0Psは,共に剪断逆断層ps型(月刊地震予報173)であることから固着して累積していたPlate境界面の剪断歪を,能登半島地震による西南日本の地殻・Mantleの後退によって解放したと考えられる.
図584.令和6年能登半島地震(1月1日 M7.6)前後の観測データ(広域).
国土地理院Home Page(http.www)より.
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2024年8月16日8時35分台湾小円区深度18㎞のM6.1pb西南海溝震源帯台湾震源区TrPhTwの震度分布(図585)は,八重山諸島のみ震度1となっている.
図585.2024年8月16日8時35分台湾小円区深度18㎞の西南海溝震源帯台湾震源区M6.1pbの震度分布
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琉球海溝域のCMT積算地震断層面積はPlate運動面積の4分の1ではあるが,ほぼ一定の速度で増大している(図586右図左端Totalの時系列Benioff曲線).しかし,西南海溝震源帯TrPh(図586右図右端)・西南平面化震源帯uBdPh(図586右図右から2列目)・西南裂開震源帯RifPh(図586右図右から3列目)のBenioff曲線には10年程度の間隔で明瞭な段が認められ,これらの震源帯でPlate運動歪を分担して解放していることを示唆する.各震源帯の段に「0」から「3」の番号を付けて比較すると,TrPh震源帯・uBdPh震源帯・RifPh震源帯と海溝から背弧側へと歪解放域が移行している.そこで歪解放周期のTrPh解放期を「前期」・uBdPh解放期を「中期」・RifPh解放期を「後期」と呼ぶことにする.現在は,第「3」周期前期に当たるが,2024年8月8日の日向灘のM7.0psの後に沖縄Trough北東縁の熊本で2024年8月10日14時18分M3.5ntが発生していることから,「中期」への移行が開始されていると考えられる.
図586.琉球海溝域CMT歪解放周期.
左図:全CMT震央の地震断層長円表示.
中図:小円区別海溝距離断面図.
右上図:地震断層面積の海溝距離移動平均規模areaMと積算Benioff図.
右中図:地震断層面積の震源深度移動平均規模areaMと積算Benioff図.
右下図:地震断層面積の時系列移動平均規模areaMと積算Benioff図.数値は歪解放周期番号.
彩色は発震機構型.
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4.2024年9月の月刊地震予報
千島海溝域で,今月2024年8月に過去2年間のBenioff曲線最大の段差を記録した(図577).千島海溝域では,2013年5月24日M8.3Pb下部Mantle突入地震までPlate運動歪が順次解放されていたが,その後,現在まで10年以上静穏期となっており,M8級巨大地震襲来が懸念されるが,その前震となるM7級の連発地震に警戒が必要である(月刊地震予報175).
日本列島の土台骨の上が破損した2024年1月1日能登半島地震M7.5(月刊地震予報173)によって,西南日本・関東域のPlate境界面の剪断歪が日向灘M7.1ps・足柄M5.0として開放された.その後,日向灘では余震が続いているが,南海Trough域におけるM8級の巨大地震の前震となるCMT連発地震の発生に至っていないことから,巨大地震襲来に至らないであろう.
引用文献
新妻信明(2024)2011年3月11日東北弧沖平成巨大地震M9.0と太平洋Slabの下部Mantleへの沈込および千島海溝域の巨大地震,地質学会山形年会T7-O-8.
2024年8月19日 発行
1.2024年7月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解によると,2024年7月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で17 個0.154月分,千島海溝域で3個0.034月分,日本海溝域で6個0.113月分,伊豆・小笠原海溝域で5個0.740月分,南海・琉球海溝域で3個で0.040月分であった(2024年7月日本全図月別).
2024年7月の総地震断層面積規模はΣM6.4で,最大地震は,2024年7月8日小笠原海台小円区深度575㎞のM6.2で,M6.0以上の地震は最大地震のみである.
2024年7月までの日本全域2年間のCMT解は383個で,その総地震断層面積規模はΣM8.0,Plate運動面積規模はM8.3で,その比は0.493である(図574の中図上).Benioff曲線(図574右図上左端Total/4)には琉球海溝域の歪解放周期更新の2022年9月M7.0(月刊地震予報157)と2024年1月1日能登半島M7.5(/7879>月刊地震予報173)の2つ目の大きな段に続き,2024年4月3日の台湾海溝震源帯のM7.4が3つ目の段として加わった(月刊地震予報176).台湾の段に伊豆海溝域C・日本海溝域Bも呼応している.千島海溝域AのareaM曲線(図574右下図)も呼応しているが,規模が小さくBenioff曲線に現れていない.千島海溝域では2024年6月最大のM5.9があり,小さな段を形成し,2023年12月の段から半年ぶりである.この段を加えてもPlate運動面積に対する総地震断層面積の比は0.066と,他の海溝域の0.27から0.88より1桁小さい静穏期を継続しており,数か月毎に訪れる次の段への警戒が必要である(月刊地震予報175).
図574 .2024年7月までの日本全域2年間CMT解.
左図:震央地図,中図:海溝距離断面図.震源円の直径は地震断層長であるが,直径が小さいので実際のCMT規模に2を加えΔM+2.0とし,16倍に拡大してある.数字とMは,2024年6月の最大CMTと,M7.0以上のCMT解年月日・規模.
右図:時系列図は,海洋側から見た海溝域配列に合わせ,右から左にA千島海溝域Chishima,B日本海溝域Japan,C伊豆・小笠原海溝域OgsIz,D南海・琉球海溝域RykNnk,日本全域Total,を配列.縦軸は時系列で,設定期間の開始(下端2022年8月1日)から終了(上端2024年7月31日)までの731日間で,右図右端の数字は年数.設定期間の250等分期間2.9day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36;特報5).
Benioff図(右上図)の横軸はPlate運動面積で,各海溝域枠の横幅はこの期間のPlate運動面積に比例させてあり,左端の日本全域Total/4のみ4分の1に縮小.
階段状のBenioff曲線は,左下隅から右上隅に届くように横幅を合わせ,上縁に総地震断層面積のPlate運動面積に対する比を示した.下縁の鈎括弧内右の数値[8.3] [7.9] [7.6] [7.5] [7.9]は設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模で,日本全域ではこの間にM8.3の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.上図右下端の(M6.1step)は,等分期間2.9日以内にM6.1以上の地震がTotal/4のBenioff曲線に段差与える.
地震断層移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は地震断層面積規模で,等分期間「2.9day」に前後期間を加えた8.7日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積規模「M2 M5 M8」.右下図上縁の数値は総地震断層面積(km2単位)である.
areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,座屈逆断層型を橙色・剪断逆断層型を赤色・横擦断層型を緑色・正断層型を黒色.
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2.2024年7月8日小笠原海台小円区深度575㎞のM6.2-tr
2024年7月8日5時01分小笠原海台Pl小円区の伊豆和達γ震源帯WdtiPcGでM6.2-trが発生した(図575).破壊開始の初動震源深度は598㎞,主破壊のCMT震源深度は575㎞で破壊が上方伸展している.非双偶力成分nonDC比は-14%でT/Pは0.63の西南西(P59+1)への押出過剰である.
海洋底に随行してきたMantleは,海洋底の沈込によって行き場を失って背弧側に押し出されSlabを翼状に浮き上がらせる.この浮揚力がSlab面に直交する引張力と釣り合うと圧縮横擦断層np型(図575の黄緑色〇印)に変換する.この圧縮横擦断層np型のCMTが深度550㎞に集中しているが,Mantleのβ相からγ相への相転移が深度550㎞であることから,相転移に伴うSlabの浮揚と考えられる.Mantleの相転移の際にγ相の微細結晶が形成され曲がり易くなることも相転移との関係を支持する.
本地震震源は,浮揚する伊豆和達γ震源帯WdtiPcGの最南西端に位置している.
図575.伊豆小笠原海溝域の伊豆和達γ震源帯WdtiPcGのCMT解断層長円表示.
数字とMは,2024年7月の本震源発生年月日と規模.
伊豆和達γ震源帯WdtiPcGは,伊豆小円北区南端から小笠原海台小円区北縁に分布し,深度550㎞付近で背弧側に浮揚する.
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伊豆小笠原海溝域の深発地震は裂けて多数の震源帯に分離している.それぞれの震源帯は,Mantle相転移に対応し,背弧側に浮揚,あるいは垂直に相転移面を貫いたり,横臥褶曲状に載っている(図576).
2024年7月の本震源は伊豆和達γ震源帯WdtiPcG(緑色)南下縁に位置しており,多数の震源帯に裂けて分離する機構検討に貴重な情報を提供してくれる.伊豆小笠原海溝域は,地震観測網から離れており情報が少なく,今後のCMT解の積み重ねが期待される.
図576.伊豆小笠原海溝域のMantle相転移に対応する太平洋Slabの分離と翼状形態.
数字とMは,2024年7月の伊豆和達γ震源帯WdtiPcG(緑色)南下縁の本震源発生年月日と規模.
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3.2024年8月の月刊地震予報
千島海溝域では, 過去2年間のBeioff曲線において2023年12月の段から半年以上の静穏期が続いていたが,2024年6月に段を形成した.しかし,この2年間のPlate運動面積に対する総地震断層面積の比は0.066と他の海溝域の0.27から0.88よりも桁違いに小さく,数か月間隔で繰り返す次の活動にM8級巨大地震に警戒が必要である(月刊地震予報175).
日本列島の土台骨の上が破損した2024年1月1日能登半島地震M7.5(月刊地震予報173)の影響が出てくることが予想される.関東・東北日本・西南日本域の直下型地震への警戒が必要であるとともに,その原因となった伊豆・丹沢の衝突の進行による,相模・駿河・南海Trough・琉球海溝の地震にも警戒が必要である.
2024年7月31日 発行
1.2024年6月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解によると,2024年6月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で12 個0.090月分,千島海溝域で1個0.109月分,日本海溝域で6個0.048月分,伊豆・小笠原海溝域で2個0.068月分,南海・琉球海溝域で3個で0.096月分であった(2024年6月日本全図月別).
2024年6月の総地震断層面積規模はΣM6.2で,最大地震は,2024年6月6日千島小円区深度607㎞のM5.9で,M6.0以上の地震はなかった.
2024年6月までの日本全域2年間のCMT解は383個で,その総地震断層面積規模はΣM8.0,Plate運動面積規模はM8.3で,その比は0.491である(図573の中図上).Benioff曲線(図573右図上左端Total/4)には琉球海溝域の歪解放周期更新の2022年9月M7.0(月刊地震予報157)と2024年1月1日能登半島M7.5(月刊地震予報173)の2つ目の大きな段に続き,2024年4月3日の台湾海溝震源帯のM7.4が3つ目の段として加わった(月刊地震予報176).台湾の段に伊豆海溝域C・日本海溝域Bも呼応している.千島海溝域AのareaM曲線(図573右下図)も呼応しているが,規模が小さくBenioff曲線に現れていない.千島海溝域では今月最大のM5.9があったが段形成に至っておらず,2023年12月の段から半年以上静穏期が続く最長記録を更新しており,次の段に警戒が必要である(月刊地震予報175).
図573 .2024年6月までの日本全域2年間CMT解.
左図:震央地図,中図:海溝距離断面図.震源円の直径は地震断層長であるが,直径が小さいので実際のCMT規模に2を加えΔM+2.0とし,16倍に拡大してある.数字とMは,2024年6月の最大CMTとの,M7.0以上のCMT解年月日・規模.
右図:時系列図は,海洋側から見た海溝域配列に合わせ,右から左にA千島海溝域Chishima,B日本海溝域Japan,C伊豆・小笠原海溝域OgsIz,D南海・琉球海溝域RykNnk,日本全域Total,を配列.縦軸は時系列で,設定期間の開始(下端2022年7月1日)から終了(上端2024年6月30日)までの731日間で,右図右端の数字は年数.設定期間の250等分期間2.9day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36;特報5).
Benioff図(右上図)の横軸はPlate運動面積で,各海溝域枠の横幅はこの期間のPlate運動面積に比例させてあり,左端の日本全域Total/4のみ4分の1に縮小.
階段状のBenioff曲線は,左下隅から右上隅に届くように横幅を合わせ,上縁に総地震断層面積のPlate運動面積に対する比を示した.下縁の鈎括弧内右の数値[8.3] [7.9] [7.6] [7.5] [7.9]は設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模で,日本全域ではこの間にM8.3の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.上図右下端の(M6.1step)は,等分期間2.9日以内にM6.1以上の地震がTotal/4のBenioff曲線に段差与える.
地震断層移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は地震断層面積規模で,等分期間「2.9day」に前後期間を加えた8.7日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積規模「M2 M5 M8」.右下図上縁の数値は総地震断層面積(km2単位)である.
areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,座屈逆断層型を橙色・剪断逆断層型を赤色・横擦断層型を緑色・正断層型を黒色.
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2.2024年7月の月刊地震予報
千島海溝域では,2024年6月の最大CMTのM5.9が2024年6月6日20時07分千島小円区和達深発面新知震源区WdtiSms深度607㎞であった.このCMT解で注目されるのは,破壊開始の初動震源が深度678㎞と下部Manlte上面深度660㎞より18㎞深いが,主破壊CMT深度が607kmと-71㎞も浅く,下部Mantle上面の相転移面を突き貫いていることである.下部Mantle上面の相転移面に関係するCMT解は2011年3月11日の東北弧沖平成巨大地震M9.0の前にも起こっていることから(月刊地震予報118),巨大地震の前兆とも考えられる.
千島海溝域の過去2年間のBeioff曲線において2023年12月の段から半年以上静穏期が続いており,M8級巨大地震に警戒が必要である(月刊地震予報175).
日本列島の土台骨の上が破損した2024年1月1日能登半島地震M7.5(月刊地震予報173)の影響が出てくることが予想される.関東・東北日本・西南日本域の直下型地震に警戒が必要である.
琉球海溝域では,歪解放周期(月刊地震予報139)が2022年9月18日琉球海溝震源帯M7.3によって更新された第3周期(月刊地震予報157,)の海溝解放期において2024年4月3日M7.4が起こり(月刊地震予報176),2024年5月10日の押引逆方位M5.8Proによって主歪の解放が確認され,第3海溝解放期から第3平面化解放期への移行が開始すると予報できる.