東日本巨大地震の前震・本震・余震の震央を記入した赤色立体地図

新妻地質学研究所へようこそ

2011年3月11日午後2時46分、東日本巨大地震発生。
今、仙台、東北、日本、環太平洋、地球で何が起こっているのか?

プレートテクトニクス一筋で
地球科学を研究してきた仙台在住の著者が考えます。

月刊地震予報117)西南日本のPlate運動が交錯する日向灘の地震M6.3P,2019年6月の月刊地震予報

1.2019年5月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2019年5月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で15個0.1796月分,千島海溝域で2個0.029月分,日本海溝域で7個0.075月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.034月分,南海・琉球海溝域で5個0.437月分であった(2019年5月日本全図月別).2019年2月の1割以下から4月に4割近くに回復したが,再び2割以下に低下した.
 最大地震は2019年5月10日日向灘M6.3,次大は5月15日屋久島沖M5.7ある.最大地震は1時間前のM5.6との脈震(月刊地震予報115)であった.

2.西南日本のPlate運動が交錯する日向灘の2019年5月10日地震M6.3P

 2019年5月10日8時48分に日向灘の比海Slab上面と島弧Mohoの境界付近でM6.3発震機構型P深度25kmがあった.この地震は,5月10日から12日までのCMT解4個,26日までのIS解10個は脈震を含む連発地震となっている(図319).

図319 2019年5月の日向灘連発地震.赤文字は最大地震.
クリックすると拡大します.

 最大地震のCMT発震機構(P119+22T307+67N210+3)を基準に算出したIS解応力場極性偏角は,12.3から54.1°で25°以下が基準と同じ逆断層型で圧縮P軸傾斜方位がPlate運動と逆方位(右下の主応力方位図の上下縁の黒丸印)のSlab上面に沿う剪断応力であり,25°以上が正断層型で引張T軸方位がPlate運動方位(主応力方位図中央の紫折線)に一致している.いずれも基準極性を保持しており,本破壊に至っていない(図320).

図320 2019年5月の日向灘地震の最大地震を基準にした応力場極性偏角.
クリックすると拡大します.

2-1 日向灘に並行する急傾斜Slabと活火山活動

 比海Plateが南海Trough-琉球海溝に沿って沈込んだSlabは同心円状屈曲上面に沿う震源分布として認められるが,Slabは 南海小円区西境界付近の海溝距離250kmから急に傾斜を増す.九州小円区では海溝距離200kmから急傾斜になり(図321),琉球小円区の吐噶喇(トカラ)列島では海溝距離150kmから急傾斜になる.
奄美で急傾斜の程度を減じ,沖縄本島では同心円状屈曲上面に戻っている(図322).
 日向灘のIS解の震央は,急傾斜Slabに並行する北北東-南南西方向に直線的に配列し,震源深度は島弧地殻と沈込Slabの間のMoho面付近にある(図323).

図321 比海Plate沈込Slab.
同心円状屈曲上面から傾斜を増大させるSlab内IS解
クリックすると拡大します.

図322 琉球海溝から沈込む比海Slab内CMT解.
吐噶喇列島Slabの急傾斜の程度は,奄美で減じ,沖縄本島では同心円状屈曲Slab上面付近に戻る.
クリックすると拡大します.

図323 日向灘周辺域のIS解.
クリックすると拡大します.

 急傾斜Slabと地表の活火山の分布には密接な関係がある.Slab内のIS解深度が100kmから150kmに達すると活火山が配列する.世界各地の沈込Slabにも同様な関係が認められることから,本地域の急傾斜Slabも通常のSlab同様に地表へMagmaを供給していることが確認される(図324).
 Slabが深度100-150kmに達すると,圧力による脱水反応によってMantleに水が供給され,Magmaが形成されると考えられているが(巽,1995),Slab傾斜が急な場合には給水範囲が狭まり,大量の水が集中的に供給される.九州から吐噶喇列島の急傾斜Slab上の巨大Caldera火山は集中供給される大量の水と対応しているのであろう.

図324 活火山(△印)と急傾斜Slab内の深度100-150kmのIS解.
九州までは急傾斜Slabと活火山の密接な関係が確認できるが,中国地方の活火山の下にはIS解が観測されていない.
クリックすると拡大します.

2-2 Slab震源のない中国地方の部分溶融Mantleと東北沖巨大地震の応力変化を記録する横擦断層型直下型地震

 震源を伴う急傾斜Slabは別府湾で途絶え,中国地方には認められない.しかし,活火山は中国地方北縁の日本海沿岸に配列している.これらの活火山は,南海Troughから同心円状屈曲して沈込むSlab上面が100-150kmに達する位置から配列している(図324の中上図).
 1600万年前の四国海盆拡大末期に四国海盆北縁に形成された拡大軸は,1500万年前の日本海拡大によって西南日本に覆われた.拡大したばかりの拡大軸を覆った西南日本の地殻は溶融し,那智の滝・小豆島・大崩山・屋久島などの外帯火成活動を起した(高橋,1986).日本海拡大によって覆われた四国海盆は,比海Plate運動によって700万年前から西南日本の下に沈込でいる.中国地方に達した拡大軸も通常のSlabのようにMagmaを供給しているが,地震を起す程冷却していないと考えられる.中国地方ではSlab地震は観測されていないが,その上の地殻には横擦断層型の直下型地震が観測されている(図323).そのIS解292個の深度は1-33kmで,横擦断層n型81%・逆断層p型11%・正断層t型8%と横擦断層型が圧倒的に多い.横擦断層型の深度は1-25km,主応力軸方位(方位・傾斜・標準偏差)は(P288+8±25T197+1±25N107+82±24)で中間主応力N軸傾斜が82とほぼ垂直で圧縮主応力P軸方位が288とPlate運動方位に沿っている.
 地下の岩石が温度上昇によって部分溶融状態になると剪断応力を伝達できず,その境界域ではP軸とT軸が境界面に沿い,N軸が境界面に直交する.境界面が水平に近ければN軸が垂直になり,発震機構は横擦断層型になる.Slab地震が起らずその上の地殻内で横擦断層型地震が優勢な中国地方の下にはほぼ水平な部分溶融境界の存在が想定される.
 部分溶融状態のMantle圧力が増大すれば風船を膨らませるように,境界面は拡大するので境界面に沿う引張応力が生じ,減少すれば圧縮応力が生ずる.この変化は,CMT解の非双偶力成分比nonDCの増大と減少として現れる.中国地方地殻のCMT解17個の平均nonDCは引張過剰の+6.3±9.3%であり,2011年3月の東北沖巨大地震前の4個は-0.5±11.7%と大きくばらつく負の圧縮過剰であるが,地震後の13個では+8.4±7.7%と正の引張過剰で,Mantle圧力増大を示している(図325).特に2011年6月4日M5.2+np11km+21%・11月21日M5.4+np12km+14%・11月25日M4.7+nt12km+24%の増加は顕著で,巨大地震による西南日本の応力解放の定量的資料を提供してくれる.
 横擦断層型IS解方位は,巨大地震後の65個で(P282+5±25T192+2±20N80+84±23)
巨大地震前の167個で(P291+9±25T200+0±26N115+81±24)
P軸・T軸いずれの方位も8-9°減少している(図326).日本海溝からの北東方向の圧縮力によって比海Plate運動の北西にほぼ沿う圧縮主応力P軸方位が 8.5°回転していたが,巨大地震によって解放されて戻ったとすれば,日本海溝からの圧縮力は南海Troughからの圧縮応力の15%(=tan(8.5))と算出できる.

 図325 中国地方の地殻内横擦断層型CMT解の非双偶力nonDC成分比.
2,011年3月東北沖巨大地震直後の2011年6月から11月に+12%以上(青色)が集中している.震央地図と断面図の主応力方位軸の長さは規模MにnonDC成分%の絶対値の10分の1を乗じて拡大して示してある.正の場合は引張応力T軸,負の場合は圧縮P軸方位.
クリックすると拡大します.

図326 中国地方の地殻内横擦断層型IS解の圧縮主応力P軸方位.
2,011年3月東北沖巨大地震前後の比較(右下図).
クリックすると拡大します.

 Moho以深の上部Mantle内には別府湾の急傾斜Slabの上方延長として瀬戸内深部震源域が瀬戸内海以南に分布する(図327).その上を日向震源域の震源も覆うが,これらの震源は瀬戸内海北縁に沿って途絶える(図323).この北縁に当たる海溝距離280-307kmのIS解37個のN軸方位は342+5±53と北北西水平であるので,これに直交する東北東の瀬戸内海北縁に沿う垂直な部分溶融面が震源分布の北縁を規定していると言える.この西方の九州では,別府湾付近で多少陸域に入り込むが,宮崎から鹿児島への日向灘海岸線が震源分布西縁になっている.

図327 急傾斜Slab上方に続く南海小円区の瀬戸内深部震源域のIS解主応力方位.
瀬戸内海北縁に沿って分布を断つ.
クリックすると拡大します.

 九州では急傾斜Slabより上のMantleに震源は分布しないが,上部地殻には2016年4月16日の熊本地震M7.3nt12km(速報79)に代表される直下型地震のIS解469個があり,横擦断層型55%・正断層型39%・逆断層型6%である(図328).
 横擦断層型優勢は,水平に近い部分溶融境界面の存在を示唆する.主応力軸方位は(P258 +20±46T170+1±28N74+68±49)で,南南東のT軸方位が最も集中が良く,Plate運動の北西方に近い.この南南東方向の引張応力は別府-島原地溝帯の拡大に対応している.CMT解56個の非双遇力成分nonDC比は+4.6±13.2%と正の引張過剰で,部分溶融圧増大が優勢であることを示している(図329).

図328 九州地方の直下型地殻地震のIS解主応力軸方位.
クリックすると拡大します.


図329 九州地方の直下型地殻地震のCMT解非双遇力成分nonDC比.
クリックすると拡大します.

2-3 沖縄Trough拡大とSlab下Mantleの行方

 別府-島原地溝帯南西方の沖縄Troughでは背弧拡大が進行している.沖縄TroughのCMT解131個は,横擦断層型51%・正断層型49%と横擦断層型優勢である. nonDC比が+6.1±14.4と引張過剰で部分溶融部の拡大を示し,海底拡大の進行と対応している.主応力軸方位は(P239+45±45T155+0±21N67+45±45)とT軸の集中が良く,海溝軸方位の変化とは関係なく北西方へのPlate運動方位に揃っている(図330の右下図中央付近の紫色折線Sub).

図330 沖縄TroughのCMT解非双遇力成分nonDC比.
クリックすると拡大します.

 T軸方位がPlate運動方位に揃うことは,収束するPlate運動方向と逆方向に拡大していることを意味し,「何故,収束境界域で背弧海盆が拡大するか」というPlate Tectonics確立期以来の謎の本質を具現している.琉球海溝沿いのSlab最大深度250kmは410kmのMantle遷移帯上面に達しておらず,Slab先端の下部をSlab下Mantleが潜り抜けられる.海洋底表層が島弧地殻との摩擦抵抗のため沈込めなくとも,海洋底深部の部分溶融MantleはPlate運動を保持し,Slabの最深部を通過して背弧側に噴き出すことができる.島弧に固着したSl;abの下からPlate運動方向に噴き出すMantleは「作用・反作用の法則」に従い,島弧とSlabをPlate運動と反対方向に押し返すため,背弧側にはPlate運動方向の引張応力が発生する.
 また,Slab沈込に伴いSlab上面深度が増大するが,その増大はSlab下Mantle体積の過剰を生む.その過剰MantleをSlab下から除去しなければ沈込を続行できない.過剰MantleがSlab下を通過できれば背弧の拡大圧は定常的に増大する.
 衛星測距により別府-島原地溝帯・沖縄Trough南縁の九州南部と琉球列島が比海Plate運動方向とは逆に南下していることが判明し,台湾衝突による海溝軸の後退が提案されている(新妻,2007).海溝軸後退による沖縄Trouph拡大であれば,海溝軸方向が拡大方向と関係しているはずである.しかし,拡大方向は海溝方向とは無関係にPlate運動方向に揃っており,Slab下Manlteの背弧側放出による拡大が主体であることが判明した.Plate Tectonicsの謎であった背弧海盆拡大の解決には,二次元の地球表面幾何学から三次元の地球表層幾何学への拡張が必要であったと言える.

2-4 沈込境界軸屈曲によるSlab過剰ひだと急傾斜Slab

 九州から吐噶喇列島の急傾斜Slabは部分溶融Mantleの圧力と関係しているのであろうか.もし,背弧側に噴出した部分溶融MantleがSlab上面を押して急傾斜させているのであれば,N軸方位が押されるSlab上面に直交するはずである.
Slabが急斜する100km以深の震源のN軸方位は,22+21±34とSlab上面に直交せず Slab上面走向に並行している(図331).N軸方位がSlab面に沿っていることは,Slab外のMantleの関与を否定し,Slabの伸長や屈曲によるSlab内応力場が支配的であることを示している.
 南海小円区・琉球小円区の東西境界はほぼ並行し,海洋底がそのままSlabとして沈込めるが,その間の九州小円区で沈込境界軸方位が南西から南南西へ屈曲している.島弧側に凸のTrough軸に沿ってSlabが沈込むには,Tableの角でTable Clothがひだを作るように,沈込Slab面積が過剰になる.九州-吐噶喇の急傾斜Slabが過剰Slab面積を生む沈込境界軸屈曲部に位置しており,過剰Slab面積を急傾斜Slab形成によるSlabひだによって消化しているのであろう(図332).
Slab表面積が過剰になればその下のMantleも過剰になる.この過剰Mantleは急傾斜Slabの下から背弧側に供給され別府-島原地溝帯と沖縄Troughの拡大を担うので,これらの拡大が九州から開始されることも沈込境界方位の変換と符号する.

図331 100km以深の急傾斜Slab内IS解のN軸方位.
クリックすると拡大します.


2-5 Plate運動の鍵を握る日向震源域の震源移動周期

 日向灘は,Slabの島弧Mohoへの沈込から急傾斜Slabに変換する島弧Moho付近の震源分布域である.北縁の瀬戸内海では瀬戸内海深部震源域の上に載る.
 日向震源域にはCMT解が40個あるが,M6.0以上の地震は
2019年5月10日M6.3P25km(P119+22T307+67N210+3)
2014年8月29日M6.0P18km(P127+25T284+63N33+10)
1996年12月3日M6.7P38km(P119+33T313+56N213+6)
1996年10月19日M6.9P34km(P132+19T317+71N223+2)
いずれも南方の逆断層型でSlab沈込の剪断応力場で起っている.今回の地震M6.3の規模は第3位である(図333).

図333 日向震源域のCMT解主応力軸方位.
クリックすると拡大します.

 日向震源域のIS解410個は,正断層型62%・逆断層型26%・横擦断層型12%で,正断層型の主応力軸方位は(P128+71±28T270+17±35N3+9±37)とT軸が西方で北西方のPlate運動方位に近く別府-島原地溝帯と沖縄Troughの拡大と関連している.逆断層型は(P125+32±26T294+62±19N33+3±29)とP軸傾斜が南東方とPlate運動方位と逆方位なのでSlab上面に沿う剪断応力場を示す.正断層型の震源深度は深く北方に分布し,逆断層型は浅く南方に分布している(図334).

図334 日向震源域のIS解主応力軸方位.
クリックすると拡大します.

 時系列図(図334の左中図)で右から左へ震源が左上がり直線に沿って配列している.この配列は,中国地方の部分溶融Mantle圧によって開始した正断層型破壊が,別府-島原地溝帯の部分溶融圧を受けてMoho面下のMantleを破壊しながらSlab上面に達し,Plate運動による逆断層型破壊に至っていることを示している.大地震となるSlab上面に沿う沈込は,Slab以深の過剰Mantleを背弧側に放出して別府-島原地溝帯の拡大圧を上昇させ,次の正断層型破壊を開始させる応力場変動周期を駆動するであろう.今回のM6.3に至る一連の変動周期は2014年初に開始している.
 予想されている南海Trough巨大地震もSlab沈込の剪断応力場による逆断層型地震である.今回の地震では,応力場極性の逆転が起っておらず(図322)巨大地震の前震であることも考えられ(特報4月刊地震予報87),南海Trough全域に進展することも考えられる.また,本震に至っていない連発地震が台湾から琉球海溝に沿っても起っているので,琉球海溝全域に及ぶ巨大地震に進展することも考えられる.これらを見分けるため,今後の日向震源域の動向に十分な注意を払うとともに,厳重な警戒が必要である.

3.2019年6月の月刊地震予報

 日向灘で脈震を含む連発地震が起きたが,応力場極性の逆転に至っておらず,巨大地震の前震とも考えられるので,南海Trough地震や琉球海溝地震に厳重な警戒が必要である.巨大地震には広域に及ぶ前震を伴うと予想されるので,今後の前震や脈震に注意が必要である.本地震予報によって西南日本のPlate運動と応力場の関係を明らかにできたので,更なる解析を進め,巨大地震の前に適切な地震予報を実現するために全力を尽くす所存である.

引用文献

高橋正樹(1986)日本海拡大前後の“島弧”マグマ活動.科学,56,103-111.
巽 好幸(1995)沈み込み帯のマグマ学.東京大学出版会,186p.
新妻信明(2007)プレートテクトニクス―その新展開と日本列島―.共立出版,292p.

月刊地震予報116)台湾花蓮の地震M6.5と琉球海溝外連発地震,東北沖震源帯明治三陸沖M6.2,東北沖巨大地震M9.0の歪蓄積,2019年5月の月刊地震予報

1.2019年4月の地震活動

気象庁が公開しているCMT解によると,2019年4月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で12個0.396月分,千島海溝域で2個0.060月分,日本海溝域で2個0.730月分,伊豆・小笠原海溝域で2個0.256月分,南海・琉球海溝域で6個0.659月分であった(2019年4月日本全図月別).2019年2月の1割以下から回復し,4月に4割近くに達した.
最大地震は2019年4月18日台湾花蓮M6.5,次大は4月11日日本海溝三陸沖M6.2で,M6.0以上はこの2個である.4月4日から14日まで琉球海溝外で連発地震があったが,4月13日から14日の2個の地震が24時間以内に起こり,脈震(月刊地震予報115)になった.

2.2019年4月18日台湾花蓮の地震M6.5と琉球海溝外連発地震

 2019年4月18日14時01分に台湾の花蓮でM6.5Pe20kmがあった.琉球海溝が与那国で大屈曲して台湾東海岸に上陸する花蓮では死傷者の出た2018年2月7日M6.7-npo10km(月刊地震予報102月刊地震予報103)以来の地震である(図314).その後,琉球海溝外152kmの海溝外最遠地震2018年7月25日M5.3(月刊地震予報108)が起り,2018年8月14日から琉球海溝域連発地震(月刊地震予報109),2018年10月23日から与那国連発地震(月刊地震予報110)が起った.

図314 琉球海溝域2018年1月-2019年4月のCMT解主応力方位.
クリックすると拡大します.

 2019年2月16日には沖縄TroughM5.5nt12km(月刊地震予報114)があった.沖縄Troughは日本列島において海洋底拡大が進行している海域で地震活動も活発で131個のCMT解がある.その発震機構型には逆断層型が無く,横擦断層型67・正断層型64と拡大海域であることを特徴付けている.引張T軸方位は横擦断層型も正断層型もPlate運動方位に沿っており,Plate運動による拡大であることを示している(図315).震源深度増大とともに正断層型が増加することは,浅所では静岩圧による垂直方向の圧縮P応力がMantleの上昇によって相殺されていることを示している.

図315 沖縄TroughCMT解主応力方位図.
クリックすると拡大します.

今回の琉球海溝外連発地震の最初で最大の2019年4月8日13時12分M5.6-to45kmを基準にすると震央距離/深度差と応力場偏角は,4/+0km38.0・3/+2km18.6・3/+0km20.1と震源距離4km以内,応力場偏角38°以内と一致しており,大地震の前震とも考えられるので警戒が必要である.この連発地震中に南西方の海溝軸上で208/+37km23.9が起こっており,応力場偏角に差がないことは,この応力場に琉球海溝域が広く覆われていることを示している.台湾花蓮の地震M6.5はこの連発地震の4日後に起こっている.

3.2019年4月11日の東北沖震源帯明治三陸地震域M6.2

2019年4月11日17時18分M6.2P5kmが三陸沖の島弧地殻内で起こった.本地震の圧縮P軸傾斜方位(図316右下図の○印)が主応力軸方位図の中央付近の紫色折線(Sub)のPlate運動方位から180°異なる逆方位に当たる上縁に位置しており,太平洋Slab上面に沿う剪断応力場にあることを示している(月刊地震予報107).

図316 日本海溝域2019年3月-4月CMT解主応力方位図.
クリックすると拡大します.

 その後,4月15日5時28分に釧路沖の太平洋Slab上部でM5.1P43kmと4月23日2時45分三陸沖の太平洋Slab深部でM5.6p57kmがPlate運動方位と逆P軸傾斜の剪断応力で起っている.本地震基準の応力場偏角は25.2と8.7°と殆ど変わらず,2019年3月11日の茨城沖の脈震(月刊地震予報115)も22.6・15.4°と差がなく,日本海溝域が太平洋Slab上面に沿う一様な剪断応力場にあることを示している.

4.東北沖巨大地震M9.0の歪は何時から蓄積されていたのか

地震の規模と地震断層の長さ・ずれの関係(松田,1975)から東北沖巨大地震M9.0の地震断層面積は7.94km2と算出されるが,この歪みは何時から蓄積されていたのかを検討する.
東北日本の地震活動と日本海溝に沿う太平洋Plateの沈込を定量的に解析するため,太平洋Plateの沈込面積と全地震の地震断層面積(地震断層の移動面積)を積算した総積算地震断層面積(2002速報36)を比較した.総積算地震断層面積を地震断層面積とする1つの地震の規模を総地震断層面積規模とし,Plate運動面積との比較に用いる(月刊地震予報106).中村一明(談)はBenoff(1954)が導入した弾性反発説(Reid, 1910)の表示法を高く評価し,伊豆大島の火山噴出物解析に使用した(Nakamura, 1964).この表示法は活断層について用いられ,広く知られるようになった.中村の高い評価に基づきこの表示法を Benioff図と呼ぶことにする(特報5).
 大正関東大震災後の1923年9月2日から東日本大震災前の2011年3月10日までの地震760個の総地震断層面積はBenioff図で斜直線のPlate運動面積増大に沿って階段状に増加し(図317の右中図左端),東北日本の地震活動が太平洋Plateの日本海溝に沿う沈込に起因していることを示している.また,その総地震断層面積は巨大地震と同じ7.94km2で総地震断層面積規模はM9.0と等しいが,その間のPlate運動面積の1.10倍になり,地震活動はPlate運動より1割多く消費していたことになる.

図317 大正関東大震災から東日本大震災までの総地震断層面積の推移.
クリックすると拡大します.

表37.総歴史地震面積とPlate運動面積(単位:M9.0)

期間      Plate運動 地震活動 地震活動 歪蓄積
(東北日本) (東北日本) (西南日本) (東北日本)
2011年3月10日
(東日本大震災前日)
88年間 0.91個 1.00個 0.44個 (M8.7) -0.09個
1923年9月4日
(大正関東大震災翌日)
130年間 1.34個 1.00個 0.77個 (M8.9) +0.34個
1793年
698年間 7.22個 1.00個 1.55個 (M9.2) +6.22 個
1095年

 1923年の関東大震災までに総地震断層面積規模がM9.0になるには1793年からの130年間の地震150個が必要である(表37).その間のPlate運動面積はM9.0の1.34個分で,0.34個分しか東北沖巨大地震の歪に蓄積できず,1793年以前からの歪蓄積が必要である(図318).

図318 700年から東日本大震災までの総地震断層面積の推移.
クリックすると拡大します.

1793年以後の総地震断層面積規模は東北日本が西南日本より大きいが,以前は西南日本より小さくなっている.この逆転は,東北日本の歴史地震記録の不備が原因と予想される.この不備を西南日本の充実した歴史地震記録を用いて補う.1793年から2011年の総地震断層面積は,東北日本でM9.0の2個分に対し西南日本で1.21個分であるので,この比率を一定と仮定して西南日本の総地震断層面積から東北日本の総地震断層面積を算出し,Plate運動面積と比較する(表38).

表38.総歴史地震面積とPlate運動面積(単位:M9.0) [東北日本/西南日本=1/0.60]

期間      Plate運動 地震活動 地震活動 歪蓄積
(東北日本) (東北日本) (西南日本) (東北日本)
2011年3月10日
(東日本大震災前日)
88年間 0.91個 1.00個 0.44個 (M8.7) -0.09個
1923年9月4日
(大正関東大震災翌日)
130年間 1.34個 1.00個 0.77個 (M8.9) +0.34個
1793年
182年間 1.88個 [0.83個] 0.50個 (M8.7) +1.05個
1611年
(慶長三陸地震)
516年間 5.33個 [1.75個] 1.05個 (M9.0) +3.58個
1095年

1611年慶長三陸地震後から1793年までの東北日本の補正地震断層面積はM9.0の0.83個分になり,1.88個分のPlate運動面積から1.05個分を歪蓄積に充てることができる.この経過は,巨大地震用の歪は歪蓄積満了後にもPlate運動による歪を通常地震活動として消化しながら保持できることを示している.

5.2019年5月の月刊地震予報

 琉球海溝域では地震活動が活発化しているが,広域応力場が安定していることから,予想されている南海Trough巨大地震に警戒が必要である.
日本海溝域では太平洋Slab上面と島弧地殻の剪断応力に地震が広く起っており,その動静に警戒が必要である.
東北沖巨大地震以前は慶長三陸地震以後蓄積された歪を抱えた状態でPlate運動を地震活動として消化していたが,東北沖巨大地震によって歪を解放された後にどのような地震活動を展開するか注意深く見守る必要がある.特に西南日本に予想される巨大地震にも東北日本との強い相互関係が予想されるので発震機構に基づく力学的解析が不可欠である.
巨大地震の前震は連発地震(速報66)や脈震(月刊地震予報115)として捉えることが十分可能で,本震・前震の区別も応力場極性偏角(月刊地震予報99;月刊地震予報87)と規模差(月刊地震予報110)から判定でき,対症療法は完成の域に近付いているが,地震発生の力学への道はまだ先である.

引用文献

 Benioff, H.(1954)Orogenesis and deep crustal structure: additional evidence from seismology. Geological Society of America, Bulletin, 66,385-400.
 松田時彦(1975)活断層から発生する地震の規模と周期について.地震第2輯,28,269-283.
 Nakamura, K.(1964) Volcano-stratigraphic study of Oshima Volcano, Izu. Bulletin of Earthquake Research Institute, 42, 649-728.
Reid, H.F.(1911) The mechanics of the earthquake, vol. 2 of the California Earthquake of April 18, 1906: Report of the State Earthquake Investigation commission: Carnegie Institution of Washinton Publication 87, C192 p.2 vols.

月刊地震予報115)千島海溝外地震M6.2,東北沖震源帯茨城沖M6.0,脈震,2019年4月の月刊地震予報

1.2019年3月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2019年3月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で12個0.173月分,千島海溝域で2個0.245月分,日本海溝域で4個0.365月分,伊豆・小笠原海溝域で0個,南海・琉球海溝域で6個0.099月分であった(2019年3月日本全図月別).2018年12月に2か月分近くまで増大したが,2019年2月に1割以下まで低下して1割以上に戻った.
最大地震は2019年3月2日千島海溝外のM6.2で,次大は3月11日日本海溝域のM6.0で,M6.0以上はこの2個である.

2.2019年3月2日千島海溝外地震M6.2

 2019年3月2日12時22分に千島小円区と襟裳小円北区境界付近の千島海溝外24kmでM6.2nto深度51kmがあった.本震源から100km以内にCMT解のない稀発地震で,千島海溝域で初の海溝外地震である(図312).

図312 千島海溝域初の2,019年3月2日海溝外地震M6.2ntoと2019年2月13日得撫島沖脈震.クリックすると拡大します.

3.2019年3月11日の東北沖震源帯茨城沖M6.0

 2019年3月11日2時10分M6.0P18kmが最上小円区南西縁の茨城沖東北沖震源帯の島弧地殻と太平洋Slabの接触面であった.圧縮主押力P軸の傾斜が接触面傾斜と逆方向であるので,接触面における剪断応力による地震である.
 この14分後の2時24分にもM4.9P28kmがあった.初動震源位置は東南東(119°)に8kmしか離れておらず,応力場偏角も8.1°と同じでM6.0の応力場を保持しており,将来起こる大地震の前震であることが予想される.
 東北沖震源帯では,8年前の3月11日14時46分M9.0の東日本巨大地震と15時15分M7.6の茨城県沖が起こっており,M6.0以上のCMT解は62個ある(図313).

図313 東北沖震源帯のM6.0以上のCMT解.クリックすると拡大します.

 そのP軸方位はPlate運動方位(右下の方位図中央の紫色折線)から上下に180°離れた上下端の逆方位に集中しており,太平洋Slab上面に沿う剪断応力場による地震であることを示している.本震源域では南東(134°)に37kmの2008年12月20日M6.6P0kmと南南東(163°)に19kmの2008年12月21日M6.2T0kmがあるのみで,東日本巨大地震後には起こっていないので警戒が必要である.

4.2019年3月の脈震

 2019年3月には1日以内にほぼ同所でCMTが3月11日東北沖震源帯茨城沖および3月27日に日向灘,ISが3月7日前弧沖震源帯の志津川沖と30日浦河沖および27日に日向灘で発生した.月刊地震予報では24時間以内に同所で発生する地震を「脈震(pulsating shock)」と名付け,今後検討解析の対象とする.
 脈震は大地震本震後の余震に多いが,前震にも起こる.前震は本震域の歪の増大によって破壊強度の小さな箇所から順次進行する破壊であり,本破壊に到るまで応力場は変わらない.余震は,本震の本破壊によって震源域の歪が解放され,破壊域周辺の応力場が急変するために起こる.余震の中には本震の応力場と逆極性の地震も含まれるので前震と区別できる(特報4).
 前述の「2. 2019年3月2日千島海溝外地震M6.2」の17日前の2月13日にも北東548kmの得撫島沖の太平洋Slab上面剪断震源帯でM4.9p・M5.3+p・M5.2pの脈震が起こっている.最大のM5.3を基準にした応力場極性偏角は,M4.9が16.9°・M5.2が12.0°と応力場の変化は認められない.脈震による太平洋Slab上面の抵抗が減少し,Slabが沈込み,海溝外地震M6.2が起こったと考えられる(図312).
 また,「3. 2019年3月11日の東北沖震源帯茨城沖M6.0P18km」の14分後にM4.9P28kmが起こっているので,脈震である.

5.2019年4月の月刊地震予報

 千島海溝域では太平洋Slab沈込歪増大に対応する前震が択捉島・国後島・得撫島で起っていたが,3月2日にCMT初の海溝外地震M6.2が起こり,択捉島沖の巨大地震に警戒が必要である.
 東北沖震源帯茨城沖でM6.0脈震が起こったが,東日本巨大地震後には起こっていないので警戒が必要である.
 日向灘では3月27日にCMTの脈震が起こったが,2013年3月11日の初脈震から起っていなかった.これまでの大阪府北部・島根県西部・琉球海溝・与那国島・台湾の地震は本震に到らない前震段階にあり,警戒を呼び掛けていたがこれに日向灘の脈震が加わり,更なる警戒が必要である.