東日本巨大地震の前震・本震・余震の震央を記入した赤色立体地図

新妻地質学研究所へようこそ

2011年3月11日午後2時46分、東日本巨大地震発生。
今、仙台、東北、日本、環太平洋、地球で何が起こっているのか?

プレートテクトニクス一筋で
地球科学を研究してきた仙台在住の著者が考えます。

月刊地震予報119)伊豆Slabの媛傾斜翼で起った2019年7月28日の三重県沖M6.6,琉球海溝最深地震2019年7月13日M6.0,Philippine沖2019年7月27日M6.0,2019年8月の月刊地震予報

1.2019年7月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2019年7月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で15個0.444月分,千島海溝域で1個0.002月分,日本海溝域で4個0.078月分,伊豆・小笠原海溝域で3個1.880月分,南海・琉球海溝域で7個0.395月分であった(2019年7月日本全図月別).2019年5月に2割以下に低下した地震断層面積比が5割近くまで回復している.
 最大地震は2019年7月28日三重県沖M6.6で,次大は7月13日奄美大島M6.0と7月27日Philippine沖M6.0である.M6.0以上はこの3つの地震であった.

2.伊豆Slabの媛傾斜翼で起った2019年7月28日の三重県沖M6.6

 2-1.伊豆Slabの媛傾斜翼

 伊豆・小笠原・Mariana海溝域は,海溝軸輪郭の屈曲から鹿島・鹿島南・八丈・伊豆北・伊豆・小笠原・海台・Marianaの小円区に区分される.これら小円区の海溝から一連の太平洋底が同心円屈曲しながら沈込み太平洋Slabになる(図341).

図341.伊豆・小笠原・Mariana海溝域のSlab沈込様式.
 数字は三重県沖南海Trough直下の2019年7月28日M6.6.
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 鹿島小円区では,深度52kmからSlabが平面化してVladivostokにまで達する深発地震面として沈込むので,この沈込様式を「Vlad沈込」と呼ぶことにする.鹿島小円南区から小笠原小円区までは,Slab平面化後の傾斜角が南に向かって増大する.そして,小笠原小円区では,Slabがほぼ垂直に下部Mantleに達するので,この沈込様式を「垂直沈込」と呼ぶ.さらに南側の海台・Mariana小円区では,海溝からSlabが同心円状に屈曲したまま下部Mantle上面に横臥するので,これを「横臥沈込」と呼ぶことにする.
このように、伊豆・小笠原・Mariana海溝域の太平洋Slabの沈込様式は,北から南に「Vlad沈込」「垂直沈込」「横臥沈込」と変化している(図342).

図342.沈込様式に対応する各小円区の震源分布.
 色と方位はCMT解主応力軸方位.黄色線を沿えたのは同心円状屈曲して沈込んだSlabが平面化し、深発地震面となっている範囲.黒細線円はVlad沈込と横臥沈込に対応する同心円状屈曲円.
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 沈込様式「Vlad沈込」から「垂直沈込」の間の鹿島小円南区から伊豆小円区では,平面化後のSlab傾斜が南に向かって増大するが,Slab末端部でSlab傾斜が緩くなる(速報23,Kirby & Engdahl.,2019).この緩傾斜末端を持つ沈込を「翼沈込」と呼び沈込様式を区別する.
 鹿島小円南区の「翼沈込」北側の下限深度は 420kmで,伊豆区の南側では544kmと異なることから,「北翼沈込」と「南翼沈込」に区別できる.その間の伊豆北区では「北翼沈込」から「南翼沈込」への中間なので「中翼沈込」と名付ける(図342).これらの沈込様式境界は小円区境界と対応している.
2019年7月28日3時31分鹿島小円南区三重県沖の南海Trough直下M6.6P393kmの地震は,北翼の海溝距離429km深度394kmで起った(図341・図342).

 2-2.「翼沈込」から「垂直沈込」・「横臥沈込」に変化する伊豆・小笠原・Mariana海溝域

 海溝から同心円状屈曲して沈込んだSlabが平面化して深発地震面となっている海溝距離と深度(図342に黄色線を添えた)の範囲を「平面海溝距離」・「平面深度」と呼び,Slabが海溝から最も離れる位置を「最遠」,Slabの最大深度の位置を「最深」とする(表39).

表39 伊豆・小笠原・Mariana海溝域Slabの小円区別海溝距離・[深度]・(Slab長)km.

小円区 Mariana 海台 小笠原 伊豆 伊豆北 鹿島南 鹿島
沈込Slab過不足 + + + + +
沈込様式 横臥 横臥 垂直 南翼 中翼 北翼 Vlad
平面海溝距離 211-307 104-254 100-300 152-314 155-822
[平面深度] [187-695] [65-375] [20-263] [63-291] [52-480]
最遠海溝距離 240 230 307 464 627 568 822
[最遠深度] [477] [301] [491] [536] [520] [420] [480]
最深海溝距離 206 138 246 464 627 568 822
[最大深度] [619] [552] [695] [544] [520] [420] [480]
(全Slab長) (821) (780) (895) (822) (892) (768) (1059)

 横臥沈込の最南端のMarian区では、深度477km海溝距離240kmにおいてSlabが海溝から最遠になり,最大深度619kmではSlabが海溝側に34km戻り海溝距離は206kmとなる.その北側の海台区のSlabは,最遠深度301kmで最遠海溝距離230kmとなるが、最大深度552kmでは138kmと海溝側に92km戻り,同心円状屈曲したまま沈込むという特徴がある(表39).
 垂直沈込の小笠原区のSlabは,最大深度695kmにも及ぶが,海溝距離は上部の平面海溝距離の範囲を保ってほぼ垂直に沈込んでいる.
 翼沈込の伊豆区から鹿島南区では、544km~520km以深には地震が観測されていないことから翼の西端がSlab先端と考えられ,Slabの最遠深度と最大深度が徐々に一致するようになる.
 伊豆海溝の北方に連続する日本海溝から沈込むSlabは鹿島小円区に属し,海溝距離155kmから平面化して深発地震面に移行(図342)して、Vlad沈込になるとSlabの最遠深度と最大深度が完全に一致するようになる.
 Mariana区から鹿島区まで海溝からSlab先端までの長さ「全Slab長」を算出すると,小笠原区の「垂直沈込」の895kmが最も長いが,伊豆北区の「中翼」の892kmやMariana区の821kmが追従し,ほぼ同程度の長さのSlabが沈込でいる(表39).
 異なった沈込様式のSlabでもほぼ同じSlab長であることは、一連の太平洋底が同じ期間沈込んでいたことを意味している.幾何学的に連続した太平洋底が1枚のSlabとして「横臥沈込」から「垂直沈込」・「翼沈込」・「Vlad沈込」と異なった様式になるためには,裂開と翼上昇機構が必要である.
 その検討には,太平洋底が一連の海溝に沿って沈込んでも、弧状をなす海溝軸の輪郭が西の島弧側に凸であるか東の海洋側に凸であるかによって,Slab面積の過不足が生じる幾何学的制約(特報1,表39の「+」と「-」)への考慮も必要である.

 2-3.Manlteに沈込むSlabとMantle相転移

 太平洋底とその下のMantleは共にPlate運動をしており,島弧地殻に衝突すると海溝を形成して沈込む.沈込んだ海洋底はSlabとなり,Slab下Mantleと伴に沈込む.海洋底と伴にPlate運動をしてきたSlab下の浅所Mantleは質量と運動量を保存するため,沈込Slabによって行き手を阻まれる.海洋底に近く低温で比重の大きなMantleは,体積が大きく,Plate運動速度も速いのでSlab下面に沿って優先的に降下しなければPlate運動は停止してしまう.SlabやMantleが降下して圧力と温度が上昇すれば,深度410km でα相(olivine)からβ相(wadsleyite),深度550kmでβ相からγ相(ringwoodite),深度670kmで下部Mantle(perovskite)に相転移する(長谷川他,2015など).

図343.Mantle の相転移境界温度圧力と温度分布(赤荻,2010).
太線:pyrolite想定Mantle温度分布.
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 深度410kmと550kmの相転移は低温ほど進行し易いが,670kmの相転移は高温ほど進行し易い(図343;赤萩,2010など).Slab上面は島弧側Mantleによって加熱されるが,Slab下面は低温降下Mantleによって冷却されるため最も低温に保たれる.同一深度に達しても410kmと550kmの相転移が進行して比重が大きくなるのは温度の低いSlab下部になるが,Slabの下を抜けて島弧側に通過する降下Mantle は,Slabより多少温度は高いが,深度に対応する圧力が大きいため先に相転移する.通過Mantleが相転移すると島弧側の相転移面まで降下する.通過Mantleの上に位置し,相転移していないSlab下端はPlate運動を保持する通過Mantleに浮いて流され,Slab傾斜が減少して媛傾斜「翼」になる(図344).

図344.沈込Slab下端を通過するSlab下Mantleの相転移による緩傾斜翼の形成.
 海洋底が沈込んだMantleが同心円状屈曲すると断面積が半減するため,速度を倍加する.Slab直下の浅部MantleはPlate運動量が大きく低温のため,Slab下面に沿って下降し,真先にα>β相転移し,Slabを浮かべてPlate運動方向に押し曲げて,緩傾斜翼沈込を形成する.
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 海溝から沈込むSlabの面積は,海溝軸輪郭が島弧側に凸であるか海洋側に凸であるかによって,「沈込によるSlab過剰[+]・不足[-]」のように沈込む海底の面積よりも過剰になったり不足したりする(表39).Mariana小円区のMariana海溝は海洋側に大きく凸なので,Slab面積が大幅に不足する.Slab面積不足は,Slab下Mantle不足も伴う.北側の海台小円区は過剰であり,過剰Slab下Mantleは南方に移動して側方の不足を補充する.
 Slab下降下Mantleが側方の小円区の不足補充に使用され,下降流の速度を減ずると,Slab先端を島弧側まで通過できず,Slabは410kmと550kmの上で相転移し670kmまで「垂直沈込」になる.670km以深の下部Mantleへの相転移は低温程進行し難いので,低温のSlabは相転移できず下部Mantle上面に浮いた状態になる(図344).小笠原小円区で2015年5月30日M8.1t深度682kmに続き6月3日M5.6+t深度695kmが起り,Slabが670kmの下部Mantle上面より下まで到達していることが明確になった(速報68速報69). 670kmから685kmまで15km沈込ためのPlate運動から,Slab先端は2万年以上前から下部Mantle上面に到達していただろう.
 小笠原小円区の北隣の伊豆小円区の「南翼沈込」の形成も,深度550kmの相転移でSlab先端の下を通過する下降Mantleに起因しよう.

 2-4. Slab先端浮遊による翼形成と発震機構

 緩傾斜「翼」の形成が開始する300km以深のCMT解89個の海溝距離と深度に基づく見掛傾斜に対応する発震機構型は逆断層p型63%圧縮横擦断層np型36%で圧縮優勢である(表40).

表40.伊豆・小笠原・Mariana海溝域のCMT解主応力軸平均方位

震源 P軸 T軸 N軸
個数 傾斜方位 傾斜角 標準偏差 傾斜方位 傾斜角 標準偏差 傾斜方位 傾斜角 標準偏差
全体 89 267 45 20 31 33 40 152 29 39
p型 55 274 44 18 58 41 27 164 19 28
np型 35 256 41 21 352 7 31 89 49 30

 p型とnp型の差は,T軸傾斜が41°と急なp型と,N軸傾斜が49°と急なnp型として明確に区別でき,相互漸移的な関係にない.p型のT軸58+41とnp型のN軸89+49は方位が31°・傾斜が8°異なっているだけであり,p型のN軸164+19 とnp型のT軸352+7は傾斜方位が南北逆であるが方位は2°・傾斜は23°異なっているだけで,p型のT軸とN軸が入れ替わってnp型になっている.
 T軸とN軸の転換はT軸方位の引張応力が周囲の張力より少しでも減少すれば突然起るので,np型の存在はnp型のN軸方位の引張応力を減少させる応力の存在を意味する.
主体を占めるp型のP軸方位は,Plate運動方向および海溝傾斜方向に一致しており, Slabに沿って伝達されたPlate運動が応力の主体を握っていることを示している.
np型のN軸方位89+49が翼の底面に直交していることは,翼底面に直交する圧縮応力を受けて引張応力が減少し,np型に変換したことを意味している.

 2-5.これらの翼は同じ機構で形成されたのか

 緩傾斜翼には「北翼」・「中翼」・「南翼」があるが,p型とnp型があり,主応力軸方位に相違が存在するか検討する.
 いずれの翼でもp型のT軸とN軸は,方向が逆になること(緩傾斜なので水平を越して反対側へ傾斜する)もあるが,np型のN軸とT軸に対応しており,主応力軸入替によって発震機構型が換わっていることが分かる.
 主応力軸平均方位はp型の北翼と中翼が一致し,npの中翼と南翼が一致している.これらの主応力軸方位の中で最も良く一致しているのはnp型のN軸方位である.np型のN軸方位は翼を押上げる応力に対応することから,北翼から南翼まで同様の押上げ応力が働いていることを支持する.

表41.伊豆・小笠原・Mariana海溝域のCMT解発震機構型別主応力軸平均方位

発震機構型 震源個数 P軸 T軸 N軸
傾斜方位 傾斜角 標準偏差 傾斜方位 傾斜角 標準偏差 傾斜方位 傾斜角 標準偏差
北翼 p 16 275 34 18 74 54 25 178 11 25
np 8 270 31 14 5 9 32 108 57 31
中翼 p 15 278 52 19 75 35 22 172 12 25
np 5 251 36 26 344 1 34 81 63 27
南翼 p 25 270 47 11 37 30 14 145 28 14
np 19 249 47 19 349 11 29 89 41 30

 2-6.「横臥沈込」・「垂直沈込」・「翼沈込」間のSlab裂開と引張過剰非双偶力成分nonDC比

 Wadati (1935) の深発地震面の発見により,地震を起こせる平面が海溝から地球深部に繋がって存在していることが明らかになり,Slabと呼ばれている.ただし,震源の分布していない所については,Slabが連続しているが地震が起らないのか,Slabが裂開しているのかの判定は難しい.
 伊豆小円北区と伊豆小円区境界では,300km以深CMT解唯一の地震(正断層t型2000年6月10日M6.2Tr527km)が起っている.この非双偶力成分nonDC比+35%は,最大の引張過剰で,圧倒的に圧縮力優勢の中にも引張応力が働いている所が在ることを示している.この主応力軸方位(P37+73T142+4N233+16)の引張主応力方位は南東(T142)で,中翼と南翼の境界部で南翼を下方に引き裂く応力に対応している(表41).
 300km以深CMT解98個の平均nonDCは-5.4%で圧縮過剰で,p型の平均は-7.1と圧縮過剰の程度が高く,np型は-3.5と低い.この中で,上記のt型が+35%は特異な存在であるが,その他にnp型とp型の+5%以上の引張過剰もある(図346,表42).

表42.伊豆海溝域の引張過剰nonDC>=+5%非双偶力成分比のCMT解

発生 規模M 発震機構型 小円区 深度 非双偶力 P軸 T軸 N軸
方位 海溝距離 成分% 傾斜方位 傾斜角 傾斜方位 傾斜角 傾斜方位 傾斜角
2019 4 29 4.8 +np 鹿島南 277 403 319 +10 277 27 176 27 39 55
2018 12 10 5.2 +p 鹿島南 266 364 367 +6 258 23 145 43 7 38
2016 8 22 5.8 +np 伊豆 263 291 418 +9 239 40 359 31 114 35
2014 8 21 5.3 +pr 鹿島南 266 334 327 +6 330 31 119 55 231 15
2014 5 12 4.9 +np 伊豆 256 370 544 +17 238 43 339 11 80 45
2012 10 13 4.8 +np 伊豆 252 317 495 +23 258 42 13 24 123 38
2012 4 10 4.8 +p 鹿島南 270 441 373 +10 322 70 112 18 205 9
2010 8 19 5.3 +p 伊豆北 274 359 396 +19 288 56 176 30 175 15
2010 7 2 4.7 +np 伊豆 263 425 532 +23 270 34 176 7 76 55
2008 9 6 5.0 +np 伊豆 255 364 536 +9 244 45 4 26 112 33
2008 9 2 5.4 +np 伊豆 262 254 375 +6 290 57 20 0 110 33
2005 6 5 5.0 +p 鹿島南 266 391 355 +5 274 37 70 51 175 11
2004 10 11 5.0 +np 伊豆北 271 627 520 +14 219 12 315 27 107 60
2000 6 10 6.2 Tr 伊豆 266 393 527 +35 37 73 142 4 233 16
1999 6 16 5.0 +p 伊豆北 273 374 388 +13 268 35 113 52 6 12
1994 12 22 5.1 +np 鹿島南 278 568 379 +11 261 24 13 40 149 41

図345.Slab裂開による沈込様式境界部の引張過剰(青色)正非双偶力成分nonDC比.
 数字は300km以深CMT解唯一の正断層型震源で非双偶力成分比が+35%の最大引張過剰である.
青色:引張過剰の+12%以上,赤色:-5%から-10%の圧縮過剰,桃色:-12%以下の圧縮過剰.正nonDCについては引張主応力T軸方位,負nonDCについては圧縮主応力P軸方位.軸長はCMT解規模MとnonDC比の絶対値に比例.
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 正の引張過剰非双偶力成分比のCMT解はMariana小円区・小笠原小円区・伊豆小円区・伊豆小円北区の境界に散在する.負の圧縮過剰nonDCは,大きくないがPlate運動方位に揃っている.太平洋底のPlate運動が貨物列車のdiesel機関車のように押すと,遅い貨車が押され,前の貨車を押すように,Plate運動方位の圧縮応力による地震の連鎖が起る.貨車が並走し,その間に綱が張られていれば,一方の貨車の軌道が下方に離れる場合,綱に張力が懸かり,最終的に切断される.引張過剰CMTが起る小円区境界は沈込様式・翼形式境界で,並走貨車軌道分岐に対応することから,Slab下Mantle下降流の島弧側流出に伴う翼形成機構を支持する.

 2-7.三重県沖M6.6深度393kmの最大震度が何故宮城県南部なのか.

 三重県沖の「北翼」で起った本地震は三重県内で震度1であったのに宮城県南部の丸森町で最大の震度4を記録した(図346).

図346.三重県沖M6.6深度393kmの震度分布.
 気象庁Home Pageによる.
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 「北翼」が地震破壊を起こすことができることは,低温で地震波を伝達し易いことを意味する.「北翼」西部で地震が起り,翼に添って震動が伝われば減衰が少ないが,震源の北側の三重県に伝わるには翼上の温度の高いMantleを通過しなければならないので減衰し,震度が小さくなる.
 「北翼」は伊豆海溝から同心円状屈曲する急傾斜のSlabに接続するため,「北翼」に沿って伝わってきた震動が伊豆海溝の下100kmを通過し,伊豆諸島の震度は大きくならない.伊豆海溝の同心円状屈曲Slabは日本海溝の太平洋Slabに接続するが,「北翼」を伝わる震動は関東地方と福島県の下の太平洋Slabを通過すれば減衰せず宮城県まで到達する.
 震源を中心としない震度分布は,異常震域と呼ばれている.今回の異常震域は伊豆Slabの「翼沈込」が関与しているため,理解し難い形態になったが,このような形態こそが「翼沈込」の存在を支持している.

3.琉球海溝最深地震2019年7月13日M6.0

 2019年7月13日9時57分に奄美大島沖で起ったM6.0P深度256kmは,八重山沖の2014年12月11日M6.1-t250kmの最深記録を更新した(図.347)
 奄美大島沖は南海Trough・琉球海溝の接合部のSlab余剰のために形成される日向灘沿いの急斜Slabの西端に当っており(月刊地震予報117),台湾衝突によるSlab余剰の八重山沖とともに最深記録を出す海域になっている.この最深記録は,深度410kmのMantle遷移層上面より浅いので比海Plate沈込は上部Mantle内で進行している.

図347.琉球海溝域のCMT解主応力軸方位.
 数字は2019年7月に最深記録を更新した奄美大島沖7月13日M6.0P256kmと7月27日Philippine沖M6.0-npo脈震,およびこれまでの最深記録を保持していた2014年12月11日M6.1-t250km.
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4.Philippine沖2019年7月27日M6.0

 2019年7月27日8時37分にPhilippineと台湾の東方でM6.0-npo31kmが起った.この前の5時16分に北北西(337°)方震央距離10kmでM5.3-npo24km,後の10時24分に東北東(59°)方震央距離13kmでM5.8-npo13kmがあり,1日以内に同所で起る脈震になっている(図347).この震源域は,台湾・琉球海溝に衝突・沈込む比海Plateが西方から南China Plateに沈込まれる特殊な地域で,南China海Slabも沈込んでいるが,本地震は上の比海Plate内の地震である.
 最大地震基準の応力場極性偏角はOrg22.1・Org34.4で基準極性で偏角も変化せず,応力場変化が認められないことから,大地震の前震の可能性もある.

5.2019年8月の月刊地震予報

 伊豆海溝から離れた三重県沖でM6.6が起った.小笠原海溝から下部Mantleへの沈込,下部Mantle上面に横臥するSlabとどのような関係にあるか不明であったが,今回の検討によって伊豆Slabの「北翼」であることが判明し,宮城県で最大震度が観測されたことも理解できた.今後,太平洋Plate沈込に異常が起った場合に対処可能になった.
 奄美大島沖の比海Slab先端の最深記録が更新された.比海Plateの沈込による地震活動はPlate運動の2割程度と少ない状態が継続しており,歪蓄積が進行していることは確かであるが,何時限界に達するかが懸念される.
 Philippine沖では脈震を含む連発地震が起きたが,応力場極性の逆転に至っておらず,大地震の前震とも考えられるので警戒が必要である.

引用文献

 赤萩正樹(2010)地球構成物質の高圧相転移と熱力学.「地球惑星物質科学」,新装版地球惑星科学5,岩波書店,123-176.
長谷川 昭・佐藤春夫・西村太志(2015)地震学.現代地球科学入門シリーズ6,共立出版,471p.
Kirby,S.&Engdahl,E. (2019) The isolated M7.9 deep earthquake of 30 May 2015 under the Present Bonin Wadati-Benioff Zone: Evidence from the New ISC-EHB Earthquake Catalogue (1930-2015) and CMT Focal Mechanism. JpGU, P-EM15-07.
Wadati, K. (1935) On the activity of deep-focus earthquakes in the Japan Islands and neighborhoods. Geophysical Magazine, 8, 305-325.

月刊地震予報118)東北日本沖巨大地震後の東北日本弧直交応力支配下で起こった新潟・山形地震M6.7,2019年7月の月刊地震予報

1.2019年6月の地震活動

気象庁が公開しているCMT解によると,2019年6月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で12個0.476月分,千島海溝域で1個0.002月分,日本海溝域で9個2.555月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.561月分,南海・琉球海溝域で1個0.063月分であった(2019年6月日本全図月別).2019年5月に2割以下に低下した地震断層面積比が5割近くまで回復した.
最大地震は2019年6月18日出羽M6.7,次大は6月4日伊豆海溝M6.2である.M6.0以上の地震はこの2つであった

2.日本海岸沖帯出羽沖の2019年6月18日新潟・山形地震M6.7p

 2-1 脈震を含む連発地震は,大地震の前震か.

東北日本には渡島・仙北・出羽・中越・上越震源域からなる日本海沿岸震源帯(Jsc)およびその沖合の男鹿・出羽沖・中越沖・上越沖・佐渡・能登震源域からなる日本海岸沖震源帯(oJsc)がある.日本海岸帯の地震は島弧地殻上部で起こるが,日本海岸沖帯では地殻下部で起こる.
2019年6月18日22時22分に出羽沖の日本海岸沖帯深度14kmの下部島弧地殻でIS解・CMT解を兼備する逆断層p型M6.7が起こった.
今回の地震は日本海岸沖帯出羽沖域の地殻下部で起こった(月別東日本;図335).
IS解:6月18日22時22分19.9秒M6.7p14km 震源位置基準
____P292+14T128+75N23+4 Org=8.4[3-52OtoL]
CMT解    26.4秒M6.5p14km-4% fm4(4)/-1km
____P299+19T125+71N30+2 主応力軸方位基準
CMT震源はIS震源から北4km・1km上である.CMT主応力軸方位を基準にするとISは反時計回(外方Oが左Lへ)8.4°と殆ど変わらない.非双偶力成分比は-4%でやや圧縮過剰である.

図335.日本海岸帯(Jsc)・日本海岸沖帯(oJsc)の2011年3月11日東北沖巨大地震M9.0以後のCMT解.数字は小円区最大地震.圧縮主応力軸方位(赤線)が巨大地震と異なり,東北日本弧に直交している.
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最初の最大地震から6月21日までにIS解6個の脈震を含む連発となった(月別IS東日本).発生時刻・規模・発震機構型・深度・最大ISからの震央距離(方位)/深度差,主応力方位,応力場極性偏角(回転Euler極・回転方位[U上・O:外・I内・L左・R右);
6月21日5時33分M4.0p13km fm2(270)/-1km
____P142+16T318+74N52+1  Org41.6[42+32UtoO]
6月20日23時27分M3.3p10km fm9(227)/-4km
____P299+16T112+74N208+2 Org=5.2[81-18UtoR]
6月19日14時15分M3.4p12km fm8(271)/-2km
____P144+13T311+77N53+3 Org=40.1[40+37UtoO]
6月19日3時54分M3.3p12km fm7(251)/-2km
____P135+10T258+72N42+15 Org=35.8[12+27UtoO]
6月19日0時57分M4.2p12km fm9(234)/-2km
____P314+1T197+88N44+2 Org=23.2[37+39UtoO]
6月18日23時57分M3.3p12km fm8(252)-2km
____P285+8T159+76N17+11 Org=18.3[342-40UtoL]
最大ISからの震源位置は2-9kmと近接し,深度は1-4km浅い.最大地震CMT主応力軸方位基準の応力場極性偏角は,いずれも基準極性Orgで5.2-41.6°と変わらず,本破壊に到っていないことから,大地震の前震であることも考えられるので警戒が必要である.

 2-2 本震源域は東北沖巨大地震の引き金を引いたか

 本地震ISから西(259°)に19kmで2011年1月3日にM4.7P12km-12%が起こっている(図336).この震源は,東北沖巨大地震震源から巨大地震の圧縮P軸方位に位置し,巨大地震域のPlate間固着に直接関係していたはずである.しかも巨大地震の2ヶ月前に起き,その1ヶ月後の2月6日から飛騨の前震(速報55),2月16日から巨大本震源北方の前震が開始されており(速報8),巨大地震の引き金を引いた地震と言えよう.

図336.日本海岸帯(Jsc)・日本海岸沖帯(oJsc)の2011年3月11日東北沖巨大地震M9.0以前のCMT解.数字は小円区最大地震.圧縮主応力軸方位(赤線)が巨大地震とほぼ並行している.
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 2-3 日本海岸沖帯・日本海岸帯の地震活動と東北沖巨大地震.

 本震源域を含む日本海岸沖帯(oJsc)・日本海岸帯(Jsc)では東北沖巨大地震の半日後から上越と男鹿で巨大地震に誘導されたM6以上の誘震が起こっている(図335).2011年3月のCMT解と巨大地震CMT解基準の応力場極性偏角;
15日7時20分M4.5-np0km(P327+26T228+16N111+59) -6% 96.4[275+11]143.9tpn上越
12日 4時46分M6.4-np4km(P255+28T2+29N129+48) -25% 87.5[140-18]139.6tpn男鹿
12日 4時31分M5.9P 1km (P321+16T190+66N56+17) -33% 60.1[239+22] 上越
12日 3時59分M6.7P10km (P315+15T99+72N222+10) -27% 56.3[205+23] 上越
11日14時46分M9.0p24km (P113+36T296+54N204+2) -1% 東北沖巨大地震(基準)
巨大地震の非双偶力成分比が-1%と小さいのに比較し,その後の誘震では-25から-33%と大きく圧縮過剰になっており,巨大地震による歪の開放後に新たな圧縮応力が働いたことを示している.

 2-4 日本海岸沖帯・日本海岸帯・脊梁帯の巨大地震前後の応力場変化.

Plate運動によって歪が次第に蓄積して限界に達すると巨大地震を起し,歪が解消されると考えられている.歪蓄積・開放による応力場が変化する場合,その最大の変化は巨大地震の直前から直後に現れるはずである.東北沖巨大地震の前16年半・13年半と後8年半のCMT解・IS解があるので,歪蓄積・開放による応力場変化の解析に使用できる.
日本海岸沖帯・日本海岸帯(oJsc・Jsc)にはCMT解63個あるが,巨大地震より前と後の最大地震は;
__襟裳___________最上__________鹿島______
後 M6.4-np4km2011/3/12Oga M6.7p14km2019/6/18Dw M6.7P10km2011/3/12Jez
前 M5.8p29km1997/11/23Oga M4.7P12km2011/1/3Dw M6.9P11km2007/3/25Noto

 最上小円区の巨大地震後最大CMTは本地震,巨大地震前は直前の引き金地震である.他の最大地震は巨大地震の半日後誘震であり,巨大地震と密接な関係にある(図335,図336).
これらの最大地震を含む日本海岸沖帯・日本海岸帯IS解585個の発震機構型は,逆断層p型382個・横擦断層n型163個・正断層t型40個と逆断層p型優勢である(図337,図338).

図237. 日本海岸沖帯(oJsc)・日本海岸帯(Jsc)・脊梁帯(Bkb)の2011年3月11日東北沖巨大地震後のIS解圧縮主応力P軸方位.△:2018年1月23日に噴火した草津白根山.
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図238. 日本海岸沖帯(oJsc)・日本海岸帯(Jsc)・脊梁帯(Bkb)の2011年3月11日東北沖巨大地震前のIS解圧縮主応力P軸方位.
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これらの圧縮主応力P軸方位はほぼ東北日本弧に直交する太平洋Plate運動方位を向いているが,巨大地震前後の差を検討する.検討にはP軸が水平に近い逆断層p型と横擦断層n型の平均傾斜方位・±標準偏差・[個数]を使用する;
____襟裳______最上______鹿島____
日本海岸沖帯・日本海岸帯
後 P246+12±33[50]_P306+3±27[ 9]_P304+6±30[122]
前 P274+16±24[48]_P287+2±23[15]_P300+5±28[321]
差    -28______+19_______+4
 最上小円区のIS解個数が少なく,大きな差が出ているので脊梁帯(Bkb)についても検討すると;
後 P255+3±33[23]_P105+10±45[18]_P120+0±26[129]
前 P287+5±29[17]_P111+5±30[165]_P107+4±26[69]
差    -32_______-6______+13
 巨大地震前の方位は太平洋Plate運動方位に揃って一様なのに対し(図338),巨大地震後には襟裳小円区で約30°反時計回りするのに対し,鹿島小円区では時計回りしている(図338).この差は,南北に近い襟裳小円区から次第に東西方向に屈曲する東北日本弧方位に対応している.
巨大地震半日後誘震のP軸方位(上越P315+15・P321+16,男鹿P255+28)に既に東北日本弧方位に対応する変化を認めることができる.誘震の非双偶力成分比が圧縮過剰になっていることは,巨大地震によって歪の解放された東北日本に日本海岸に直交する圧縮応力が働いたことを意味している.

 2-5 東北日本弧を屈曲させる東北沖巨大地震後のMantle伝播.

 巨大地震によって東北日本弧の地殻と太平洋SlabはPlate境界面で50m移動したと言われている(速報28).東北日本弧から見ると太平洋Slab上面に沿って楔が50m打ち込まれたことになる.SlabはVladivostokで2009年4月18日M5.0P671km・2016年1月2日M5.7P,千島で2012年8月14日M7.3p654km,伊豆で2015年5月30日M8.1t682km・6月3日M5.6-t695kmと深度670kmの下部Mantle上面まで到達しており,Slabの上と下のMantleは隔離されている(図339).

図339.深度670kmの下部Mantle上面にまで達する太平洋SlabのCMT解主応力軸方位.
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Slab上のMantleは,50mの楔打ち込みによって行き場を失いMantle圧を上昇させる.Mantle圧上昇は最初に地表を押し上げ,津波のように周囲に拡大伝播される.P軸方位が東北日本弧に直交する半日誘震は,Slab上の日本海底を上昇させて拡大伝播したMantleが起こし,現在も東北日本弧の屈曲を成長させているのであろう.p型主体であったIS解の横擦断層n型19%(図338)を巨大地震後に48%に増加させたのも(図337).日本列島下に到達したMantle地表の引張応力を相殺させたからと考えられる.2018年1月23日には草津白根が噴火している(図337).
 本地震の震源では,太平洋Plate運動方位とMantle津波方位との差が小さいため,Mantle津波の盛衰を判別できなかったが,太平洋Plate運動による歪蓄積を解析するために重要な震源域である.

 2-6 Mantle伝播の歴史地震記録と稀発地震.

2011年3月11日の東北沖巨大地震では本震によるPlate間歪開放が1-2分に終了し,その1ないし2時間後に時間誘震が起こり,半日後に日本海沿岸で半日誘震が起っている.時間誘震は本震周辺の支柱崩壊に当たり.本震による歪開放による周囲の応力場が変化を解消するものである.半日誘震は行き場を失った太平洋Slab上MantleがSlab上の日本海底を押し上げ周囲に伝播して起こしたもので,現在も継続していると考えられる,
東北沖巨大地震の歪の蓄積開始は1611年慶長三陸地震以後である(月刊地震予報116)ので,慶長地震前後の地震活動と直接比較できれば良いが,東北日本の歴史地震記録が乏しく,1850年以降の1896年明治三陸地震・1933年昭和三陸地震M8.1と関連する襟裳・最上小円区の日本海岸帯・日本海岸沖帯・脊梁帯の地震記録(宇佐美,2003)を比較する(図340);
1939年5月1日M6.8男鹿2km
1933年3月3日M8.1昭和三陸
1914年3月28日M6.1仙北
1914年3月15日M7.1仙北
1906年10月12日M5.6仙北
1906年10月12日M5.4仙北
1896年8月31日M7.2陸羽
1896年8月31日M6.4陸羽
1896年8月31日M6.8栗駒
1896年8月23日M5.2陸羽
1896年6月15日M8.5明治三陸
1894年10月22日M7.0庄内

図340.1850年から1940年までの日本海岸沖帯・日本海岸帯・脊梁帯の歴史地震と明治三陸地震・昭和三陸地震.

1894年10月に庄内M7.0の1年8ヶ月後に1896年6月15日明治三陸地震M8.5があり,2ヶ月後に陸羽地震M7.2地震が起っている.1914年3月15日秋田仙北地震M7.1は明治三陸地震の27年9ヶ月後で,18年11ヶ月半後に1933年3月3日昭和三陸地震M8.1が起ったが,6年2ヶ月後の男鹿1939年5月1日M6.8のみである(図400).前後の地震活動が盛んな明治三陸地震と乏しい昭和三陸地震の差は明瞭であるが,島弧地殻と沈込Slab間のPlate境界地震の明治三陸地震と海溝外の沈込前の太平洋海洋底の破断の昭和三陸地震の差を反映しているのであろう.
稀発地震が東日本大震災後,北海道から韓半島まで日本海拡大境界で起っていることは(5482月刊地震予報106),東北沖巨大地震後の太平洋Slab上のMantle伝播拡大が日本海拡大時に形成されたと同様の拡大をもたらしたと考えられる.

3.2019年7月の月刊地震予報

 新潟・山形地震M6.7では脈震を含む連発地震が起きたが,応力場極性の逆転に至っておらず,大地震の前震とも考えられるので警戒が必要である.
本地震予報では東北日本の応力場とPlate運動の関係を検討し,長年の謎とされてきた東北日本弧の屈曲が,巨大地震による太平洋Slab沈込に伴うSlab上Mantleの伝播拡大によることを明らかにできた.今後更なる解析を進め,巨大地震の前に適切な地震予報を実現するために全力を尽くす所存である.

引用文献

宇佐美龍夫(2003)日本被害地震騒乱.東京大学出版会,605p.

月刊地震予報117)西南日本のPlate運動が交錯する日向灘の地震M6.3P,2019年6月の月刊地震予報

1.2019年5月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2019年5月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で15個0.1796月分,千島海溝域で2個0.029月分,日本海溝域で7個0.075月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.034月分,南海・琉球海溝域で5個0.437月分であった(2019年5月日本全図月別).2019年2月の1割以下から4月に4割近くに回復したが,再び2割以下に低下した.
 最大地震は2019年5月10日日向灘M6.3,次大は5月15日屋久島沖M5.7ある.最大地震は1時間前のM5.6との脈震(月刊地震予報115)であった.

2.西南日本のPlate運動が交錯する日向灘の2019年5月10日地震M6.3P

 2019年5月10日8時48分に日向灘の比海Slab上面と島弧Mohoの境界付近でM6.3発震機構型P深度25kmがあった.この地震は,5月10日から12日までのCMT解4個,26日までのIS解10個は脈震を含む連発地震となっている(図319).

図319 2019年5月の日向灘連発地震.赤文字は最大地震.
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 最大地震のCMT発震機構(P119+22T307+67N210+3)を基準に算出したIS解応力場極性偏角は,12.3から54.1°で25°以下が基準と同じ逆断層型で圧縮P軸傾斜方位がPlate運動と逆方位(右下の主応力方位図の上下縁の黒丸印)のSlab上面に沿う剪断応力であり,25°以上が正断層型で引張T軸方位がPlate運動方位(主応力方位図中央の紫折線)に一致している.いずれも基準極性を保持しており,本破壊に至っていない(図320).

図320 2019年5月の日向灘地震の最大地震を基準にした応力場極性偏角.
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2-1 日向灘に並行する急傾斜Slabと活火山活動

 比海Plateが南海Trough-琉球海溝に沿って沈込んだSlabは同心円状屈曲上面に沿う震源分布として認められるが,Slabは 南海小円区西境界付近の海溝距離250kmから急に傾斜を増す.九州小円区では海溝距離200kmから急傾斜になり(図321),琉球小円区の吐噶喇(トカラ)列島では海溝距離150kmから急傾斜になる.
奄美で急傾斜の程度を減じ,沖縄本島では同心円状屈曲上面に戻っている(図322).
 日向灘のIS解の震央は,急傾斜Slabに並行する北北東-南南西方向に直線的に配列し,震源深度は島弧地殻と沈込Slabの間のMoho面付近にある(図323).

図321 比海Plate沈込Slab.
同心円状屈曲上面から傾斜を増大させるSlab内IS解
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図322 琉球海溝から沈込む比海Slab内CMT解.
吐噶喇列島Slabの急傾斜の程度は,奄美で減じ,沖縄本島では同心円状屈曲Slab上面付近に戻る.
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図323 日向灘周辺域のIS解.
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 急傾斜Slabと地表の活火山の分布には密接な関係がある.Slab内のIS解深度が100kmから150kmに達すると活火山が配列する.世界各地の沈込Slabにも同様な関係が認められることから,本地域の急傾斜Slabも通常のSlab同様に地表へMagmaを供給していることが確認される(図324).
 Slabが深度100-150kmに達すると,圧力による脱水反応によってMantleに水が供給され,Magmaが形成されると考えられているが(巽,1995),Slab傾斜が急な場合には給水範囲が狭まり,大量の水が集中的に供給される.九州から吐噶喇列島の急傾斜Slab上の巨大Caldera火山は集中供給される大量の水と対応しているのであろう.

図324 活火山(△印)と急傾斜Slab内の深度100-150kmのIS解.
九州までは急傾斜Slabと活火山の密接な関係が確認できるが,中国地方の活火山の下にはIS解が観測されていない.
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2-2 Slab震源のない中国地方の部分溶融Mantleと東北沖巨大地震の応力変化を記録する横擦断層型直下型地震

 震源を伴う急傾斜Slabは別府湾で途絶え,中国地方には認められない.しかし,活火山は中国地方北縁の日本海沿岸に配列している.これらの活火山は,南海Troughから同心円状屈曲して沈込むSlab上面が100-150kmに達する位置から配列している(図324の中上図).
 1600万年前の四国海盆拡大末期に四国海盆北縁に形成された拡大軸は,1500万年前の日本海拡大によって西南日本に覆われた.拡大したばかりの拡大軸を覆った西南日本の地殻は溶融し,那智の滝・小豆島・大崩山・屋久島などの外帯火成活動を起した(高橋,1986).日本海拡大によって覆われた四国海盆は,比海Plate運動によって700万年前から西南日本の下に沈込でいる.中国地方に達した拡大軸も通常のSlabのようにMagmaを供給しているが,地震を起す程冷却していないと考えられる.中国地方ではSlab地震は観測されていないが,その上の地殻には横擦断層型の直下型地震が観測されている(図323).そのIS解292個の深度は1-33kmで,横擦断層n型81%・逆断層p型11%・正断層t型8%と横擦断層型が圧倒的に多い.横擦断層型の深度は1-25km,主応力軸方位(方位・傾斜・標準偏差)は(P288+8±25T197+1±25N107+82±24)で中間主応力N軸傾斜が82とほぼ垂直で圧縮主応力P軸方位が288とPlate運動方位に沿っている.
 地下の岩石が温度上昇によって部分溶融状態になると剪断応力を伝達できず,その境界域ではP軸とT軸が境界面に沿い,N軸が境界面に直交する.境界面が水平に近ければN軸が垂直になり,発震機構は横擦断層型になる.Slab地震が起らずその上の地殻内で横擦断層型地震が優勢な中国地方の下にはほぼ水平な部分溶融境界の存在が想定される.
 部分溶融状態のMantle圧力が増大すれば風船を膨らませるように,境界面は拡大するので境界面に沿う引張応力が生じ,減少すれば圧縮応力が生ずる.この変化は,CMT解の非双偶力成分比nonDCの増大と減少として現れる.中国地方地殻のCMT解17個の平均nonDCは引張過剰の+6.3±9.3%であり,2011年3月の東北沖巨大地震前の4個は-0.5±11.7%と大きくばらつく負の圧縮過剰であるが,地震後の13個では+8.4±7.7%と正の引張過剰で,Mantle圧力増大を示している(図325).特に2011年6月4日M5.2+np11km+21%・11月21日M5.4+np12km+14%・11月25日M4.7+nt12km+24%の増加は顕著で,巨大地震による西南日本の応力解放の定量的資料を提供してくれる.
 横擦断層型IS解方位は,巨大地震後の65個で(P282+5±25T192+2±20N80+84±23)
巨大地震前の167個で(P291+9±25T200+0±26N115+81±24)
P軸・T軸いずれの方位も8-9°減少している(図326).日本海溝からの北東方向の圧縮力によって比海Plate運動の北西にほぼ沿う圧縮主応力P軸方位が 8.5°回転していたが,巨大地震によって解放されて戻ったとすれば,日本海溝からの圧縮力は南海Troughからの圧縮応力の15%(=tan(8.5))と算出できる.

 図325 中国地方の地殻内横擦断層型CMT解の非双偶力nonDC成分比.
2,011年3月東北沖巨大地震直後の2011年6月から11月に+12%以上(青色)が集中している.震央地図と断面図の主応力方位軸の長さは規模MにnonDC成分%の絶対値の10分の1を乗じて拡大して示してある.正の場合は引張応力T軸,負の場合は圧縮P軸方位.
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図326 中国地方の地殻内横擦断層型IS解の圧縮主応力P軸方位.
2,011年3月東北沖巨大地震前後の比較(右下図).
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 Moho以深の上部Mantle内には別府湾の急傾斜Slabの上方延長として瀬戸内深部震源域が瀬戸内海以南に分布する(図327).その上を日向震源域の震源も覆うが,これらの震源は瀬戸内海北縁に沿って途絶える(図323).この北縁に当たる海溝距離280-307kmのIS解37個のN軸方位は342+5±53と北北西水平であるので,これに直交する東北東の瀬戸内海北縁に沿う垂直な部分溶融面が震源分布の北縁を規定していると言える.この西方の九州では,別府湾付近で多少陸域に入り込むが,宮崎から鹿児島への日向灘海岸線が震源分布西縁になっている.

図327 急傾斜Slab上方に続く南海小円区の瀬戸内深部震源域のIS解主応力方位.
瀬戸内海北縁に沿って分布を断つ.
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 九州では急傾斜Slabより上のMantleに震源は分布しないが,上部地殻には2016年4月16日の熊本地震M7.3nt12km(速報79)に代表される直下型地震のIS解469個があり,横擦断層型55%・正断層型39%・逆断層型6%である(図328).
 横擦断層型優勢は,水平に近い部分溶融境界面の存在を示唆する.主応力軸方位は(P258 +20±46T170+1±28N74+68±49)で,南南東のT軸方位が最も集中が良く,Plate運動の北西方に近い.この南南東方向の引張応力は別府-島原地溝帯の拡大に対応している.CMT解56個の非双遇力成分nonDC比は+4.6±13.2%と正の引張過剰で,部分溶融圧増大が優勢であることを示している(図329).

図328 九州地方の直下型地殻地震のIS解主応力軸方位.
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図329 九州地方の直下型地殻地震のCMT解非双遇力成分nonDC比.
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2-3 沖縄Trough拡大とSlab下Mantleの行方

 別府-島原地溝帯南西方の沖縄Troughでは背弧拡大が進行している.沖縄TroughのCMT解131個は,横擦断層型51%・正断層型49%と横擦断層型優勢である. nonDC比が+6.1±14.4と引張過剰で部分溶融部の拡大を示し,海底拡大の進行と対応している.主応力軸方位は(P239+45±45T155+0±21N67+45±45)とT軸の集中が良く,海溝軸方位の変化とは関係なく北西方へのPlate運動方位に揃っている(図330の右下図中央付近の紫色折線Sub).

図330 沖縄TroughのCMT解非双遇力成分nonDC比.
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 T軸方位がPlate運動方位に揃うことは,収束するPlate運動方向と逆方向に拡大していることを意味し,「何故,収束境界域で背弧海盆が拡大するか」というPlate Tectonics確立期以来の謎の本質を具現している.琉球海溝沿いのSlab最大深度250kmは410kmのMantle遷移帯上面に達しておらず,Slab先端の下部をSlab下Mantleが潜り抜けられる.海洋底表層が島弧地殻との摩擦抵抗のため沈込めなくとも,海洋底深部の部分溶融MantleはPlate運動を保持し,Slabの最深部を通過して背弧側に噴き出すことができる.島弧に固着したSl;abの下からPlate運動方向に噴き出すMantleは「作用・反作用の法則」に従い,島弧とSlabをPlate運動と反対方向に押し返すため,背弧側にはPlate運動方向の引張応力が発生する.
 また,Slab沈込に伴いSlab上面深度が増大するが,その増大はSlab下Mantle体積の過剰を生む.その過剰MantleをSlab下から除去しなければ沈込を続行できない.過剰MantleがSlab下を通過できれば背弧の拡大圧は定常的に増大する.
 衛星測距により別府-島原地溝帯・沖縄Trough南縁の九州南部と琉球列島が比海Plate運動方向とは逆に南下していることが判明し,台湾衝突による海溝軸の後退が提案されている(新妻,2007).海溝軸後退による沖縄Trouph拡大であれば,海溝軸方向が拡大方向と関係しているはずである.しかし,拡大方向は海溝方向とは無関係にPlate運動方向に揃っており,Slab下Manlteの背弧側放出による拡大が主体であることが判明した.Plate Tectonicsの謎であった背弧海盆拡大の解決には,二次元の地球表面幾何学から三次元の地球表層幾何学への拡張が必要であったと言える.

2-4 沈込境界軸屈曲によるSlab過剰ひだと急傾斜Slab

 九州から吐噶喇列島の急傾斜Slabは部分溶融Mantleの圧力と関係しているのであろうか.もし,背弧側に噴出した部分溶融MantleがSlab上面を押して急傾斜させているのであれば,N軸方位が押されるSlab上面に直交するはずである.
Slabが急斜する100km以深の震源のN軸方位は,22+21±34とSlab上面に直交せず Slab上面走向に並行している(図331).N軸方位がSlab面に沿っていることは,Slab外のMantleの関与を否定し,Slabの伸長や屈曲によるSlab内応力場が支配的であることを示している.
 南海小円区・琉球小円区の東西境界はほぼ並行し,海洋底がそのままSlabとして沈込めるが,その間の九州小円区で沈込境界軸方位が南西から南南西へ屈曲している.島弧側に凸のTrough軸に沿ってSlabが沈込むには,Tableの角でTable Clothがひだを作るように,沈込Slab面積が過剰になる.九州-吐噶喇の急傾斜Slabが過剰Slab面積を生む沈込境界軸屈曲部に位置しており,過剰Slab面積を急傾斜Slab形成によるSlabひだによって消化しているのであろう(図332).
Slab表面積が過剰になればその下のMantleも過剰になる.この過剰Mantleは急傾斜Slabの下から背弧側に供給され別府-島原地溝帯と沖縄Troughの拡大を担うので,これらの拡大が九州から開始されることも沈込境界方位の変換と符号する.

図331 100km以深の急傾斜Slab内IS解のN軸方位.
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2-5 Plate運動の鍵を握る日向震源域の震源移動周期

 日向灘は,Slabの島弧Mohoへの沈込から急傾斜Slabに変換する島弧Moho付近の震源分布域である.北縁の瀬戸内海では瀬戸内海深部震源域の上に載る.
 日向震源域にはCMT解が40個あるが,M6.0以上の地震は
2019年5月10日M6.3P25km(P119+22T307+67N210+3)
2014年8月29日M6.0P18km(P127+25T284+63N33+10)
1996年12月3日M6.7P38km(P119+33T313+56N213+6)
1996年10月19日M6.9P34km(P132+19T317+71N223+2)
いずれも南方の逆断層型でSlab沈込の剪断応力場で起っている.今回の地震M6.3の規模は第3位である(図333).

図333 日向震源域のCMT解主応力軸方位.
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 日向震源域のIS解410個は,正断層型62%・逆断層型26%・横擦断層型12%で,正断層型の主応力軸方位は(P128+71±28T270+17±35N3+9±37)とT軸が西方で北西方のPlate運動方位に近く別府-島原地溝帯と沖縄Troughの拡大と関連している.逆断層型は(P125+32±26T294+62±19N33+3±29)とP軸傾斜が南東方とPlate運動方位と逆方位なのでSlab上面に沿う剪断応力場を示す.正断層型の震源深度は深く北方に分布し,逆断層型は浅く南方に分布している(図334).

図334 日向震源域のIS解主応力軸方位.
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 時系列図(図334の左中図)で右から左へ震源が左上がり直線に沿って配列している.この配列は,中国地方の部分溶融Mantle圧によって開始した正断層型破壊が,別府-島原地溝帯の部分溶融圧を受けてMoho面下のMantleを破壊しながらSlab上面に達し,Plate運動による逆断層型破壊に至っていることを示している.大地震となるSlab上面に沿う沈込は,Slab以深の過剰Mantleを背弧側に放出して別府-島原地溝帯の拡大圧を上昇させ,次の正断層型破壊を開始させる応力場変動周期を駆動するであろう.今回のM6.3に至る一連の変動周期は2014年初に開始している.
 予想されている南海Trough巨大地震もSlab沈込の剪断応力場による逆断層型地震である.今回の地震では,応力場極性の逆転が起っておらず(図322)巨大地震の前震であることも考えられ(特報4月刊地震予報87),南海Trough全域に進展することも考えられる.また,本震に至っていない連発地震が台湾から琉球海溝に沿っても起っているので,琉球海溝全域に及ぶ巨大地震に進展することも考えられる.これらを見分けるため,今後の日向震源域の動向に十分な注意を払うとともに,厳重な警戒が必要である.

3.2019年6月の月刊地震予報

 日向灘で脈震を含む連発地震が起きたが,応力場極性の逆転に至っておらず,巨大地震の前震とも考えられるので,南海Trough地震や琉球海溝地震に厳重な警戒が必要である.巨大地震には広域に及ぶ前震を伴うと予想されるので,今後の前震や脈震に注意が必要である.本地震予報によって西南日本のPlate運動と応力場の関係を明らかにできたので,更なる解析を進め,巨大地震の前に適切な地震予報を実現するために全力を尽くす所存である.

引用文献

高橋正樹(1986)日本海拡大前後の“島弧”マグマ活動.科学,56,103-111.
巽 好幸(1995)沈み込み帯のマグマ学.東京大学出版会,186p.
新妻信明(2007)プレートテクトニクス―その新展開と日本列島―.共立出版,292p.