東日本巨大地震の前震・本震・余震の震央を記入した赤色立体地図

新妻地質学研究所へようこそ

2011年3月11日午後2時46分、東日本巨大地震発生。
今、仙台、東北、日本、環太平洋、地球で何が起こっているのか?

プレートテクトニクス一筋で
地球科学を研究してきた仙台在住の著者が考えます。

月刊地震予報109)北海道胆振東部地震M6.7の破壊進展に伴う主応力軸入替,琉球海溝連発地震M6.2・M6.0,相模Slabの地震活動, 2018年10月の月刊地震予報

1.2018年9月の地震活動

気象庁が公開しているCMT解によると,2018年9月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で39個0.687月分,千島海溝域で2個0.080月分,日本海溝域で23個2.775月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.107月分,南海・琉球海溝域で13個0.640月分であった(2018年9月日本全図月別). 2017年10月以来の月間総地震断層面積比2割以下の静穏期を2018年8月に5割近い面積比で脱し活動期に移行したが,2018年9月には面積比を7割に近くまで増大させた.
2018年9月の最大地震は2018年9月6日北海道の胆振地震M6.7で,M6.0以上の地震には琉球海溝の2018年9月15日M6.2・16日M6.0の連発地震がある.2018年7月7日M6.0のあった房総半島沖では,相模Slabの地震活動が活発化している.

2.胆振地震M6.7の破壊進展に伴う主応力軸入替

青森県の下北半島沖では,2018年7月2日から16日に島弧上部MantleとSlabの境界部で3個のM4.9地震に続き,太平洋Slabと島弧Mohoとの接触部で2018年8月23日M4.9p・8月24日M5.1pの連発地震が起こっていた(月刊地震予報108).
この様な状況で,札幌市内のホテル宿泊中の2018年9月6日3時7分に北海道胆振東部地震M6.7が起こり,震動継続時間を51秒と数えることができた.経験則から継続時間が1分ならM7で,Mが1つ減る毎に半分になるので,M7より少し小さいが震源が海域であれば津波が心配されるM6.5より大きいと推定した.札幌のホテルでは停電と回線切断のため気象庁のHome Pageを検討できなかったが,帰仙後,5日間保持される速報発震機構解とともに精査後の初動IS解・CMT解を解析した.精査前のIS解とCMT解は,海外地震も含め速報解として公表されている.
9月6日3時07分の最大地震についての速報(CMT)解M6.7pr深度40kmと精査後のCMT解の応力場偏角は,19.8°と良く一致している(図287).その後の速報解の応力場偏角は,同日5時20分のM3.9p40km(IS)で51.4°,6時11分M5.4pr40km(CMT)で29.4°と最大地震の応力場を保持していた.しかし,深夜23時43分のM4.1p40km(IS)では84.5°と大きく外れ,応力場極性逆転入替TPexNによって79.4°に減少することから,最大地震を起こした応力場解放の開始が示された.続く9月7日1時41分M4.2nt30km(IS)も90.8°と,応力場極性逆転入替TPexNによって52.1°に減少することから,最初の最大地震M6.7が本破壊による本震であると判定できた.

図287.2018年9月胆振地震M6.7PrCMT解主応力方位基準の速報解応力場極性偏角区分.
 左図:震央地図,中図:海溝距離断面図,右図上:縦断面図,右中図:時系列図(右端の数字は2018年9月の日数,左縁は応力場極性偏角Π),右下図:主応力軸方位図.
 クリックすると拡大します。

2018年9月末までに,胆振地震についての速報解72個,精査後のIS解27個,CMT解13個が公表された.最大規模はIS解のM6.7pr37kmで,同地震のCMT解はM6.6Pr33kmとされている.IS解は破壊開始の位置と応力場,CMT解は主破壊の重心(Centroid)位置と応力場を表す.本破壊が震源域の広域応力場を代表すると考えられるので最大地震のCMT震源とCMT発震機構主応力方位(P67+17T274+71N160+8)を基準として解析する.
基準震央からの震央距離は,速報解震央が16km以内,IS解震央が19km以内,CMT解震央が17km以内に収まっている.また,震源深度は速報解が20-40km,IS解が13-43km,CMT解が13-41kmと,島弧地殻底のMoho深度付近に当たっている(図287).
日本海溝域のMoho付近の地震は,太平洋岸に沿って起こっていることから「沿岸震源帯nSh」と呼ぶことにする.沿岸震源帯には北から襟裳・三陸・双葉の震源区があり,今回の胆振地震は,海溝距離幅の最も広い襟裳震源区の西縁で起こった(図288).今回の胆振地震M6.7pr37kmの規模は,沿岸震源帯において三陸震源区の2012年3月27日M6.6pr33kmを凌ぎIS解最大地震となった.

図288.日本海溝域の島弧Moho面付近を震源とする沿岸震源帯のIS解主応力軸方位.
 左図:震央地図,中図:海溝距離断面図,右図上:縦断面図,右中図:時系列図(右端の数字は年数,左縁は51.1日間の地震断層面積規模[彩色は発震機構型比率]と,積算地震断層面積のBenioff図),右下図:主応力軸方位図.
  クリックすると拡大します。

2018年9月30日までのIS解27個・CMT解13個の応力場偏角の平均方位は5.4・12.7°と最大CMT解にほぼ一致し,基準としたCMT解応力場が今回の地震活動の応力場を代表していると言える(図289).

図289.2018年9月胆振地震の最大地震CMT解主応力軸方位基準のIS解とCMTcmt解の応力場極性偏角区分.
 左図:IS解震央地図,中上図:CMTcmt解海溝距離断面図,中下図:IS解海溝距離断面図,右上図:IS解縦断面図,右中図:IS解時系列図(右端の数字は2018年9月の日数,左縁は応力場極性区分偏角で左がCMTcmt解,右がIS解),右下図:主応力軸方位図.
 クリックすると拡大します。

これらの発震機構解の中にはIS解とCMT解を兼備する10個の地震がある.破壊開始の応力場と主破壊の応力場偏角の差δは,最大地震の9月6日M6.6Prで55.1°と,9月14日9時48分M4.2の56.4°に次いで大きい(表34).

表34. 2018年9月の胆振震源域のIS解・CMT解兼備地震の応力場極性偏角ε・区分Π(最大CMT基準・最大IS基準).

規模型 深度 non DC% 偏角δ CMT ε CMT Π IS ε IS Π
2018 9 24 18 17 6.1 M4.3T 41 16 18.9 73.1 tn53.5
5.8 M4.3pr 41 11.2 23.6 72.9 tpn117.4
2018 9 17 2 51 32.1 M4.5T 28 25 94.9 tpn128 97.1 tpn145.4
31.6 M4.6t 28 41.8 59.0 107.4 tpn162.0
2018 9 14 9 48 32.4 M4.2pr 36 -1 29.3 75.3 tpn126.7
32.0 M4.3t 36 56.4 43.6 59.7
2018 9 14 6 54 22.8 M4.6-t 27 -16 27.0 80.6 tn40.2
22.3 M4.6nt 27 26.6 33.1 85.3 tpn134.8
2018 9 12 18 24 52.2 M4.4+p 33 5 30.1 67.8 tn24.6
51.8 M4.5pr 33 24.3 27.8 51.3 tn46.7
2018 9 11 12 54 50.5 M4.2+p 13 13 36.0 37.3
50.2 M4.3p 13 45.4 56.4 54.1
2018 9 9 22 55 16.2 M4.9-t 34 -16 8.4 57.5 tn49.2
13.7 M4.9pr 34 27.1 25.5 73.7 tpn120.2
2018 9 7 22 43 46.3 M4.4T 36 21 55.1 92.9 tpn150.2
45.9 M4.4p 36 24.7 40.4 90.0 tpn145.8
2018 9 6 6 11 34.4 M5.4pr 35 -2 18.7 50.4
29.7 M5.4pr 35 8.5 25.8 55.2 tn49.3
2018 9 6 3 8 10.2 M6.6Pr 33 -18 0.0 基準 55.1 tn52.9
7 59.3 M6.7pr 37 55.1 55.1 tn52.9 0.0 基準
個数 CMT平均ε IS平均ε
兼CMT 10 20.9 ±36.9 49.3 ±53.9
兼IS 10 6.0 ±43.0 65.0 ±29.1

最大地震のIS解(P231+9T129+52N328+36)とCMT解の応力場偏角差55.1°は,引張T軸と中間N軸の入替TexNによって52.9°と減少することから,T軸N軸入替途上にある.非双偶力成分比は-18%とT主応力とN主応力の差が圧縮P主応力とN主応力の差の半分以下でTexN入替が起こり易くなっている.IS震源深度37kmがCMT震源深度33kmより深いことは,深所から開始した破壊がて上方に進展したことを示している.深度が大きければ静岩圧が引張応力を相殺するため,破壊の上方進展に伴う静岩圧減少によって引張応力の垂直成分が増大する.深所でT軸より引張応力が小さかったN軸が浅所でT軸より大きくなれば,自動的にN軸がT軸に入替られる.IS解で52°のT軸傾斜がCMT解で72°に増大し,CMT解のT軸方位がIS解のT軸方位129°よりもN軸方位328°に近い274°であることは,IS解とCMT解の差55.1°が破壊の上方進展による引張応力垂直成分の増加によって説明できる.
IS解・CMT解兼備地震10個のIS解深度は9月24日の地震が41kmと9月6日の最大地震の37kmよりも深いが,24日の地震の応力場偏角は,最大地震CMT解基準でIS解が28.6°・CMT解が18.9°とほぼ一致するのに対し,最大地震のIS解を基準にすると72.9・73.1と異なる.最大地震の破壊を開始させた深度37kmの応力場は,9月24日の深度40kmで最大地震の浅部の主破壊応力場に変化してしまったのであろう.
胆振地震の起こった沿岸震源帯(襟裳震源区)西縁(海溝距離280km以上)ではこれまで11個の地震が起こっている(図290).震源深度は12-30kmで,最も深い2015年1月1日M4.5pr30km・2014年11月3日M4.6pr29kmの応力場偏角を最大地震のCMT解基準にすると58.6・55.5°と異なるのに対し,IS解基準にすると21.5・28.3°と一致する.今回の最大地震の深度37kmのIS解と同様の応力場が2014年の深度29kmと2015年の深度30kmにも働いていたことが確認される(表35).

図290.胆振地震前の沿岸震源帯襟裳震源区西縁(海溝距離280km以上)のIS解.
 左図:IS解震央地図,中図:海溝距離断面図,右上図:縦断面図,右中図:時系列図(右端の数字は年数,左縁は応力場極性区分偏角Πと積算地震断層面積のBenioff図),右下図:主応力軸方位図.
 クリックすると拡大します。

表35. 沿岸震源帯襟裳震源区西縁(海溝距離280km以上)のIS解CMT解の応力場極性偏角ε・区分Π(最大CMT基準・最大IS基準).

規模型 深度 non DC% 偏角δ CMT ε CMT Π IS ε IS Π
2017 11 21 16 29 M3.8nt 27 60.6 tn31.0 81.7 tn36.0
10 21 1 44 M3.4p 27 57.5 87.5 tpn137.9
7 16 7 59 M3.3p 25 48.3 84.2 tpn129.4
7 14 17 54 M3.9p 26 40.7 86.4 tn39.2
7 3 6 15 M3.2p 26 51.9 92.2 tpn143.9
7 1 23 45 M5.0P 29 -8 35.1 78.8 tn46.4
M5.1p 27 19.0 52.0 86.3 tn55.8
2015 1 1 22 57 M4.4+pr 30 2 58.6 tn39.8 20.2
M4.5pr 30 9.9 51.2 tn48.7 21.5
2014 11 3 11 28 M4.6pr 29 55.5 tn52.0 28.3
2009 10 5 9 35 M4.7pr 20 13.5 61.3 tn3.9
5 25 1 6 M3.9nt 28 87.5 tn9.2 49.0
2002 10 11 2 22 M3.5p 12 63.0 48.7
個数 CMT平均ε IS平均ε
全IS 11 4.3 ±58.0 42.3 ±59.1

胆振地震域西方の渡島半島の島弧地殻上部では,2014年7月8日M5.4P10kmと2016年6月16日M5.2pr11km(4656月刊地震予報81)が起こっている.この活動は,胆振震源域の2014年11月から2015年1月,と2017年7月から11月の活動に先行している.この中で,2016年6月の地震は,気象庁の1923年からの観測記録にない稀発地震活動として注目された(4656月刊地震予報81).稀発地震は以後,朝鮮半島(月刊地震予報82月刊地震予報84月刊地震予報99月刊地震予報102),群馬でも起こった.これらの稀発地震は,1500万年前の日本海拡大境界域で起こっていることが注目される(月刊地震予報106,).

図291.稀発地震と日本海拡大.
 左図:現在の震央地図,右図:1500万年前(15Ma)の日本海拡大直前の震央地図.
 クリックすると拡大します。

胆振地震は日本海拡大時に大規模左横擦運動のあった北海道中軸部と東北日本の境界で起こっている(図291).この境界はその後,北米Plateと欧亜Plateの衝突境界となり,馬追丘陵の衝突断層褶曲構造を形成している.ほぼ南北方向のこの左横擦境界に,胆振地震IS解のP軸方位231°の応力が働けば右横擦を起こし,日本海は閉塞する.日本海の閉塞は,日本海底の日本列島下へ沈込として1983年日本海中部地震M7.7や1993年北海道南西沖地震M7.8を起こしている.Vladivostokや小笠原の太平洋Slabの下部Mantle深度の地震から予想される太平洋Slabの下部Mantleへの崩落は日本海の閉塞をもたらすことから(速報68速報69,),胆振地震もその変動の現れと見ることもできる.

3.琉球海溝連発地震M6.2・M6.0

 琉球海溝域では2018年7月25日M5.8の海溝外距離-152kmが2010年5月26日M6.4の最遠記録-88kmを大幅に更新し(5542月刊地震予報107),2018年8月14日M4.9が連発していた(5591月刊地震予報108).その後,琉球海溝軸で2018年9月15日M6.2・16日M6.0を含むCMT解10個の連発地震が起こった(表36).CMT解には初動の震源・規模とCMTの震源・規模およびCMT発震機構が公表されている. CMT解についてはその初動震源・規模を月刊地震予報106まで表示・解析してきたが,今後,CMT震源・規模も明記して解析に使用する.本震源域についてIS解は公表されていない.

図292.2018年9月の琉球海溝の連発地震と最遠海溝外地震.
 左図:震央地図,中図:海溝距離断面図,右上図:縦断面図,右中図:時系列図(右端の数字は2018年の月数,左縁は応力場極性区分偏角Πと積算地震断層面積のBenoff図),右下図:主応力軸方位図.
 クリックすると拡大します。

表36.琉球海溝連発地震.

発生時刻 規模型 深度km 海溝距離 応力場極性偏角
IS CMT non DC% IS CMT IS CMT ε Π
2018 9 22 19 58 M5.6 M5.4te -3 48 10 8 -5 31.6
9 17 11 32 M4.6 M4.8Te 14 53 10 5 -6 31.1
9 16 1 24 M6.0 M5.6Te 5 43 10 9 4 8.5
0 38 M5.1 M5.3te 1 53 11 9 -4 35.4
9 15 22 53 M4.8 M4.9Te 13 47 11 7 -3 9.6
17 32 M4.9 M4.8Te 19 45 10 9 -3 39.8
17 5 M6.2 M5.7Te 8 34 12 6 6 基準
13 40 M5.9 M5.9Te 1 55 11 8 4 6.6
13 14 M4.9 M4.9Te 7 44 10 8 -6 25.2
9 8 M5.6 M5.6te 0 44 12 8 -4 14.3
2018 8 14 18 22 M4.9 M4.8nto 4 39 10 -145 -139 78.1 tpn117.2
7 25 13 20 M5.8 M5.3+nto 13 33 10 -145 -152 82.0 ptn117.8
2010 5 26 17 53 M6.4 M6.4To -14 48 10 -86 -88 55.8

規模の最大は2018年9月15日17時05分の初動規模M6.2Teで9月16日1時24分の初動規模M6.0Teが次いでいるが,これらのCMT規模はM5.7・M5.6と小さくなっている.初動深度は34-55kmで,CMT深度は10-12kmと一様に浅いが,いずれにしろ琉球海溝に沈込むPhilippine海 Slab内で起こっている.最大規模地震M6.2の初動深度は34kmと最も浅く,それに次ぐM6.0の初動深度43kmが次いでいる.初動最大地震の主応力軸方位[P165+77T308+10N39+8]の引張主応力T軸方位は南China PlateとPhilippine海Plateの相対運動方位と一致している.この主応力軸を基準とした応力場極性偏角εは6.6-39.8°の範囲に収まり,応力場極性の逆転は起きておらず,今回の連発地震でも応力は維持されており,連発地震がより大きな地震の前震である可能性もあるので今後の活動に警戒が必要である(図292).
 

4.相模Slabの地震活動

2018年6月12日から27日までの房総半島東方の上総Slab上部の地震活動は,太平洋Slabとの境界域の最大地震7月7日M6.0で峠を越したが(月刊地震予報107),8月14日M4.7まで継続した後,9月10日M4.7と9月15日M3.2が房総半島南東沖の相模Slabで起こった.
1915年11月16日の房総南部の地震M6.0は,関東大震災について東京市民を巻き込んだ大森・今村論争を加熱させたが,その8年後,1923年9月1日に関東大正地震M7.9が相模Slabで起こっている(上山,2018).上総SlabによってPlate運動を阻害されていた相模Slabが活動を開始したとも考えられるので警戒が必要である(図293).

図293.2018年7月7日上総SlabM6.0基準の2018年9月の房総半島沖相模Slab地震IS解の応力場極性偏角区分.
 左図:IS解震央地図,中図:海溝距離断面図,右上図:縦断面図,右中図:時系列図(右縁の数字は2018年の月数,左縁は応力場極性偏角区分Π),左下図:主応力軸方位図,×:1915年11月16日M6.0と1923年9月1年M7.9の震央.
 クリックすると拡大します。

5.2018年10月の月刊地震予報

日本海溝域のMoho付近の地震は太平洋岸に沿う沿岸地震帯で起こっているが,その最北部の襟裳震源区で2018年9月6日胆振地震M6.7が起こった.震源域は日本海拡大の大横擦境界であり,北米Plateと欧亜Plateの衝突境界でもあった.Moho面直下のMantleは島弧下で最も強度の大きな深度域と考えられている.そこで起こる地震が沿岸に位置していることは,島弧の海陸境界に重要な役割を持っている可能性もある.この重要な支柱に破壊が起こったことから,千島海溝域の得撫島沖の巨大地震が心配されるとともに日本列島が今後,どのような反応を示すか予断を許さず警戒が必要である.
琉球海溝域の海溝外地震の最遠記録大幅更新に続き,琉球海溝軸部で連発地震が起こったが応力場極性の逆転は起きておらず,今回の連発地震でも応力は維持されている.連発地震がより大きな地震の前震である可能性もあるとともに,南海Trough・琉球海溝全域の応力場変動に対応しているとも考えられるので今後の活動に特に警戒が必要である.
相模Slabの地震活動が活発化している.相模Slabでは1923年の大正関東地震を起こったがその直前の1915年に2018年6月・7月の上総Slabの地震活動域でM6.0の地震が起こり,東京市民を巻き込んだ大森・今村大論争が行われた.長岡半太郎に批判された誕生期の地震学は現在までどの位発展したのであろうか.いずれにしろ警戒が必要である.

千島から琉球まで全域にわたり,これまで見られなかった特異な地震活動が起こっているが,解消しきれない歪の蓄積が進行していることは確実である.今後の警戒が必要とされる.

引用文献

上山明博(2018)地震学をつくった男・大森房吉.青土社,東京,269p.

月刊地震予報108)小笠原海台区の最大地震M6.6,千島列島東端温祢のM6.4Tと下北半島沖連発地震,駿河湾連発地震,琉球海溝外連発地震,2018年9月の月刊地震予報

1.2018年8月の地震活動

気象庁が公開しているCMT解によると,2018年8月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で16個0.488月分,千島海溝域で2個0.472月分,日本海溝域で9個0.220月分,伊豆・小笠原海溝域で3個1.838月分,南海・琉球海溝域で2個0.008月分であった(2018年8月日本全図月別).2018年5月の0.103月分から0.1月分台を保持してきた月間総地震断層面積比が2018年8月に入り0.488月分に急増した.これまでの静穏を脱し,活動期に移行したことを示している.
2018年8月の最大地震は2018年8月17日小笠原海台小円区のM6.6Pで,この他にM6.0以上の地震は2018年8月11日千島小円区東端の温祢M6.4Tがあった.
連発地震は,襟裳小円区の下北沖と駿河小円区であった.また,琉球海溝域では海溝外地震活動が続いている.

2.小笠原海台区の最大地震M6.6

2018年8月17日3時23分に小笠原海台小円区の同心円状屈曲する太平洋スラブ下部で2018年8月の最大地震M6.6P深度93kmが起こった(図287).翌日の8月18日7時06分にも震央距離28kmでM5.8p深度114kmが起こり,連発地震となった.最大地震のCMT解主応力軸方位[P80+37T255+52N348+3]を基準に連発地震の応力場極性偏角を算出すると14.9°と小さく,最大地震によって応力場が変化しておらず,歪は解消されていない.これから起こる大地震の前震とも考えられる.

図287.小笠原海台の2018年8月最大地震M6.6と震央距離100km以内のCMT解発震機構型・主応力軸方位.
 左図:震央地図・海溝距離断面図.
 右上図:縦断面図.
 右中図:時系列図(右縁の数字:年数,左端図:地震断層面積規模).
 右下図:主応力軸方位図.

本最大地震から震央距離100km以内に2009年以降のCMT解が8個ある(図287).本最大地震に次ぐ規模のCMT解は2017年9月12日2時35分M5.9-tr深度0kmである.
太平洋Slabでは,2018年7月2日の千島海溝から伊豆海溝に到るマントル遷移帯で地震が起こり,伊豆海溝域でも7月2日M3.9np372(+80)kmのIS解があった(月刊地震予報107).2018年7月28日9時50分鳥島沖のM4.7P深度46kmに続き,2018年8月3日22時07分に伊豆海溝の太平洋SlabでM5.0-np深度536kmが起こり(図287),太平洋SlabのMantle遷移帯における活動が継続している.
伊豆・小笠原海溝域で最大の出来事は,小笠原小円区の西之島北方で2015年5月30日M8.1t深度682km・6月3日M5.6-t深度695kmがほぼ垂直に垂れ下がり下部Mantleまで達した太平洋Slab内で起こったことである(速報68速報69).西之島より南方の小笠原・Mariana海溝から沈込む太平洋Slabは同心円状屈曲したまま深度660kmの下部Mantle上面にまで達しており(図287),北方に伊豆海溝から垂直に沈込むSlabの間に切れ目が存在する.本最大地震同心円状屈曲して海溝から沈込始めた太平洋Slabと島弧地殻で起こっている.

3.千島小円区東端温祢のM6.4Tと得撫島沖・下北半島沖連発地震

2018年8月11日3時12分千島列島最東端の温祢(オンネ)震源域mCsmOneでM6.4T30kmが起こった(図288の+および×印).引張主応力T軸方位124°は太平洋Plate相対運動の逆方位とほぼ一致している(図288右下図の黒色三角印).
本震源域ではCMT解が2006年11月以降17個報告されているが,本地震が最大地震であり,本地震以外は全て逆断層型でその圧縮主応力P軸方位は138±19°と太平洋Plate相対運動の逆方位と一致している(図288右下図丸印).

図288.2018年8月11日M6.4と温祢震源区CMT解のM6.4主応力軸方位基準応力場極性偏角区分.
 左図:海溝断面図・震央地図.
右上図:縦断面図.
右中図:時系列図(右縁の数字:年数,右端:応力場極性・地震断層面積Benioff図)
右下図:主応力軸方位図.
One:温祢(オンネ)震源区,Sms:新知(シムシル)震源区,Urp:得撫(ウルップ)震源区,oSmk:下北沖震源区.

本地震のCMT解主応力軸方位[P328+66T124+23N218+9]を基準にしたこれまでのCMT解の応力場極性偏角区分(月刊地震予報87)はOrg1/3PTexN10TPexN3と逆極性が76%を占めている.地震活動が活発化したのは東日本大震災前の2009年2月4日M5.1P30kmからで,2014年1月11日M5.5p30kmの正極性への変換から静穏化していた(図288右中図左のBenioff図).
千島小円区の温祢震源域西隣の新知(シムシル)震源域Smsでは2007年1月13日に千島海溝域最大のM8.2Te30kmが太平洋Slab内で起こっており,2006年11月15日M7.9P30kmと2009年1月16日にM7.4Peも起こり,温祢震源域の地震活動の活発化と関連している(図288Sms).
太平洋SlabのMantle漸移帯の広域地震(月刊地震予報107)は千島小円区の2018年7月2日5時45分M5.6-np488kmから開始され,7月7日14時42分にもM4.7+pr524kmが起こっている(図288Sms).また,千島列島得(ウルップ)撫震源区Urpでは2018年7月29日17時12分M4.9P38(+10)kmと7月29日22時00分M5.1P31(-8)kmの連発地震(月刊地震予報107),千島海溝西端に当たる下北沖震源区oSmkで,2018年8月24日23時15分M5.1p深度32km・8月23日0時06分M4.9p深度35kmの連発地震が起こった(図288Urp・oSmk).
下北半島沖の連発地震は太平洋Slabと島弧Mohoの接触部で起こっているが,2018年7月2日20時53分にもM5.0p深度39kmが起こっている.また,島弧Moho以深のSlabでも2018年7月2日2時27分M4.9p深度64km・7月10日13時55分M4.9p深度68km・8月5日17時44分M4.2P62kmが起こっている.(図289).

図289.2018年7月・8月の下北沖震源区連発地震の発震機構型.
oSmk:下北沖震源区
左上図:震央地図.
左下図:海溝距離断面図:
右上図:縦断面図:
右中図:時系列図(右縁数字:月数,左端:地震断層面積規模・Benioff図)

千島海溝域では静穏期の後のM8級地震が予想される状況(月刊地震予報105)の下,2018年9月7日に胆振東部地震M6.7が起こった.この詳細については次号の月間地震予報109で報告する.

4.駿河湾連発地震

2018年8月10日駿河湾で21時18分M4.4Pr22kmのCMT解・IS解の後,22時03分M2.6nt22km・22時28分M2.5pr21kmのIS解が報告された.CMT解M4.4の主応力軸方位[P14+4T280+50N108+40]基準のIS解の応力場極性偏角はM4.4prが37.9,M2.6ntが23.9,M2.5prが33.4°と殆ど変化していない.M4.4による歪解消によっても応力場が変化していないことは,この地震活動が前震である可能性を示唆する(図290).

図290.2018年8月の駿河湾連発地震のT軸方位
 左図:CMT解の海溝距離断面図・震央地図.
 中図:IS解の海溝距離断面図・震央地図.
 右上図:IS解の縦断面図.
 右中図:時系列図(右縁の数字:年数,右端:地震断層面積規模・Benioff図)
 右下図:主応力軸方位図(紫色右下がり線Sub:Plate運動方位)

 駿河小円区の東南海Philippine海Slab震源区tnkPhでは2009年から5個のCMT解(図290右上下図)と1997年から269個のIS解(図290中・右図)が報告されているが,最大は2009年8月11日M6.3+nte18km(CMT解)・M6.5pre23km(IS解)で,その引張主応力T軸方位は291(CMT解)・285(IS解)とほぼPlate相対運動方位に沿い,今回と共通している.IS解全てのT軸方位はPlate相対運動方位(図290右下のT軸方位図左縁のSubからの右下がり紫色線)とその逆方位(図290右下のT軸方位図の上下端)に集中している.

5.琉球海溝外連発地震

琉球海溝域で起こった海溝外地震2018年7月25日13時20分M5.3+nto10(+4)kmの海溝距離は152kmと2010年5月26日M6.4To10(+4)kmの最遠記録88kmを大幅に更新したが(月刊地震予報107),2018年8月14日18時22分に同所でM4.9nto39kmが起こり,連発地震となった(図291).

図291.琉球海溝外連発地震のT軸方位.
 左図:震央地図.
 中図:海溝距離断面図.
 右上図:縦断面図.
 右中図:時系列図(右縁の数字:年数,左端:地震断層面積規模・Benioff図)

これらの地震は正断層型・引張横擦断層型であり,琉球海溝外のPhilippine海Plateに異常な引張応力が働いていることを示している.2009年から2010年の間に大きな変化があるが,駿河湾域の変化(図290)と対応している.

6.2018年9月の月刊地震予報

2割以下の月間地震断層面積のPlate運動面積に対する比を持つ静穏化も2018年7月で終了し,2,018年8月には5割近くに急増し,静けさも終了して嵐の到来である.
太平洋SlabのMantle遷移帯深度における地震が,2018年7月にオホーツク海,伊豆海溝域と同期して起こったが,8月には千島海溝域と小笠原海溝域でM6以上の地震が起こった.これらの地震は,東日本大震災前の状況と類似していることから警戒が必要である.
この異常は太平洋Slab沈込域のみならずPhilippine海Slab沈込域の駿河湾や琉球海溝域にも大地震前の異常が進行していることを示しており,警戒が必要である.

月刊地震予報107)2018年7月7日房総半島東方沖の地震M6.0,2018年8月の月刊地震予報

1.2018年7月の地震活動

気象庁が公開しているCMT解によると,2018年7月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で26個0.165月分,千島海溝域で7個0.098月分,日本海溝域で13個0.670月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.009月分,南海・琉球海溝域で5個0.088月分であった(2018年7月日本全図月別).2018年1月から7月までは148個0.245で,CMT解年間比最低記録の1997年0.100に次ぐ0.143年の記録を持つ2017年(2018年日本全図年別)と合わせると0.181になり,1994年以後のCMT解で異例の2年連続最低記録に近付いている.
2018年7月の最大地震は2018年7月7日房総半島東方沖M6.0で,この他にM6.0以上の地震はなかった.
太平洋スラブのマントル遷移帯深度における地震が,オホーツク海のCMT解7月2日M5.6-np423(+22)km・7月7日M4.7+pr524(+95)km,伊豆海溝域のIS解7月2日M3.9np372(+80)kmとして同期して起こった.このマントル遷移帯地震についてはHiNet震源に基づき東京の郷間由美子様から連絡をいただいた.発震機構は圧縮横擦断層np型と側方逆断層pr型で,スラブ圧縮による地震であり,深度660kmの下部マントル上面の停滞スラブへ海溝からの沈込スラブ圧縮力が加わり起きたのであろう.
千島海溝域の得撫島沖で7月29日17時12分M4.9P38(+10)kmと7月29日22時00分M5.1P31(-8)kmの連発地震があった.
琉球海溝域で起こった海溝外地震7月25日13時20分M5.3+nto10(+4)kmの海溝距離は152kmと2010年5月26日M6.4To10(+4)kmの最遠記録88kmを大幅に更新した.琉球海溝への沈込様相の変化として注意が必要である.

2.2018年7月7日房総半島東方沖の地震M6.0

房総半島東岸の茂原沖で2018年7月7日20時23分M6.0が起こった.本地震のIS解は,規模M6.0・深度66(太平洋スラブ深度+31)km・逆断層p型(東北日本月別),CMT解は規模M5.9・深度54(+19)km・圧縮過剰圧縮横擦断層-np型(東日本月別)である(図279).

図279.2018年7月7日の房総半島東方沖の地震M6.0.
 2018年6月・7月の鹿島小円区の初動発震機構IS解.
左上図:IS解震央地図,左下図:IS解海溝距離断面図,右上図:縦断面図,右中図:時系列図(左端は移動区間総地震断層面積規模;右端の数字は2018年の月数),右下図:主応力軸方位図.

関東地方のテクトニクスは,太平洋プレート・フィリピン海プレート・北米プレートが収束境界で接する地球上唯一の房総三重会合点によって支配されている.太平洋プレートと北米プレートは日本海溝,太平洋プレートとフィリピン海プレートは伊豆海溝,フィリピン海プレートと北米プレートは相模トラフで接する.現在,相模トラフに沿って沈込むフィリピン海プレートは,丹沢および伊豆の北縁に沿って沈込でいたが,丹沢と伊豆の衝突によって沈込境界が北側から南側に順次跳越えてきた.沈込境界の跳越に伴い,それまで衝突地塊から北側に沈込んでいたスラブは切断され,南側の衝突地塊間の海底が新たなスラブとして沈込む,切断と新規沈込の歴史を繰返してきた(特報7).
関東平野の下には太平洋スラブの上に,相模トラフから沈込んでいる相模スラブの前方に丹沢および伊豆の衝突地塊から沈込んだ丹沢スラブ・上総スラブが島弧地殻下に楔のように挟み込まれている.更に,丹沢・伊豆の衝突によって関東平野の島弧地殻は,利根川沿に九十九里スラブとして沈込んでいる.これらのスラブの存在は,関東平野に特殊な地震活動を起こしている.これらのスラブに対応させ,関東平野の地震活動を丹沢震源区・上総震源区・相模震源区・九十九里震源区に区分する(図281).
関東平野の地震活動には,震源の密集する震源密集域と地震のない震源空白域がある.最大の震源空白域は「成田」で,その西方に「所沢」,中央構造線の北側には「茂木」・「鹿島灘」の空白域がある(図280).茂木と鹿島灘の空白域は東北日本弧と関東地方の境界に当たり,成田空白域は,丹沢震源区と上総震源区の境界に当たる.空白域の間を埋める震源密集域は西北西-東南東方向の中央構造線沿および南北方向に並んでいる(図281).

図280.初動IS解震央分布に基づく関東平野の震源空白域(特報7,図233).

図281.初動IS解震央分布に基づく関東平野の震源密集域とスラブとの対応(特報7,図234)
 左図:震央分布地図(相模トラフ域),右上図:石堂小円区の海溝距離断面図,右中図:石堂小円区の縦断面図,左下図:鹿島小円区の海溝断面図.
 <クリックすると拡大します>

本地震は,上総震源区の茂原震源密集域Kzmbrで起こった.茂原密集域の北には成田空白域,北東に飯岡震源密集域Kziokが位置する.
本地震では,茂原震源密集域において先行地震が2018年6月12日5時9分M4.9pr17(-19)kmから6月27日4時16分M4.1p25(-21)kmまで5個起こり(月刊地震予報106),本地震の2時間後にも7月7日22時17分M3.6p58(+21)kmが起こっている(図282右上中図).

図282.2018年6月・7月の上総震源区茂原震源密集域の初動発震機構IS解の応力場極性偏角区分.
 上図:太平洋スラブに対応する鹿島小円区の震央地図(左),海溝距離断面図(中),縦断面図(右上),時系列図(右中:左端の数字は2018年の月数),主応力軸方位図(右下:中央の横線がスラブ傾斜方位[TrDip],紫色斜線が太平洋プレート運動方位[Sub]).
 下図:相模スラブに対応する石堂小円区の震央地図(左),海溝距離断面図(中),主応力軸方位図(右:中央の横線がスラブ傾斜方位[TrDip],紫色斜線がフィリピン海プレート運動方位[Sub]).
 応力場極性偏角区分基準:上総震源区飯岡震源密集域最大CMT解2011年4月21日M6.2p(P102+17T257+71N10+7).

関東平野では,多くの震源が太平洋スラブ上面に沿って分布するが(図281右下図・右中図),その震源が典型的に密集しているのは上総震源区の飯岡震源密集域Kziokである.そこで,Kziokの最大地震2011年4月21日M6.2pのCMT解主応力軸方位(P102+17T257+71N10+7)を応力場極性偏角算出の基準として使用ことにする.
 茂原震源密集域の本地震と後発地震IS解の震源は太平洋スラブ上面から31kmと21km下の太平洋スラブ内に位置し,基準の主応力軸を入替しない応力場極性偏角が最小で基準Orgn(黒色・紫色)に区分される.先発地震IS解の震源は島弧マントル上部Moho面付近に位置し,圧縮P軸と中間N軸を入替えた応力場極性偏角が最小のPexN(空色)に区分される(図282上中図).
本地震(黒色)と後発地震(紫色)の圧縮P軸方位は主応力軸方位図中央(図282右上図下)の太平洋プレート運動方位線(Sub:右上がり紫色斜線)から180°異なる上下端に位置している.しかし,先発地震(空色)のP軸方位(図282右上図下の空色丸印)は南方位(S)の右上がり斜線の少し上に配列している.
 相模スラブ上面についての海溝距離断面図(図282下中図)では先発地震(空色)が相模スラブ沈込上面に沿って分布している.このスラブ上面は相模トラフに沿う相模スラブの同心円状屈曲を仮定して算出したものであるが,上総スラブの茂原震源密集域の震源にも対応していることは,この算出上面が相模スラブの前に沈込んだ上総スラブの上限にも対応していることを示している.P軸方位はフィリピン海プレート運動方位線(Sub:右上がり紫色斜線)から180°下側に配列している.主応力軸方位図の中央線(TrDip)はスラブ傾斜方位としているので,中央付近を通過する紫色線のプレート運動方位は,ほぼスラブ傾斜方位に沿っているとともに,中央線との交点の存在は鹿島小円区と石堂小円区内に完全に一致する方位の存在を示している.
本地震と後発地震は太平洋スラブについて,先発地震は相模スラブについて,P軸方位がプレート運動方位と180°異なっている.180°の差は,P軸方位がプレート運動方位に並行するが,P軸傾斜がプレート運動方位の逆になっていることを意味している.スラブ傾斜方位がプレート運動方位にほぼ沿っていることから,P軸傾斜がプレート相対運動の境界面であるスラブ上面傾斜と逆方位になっていることを示している.スラブ上面に沿うプレート運動に強い摩擦力が働くとスラブ上面に直交する抗力が合成されて,P軸傾斜がスラブ上面傾斜と逆方向の剪断応力場が形成される(図283).先行地震は相模スラブ上面に沿うフィリピン海プレート運動による剪断応力場,本地震と後発地震は太平洋プレート運動による剪断応力場で起こったことを意味している.

図283.沈込スラブ上面に沿うプレート運動と摩擦によって形成される剪断応力.
 圧縮主応力P軸はスラブ傾斜と逆方向に傾斜する.

上総震源区茂原震源密集域Kzmbrには3個の歴史被害地震がある(宇佐美,2003;図283).
1987年12月17日11時8分M6.7深度58(+17)km
1950年9月10日12時21分M6.3深度58(+20)km
1915年11月16日10時38分M6.0
1987年の地震では,死者2名,負傷者123名,住家全壊10,半壊93,一部破損63692棟,崖崩385か所,道路1565か所,ブロック塀1901か所が崩れ,九十九里浜と東京湾北東沿岸で液状化が起き,ガスおよび水道の供給が停止した.1950年の地震では,地割れ,電線切断が起こった.1915年の地震では崖崩れがあり,群発地震が地震前の1915年11月12日35回,14日5回,15日2回,同日の16日に21回,翌日の17日に2回起こっている.
1915年の群発地震の先行と後発は今回の本地震と類似しており,1950年と1987年の震源深度が太平洋スラブ上面より20km ・17km下で,本地震の31km下と同様に太平洋スラブ内で起こっていることから,同様の機構で地震が30-40年周期で起こっていることを示している.
関東平野下の丹沢震源区・上総震源区・相模震源区・九十九里震源区のCMT解について飯岡震源密集域の最大地震を基準とした応力場極性偏角区分(月刊地震予報87)を行うと,丹沢震源区と上総震源区の太平洋スラブ上面に沿う震源は基準区分(黒色・紫色)で,P軸方位(○印)が太平洋プレート運動方位(図284上右図の紫色斜線Sub)と180°異なる下端に集中している.しかし,島弧地殻下の島弧マントル内の震源はPexN(空色)に区分され(図284上中図),太平洋プレート運動に対しては中間方位を持つ.九十九里震源区の地震は東日本大震災後にのみ島弧地殻内で起こっておりP軸とT軸が入替った逆応力場極性のPexT(赤色)に区分され,引張T軸方位(赤色△印)が太平洋プレート運動方位に沿い,東日本大震災本震の余震・余効活動であることを示している.

図284.上総震源区茂原震源密集域の1900年以降の歴史地震とCMT解.
 震央地図(左),海溝距離断面図(中),縦断面図(右上),時系列図(右下:右端の数字は年数,左端のareaMとBenioffは基準期間[287.1日]の総地震断層面積の3区間移動和の地震規模M曲線と積算曲線)震源が島弧地殻下の島弧マントル内と太平洋スラブ内に位置している.1915年の震源深度を0kmとしてあるのは,深度の記録がないことを示す.

丹沢震源区と上総震源区の島弧マントル内震源と相模震源区の震源のフィリピン海プレートプレート運動方位に対するP軸方位は180°異なっており(図285右下図の下端より少し上の空色○印),フィリピン海プレートプレート運動による剪断応力場で起こっていることを示している.
今回,茂原震源集中域で起こった本地震の先行地震と本地震の関係が丹沢震源区の地震活動にも共通していれば,太平洋スラブと島弧地殻との間に挟まる楔状の丹沢スラブと上総スラブはフィリピン海プレート運動に従う相模スラブに押され歪を蓄積し,太平洋スラブの沈込を阻止している.歪が限界に達して破壊すると太平洋スラブ上面の抵抗が減少し,太平洋スラブ上面から太平洋スラブ内の破壊が起こり太平洋プレート運動を消化する筋書きを作ることができる.太平洋スラブ上面に残された丹沢震源区と上総震源区の楔の傷痕は能登半島付近まで追跡できる(特報7).
太平洋スラブが50mも沈込だ東日本大震災本震(図285右上図の年数2000上の横線)から関東平野の総地震断層面積も急増し,逆極性(赤色)の九十九里スラブの地震活動も開始されたが,その増大は2010年末からよって開始されている.東日本大震災発生時に基準のOrgn区分(黒色)と赤色の逆極性PexT区分が並ぶ前にPexN(空色)が並んでいる.この前後関係は,太平洋スラブ上の楔が破壊したことが太平洋スラブの大規模沈込との関係が注目される.

図285.関東平野のCMT解の応力場極性偏角区分.
 上図:太平洋スラブに対応する鹿島小円区の震央地図(左),海溝距離断面図(中),縦断面図(右上),時系列図(右中:左端の数字は2018年の月数,左端のareaMとBenioffは基準期間総地震断層面積の3区間移動和の地震規模M曲線と積算曲線),主応力軸方位図(右下:中央の横線がスラブ傾斜方位[TrDip],紫色斜線が太平洋プレート運動方位[Sub]).
 下図:相模スラブに対応する石堂小円区の震央地図(左),海溝距離断面図(中),主応力軸方位図(右:中央の横線がスラブ傾斜方位[TrDip],紫色斜線がフィリピン海プレート運動方位[Sub]).
 応力場極性偏角区分基準:上総震源区飯岡震源密集域最大CMT解2011年4月21日M6.2p(P102+17T257+71N10+7).
<クリックすると拡大します>

関東地方の歴史被害地震(宇佐美,2003)は江戸に幕府が置かれた1600年台から詳細に記録されている.関東平野のIS解に基づき定義された成田震源空白域(図280,図286左上図のn))は歴史地震においても空白域であり,丹沢スラブと上総スラブの切目であることを支持する(図286中上図のn).東京中心部を含む丹沢震源区の所沢震源空白域(図286上左図のt)では,1855年11月11日安政江戸地震M7.1を最大地震とする江戸地震が多数記録されており,江戸時代に解消されていた歪が異常に集積している静穏化であることが心配される.
Benioff曲線では1940から現在まで静穏化が進行しているが,同様の静穏化は1640年から1840年まで200年継続している(図286左下図).1600年代の慶長と1850年代の安政の地震活動の活発化とフィリピン海プレートおよび太平洋プレートの運動との関連の解明が待たれる.

図286.関東平野の歴史被害地震(1600年以降)とCMT解(1994年9月以降)の応力場極性偏角区分の時系列比較.
 左上図:CMT解の応力場極性偏角区分震央分布地図,nは成田震源空白域,tは所沢震源空白域,Tzは丹沢震源区,Kzは上総震源区,Sgmは相模震源区,Kjkは九十九里震源区.
 中上図:歴史被害地震の震央地図:nは成田震源空白域は明瞭であるが所沢震源空白域は認められない.
右上図:歴史被害地震の海溝距離断面図,深度0表示は深度記録がないことを示す.
右中図:歴史被害地震の鹿島小円区縦断面図.
右下図:歴史被害地震の時系列図,右端は年数,左端のareaMとBenioffは基準期間総地震断層面積の3区間移動和の地震規模M曲線と積算曲線
左下図:歴史被害地震とCMT解の時系列図,左端の数字は年数.
    <クリックすると拡大します>

3.2018年8月の月刊地震予報

2018年4月9日に島根県西部M6.1が起こり(月刊地震予報104,),2018年6月18日に大阪府北部でM6.1が起こった(月刊地震予報106).これらの地震では応力場の極性変化が認められていないので,今後,この地震活動が西南日本域を更に東進することが予想される.
太平洋スラブのマントル遷移帯深度における地震が,オホーツク海,伊豆海溝域と同期して起こった.これらの発震機構はスラブ圧縮であり,深度660kmの下部マントル上面の停滞スラブへ海溝からの沈込スラブ圧縮力の増加が加わり起きたのであろう.太平洋スラブ全体の運動との関係は分からないが千島海溝域で連発地震が起こっており,大地震の前震とも考えられる.
琉球海溝域で起こった海溝外地震の最遠記録大幅に更新した.琉球海溝への沈込様相の変化として注意が必要である.
千島から琉球まで特異な地震活動が起こっているが,1994年以後のCMT解で異例の2年連続最低記録に近付いており,解消しきれない歪の蓄積が進行していることは確実なので警戒が必要である.

引用文献

宇佐美龍夫(2003)日本被害地震騒乱.東京大学出版会,605p.