東日本巨大地震の前震・本震・余震の震央を記入した赤色立体地図

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2011年3月11日午後2時46分、東日本巨大地震発生。

大地震に伴う津波は、海難災害です。救命胴衣を着けていれば
犠牲者数を大幅に減らすことができます(月刊地震予報97)。
津波対策では何より先に救命胴衣の準備を。

月刊地震予報138)2つの歪蓄積の鍵を握る阿武隈前弧沖震源帯M7.3,2021年3月の月刊地震予報

1.2021年2月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2021年2月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で16個1.786月分,千島海溝域で2個0.018月分,日本海溝域で6個12.210月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.047月分,南海・琉球海溝域で7個0.097月分であった(2021年2月日本全図月別).日本全域総地震断層面積比は2020年11月の0.5割から2020年12月に2割に増大し2021年1月に0.1割以下に減少したが,2021年2月に1.8月分に急増した.
最大は2020年2月13日阿武隈前弧沖震源帯M7.3で,日本全域のCMT総地震断層面積規模もM7.3とM6.0以上の地震は他にない.

2.2つの歪蓄積の鍵を握る2021年2月13日阿武隈前弧沖震源帯M7.3p

 日本海溝に並行し東北日本太平洋沿岸沖に分布する前弧沖震源帯の阿武隈震源域北端で2021年2月13日23時07分にM7.3深度55km(Slab上面深度+12km)が発生した.その揺れは,北海道,本州,伊豆・小笠原に及んだ(図395).前弧沖震源帯の震源は日本海溝から同心円状屈曲して沈込む太平洋Slab上面と東北日本弧で破壊強度の最も大きなMoho面下の最上部Mantleとの境界に沿って分布している(月刊地震予報136).本地震の揺れは東北日本弧最強の最上部Mantleに沿って伝わり,各地に被害をもたらし,東北新幹線も10日間停止した.
 日本海溝域の2020年1月から2021年2月末までのCMT解のPlate運動面積に対する総地震断層面積比は0.98とPlate運動面積とほぼ等しく,本地震の圧縮主歪P軸方位もPlate運動方位と一致しており(2021年2月東日本月別)ことが,本地震によって開放された歪は2020年1月以降のPlate運動の蓄積で説明できる.

図395.前弧沖震源帯の2021年2月13日阿武隈震源域北端M7.3の震度分布(気象庁HPより).
赤色×印が震央.四角印中の数字(1から6+)が震度.
 震度1以上は北海道から本州と伊豆・小笠原にも分布している.
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 前弧沖震源帯には釧路・浦河・下北(月刊地震予報136)・久慈・北上・阿武隈の6つの震源域がある(図397左図,右下図).これらの震源域の最大規模はM7.0からM7.9で最大のM7.9は阿武隈震源域南端で2011年3月11日の東北沖平成巨大地震M9.0の25分後に起った誘発地震である.その震度分布は震源位置の差に応じて今回の地震M7.3より北海道・本州・四国へと南下しているが小笠原で揺れていない(図396).この差は平成巨大地震前年末の小笠原海溝域M7.1・M7.8によって(速報18)歪が解消されていたのか,最近の太平洋Slab沈込活発化(月刊地震予報137)に関係しているのであろう.

図396.前弧沖震源帯震源域最大の2011年3月11日阿武隈震源域南端M7.9の震度分布(気象庁HPより).
赤色×印が震央.四角印中の数字(1から6+)が震度.
北海道から本州・伊豆・四国と震度1以上であるが,小笠原に及んでいない.
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 前弧沖震源帯の日本海溝側には東北沖震源帯と日本海溝震源帯があり,M8.0以上の巨大地震が発生している.1600年以降の総地震断層面積のPlate運動面積に対する比は,前弧沖震源帯10%と東北沖・日本海溝震源帯44%である(図397右上図).日本海溝域全体の比は77%なので,これらの震源帯の地震が全体の7割を占め,日本海溝域の地震活動を代表している.図397の右下図はM6.5以上の81個の前弧沖震源帯の地震によるもので,Plate運動に対する比は7%に減じているが全震源3070個についての右上図左側と大差はないことからM6.5以上の地震でも全体活動動向判別は可能である.

図397.前弧沖震源帯地震と東北沖・日本海溝震源帯巨大地震の比較.
 左図:M6.5以上前弧沖震源帯震源の震央地図.2つの長方形枠は2011年3月11日東北沖平成巨大地震に伴う東北日本弧のGPS変位から算出された地震断層面(速報1速報33).
中図:M6.5以上前弧沖震源帯震源の海溝距離断面図.
右上図:前弧沖震源帯震源と東北沖・日本海溝震源帯震源の地震断層面積規模移動平均曲線areaMと地震断層面積積算曲線Benioffの比較.漢字は年号.
右下図:M6.5以上前弧沖震源帯地震の海溝縦断面に沿う時系列図.
塗潰丸印:東北沖・日本海溝震源帯M8.0以上の震源,漢字は年号,Mは規模.
丸印:前弧沖震源帯M6.5以上の震源.数字とMは発生年・月・日と規模.
丸印の中心が初動震源で,中心から出ている短線の先端がCMT震源.
灰色:西暦1921年以前は被害歴史地震(宇佐美,2003),1922年以後は観測地震.
彩色:CMT発震機構解.
前弧沖震源帯地震には延宝から明治の間に東北沖・日本海溝震源帯の巨大地震と対応しない活動が認められる.
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 前弧沖震源帯と東北沖・日本海溝震源帯のBenioff曲線を比較すると(図397右上図),1611年慶長地震M8.1と1677年延宝地震M8.0では東北沖・日本海溝震源帯の巨大地震の後に前弧沖震源帯が起っている.
 1896年明治地震M8.5では前弧沖震源帯が先行し,その後に前弧沖震源帯の釧路から阿武隈の全地震域で地震活動が起る.前弧沖震源帯の地震断層面積は1900年から減少し,1915年頃から1923年大正関東地震まで増大して減少したところで1933年昭和地震M8.1が起る,1938年まで急増し,その後地震断層面積はほぼ一定の速度で増大し,2011年平成M9.0に至る.
 前弧沖震源帯のBenioff曲線には1896年明治M8.6・2011年平成M9.0に対応する段差が認められ,東北沖・日本海溝震源帯の段差が後続する(図397右上図).この対応は,前弧沖震源帯と東北沖・日本海溝震源帯の歪開放が対応していることを示しており,1611年慶長M8.1と1677年延宝M8.0にも認められる.しかし,1677年延宝から1896年明治の間に認められない.日本海溝震源帯1790年寛政M8.4には対応する前弧沖震源帯の活動が認められず,前弧沖震源帯1717年M7.5,1763年M7.9,1835年M7.0,1855年M7.3に対応する東北沖・日本海溝震源帯の地震はない,慶長から明治の間には,東北沖・日本海溝震源帯のM8.0以上地震3個に対し前弧沖震源帯のM7.0以上の地震6個で,平均間隔の95年と48年は大地震の歪蓄積程長年月を要することと対応している.
 1896年1月9日阿武隈震源域南端M7.0から開始した前弧沖震源帯の活動に続き,1896年6月15日明治M8.5が起き,釧路震源域から阿武隈震源域までの前弧沖震源帯全域に渡る現在の活動が開始された.明治以前の前弧沖震源帯の活動は,1710年9月15日阿武隈震源域中部M6.5を除くと,久慈震源域と北上震源域に限られる.前弧沖震源帯と東北沖・日本海溝震源帯の活動は,1677年延宝M8.0を過ぎてから同期せず,1896年明治M8.5直前から前弧沖震源帯の震源域が現在のように拡大した.
 東北沖・日本海溝震源帯の現在までの累積地震断層面積(図397右上図右端Benioff図最上部)は,赤色の2011年平成M9.0を主体とする1994年以降のCMT解が右半分を占め,灰色の歴史被害地震(宇佐美,2003)と1922年以降の震度観測地震(月刊地震予報124)が左半分を占め,M9.0二個分の地震が1600年以降起っている.Benioff図左下端から右上に伸びる灰色斜線はPlate運動面積累積直線で,右端に至る1600年から現在までの44%の期間にM9.0二個分の歪が蓄積すること示している.このPlate運動による歪が全て東北沖・日本海溝震源帯の地震で解放されたとしても,寛政以前からの蓄積が必要である.
 明治から平成までは日本海溝域全体でPlate運動と釣合う通常地震活動があり(月刊地震予報116),平成M9.0巨大地震のための歪は慶長から蓄積を開始していなければならないことから,Plate運動の歪を蓄積して通常地震活動として開放する通常歪とは別に巨大地震の歪を蓄積する巨大歪の存在が必要である(月刊地震予報116月刊地震予報122).
 通常歪をM7規模の前弧沖震源帯,巨大歪をM8規模の東北沖・日本海溝震源帯に対応させれば,1677年延宝以降開始された巨大歪の蓄積が通常歪との関係を変化させ,両歪の開放が同期しない1790年寛政M8.4が起り,巨大歪の蓄積が限界に達して1896年明治M8.5と通常歪開放の広域化が起ったことが予想される.
 通常歪対応の前弧沖震源帯ではSlab同心円状屈曲・平面化によって歪が蓄積・解放され,巨大歪対応の東北沖・日本海溝震源帯の歪は日本海溝外に広がる太平洋底に蓄積されるであろう.
両歪の完全な開放が1611年慶長M8.1と2011年平成M9.0とすれば,2011年平成M9.0の前後で地震活動が最も異なることになるので,今後,発震機構を詳細に比較検討する予定である.

4.2021年3月の月刊地震予報

 2011年3月11日東日本大震災から開始した本地震予報も10周年になる.震災当時は,1896年明治三陸地震M8.5後の地震活動と対応させて注意を呼びかけていた(速報5).その中で3つの宮城県沖地震の内の2個はすぐ起きたが2011年内に3個目は起らなかった(速報21速報26).今回の2月13日M7.3が3個目に当るとも考えられるが,東北沖平成巨大地震の後続活動は低下していることから,2020年1月からの通常歪を開放する前弧沖震源帯の新たな活動と捉えることができる.
 しかし,新聞報道によると今回の地震も東日本大震災の余震としている.その余震域は東北沖巨大地震の誘導地震の起った日本海溝外から東北日本太平洋沿岸域までの広い範囲とし,そこで起った全ての地震を余震としている.過去1年間のM4以上の地震を208個として,2001年から2010年までの10年間の年間平均が138回と少ないことから,大震災の余震が続いている根拠としている.
 過去1年間のCMT46個(Plate運動に対する地震断層面積比0.00995)と,2001年から2010年までの年平均CMT解22個(0.00971)を比較すると確かに多いが,2003年5月から2010年までの6.7年間の年間平均CMT解25.1個(0.1225)と比較すると減少している.この相違は,2000年から2003年4月までの年間平均CMT解12個(0.0121)と地震断層面積比が1桁小さく静穏であったからである.
 日本海溝域のPlate運動の歪を蓄積する通常歪と巨大歪が東北沖平成巨大地震によって開放されたと考えれば,巨大歪満杯状態でPlate運動歪を通常歪が開放していた1896年明治M8.5以後に比較すれば,巨大歪に歪が蓄積するので地震活動の静穏化が予想されるが,活動様相が変化することが予想されるので注意深く見守る必要がある.

引用文献

宇佐美龍夫(2003)日本被害地震総覧.東京大学出版会,605p.

月刊地震予報137)伊豆・小笠原・Mariana海溝域の地震活動,日本海溝域前弧沖震源帯の地震活動,2021年2月の月刊地震予報

1.2021年1月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2021年1月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で14個0.085月分,千島海溝域で3個0.033月分,日本海溝域で3個0.314月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.041月分,南海・琉球海溝域で7個0.063月分であった(2021年1月日本全図月別).日本全域総地震断層面積比は2020年7月の1.5割への減少後,0.5割まで減少して12月に2割に増大したが,2021年1月に0.1割以下に減少した.
 最大は2020年1月1日新島北方の伊豆諸島の地震M4.7npである.日本全域のCMT総地震断層面積規模はM5.5でM6.0以上の地震はなかった.
 伊豆・小笠原・Mariana海溝域や日本海溝域の前弧沖震源帯で異常が発生していないかとの問い合わせがあったので,2021年1月までの発震機構に基づく解析結果を述べる.

2.伊豆・小笠原・Mariana海溝域の地震活動

 伊豆・小笠原・Mariana海溝域におけるM6.0以上の地震は,2020年1月以後,翼震源帯小笠原震源区WingDogの2020年4月18日M6.8P(月刊地震予報128)と伊豆海溝震源帯伊豆震源区TrPcIの2020年7月30日M6.0Pe(月刊地震予報131)である.
 2020年1月以後の深発CMT解は27個であるが,上部Mantleの相転移に関係する翼震源帯(月刊地震予報131,図377)のα>β相転移に関係するβ震源域先端で2020年12月29日M5.7とβ>γ相転移に関係するγ震源域先端で2020年7月17日M5.1が発生している(図391).

図391.2020年1月-2021年1月伊豆・小笠原・海溝域の深発CMT解.
 上部Mantle相転移に関連する翼状Slab先端と海溝外深部で地震が発生している.
数字・M:発生年月日と規模.
α・β・γ・δ:Mantle構成鉱物による相.

 伊豆・小笠原・Mariana海溝域では,深度660kmの下部Mantle上面(γ>δ相転移境界)以深で2015年5月30日M8.1深度682kmと2015年6月3日M5.6深度695kmが発生している.それ以降2021年1月までのCMT解で,上部Mantle相転移に伴う翼状Slabの最大海溝距離が2020年7月と12月であることは,太平洋底のPlate運動に随行してきた上部Mantleが伊豆海溝域のSlab沈込によって行き場を失いSlabを翼状に吹き上げていることを示している.これが翼状Slabと定義した(月刊地震予報131).2020年後半にその最大海溝距離を記録し,随行Mantleの噴出が強化されていることを示している.また,2個の下部Mantle地震の間に発生した2015年5月31日M6.6深度45kmよりも大深度の海溝外地震2020年11月7日M5.9深度100kmが発生しており(図392),太平洋Plateの沈込みが強化されている.

図392.2015年1月-2021年1月伊豆・小笠原・海溝域の深発CMT解.
 表示期間には本海溝域最大地震が下部Mantle上面660km(γ>δ相転移境界)以深の682kmで2015年5月30日M8.1に発生し,4日後にも695kmでM5.6が発生した.以後,上部Mantle相転移に関連する翼状Slabで多数の地震が発生しているが,2020年以後には翼の最先端で発生している.
数字・M:発生年月日と規模.
α・β・γ・δ:Mantle構成鉱物による相.

 気象庁が公開している発震機構解には,精査後のCMT解やIS解の他に精査前の発震機構解が「速報解」として地震発生後5日間公開されている.近年,精査前の海外のCMT解も速報解として公開されており,2020年から2021年1月までに海外CMT解の速報解が35個公開されている.

 2021年1月12日MongorM6.8
 2021年1月7日SulawesiM6.3
 2021年1月7日SolomonM5.9
2020年12月29日M5.2β
 2020年12月29日CroatiaM6.4
 2020年12月25日PhilippineM6.5
 2020年12月24日offPhilipineM6.3
 2020年12月20日offChileM6.8
 2020年12月16日PhilippineM6.3
 2020年12月2日AleutianM6.4・
2020年11月7日M5.9o
 2020年10月1日TongaM6.7・
 2020年9月11日ChileM6.2
 2020年9月7日VanuatuM6.6
 2020年9月7日MindanaoM6.6
 2020年9月1日ChileM6.8
 2020年8月21日MollucaM6.9
 2020年8月18日PhilippineM6.9
 2020年8月5日VanuatuM6.1
2020年7月17日M5.1γ
 2020年7月17日NewGiniaM7.3
 2020年7月7日GuamM6.2
 2020年7月6日NewHebridesM6.0
 2020年6月26日ChibetM6.3
 2020年6月24日MexicoM7.7
 2020年6月18日NewZealandM7.4
 2020年6月3日ChileM6.8
 2020年5月15日SanAndreasM6.4
 2020年5月13日SantaCruzM6.6
 2020年5月7日BougainvilleM6.1
 2020年5月6日BandaM6.8
 2020年5月2日GreekM6.7
 2020年3月14日KermadecM6.7
 2020年4月6日MoluccaM6.3
 2020年1月20日HalmaheraM6.1
 2020年1月23日AleutianM6.2
 2020年1月25日eastTorkeyM6.7
 2020年1月29日CaymanM7.3

 地球表面はPlateで敷き詰められているので,何れのPlateやPlate境界で歪を開放する地震が起れば全てのPlateに影響を及ぼす.地球上最大の太平洋Plateについては特に影響が大きいであろう.ここで取上げた伊豆海溝域の太平洋Plateの沈込の増強が,海外CMT速報解が途絶えた時に起っていることは,地球表面を敷き詰めるPlate全ての歪の連鎖を解析するための出発点となるであろう.

3.日本海溝域前弧沖震源帯の地震活動

 日本海溝域の前弧沖震源帯では,2020年12月21日2時23分に下北沖震源域の深度43km(Slab上面深度+13km)でM6.5Pが起こっている(月刊地震予報136).
 前弧沖震源帯の震源は日本海溝から同心円状屈曲して沈込む太平洋Slab上面に沿って分布しており,P軸はSlab上面と逆傾斜の海溝側に傾斜しており,摩擦のあるSlab上面に沿うPlate運動による地震である(月刊地震予報136).
 2020年1月から2020年12月以前の前弧沖震源帯のM6.0以上のCMT解は,2020年4月20日M6.2p深度46km(月刊地震予報128)と2020年9月12日M6.2P深度43km(月刊地震予報133)があり,Benioff図に3つの明確な段差となっている(図393右中図左端).

図393.前弧沖震源帯の下北沖震源域のCMT解.
 海溝距離断面図(中図):地表線の下の曲線がMoho面.
桃色・赤色の数字とM:M6.0以上の震央・震源.

 前弧沖震源帯は陸域に近いため67個のIS解が報告されている.CMT解のM6.0以上の地震も兼備地震(月刊地震予報109)としてIS解に含まれているため.CMT解と同じBenioff図の3つの段差が認められる(図394右中図左端).Benioff図の左脇の地震面積規模図areaMは,作図期間を150等分し,前後の等分区間の地震断層面積を加え規模Mに換算して作図したもので,本図の等分区間は2.6日で,前後を加えた期間は4.8日になる.4.8日間にIS解がなければ,左端の基底線になり,IS解があれば嶺として作図される.嶺の連なる活動期と嶺のない静穏期の繰り返しを知ることができる.2020年10月から11月の静穏期の後は,襟裳小円区から最上小円区北部にかけて震源が分布し,2020年12月21日M6.5が発生した.2021年になると震源分布は,2020年10月から11月の静穏期以前のように襟裳小円区南から最上小円区・鹿島小円区へと南方に移動拡大している.この移動拡大は襟裳小円区の下北沖震源域のM6.5によって歪が解消されたが,南方の前弧沖震源帯の歪がM6.0以下の地震によって開放されているのであろう.

図394.2020年1月-2021年1月の前弧沖震源帯のIS解.
 海溝距離断面図(中図):地表線の下の曲線がMoho面.
 縦断面図(右図):上が縦断面図,中が時系列図,下が歪軸方位図,中央横線が日本海溝におけるSlab上面傾斜方位,紫色斜線(Sub)が太平洋Plateの相対運動方位.P軸方位(丸印)はPlate運動方位と逆傾斜の下端と上端に並ぶ.

4.2021年2月の月刊地震予報

 2021年1月はPlate運動による歪の1割以下しか地震活動がなく,2011年3月11日東北沖巨大地震による歪開放後の歪蓄積が着実に進行している.
 伊豆海溝域でも太平洋Plate運動による沈込が活発化しており,日本海溝域でも2020年12月21日下北沖震源域の最大地震M6.5は,太平洋Slabを屈曲させる東北弧の筋金に当る前弧沖震源帯で起った(月刊地震予報136).前弧沖震源帯のIS解は最上小円区から鹿島小円区に移動しており,今後の動静に注目したい.

月刊地震予報136)下北沖太平洋Slab上面の地震M6.5,2021年1月の月刊地震予報

1.2020年12月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2020年12月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で11個0.205月分,千島海溝域で1個0.007月分,日本海溝域で4個1.303月分,伊豆・小笠原海溝域で2個0.041月分,南海・琉球海溝域で4個0.031月分であった(2020年12月日本全図月別).日本全域総地震断層面積比は2020年7月に1.5割に減少し,2020年8月に0.5.割以下まで減少し,9月に1割台に回復したが,10月には0.5割に戻り,11月にも0.5割以下で,12月に2割に増大した.
最大は2020年12月21日下北半島沖の太平洋Slab上面に沿う地震M6.5Pである.日本全域のCMT総地震断層面積規模はM6.6で他にM6.0以上の地震はなかった.

2.2020年12月21日の下北沖太平洋Slab上面の地震M6.5

 2020年12月21日2時23分に下北半島沖の深度43km(Slab上面深度+13km)でM6.5Pが起こった.この地震は北海道から関東までの広範囲に震度1以上の揺れをもたらした(図385).

図385.2020年12月21日2時23分の下北沖のM6.5の震度分布図(気象庁のHome Pageより).
 赤色×印が震央.四角印中の数字(1から5-)が震度.Clickすると拡大します.

 この地震が起ったのは,前弧沖震源帯北部の下北沖震源域ofAcSmk である.今回の地震は,この震源域で報告されているCMT解69個中最大であった(図386).発震機構型は69個中62個が逆断層型(赤色系)であり,その圧縮P軸方位(赤色系○印)は歪軸方位図(図386右下図)の下端と上端に並んでいる.方位図の中央横黒色線(TrDip)は海溝における太平洋Slab傾斜方位であるが,上下端はSlab傾斜方位から180°異なる逆方位を意味する.逆方位とは,方位が等しく傾斜方位が逆の逆傾斜のことである.
 下北沖震源域では,太平洋PlateがAsia大陸東縁のAmur Plateに沈み込んでいる.このPC-AM 相対運動のEuler極は南緯60.6°東経83.1°で,速度は年間9.8cmである(新妻,2007).
 地球が北極と南極を通る自転軸の回りを緯度線に沿って自転しているようにPlate相対運動もEuler極の回りをEuler緯度線に沿って相対運動している.震央地図(図386左図)にPlate相対運動のEuler緯度線を示したが,赤色短線の発震機構の歪軸方位に沿っており,Plate相対運動によって蓄積した歪が地震によって開放されていることを示している.Plate相対運動方位は,方位図中央付近の紫色斜線(図386右下図のSub)で示してあり,上下端のP軸方位はPlate運動方位と逆傾斜になっていることが分かる.

図386.前弧沖震源帯の下北沖震源域のCMT解.
 震央地図(左図):下北震源域を含む襟裳小円区とPC-AM相対Plate運動のEuler緯度とその年間運動(cm)も表示してある.逆断層型地震のP軸方位(赤色短線)はEuler緯度線に並行に並ぶ.桃色の数字とM:2020年12月21日の本地震の震央.
 海溝距離断面図(中図):地表線の下の曲線がMoho面.桃色数字とM:2020年12月21日の本震源.
 縦断面図(右図):上が縦断面図,中が時系列図,下が歪軸方位図,中央横線が日本海溝におけるSlab上面傾斜方位,紫色斜線(Sub)が太平洋Plateの相対運動方位.P軸方位(丸印)はPlate運動方位と逆傾斜の下端と上端に並ぶ.Clickすると拡大します.

 前弧沖震源帯の震源は日本海溝から同心円状屈曲して沈込む太平洋Slab上面に沿って分布している.このSlab上面に沿って摩擦が無ければ境界面上側の島弧は海溝側,境界面下のSlabは島弧側へと互いに反対側に移動するが,境界面に摩擦の在る衝突であれば移動の反対方向の摩擦力と境界面に直交する圧縮力が加わる.

図387.摩擦のあるPlate境界面に沿うPlate相運動によって発生する境界面傾斜と逆傾斜の剪断歪軸(月刊地震予報107.図283).

これらの力が合成されるとP軸方位は境界面と逆傾斜方向を向く(図387).下北沖震源域のSlab上面と逆傾斜のP軸は,摩擦のあるPlate境界面存在の証拠である.
 2020年の日本海溝域のCMT解79個の総地震断層規模M7.0中で,下北沖震源域を含む前弧沖震源帯が17個,総地震断層規模M6.8と大半を占め,同心円状屈曲する太平洋Slabと東北日本弧Moho下の上部Mantleとの衝突が地震活動の主体をなしている.

図388.2020年の日本海溝域CMT解.
日本海溝から同心円状屈曲して沈込む太平洋Slabと東北日本弧上部Mantleとの境界面に沿って剪断歪が集積・開放されていることがP軸方位によって示されおり(右下の歪軸方位図の上下端の赤色丸印),前弧沖震源帯が一連であることが分かる.

 公開されている前弧沖地震帯の全CMT解は1994年9月以降のPlate境界における歪変動解析を可能にする(図389).
 震源と地球の中心を結ぶ線が地表と交わる震央を震央地図(図389右図)に示し,深度を有する震源を海溝に直交する海溝距離断面図(図389中図)に示す.日本海溝から同心円状に屈曲して沈込む太平洋Slabと沈み込まれる東北日本弧の地殻とMantleの境界のMoho面も示す.前弧沖震源帯の地震は屈曲Slab上面とMoho面下の島弧上部Mantleとの衝突部に分布している.
 地震活動の変動を解析するため,時系列図(図389右図)を示す.時系列図に示される震源の横座標は,海溝に沿う縦断面(図389右上図)の震源位置と共通であり,下の歪軸方位図(図389右下図)とも共有している.時系列図の上端が表示期間の終了時で下端が開始時である.この時系列図には年初・月初・日初等とともに2011年東北日本沖巨大地震発生時も黒色横線で示した.時系列図の左脇に地震活動の動静を示すため,時系列図の縦軸座標を150等分した等分期間内に発生した地震の総地震断層面積を基本にし,前後の区間の総地震断層面積を加えた移動平均を地震断層面積規模に変換してareaM図に示し.その右に開始時から等分期間毎の地震断層面積を順次積算した曲線をBenioff図として示す.Benioff図左下端から右上に向かう灰色の斜直線はPlate相対運動面積の増大を示す.全期間の総地震断層面積のPlate運動面積に対する比をBenioff図上に数値で「0.25」等と表示する.数値の後に「f」が付いた場合は,総地震断層面積をBenioff図幅に合わせて作図するもので,Benioff曲線は左下端から開始し,右上端で終了する.areaM図とBenioff図共に彩色した複数の曲線は,検討する震源情報に関する値による区分に対応し,凡例に示してある.Benioff図の場合は境界値間の地震の地震断層面積であり,彩色した横軸の幅は全体の比率に対応している.areaM図内の右端の彩色曲線の横座標は小さな地震から大きな地震まで表示できる等分期間内の全地震断層面積規模で,その左側の彩色曲線間の幅は総地震断層面積に比例するよう区分してある.
 Benioff図(図389右中図左)で前弧沖震源帯の動静を見ると,2011年3月11日に最大の段差があり,2005年と2015年にも段差が認められる.これらの段差は,2011年3月11日東北沖巨大地震M9.0の29分後の阿武隈沖誘導地震M7.6p,2005年8月16日北上沖M7.2および2015年5月13日北上沖M6.8pに対応する.最大地震が東北沖巨大地震の誘導地震であることは,前弧沖震源帯が東北沖巨大地震の起った東北沖震源帯と関連していることを示している.

図389.前弧沖震源帯の全CMT解.
前弧沖震源帯の地震は,東北日本弧のMoho面下の上部Mantleと日本海溝から同心円状屈曲して沈込む太平洋Slab上面との衝突によって発生している.
左図:震央地図,中図:海溝距離断面図,右上図:縦断面図,右中図:時系列図,右下図:歪軸方位図.右中図左脇:地震断層面積規模移動平均図(areaM)・地震断層面積積算図(Benioff).Clickすると拡大します.

 東北沖震源帯は,前弧沖震源帯の日本海溝側に分布し,日本海溝から沈込を開始した太平洋Slab上面と東北日本弧下部地殻のPlate境界で発生する震源帯である(図390).発生地震の殆どが赤色の逆断層型であり,その圧縮P軸は歪軸方位図の上下端に集中し,Slabと逆傾斜方向であることから摩擦のあるSlab上面に沿うPlate境界面における剪断歪によることが前弧沖震源帯と共通している(図390右下図).

図390.東北沖震源帯の発震機構別震源分布図.
東北沖震源帯の地震は,東北日本弧の下部地殻と日本海溝から同心円状屈曲して沈込む太平洋Slab上面との衝突によって発生している.
最上小円区のほぼ中央の東北沖震源帯で東北沖巨大地震M9.0が起ったが,これを含めるとBenioff図幅の大部分を独占するので,M9.0以外の全震源を表示してある.震央地図(左図)の丸印はM9.0を囲む円でその中心の赤色短線はM9.0の発進機構,最上小円区海溝距離断面図(中中図)の+印はM9.0の震源.
左図:震央地図,中図:海溝距離断面図,右上図:縦断面図,右中図:時系列図,右下図:歪軸方位図.右中図左脇:地震断層面積規模移動平均図(areaM)・地震断層面積積算図(Benioff).Clickすると拡大します.

 前弧沖震源帯と東北沖震源帯の地震は,日本海溝から同心円状屈曲して沈込む太平洋Slabと東北日本弧との衝突によって発生している.前弧沖震源帯でSlab上面が接するのは東北日本弧Moho面下の上部Mantleであるが,東北沖震源帯では下部地殻である.
 地球深部は放射性元素の崩壊熱によって加熱され,深度とともに高温になる.地下岩石を構成する鉱物は高温下で破壊強度を減少させる.石英を含む花崗岩質の上部地殻は瀬戸物の上薬のように溶融しやすく加熱によって破壊強度を失う.長石を主体とする下部地殻は陶器のようにある程度強度を保つ.その下のMantleは耐火煉瓦のようにカンラン石を主体とし,高温下でも強度が大きい.深度とともに高温になる東北日本弧ではMantle上面のMoho直下が最大の破壊強度を有し,東北日本を支える筋金の役割を果たしている.この上部Mantleが日本海溝から沈込む太平洋Slabを同心円状に屈曲させ,前弧沖震源帯の地震を起こしている.この前弧沖震源帯には,今回の襟裳小円南区から最上小円区・鹿島小円北区まで連続し,歪軸方位図上下縁の太平洋Slab上面と逆傾斜のP軸を持つCMT解が並んでいる(図389).東北日本を支えるMoho面下のMantleが北海道から関東までの広範囲に連続して本地震の震動を伝えている様子を震度分布(図385)も支持している.
 東北沖震源帯のBenoff図(図390右中図)では,東北沖巨大地震M9.0を除いても2011年3月と2003年に段差が認められる.これらは,2011年3月11日の東北沖巨大地震21分後の明治震源域の誘導地震M7.4Pと2003年9月26日十勝沖震源域M8.0pに対応している.

3.2021年1月の月刊地震予報

 2020年7月からPlate運動による歪の1割程度であった地震活動が12月に2割程度に上昇したとは言え,8-9割が蓄積されていることになる.2020年12月21日下北沖震源域の最大地震M6.5が,太平洋Slabを屈曲させる東北弧の筋金に当る前弧沖震源帯で起った.太平洋Slabの屈曲歪の開放か,更なる屈曲への地ならしなのかは,東北沖巨大地震で開放された謎の巨大歪の問題とも直接関係しているので,今後の動静に注目したい.

引用文献

新妻信明(2007)プレートテクトニクス―その新展開と日本列島―.共立出版,292p.