速報39)フィリピン海プレート表層の地震・千島海溝域の地震・磐越地域の地震・2013年3月の地震予報

1.2013年2月の地震活動

2013年2月の日本全域のプレート相対運動面積に対する地震断層面積の比は0.53で,プレート相対運動の半分である.しかし,東日本では2.29と2倍以上であり,引き続き活発な活動を続けている(日本全図月別). 2012年12月7日日本海溝付近で起こった地震M7.3の震源近くでは,2013年1月まで地震活動が活発だったが(速報38),2月は14日にM4.4の-t型地震が深度38kmで起こったのみである.今月になって盛んに起こっているのは,東日本沿岸に沿う屈曲スラブ平面化過程およびスラブ上面衝突の逆断層型地震である(図90).

図90.2013年2月東日本域の圧縮主応力軸方位分布. 日本海溝域に押広正断層-t型地震1個と岩手県から福島県沿岸に沿って一直線状に屈曲スラブ平面化過程とスラブ衝突過程の逆断層型地震が起こっている.

図90.2013年2月東日本域の圧縮主応力軸方位分布.
日本海溝域に押広正断層-t型地震1個と岩手県から福島県沿岸に沿って一直線状に屈曲スラブ平面化過程とスラブ衝突過程の逆断層型地震が起こっている.

これらの逆断層型地震は,圧縮主応力P軸方位によって区別できる.海溝から沈み込む際に屈曲して伸びたスラブ上面が平面に戻るためには,上面に並行に縮まなければならない.このため,屈曲スラブ平面化地震はP軸方位がスラブ上面に並行である.一方,スラブ上面が陸側プレートと衝突する場合には,スラブが陸側に進む力と陸側プレートを押し上げる力が合成されて,スラブ上面に斜交する.
地震活動を定量的に比較できるように今後,日本全域図 の4つの断面域の地震個数とともに,カギ括弧内にプレート相対運動面積に対する地震断層面積の比(速報36)を示すことにする.また,その算出に用いた日数(days)も示す.
既に掲載されている図についても,順次,地震断層面積比と地震個数を表示する新様式に改訂していく.

2.フィリピン海プレート表層の地震

2013年2月18日八丈島南西方沖で,M4.8の横ずれ断層移動調整nt型地震が深度24kmのフィリピン海プレート表層で起こった.それと前後して,伊豆海溝では2月3日から4日にかけて逆断層p・P型の連発地震M5.1-5.4が深度23-52kmで起こり,2月21日に同域の海溝外でM5.3の逆断層P型地震が起こっている(日本全図月別).
フィリピン海プレートPHは西方の南華プレートSCに沈み込み,東方の太平洋プレートPCに沈み込まれている.これらのプレート相対運動はオイラー極の回りの回転で算出できる.PHに対するSCの相対運動のオイラー極SCEPHは千島のパラムシル島付近の北緯50.3°東経155.1°に位置し,回転角速度は百万年に1.28°である.PHに対するPCのオイラー極PCEPHはアユ海盆付近の北緯1.2°東経134.2°に位置し,回転角速度は百万年に1.00°である(図91).

図91.フィリピン海プレートPH東西縁で進行している太平洋プレートPCの沈み込みと南華プレートSCへの沈み込み速度が等しくなる等速大円と2013年2月18日の横ずれ断層型地震M4.8の震央.  SCEPH:フィリピン海プレートPHに対する南華プレートSCの相対運動オイラー極. PCEPH:フィリピン海プレートPHに対する太平洋プレートPHの相対運動オイラー極. EAENA:北米プレートNAに対する欧亜プレートEAの相対運動オイラー極.

図91.フィリピン海プレートPH東西縁で進行している太平洋プレートPCの沈み込みと南華プレートSCへの沈み込み速度が等しくなる等速大円と2013年2月18日の横ずれ断層型地震M4.8の震央.
 SCEPH:フィリピン海プレートPHに対する南華プレートSCの相対運動オイラー極.PCEPH:フィリピン海プレートPHに対する太平洋プレートPHの相対運動オイラー極.EAENA:北米プレートNAに対する欧亜プレートEAの相対運動オイラー極.

相対運動速度は,オイラー極までの離角の正弦(sin)に回転角速度を乗じて算出でき,オイラー極から離れると大きくなる.この相対運動速度を2つのオイラー極を結ぶ大円上で算出すると,等しくなる点が北緯29.4°東経143.5°に存在する.この点でオイラー極を結ぶ大円に直交する大円上ではPHに対するSCおよびPCの相対運動速度が等しくなるので,これを等速大円と呼ぶことにする(図91).等速大円よりも北東側ではPCの沈み込み速度がPHの沈み込み速度より大きく,南西側ではPHの沈み込み速度がPCの沈み込み速度より大きい.

等速大円はPH周辺のプレート相対運動によって決定されるが,これらのプレート相対運動が,東日本巨大地震のような大きな地震によって乱されると,PH内の応力場が変化し,その変化がプレートの破壊強度を上回れば地震が起こる.2月18日の調整移動nt型の地震が等速大円付近で起こったことは,プレート相対運動の釣合いに異変が生じたからであろう(図91).プレート相対運動の釣合いに影響を与える地震として,新聞報道された2月6日のソロモン諸島M8.0があるが,気象庁の初動震源解には2月8日の余震M6.7のみ報告されている(図91).
フィリピン海プレートの今回のような地震は,1994年以後のCMT解には2007年12月4日に深度26kmの移動調整nt型M5.2が1個掲載されており(日本全図年別),その震央は等速大円上に位置している(図91).この地震の前の同年1月13日に千島海溝でM8.2,1月31日・9月28日・10月31日に伊豆小笠原海溝でM7.1・M7.6・M7.1が起こっており,地震後の2008年5月8日に鹿島沖でM7.0,6月14日に宮城県北部M7.2が起こっている.

3.千島海溝域の地震

千島海溝の地震については速報38でも注意を呼びかけたが,2013年2月5日択捉島沖で衝突逆断層P型地震M5.6,2月17日根室半島沖で押広正断層-t型地震M5.3が起こっている(日本全図月別).初動震源解には2月28日23時10分にカムチャツカ半島の深度20kmで起きた地震M6.9が報告されているが(図91),取り扱い範囲外であるからかCMT震源解には掲載されなかった.この地震面積は千島海溝のプレート相対運動の3ヶ月分に相当する.
また,初動震源解には,ロシア北東部に位置する欧亜プレートEAと北米プレートNAのオイラー極EAENA付近で2013年2月14日に逆断層型地震M6.9が報告されている(図91).オイラー極ではプレート相対運動がないので地震が起こり難いのが一般的であるが,その意味でも今回の地震は注目される.

4.磐越地域の地震

2013年2月25日栃木・福島県境付近で横ずれ断層np型地震M6.3が起こった(東日本月別).初動震源解には2月25日にnp型地震M3.5-M6.2が6個,2月26日にもt型M3.5が1個掲載されている(東日本IS月別).
東日本巨大地震と比較検討している明治三陸津波地震では,1896年6月15日の本震M8.5の後,同年8月31日に陸羽地震M7.2,1897年2月20日に一つ目の宮城県沖地震M7.4,同年8月5日二つ目の宮城県沖地震M7.7,同年11月23日カムチャツカ半島M7.9(Seno & Eguchi, 1983;図91),1898年4月23日に三つ目の宮城県沖地震M7.2,そして1900年5月12日に宮城県北部地震M7.0が起こっている.
この1900年宮城県北部地震の前に,北は盛岡,南は平,西は新庄におよぶ楕円形の地域で地鳴りがあったと報告されている(宇佐美,2003).2月25日の震源域も地鳴り域に含まれているので警戒が必要である.

5.2013年3月の地震予報

1) 太平洋プレートが日本海溝に沈み込む過程で屈曲して起こった地震(2012年12月7日M7.3)の後,同様の屈曲過程進行に伴う地震が続いたが,ほぼ静穏化した.宮城県沖では屈曲したスラブの平面化地震が起こっており,三つ目の宮城県沖地震に警戒が必要である.
2) 2013年2月6日にソロモン諸島でM8.0の地震が起こったからか,フィリピン海プレート周辺のプレート相対運動の釣合いに異変が生じ,フィリピン海プレート等速大円付近で2013年2月18日に移動調整nt型地震が起った.日本列島周辺の地震活動の変化に警戒が必要である.
3) カムチャツカ半島で2013年2月28日にM6.3の地震が起こり,千島海溝域における地震活動の活発化が心配されるが,1896年明治三陸津波地震後の1897年にもカムチャツカ半島でM7.9の地震が起こっているので,M8級の地震に警戒が必要である.
4) 2013年2月25日に磐越で起こった地震M6.3は,1900年宮城県北部地震M7.0の前の地鳴り地域内にあり,更に宮城県北部地震への警戒も必要である.

引用文検

Seno,T & Eguchi,T (1983) Seismotectonics of the western Pacific region. Geodynamic Series, 11, American Geophysical Union, 5-40.
宇佐美龍夫(2003)最新版日本被害地震総覧.東京大学出版会,605p.