月刊地震予報157)琉球海溝域歪解放周期の更新,2022年10月の月刊地震予報2022年10月の月刊地震予報

1.2022年9月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2022年9月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で19個2.212月分,千島海溝域で3個0.035月分,日本海溝域で6個0.122月分,伊豆・小笠原海溝域で2個0.071月分,南海・琉球海溝域で8個5.816月分であった(2022年9月日本全図月別).総地震断層面積がPlate運動面積を超すのは2022年2月から6ヶ月ぶりである.
 2021年1月からの地震活動は,日本海溝域が圧倒していたが,今月,琉球海溝域が加わった(図483).

図483.2021年1月から2022年9月までの日本全域21ヶ月間のCMT解
 震央地図(左図),海溝距離断面図(中図)地震断層面積変遷(右上下図):右縁の数字は月数(図422説明参照(月刊地震予報144).
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 2022年9月の総地震断層面積規模はΣM7.4で,最大地震は琉球海溝域の台湾小円区の琉球海溝震源帯台湾震源区TrPhTwの2022年9月18日深度3㎞ M7.3で,M6.0以上の地震は,最大地震域周辺の2022年9月17日深度0㎞M6.6・深度47㎞M6.0・2022年9月18日深度8㎞M6.9-ntおよび沖縄海盆RifPhOkwの2022年9月18日深度8㎞M6.0-ntである.
 震度分布は,最大地震について公表されており(図484),震度1が八重山諸島にのみ報告されている.

図484.2022年9月18日琉球海溝域の台湾小円区の琉球海溝震源帯台湾震源区TrPhTwの深度3㎞ M7.3-troの震度分布.

2.2022年9月9月17日台湾TrPhTwのM7.4による琉球海溝域歪解放周期の更新

 琉球海溝域の台湾小円区琉球海溝震源帯台湾震源区TrPhTwで2022年9月18日15時44分深度3㎞のM7.4-troが起こった.本地震前の2022年9月17日22時41分M6.6-tro深度0㎞・2022年9月17日23時45分M6.0-npe深度47㎞と,後の2022年9月18日17時09分M6.9-nt深度8㎞は,本地震の前震と余震である.これらの震源は,台湾の脊梁山脈と海岸山脈の間を通る南華PlateとPhilippine海Plate境界の海岸山脈側に位置している.何れも非双偶力nonDC成分比が-11から-12%と圧縮過剰で,水平に近い引張歪に直交する圧縮歪の方が1.5倍大きく,Plate境界に沿う衝突圧縮に伴う突き上げによる伸長歪が解放されたことを物語っている.前震に圧縮横擦断層型-npeもあり,基準となる周囲の歪が衝突圧縮歪と同等にまで上昇していたことを示しており,Plate境界に沿う衝突圧縮が今回の地震活動の主因である.

図485.2022年9月18日台湾のM7.3-troと2021年1月から2022年9月までの琉球海溝域21ヶ月間のCMT解
 震央地図(左図),海溝距離断面図(中図),縦断面図(右図).数字とMは台湾のM7.8震央と震源. 縦断時系列図右縁の数字は月数.
 縦断面図は上から地震断層面積移動平均規模図areaM,震源深度図,時系列図,主歪軸傾斜方位図.縦断面図左端左のareaMは震源深度に沿う地震断層面積移動平均規模曲線と時系列に沿う地震断層面積移動平均規模曲線,左端右のBenioffは最深下枠から海水準までの累積地震断層と時系列に沿う累積地震断層面積のBenioff曲線.時系列Benioff図の左下端から右上方への斜線は,Plate運動面積累積直線.
 時系列図・主歪軸傾斜方位図間左側の「[?|p pr|np nt|t tr|」はareaM・Benioff曲線による彩色分帯構成要素を示している.右端の「(12.2km/ 1.2km/ 2.6 day/M6.1 step)」は,縦断面図横軸距離と縦軸深度・時系列日数・Benioff図横軸の地震断層面積規模の移動平均算出の基本幅である.
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 琉球海溝域のPlate運動によって累積する歪は全域で一様に解放されるのではなく,海溝側から背弧に向かって順次解放されることが,累積地震断層面積のBenioff曲線から明らかにされている(月刊地震予報139).Benioff曲線には数年間隔に大きな歪解放に対応する段差が認められる.段差に対応する大きな地震の震源は海溝沿いの震源帯TrPh(PfcPh),Slab平面化震源帯uBdPh,沖縄海盆震源帯RifPhOkwの順に発生している.
 これら海溝域・平面化・沖縄海盆の3つの解放期から成る歪解放周期が2回認められている(月刊地震予報147).最初の周期は,1999年9月21日集集地震PfcPhTw+pM7.7から開始した第1周期である.第2周期は,2010年2月27日TrPhRkM7.2+ntからの海溝域解放期,2011年11月8日uBdPhRkM7.0tr(速報63)からの平面化解放期,2015年11月14日RifPhOkwM7.1+nt(速報74)からの沖縄海盆解放期を経て,周期末期に達し,海溝域巨大地震による新たな第3歪解放周期を迎えようとしていた(月刊地震予報144月刊地震予報147月刊地震予報148月刊地震予報149/a>,月刊地震予報150月刊地震予報151月刊地震予報152月刊地震予報153月刊地震予報154月刊地震予報155月刊地震予報156).
 2022年2月から7月までの沖縄本島西方沖の沖縄海盆での連発が休息して今回の最大地震M7.3が海溝域で発生し,新たな歪解放周期を開始させた(図485).その直後に,RifPhOkwの2022年9月18日17日09分深度8㎞M6.0-ntが沖縄海盆の連発地震域西方で起こったが,前の解放周期末の沖縄海盆解放期の名残であろう.
 新たな歪解放周期が開始されたので今後,琉球海溝震源帯TrPhや近海震源帯nShPhでM7級の活動が続くことが予想されるので警戒が必要である.

3.2022年10月の月刊地震予報

 琉球海溝域では,2022年9月18日M7.4によって歪解放周期が更新されたので,琉球海溝沿いのM7級の活動に厳重な警戒が必要である.