月刊地震予報148(2022年1月20日)、悪石島M6.1,宮古島沖M6.1,2022年1月の月刊地震予報
2022年1月20日 発行
1.2021年12月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解によると,2021年12月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で17個0.177月分,千島海溝域で2個0.014月分,日本海溝域で5個0.109月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.015月分,南海・琉球海溝域で9個0.414月分であった(2021年12月日本全図月別).総地震断層面積規模はΣM6.5で.M6.0以上の地震は,12月9日琉球海溝域悪石島の沖縄海盆震源帯M6.1Tと12月26日琉球海溝域宮古島沖琉球Slab平面化震源帯M6.1-trの2個である(図450).
これらの地震の震度分布は,悪石島の地震では奄美諸島で震度5に達し(図451左),宮古島沖の地震では八重山諸島で震度4までとなっている(図451右図).
2.悪石島の沖縄海盆震源帯深度14kmのM6.1T
2021年12月9日11時05分,琉球海溝域琉球小円区沖縄海盆震源帯Okw北東縁の吐噶喇列島悪石島の南西沖深度14kmでM6.1Tが発生した(図452).
今回の震源域では,12月5日11時14分深度19㎞のM4.9T,12月7日11時13分深度17㎞のM4.7Tの連発地震があった.連発地震は今回の地震の歪場から16.5°と19.6°偏るのみで,これらの地震は同一歪場内で起こった前震と主震である.
前震から主震までに初動震源深度は19㎞から,17㎞そして14㎞と浅くなり,初動震央も悪石島火山の南西50.9㎞から44.6km, 37.9kmへと近付いている.
破壊開始点が初動震源で,主破壊点の重心がCMT震源である(速報11).CMT震源は初動震源の南方6㎞,21㎞,12㎞で,深度はいずれも10㎞である.悪石島火山に近付く初動震源の背後上方に主破壊域が追うように配置している.非双偶力成分比は+28%,+22%,+25%と引張過剰である.
今回の震源域の最初のCMT解は2021年4月10日深度19㎞の引張過剰引張横擦断層型M4.5+ntであるが,それに続き4月12日までに4個のCMT解があった.それらの歪場偏角は9.0°から12.0°と同一歪場内にあり,最後のCMT解が最大規模の引張横擦断層型M5.3ntであるので,この連発地震は3個の前震に続く主震と判定できる.非双偶力成分比は,+10%,+6%,-11%,+2%である.
非双偶力成分比nonDCは,4月12日の主震の+2%と12月9日の主震の+25%の間に大差がある.震源域に蓄積した圧縮P歪に対する引張T歪の比T/Pは,nonDCの定義(速報37)から,
nonDCが「0」の場合は双偶力状態で「1」であるが,
正の引張過剰の場合には; T/P = ( 1 + nonDC) / ( 1 – 2*nonDC) で,
負の圧縮過剰の場合には; T/P = ( 1 + 2*nonDC) / ( 1 – nonDC) である.
この比は,4月12日に0.92であるが,12月9日には0.33と減少している.引張T歪が変わらなければ,圧縮P歪が3分の1に減少したことになる.
主圧縮歪P軸傾斜方位と傾斜角は,4月12日が[233+22],12月9日が[246+63]であり,西南西方へ22°の低角傾斜から63°の高角傾斜に変化している.圧縮歪の垂直成分は震源から地表までの上載岩圧に対応するので,震源深度に比例するが,両CMTの震源深度は等しいので,圧縮歪の垂直成分に変化がなければ,圧縮歪の水平成分が4.86分の1に減少したことになる.
nonDC%とP軸傾斜による圧縮歪についての算出結果は,共に西南西の沖縄海盆中央方向からの圧縮歪の減少を指示している.
4月12日M5.3ntより半月前の2021年3月28日に八重山諸島沖の深度152㎞の平面化震源帯でM6.2npが起こっている(月刊地震予報139).
今回の地震の前には2021年8月5日の花蓮沖M6.3(月刊地震予報144)と10月24日の台湾の深度115㎞のM6.3(月刊地震予報146)そして11月11日宮古島沖M6.5が海溝軸付近の深度90㎞で起こり,琉球Slabの下底を随行Mantleが背弧側に流出する際の掃引による引張歪の蓄積が示唆されていた(月刊地震予報147).
随行Mantleの沖縄海盆下への流入は.沖縄海盆を下から押し上げ,沖縄海盆底を膨張させて,圧縮歪を相殺する.今回の連発地震で明らかになった圧縮歪水平成分の減少は,随行Mantleの流入による沖縄海盆底の膨張と良く対応している.
悪石島より北の吐噶喇列島の火山付近にはCMT解が分布しないが,悪石島以南の活火山である横当島そして硫黄鳥島の西側には2003年からCMT解が報告されている.悪石島に対応するCMT解が2021年4月以降であることは,歪場蓄積前線が2021年に悪石島まで到達したからであろう.
3.宮古島沖琉球海溝震源帯深度39kmのM6.1-tr
2021年12月26日17時26分,琉球海溝域八重山小円区宮古島北東沖の琉球Slab平面化震源帯PhuBdにおいて,深度39kmの琉球Slab上面より7㎞上方でM6.1-trが発生した(図452).
発震機構型は圧縮過剰正断層型で主引張T歪軸方位は海溝軸に並行し,Plate運動方位やSlab傾斜方位に大きく斜交している.海溝軸輪郭に沿う八重山小円の中心は島弧側に位置し,海溝軸は海洋側に突出している.海洋側に突出した海溝軸から沈み込むSlabはSlab傾斜とともにSlab面積が不足するため(速報13),Slab傾斜に直交する引張歪が発生する.今回の地震は,T軸方位がSlab傾斜方位に直交していることから,Slab面積不足による引張歪蓄積によって起こったと言える.また,-18%の非双偶力成分比は,圧縮歪が引張歪の2.1倍に達する圧縮過剰を示している.同心円状屈曲して沈込んだSlabが随行Mantleの強い押上による平面化によって押し広げられて今回の地震が起こったことを物語っている.
4.2022年1月の月刊地震予報
現在は,2015年11月14日の沖縄海盆震源帯Okw最大地震M7.1に続き,琉球海溝震源帯TrPhで予想されるM7.0以上の大地震を待つ状態にある(月刊地震予報147).琉球海溝震源帯のPlate境界面は摩擦によって固着しており,拡大によって容積を増加させた沖縄海盆下のMantle圧が減少し,海洋底と共にPlate運動してきた随行Mantleを引き込んでいると解釈していたが(月刊地震予報147),今回,悪石島M6.1と宮古島沖M6.1を検討することによって随行Mantleが背弧側へ流入していることが判った.
琉球Slab上面と島弧地殻との境界面の摩擦力より沖縄海盆へ流入しているMantle押しが上回れば,境界面に沿う剪断歪が解放されて大地震が起こる.震源は海底面に近いために巨大津波も伴うことから.厳重な警戒が必要である.
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