速報35)2012年12月の地震予報:一筋縄では行かない12月7日の日本海溝外地震M7.4と三つ目の宮城県沖地震

1.震央地図・震源断面図の改良

これまでの震央地図・震源断面図では,震央・震源の位置や応力方位・断層方位などに同じ大きさの記号を用いてきたが,記号の大きさをマグニチュードMに比例して変え,マグニチュードの相違を判別可能にした.今後,月別や年別の地震活動図にも使用する.

震央地図上に指定区域を設け,震源断面図に指定区域内の震源のみを示し,指定区域外の震源が重なり合わない断面図の作成を可能にした.今後,特定地域の歴史地震活動や地震活動経過の解析に使用する.

2.2012年11月の地震活動

2012年11月の総CMT地震数は15個と東日本巨大地震以前の2011年1月の個数にまで減少した.ただし,総地震15個の内,13個が日本海溝域で起こっており,2011年1月の6個の倍以上で日本海溝域に地震活動が集中している(月別日本全図震源震央分布図).仙台では有感地震が多く,三つ目の宮城県沖地震の再来が心配される.

宮城県沖の地震は,スラブ上面境界で3個,島弧下のモホ面付近1個と破壊強度の小さな領域で起こっている(月別東日本震源震央分布図).

3.一筋縄では行かない12月7日の日本海溝外地震M7.4

2012年12月7日17時18分,最大震度5弱の地震が東北・関東地方を襲った.この地震のマグニチュードはM7.3からM7.4に改訂されている.この地震をここでは本震と呼び,その後日本海溝付近で起こった地震を余震と呼ぶことにする.

本HPでは,気象庁HPから地震資料を入手し,解析結果を報告しているが,12月19日の時点でも,本震のCMT発震機構解が公表されていない.しかし,それ以後に起こった12月11日までの余震20個についてはCMT発震機構解が既に公表されている.

今後,本震のCMT発震機構解が公表されない恐れがあるが,本HPでは,気象庁報道発表資料(12月7日20時付)に掲載されている地震速報の値とCMT速報値をとりあえず使用する.また,初動震源深度としては,12月15日新聞報道の46kmを使用する.

本震は日本海溝から23km外側で起こった海溝外地震であるが,牡鹿半島先端の鮎川で1mの津波が観測されたことは,地震断層面傾斜が大きく,地震断層変位に伴う海底面変位が大きかったことを示している(速報33).余震は,日本海溝の内側5-38kmの範囲で起こっており,日本海溝外の本震は孤立している(図78).

図78.2012年12月7日の海溝外地震M7.4とその余震分布.

図78.2012年12月7日の海溝外地震M7.4とその余震分布.

東日本巨大地震後の震源分布は最上小円区の中心軸に対称であるが(速報28:図60),対称軸と海溝軸の交点付近に楕円形の地震空白域が存在する(図79).この空白域の島弧側で2011年7月10日の「二つ目の宮城県沖地震」M7.3に代表される移動調整型nt型地震(空色)が起こっている(速報13:図19).今回の本震と余震の震央もこの空白域の周縁に分布し,12月9日には移動調整nt型地震M4.7も起っており,日本海溝付近の地震活動が東日本巨大地震後,今回の地震まで本質的に変わっていないことを示している.

図79.2011年3月11日東日本巨大地震以後2012年11月までの日本海溝域の地震活動.右の震源断面図には,左の震央地図内の区画内の震源のみ示した.

図79.2011年3月11日東日本巨大地震以後2012年11月までの日本海溝域の地震活動.右の震源断面図には,左の震央地図内の区画内の震源のみ示した.

12月11日の地震調査委員会で東京大学地震研究所は,本震開始から90秒間の観測波形が,「逆断層型」の発震機構の震動の20秒後に「正断層型」のより大きな震動が起こった場合の理論波形に合致すると報告している.このように一筋縄では行かない発震機構が,気象庁によるCMT発震機構解の公表を拒んでいるのであろう.

4.非双偶力成分

図80.2012年12月7日17時18分頃の三陸沖の地震の発震機構解CMT解(速報).気象庁報道発表資料(2012年12月7日20時00分).

図80.2012年12月7日17時18分頃の三陸沖の地震の発震機構解CMT解(速報).気象庁報道発表資料(2012年12月7日20時00分).

気象庁が公表しているCMT発震機構解には「非DC成分(非双偶力成分)比」が掲載されている.DはDouble,Cは Coupleの略でDCとは直交する二つの偶力が対になった「双偶力」を表す.非双偶力成分比とは,地下岩石の断層変位によって生じる双偶力による波動以外の成分がどの程度含まれているかを示す値である.CMTのMT(モーメントテンソル)は,3行3列の実対称行列であるが,その3つの固有値が,引張T主応力・中間N主応力・圧縮P主応力に対応する(速報33).双偶力によるモーメントテンソルであれば正のT固有値と負のP固有値の絶対値が等しく,N固有値は0になる.3つの固有値の総和が0であるので,正のT固有値が過剰であればN固有値は負になり,負のP固有値が過剰であればN固有値は正になる.非双偶力成分比にはN固有値の逆符号が付けられており,正の非双偶力成分比では引張応力過剰,負の非双偶力成分比では圧縮応力過剰になる.

この非双偶力成分の原因については,1)考慮されていない地下構造の不均質性・非等方性,2)地震断層面が平面でないあるいは異なる発震機構の複数の双偶力成分が重なり合っている,3)双偶力成分と本質的に異なる物理現象で起きている,などが考えられている(川勝,1991).

図81:2012年12月7日の海溝外地震M7.4の余震の非双偶力成分比の分布.正の非双偶力成分比については初動震源位置に過剰な引張T主応力軸方向,負の非双偶力成分比については過剰な圧縮P主応力軸方向を示した.軸方向線の長さは,マグニチュードと非双偶力成分比に比例

図81:2012年12月7日の海溝外地震M7.4の余震の非双偶力成分比の分布.正の非双偶力成分比については初動震源位置に過剰な引張T主応力軸方向,負の非双偶力成分比については過剰な圧縮P主応力軸方向を示した.軸方向線の長さは,マグニチュードと非双偶力成分比に比例

今回の本震のように発震機構が途中で変化すれば,2)の場合に当てはまる.12月7日のCMT速報値に「非DC成分比」は示されていないが,押し引き分布を示すステレオネットではN軸が負の引き領域に位置しており(図80),引張T主応力過剰の正非双偶力成分の存在が判る.余震20個のCMT発震機構解によると,-5%以下の負非双偶力成分比の地震が半数以上を占め,初動震源の深い地震が圧縮過剰な負,浅い地震が引張過剰な正,の非双偶力成分比を持つ(図81).この非双偶力成分比分布は,東日本巨大地震後の日本海溝域で起こった地震にも認められ(図82),海洋プレートが海溝に沿う沈み込む際の変形に関係していると言えよう.

図82:2011年3月11日東日本巨大地震以後2012年11月までの日本海溝域の非双偶力成分比分布.正の非双偶力成分比については初動震源位置に過剰な引張T主応力軸方向,負の非双偶力成分比については過剰な圧縮P主応力軸方向を示した.右の震源断面図には,左の震央地図内の区画内の非双偶力成分比のみ示した.軸方向線の長さは,マグニチュードと非双偶力成分比に比例.

図82:2011年3月11日東日本巨大地震以後2012年11月までの日本海溝域の非双偶力成分比分布.正の非双偶力成分比については初動震源位置に過剰な引張T主応力軸方向,負の非双偶力成分比については過剰な圧縮P主応力軸方向を示した.右の震源断面図には,左の震央地図内の区画内の非双偶力成分比のみ示した.軸方向線の長さは,マグニチュードと非双偶力成分比に比例.

5.同心円状屈曲と非双偶力成分

太平洋プレートが日本海溝に沿い同心円状屈曲して沈み込めば,深度によって屈曲半径が異なるので,浅部は引き伸ばされ,深部は圧縮されなければならない.深所で開始した破壊が浅所に進展すると,この様な深度による変形様式の相違によって,発震機構は変換するであろう.一筋縄では行かない今回の海溝外地震の解明には,海溝に沿う海洋プレートの同心円状屈曲についてのプレートダイナミクス解析が必要である.

日本海溝域の地震で観測される,浅所で引張過剰の正・深所で圧縮過剰の負の非双偶力成分比分布が,同心円状屈曲による浅所で引張・深所で圧縮の変形様式と対応している.

6.三つ目の宮城県沖地震と今回の海溝外地震

東日本巨大地震の最大余震M7.5が2011年3月11日に海溝外で起き,その約1ヶ月後の4月7日に一つ目の宮城県沖地震M7.2が起こっている.

4月7日の一つ目の宮城県沖地震の震源は,沈み込むスラブのモホ面より深いマントル内にあり,圧縮P主応力軸の傾斜がスラブ面に並行している(図83).1994年以降のM7以上の宮城県沖地震には,2003年5月26日M7.1と2005年8月16日M7.2がある.2003年の地震はスラブのモホ面付近の震源とスラブ上面に並行するP軸傾斜を持ち,2011年の地震と類似している.2005年の地震はモホ面とスラブ上面の間のスラブ海洋地殻内の震源と海溝側に傾斜するP軸を持ち,東日本巨大地震と類似している.この相違は,宮城県沖地震に2つの異なる型が存在することを示している.

図83:1994年以降のM7以上の宮城県沖日本海溝域の地震の圧縮P 主応力軸方位.右の震源断面図には,左の震央地図内の区画内の圧縮P 主応力軸方位のみ示した.

図83:1994年以降のM7以上の宮城県沖日本海溝域の地震の圧縮P 主応力軸方位.右の震源断面図には,左の震央地図内の区画内の圧縮P 主応力軸方位のみ示した.

2005年の宮城県沖地震は東日本巨大地震と同様,スラブ上面におけるプレート間の相対運動によって起こる「プレート境界型」の地震であるが,2003年と2011年の宮城県沖地震はスラブのマントル内でスラブ上面に沿う圧縮力によって起る「スラブマントル型」の地震である.

宮城県沖地震域は,日本海溝に沿って同心円状屈曲したスラブが平面状に戻る区域に位置し(速報34),海溝に沿う海洋プレートの同心円状屈曲開始とは逆の変形過程が進行しているはずである.すなわち,スラブ浅所では圧縮,深所では引張の変形が進行していなければスラブは平面状に戻ることはできない.

このスラブ浅所の圧縮変形によって形成される圧縮応力場が,スラブ上面に並行するP軸を持つ「スラブマントル」型の宮城県沖地震を起こす原因になる.

今回の海溝外地震も東日本巨大地震の最大余震の海溝外地震も日本海溝スラブ沈み込み開始に伴う同心円状屈曲形成によって起こった「スラブマントル型」の地震になる.スラブ沈み込みの程度に対応するマグニチュードが同等であり,同心円状に屈曲したスラブが平面状に戻る過程も進行するはずである.東日本巨大地震の最大余震の場合と同様に約1ヶ月後の来年早々にも「スラブマントル型」の三つ目の宮城県沖地震の再来が考えられるので,厳重な警戒が必要である.

7.結論

2012年12月7日の海溝外地震M7.4は発震機構が複雑なようで,CMT発震機構解が気象庁から公表されていない.

この地震とその余震の震央は,最上小円区の中心軸と日本海溝軸の交点付近に位置する地震空白域の周縁に分布している.

引張過剰と圧縮過剰による非双偶力成分は,海洋プレートの海溝に沿う同心円状屈曲の変形様式に対応する深度分布を持つ.

今回の海溝外地震は,海溝に沿う海洋プレートの同心円状屈曲形成に伴う変形によって起こった.

宮城県沖地震は「プレート境界型」と「スラブマントル型」の2つの型に区分される.今回の海溝外地震による日本海溝スラブ沈み込みの進行によって、2011年4月7日の一つ目の宮城県沖地震と同様の「スラブマントル型」宮城県沖地震の再来が心配されるので警戒が必要である.

参考文献

川勝 均(1991)地震の大きさと多様性ーMoment tensor inversionを中心としてー.地震(第2輯),44特集号,265-277.