速報45)小笠原・マリアナ海溝域太平洋スラブ屈曲断面の改訂・2013年9月の地震予報
2013年9月13日 発行
1.小笠原・マリアナ海溝域太平洋スラブ屈曲断面の改訂
太平洋スラブは千島海溝から,日本海溝・伊豆海溝・小笠原海溝を経てマリアナ海溝まで連なっている.海溝に沿って28°から89°まで同心円状屈曲し,平面化するとしてこれまで震源断面図を作図してきた(表19).
小円区 | 屈曲半径 | 屈曲頂 | 平面化角 |
海溝距離 | |||
(km) | (km) | (°) | |
千島 | 340 | 55 | 46 |
襟裳 | 600 | 40 | 28 |
最上 | 600 | 40 | 28 |
鹿島 | 500 | 40 | 28 |
八丈 | 375 | 40 | 60 |
伊豆 | 375 | 40 | 60 |
小笠原 | 375 | 40 | 89→150 |
小笠原海台 | 375 | 40 | 89→150 |
マリアナ | 375 | 40 | 89→150 |
2013年5月14日にマリアナ海溝で起ったM7.3深度619kmの地震は最深記録を更新したため,日本全図の表示枠組みに収まらず、枠組みを拡大しなければ表示できなかった(速報42).この最深地震の震央は,従来の深発地震の震央よりも海溝側に位置しており,垂直に垂れ下がるスラブの位置から外れていた(2013年5月日本全図).同様の位置の外れは,1998年2月7日に小笠原海台小円区で起ったM6.4深度552kmの地震についても認めることができる(1998年日本全図).
東日本大震災後,太平洋プレートが日本海溝に沿って同心円状屈曲する際に強度限界を越して破壊し,地震を起こした.これとともに,屈曲したスラブが平面化する際にも破壊し、地震を起こすことが明らかになった(特報1).もし,平面化応力が働かなければ,破壊を伴う平面化は起らないと考えられる.CMT解地震を再検討したところ,前述のマリアナ海溝と小笠原海台の地震は,屈曲スラブが平面化せず同心円状屈曲が90°以上保持されていることが判明した(図104).
そこで,小笠原・小笠原海台・マリアナ小円区の同心円状屈曲角を150°まで拡大した(表19).今後の日本全図の伊豆・小笠原海溝域断面図には拡大した同心円状屈曲を使用する(2013年8月日本全図).
マントルは,カンラン石を主体とする上部マントルとペロブスカイトを主体とする下部マントルに区分されている.下部マントル(660-2900km)ではマントルの主要鉱物であるカンラン石が高温高圧のためにペロブスカイトに相転移していると考えられている.この相転移深度は660kmとされており,マリアナ海溝から沈み込む太平洋スラブは上部マントル底面近くまで沈み込んでいることになる.スラブ内で起る深発地震の最大深度が650km程度であることから,スラブが下部マントルまで沈み込めず,上部マントル下底に停滞していると考えられているが,小笠原・マリアナ海溝から沈み込んだ太平洋スラブは同心円状屈曲状態で上部マントル下底に接していることになる.
東日本大震災後拡大している地震活動は,太平洋スラブの形態と応力状態に関する情報を我々に提供している.今後の地震活動も太平洋スラブの新たな側面を見せてくれるであろう.
2.2013年8月の地震活動
2013年8月の地震数と総地震面積比は,日本全域で31個0.144月分,千島海溝域で2個0.146月分,日本海溝域で22個0.507月分,伊豆・小笠原海溝域で3個0.013月分,南海・琉球海溝域で4個0.022月分であった(2013年8月日本全図).日本全域で0.144月分は,先月7月の0.136月分より増大したが,低レベルである.日本海溝域では0.507月分と活発であり,8月上旬には太平洋スラブ屈曲平面化の有感地震が起り,3つ目の宮城県沖地震の前触れかと心配されたが,静穏化した.海溝外地震が4個起こり,太平洋プレートの屈曲沈み込みが進行していることを示している.襟裳小円区では屈曲衝突沈み込みによる逆断層型地震が起っている(2013年8月東日本).
浜通では2013年1月から4月まで1-2個であった自動発震機構解の地震数が,5月に7個,6月5個,7月7個,8月7個と増大した状態を保持している(2013年8月東日本IS).
3.2013年9月の地震予報
日本海溝域で起った2013年8月の海溝外地震4個は,2013年5月と同数の2013年最多記録である.沿岸域でも屈曲スラブ平面化による有感地震が起っており,太平洋プレートの沈み込みが活発化している.浜通の地震数も多いことから屈曲スラブ平面化と関連する三つ目の宮城県沖地震と宮城県北部地震に警戒が必要である.