月刊地震予報141)2021年5月の北上前弧沖震源帯M6.8と阿武隈前弧沖震源帯M6.3,2021年6月の月刊地震予報

1.2021年5月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2021年5月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で16個0.612月分,千島海溝域で1個0.149月分,日本海溝域で9個3.664月分,伊豆・小笠原海溝域で3個0.077月分,南海・琉球海溝域で3個0.066月分であった(2021年5月日本全図月別).日本全域総地震断層面積比は2021年1月の0.085月分から,2021年2月の1.786月分への急増の後,3月には0.647月分,4月に0.045月分に静穏化したが,5月に0.612月分へ活発化した.
 2021年5月の最大CMT解は日本海溝域の前弧沖震源帯(月刊地震予報138)2021年5月1日北上沖M6.8である.日本全域のCMT総地震断層面積規模はΣM7.0で,M6.0以上の地震には前弧沖震源帯5月14日阿武隈沖M6.3と5月16日十勝沖M6.1が加わった(図410).

図410.2021年5月のM6.0以上の地震の震度分布(気象庁HPより).
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2.2021年5月1日の北上前弧沖震源帯M6.8と5月14日の阿武隈前弧沖震源帯M6.3 

 東北日本弧の太平洋沿岸には日本海溝に並行して前弧震源帯(月刊地震予報139)と前弧沖震源帯が分布する.日本海溝に沿って沈込む太平洋Slabは,東北日本弧最強の上部Mantleに押し沈められて同心円状に屈曲(速報6)した後に平面化(速報7速報18)する.東北日本弧の上部Mantleが太平洋Slabを屈曲させる衝突に伴い前弧沖震源帯の地震が発生し,平面化に伴い前弧震源帯の地震が発生する.
 2020年6月から2021年5月までの1年間に前弧震源帯・前弧沖震源帯ではCMT解29個が報告されており,その総地震断層面積規模はΣM7.5で日本海溝域のPlate運動面積に対する比は1.38である(図411).

図411.2020年6月から2021年5月までの前弧震源帯・前弧沖震源帯のCMT解発震機構.
 数字とM:発生年月日と規模.
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 2020年6月から2021年5月のM6.0以上のCMT解は;
   2021年5月14日M6.3p 前弧沖帯
   2021年5月1日M6.8p 前弧沖帯 
   2021年3月20日M6.9p 前弧帯(月刊地震予報139
   2021年2月13日M7.3p 前弧沖帯(月刊地震予報138
   2020年12月21日M6.5P 前弧沖帯(月刊地震予報136
   2020年9月12日M6.2P 前弧沖帯(月刊地震予報133
の6個であり,地震断層面積規模曲線areaM(月刊地震予報107月刊地震予報116)が増大する嶺と地震断層面積積算曲線Benioff(特報5,)が急増する段差(図411右中の時系列図左端)として表れ,最大CMTの2021年2月の段差が顕著である.

 前弧震源帯・前弧沖震源帯における1994年以降の全CMT解は796個,総地震断層面積規模はΣM8.2でPlate運動面積に対する比が0.37であることは,2020年6月から2021年5月の比1.38が如何に大きいかを示している(図412).

図412.1994年以降の前弧震源帯・前弧沖震源帯のCMT解発震機構.
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 1922年以降の前弧震源帯・前弧沖震源帯における過去100年の全観測地震総地震断層面積はΣM8.6で(図413)Plate運動面積に対する比は0.26と更に小さくなる.

図413,1922年以降の前弧震源帯・前弧沖震源帯の観測震源.
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 1922年以降のM7.3以上の前弧震源帯・前弧沖震源帯観測地震は(図414);
   2021年2月13日M7.3p 前弧沖帯
   2016年11月22日M7.4-t 前弧沖帯
   2011年3月11日M7.6p 前弧沖帯
   1978年6月12日M7.4 前弧沖帯
   1938年11月5日M7.3 前弧沖帯
   1936年11月3日M7.4 前弧沖帯
の6個で,最大は2011年3月11日東北沖平成巨大地震29分後のM7.6であるが, 2021年2月13日M7.3を含む5月までの1年間の総地震断層規模ΣM7.5は顕著な活動と言える.

図414.1922年以降のM7.3以上の前弧震源帯・前弧沖震源帯観測震源.
 数字とM:発生年月日と規模.
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 過去100年間における活動で,この1年間の活動に匹敵するのは1936-1938年である(図414).この活動は1933年昭和三陸地震M8.1と1946年昭和南海地震M8.0・1952年十勝沖地震M8.2・1952年KamchatkaM8.2の間に起こっている(図415).

図415.1922年以降に日本全域で起こったM8.0以上の巨大地震.
 数字とM:発生年月日と規模.

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3.2021年6月の月刊地震予報

 日本海溝域の前弧震源帯と前弧沖震源帯の活動は,1936-1938年の活動に匹敵し(図414)警戒が必要である.1936-1938年は1933年昭和三陸地震と1946年昭和南海地震や1952年十勝沖地震・Kamchatka地震の間に位置することから(図415),南海Troughや日本海溝域・千島海溝域の巨大地震の準備段階にあることも考えられ,今後の地震活動の推移を見守る必要がある.