月刊地震予報(151)東北日本前弧沖震源帯M7.4,琉球海溝震源帯M6.6,2022年4月の月刊地震予報

1.2022年3月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2022年3月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で21個2.642月分,千島海溝域で0個,日本海溝域で9個16.620月分,伊豆・小笠原海溝域で0個,南海・琉球海溝域で12個0.946月分であった(2022年3月日本全図月別).総地震断層面積規模はΣM7.5で.最大地震は阿武隈沖の東北日本前弧沖震源帯M7.4Pであった.M6.0以上の地震には琉球海溝域の台湾の琉球海溝震源帯M6.6Poを加わえ2個であったが,最大地震M7.4の2分前に起こりIS解のみとなったM7.4の前震M6.1(2022年3月東北日本IS月別)も加わえて3個とした.
 M6.0以上の震度分布(図462)は,東北日本前弧沖帯のM7.4では最大震度6強に達し,本州から北海道・小笠原諸島に達している(図462中図).2分前のM6.1では,最大が震度5で東北日本から中部日本・北海道に及んでいる(図462左図).琉球海溝震源帯のM6.6では,最大が震度2で八重山諸島に限られ,琉球列島と本州の島弧地殻・Mantleに大きな相違のあることを示している.

図462.2022年3月のM6.0以上の地震の震度分布.
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 2022年2月にはM6.0以上の地震が無く静穏であったが,東北日本前弧沖震源帯でCMT解が2個・IM解が15個と急増するとともに,琉球海溝域の沖縄海盆震源帯と台湾震源帯にもM5.8があり,警戒を呼び掛けていた(月刊地震予報150).この警告通りに,2022年3月の東北日本前弧沖震源帯でM7.4と琉球海溝震源帯でM6.6が発生した(図463).

図463.2021年1月から2022年3月までの日本全域15ヶ月間CMT解
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図).
 地震断層面積変遷(右上下図):右縁の数字は月数(図422説明参照(月刊地震予報144).
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2.2022年3月16日東北日本前弧沖震源帯M7.4

 2022年3月16日23時36分に東北日本前弧沖震源帯ofAcJの深度57㎞でM7.4Pが発生した(図464).

図464.2021年1月から2022年3月までの15ヶ月の日本海溝域のCMT解.
左の震央地図中の左上から右下への線は2°間隔(222㎞)のPlate運動Euler緯線.数字とMはM6.0以上のCMT発生年月日と規模.
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 今回の地震の2分前の23時34分にその南南西2㎞の同深度でM6.1pの前震が発生していた.この前震で新幹線が自動停車したため,転覆は免れたが,重力を上回る上方への突き上げによって車輪がrailから浮き上がり,脱線した.
 CMTから算出される今回の地震断層は(速報33),西北西に49°傾斜する逆断層(走向192°傾斜49°)であり,断層西側の東北日本弧上部Mantleが東北日本弧を東南東に押上げた.主歪軸下半球傾斜方位(P104+0T9+88N194+2)の引張T軸傾斜方位は上半球で南南西に-88°とほぼ真上で,新幹線車両を脱線させた突上げと整合的である.
 構造物は上載荷重を安定化の為に用いているため,T軸傾斜が垂直で真上に突上げる地震には脆弱であり,警戒が必要である.昨年2021年2月13日の前弧沖震源帯M7.3の地震断層も西北西に46°傾斜する逆断層(走向189°傾斜46)であったが,新幹線の脱線に至らなかったのは,規模が0.1小さいM7.3で,働いた力が今回の7割程度であったことと,主歪軸下半球傾斜方位(P290+9T61+76N199+0)のT軸傾斜が76°と垂直から14°ずれていたためであろう.
 Plate Tectonicsで海洋底が海溝に沿って同心円状に屈曲してSlabとして沈込んでいるのは,その首筋を最も強靭な屋台骨である島弧の上部Mantleが押さえ込んでいるからである.この押さえ込み境界は,Slab上面と島弧上部Mantleが接するPlate衝突境界であり,この境界で前弧沖震源帯を構成する地震が起こっている.東北日本弧はこの押さえ込みを押し戻そうとする反力によって,海面上に顔を出し東北日本弧を形成している.この押し上げ歪の解放が,新幹線まで脱線させてしまったのである.
 Plate相対運動は島弧側に傾斜しているSlab上面に沿っているが,境界面の摩擦によって境界面に直交する抗力が働き,圧縮P歪軸傾斜は島弧側から海溝側へ変化する.
 2分前の前震M6.1pの初動IM解の主歪軸傾斜方位(P86+3T191+60N134+30)は今回のCMT傾斜方位から32.2°偏り,引張T軸傾斜も南南西に60°と垂直から外れている.この前震から垂直方向への突き上げを予測することは困難である.
 2021年2月13日のM7.3から約1年後にM7.4と新幹線が再び不通になる地震が起こった.この起こり方が今後も続けば,毎年,新幹線の不通を覚悟しなければならない.日本海溝沿いの太平洋Plate年間沈込面積はM7.4であり,Plate運動による歪が全て前弧沖震源帯に蓄積すれば毎年M7.4の地震が発生することになる.前弧沖震源帯の最大観測地震は2011年3月11日15時15分のM7.6であるが,明治三陸沖地震を含む1895年以降のM7.3以上の地震は(Ft地震断層面走向_傾斜,歪軸方位);
  2022年3月16日23時36分M7.4P 阿武隈沖 Ft192_49逆 P104+0T9+88
  2021年2月13日23時07分M7.3p 阿武隈沖 Ft189_46逆 P290+9T61+76
  2016年11月22日5時59分M7.4-t 阿武隈沖 Ft220_54正 P27+71T141+8
  2011年3月11日15時15分M7.6p  勿来沖  Ft20_68逆 P110+16T290+74
  1978年6月12日17時14分M7.4 金華山沖
  1938年11月5日19時50分M7.3  阿武隈沖
  1936年11月3日5時45分M7.4 金華山沖
  1901年8月10日3時34分M7.4 下北沖
  1897年2月20日5時50分M7.4 金華山沖
の9個である.平均間隔は14年で,M7.3以上の地震が翌年に起こったのは,今回のみで,以前の最短間隔は1936年11月3日から1938年11月5日の2年であることから,来年も新幹線が不通になることはなさそうである.

3.台湾の琉球海溝震源帯TrPhTwM6.6Po

 2022年3月23日2時41分,台湾の琉球海溝震源帯TrPhTwの深度44㎞でM6.6Poが起こった.

図465.琉球海溝域の2021年4月から2022年3月までの年間CMT解.
左の震央地図中の左上から右下への線は2°間隔(222㎞)のPlate運動Euler緯線.数字とMはM6.0以上のCMT発生年月日と規模.
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 琉球海溝域の総地震断層面積がPlate運動面積の半分以下であることが大きな謎であるが(月刊地震予報147),2021年10月から2022年3月までの半年間は,Plate運動累積面積(図465右中図のBenioff図左下角から右上に伸びる斜線)と地震断層累積面積がほぼ同じ傾斜で増大している.地震の発震機構型は3分の1が逆断層型(赤色)で3分の2が正断層型(黒色)である.正断層型は沖縄海盆拡大,逆断層型は台湾と八重山諸島におけるSlab沈込に伴っている.琉球海溝に沿って沈込んだSlab下の随行MantleがSlab下縁を通過して大陸Mantleと衝突して琉球列島を押出し,沖縄海盆を拡大させている.累積地震断層面積と累積Plate運動面積がほぼ等しいここ半年の状態がどの様に変遷するか,今後注意深く解析を進める.

4.2022年4月の月刊地震予報

 日本海溝域では,日本海溝から沈込む太平洋底を同心円状屈曲させている前弧沖震源帯でM7.4が起こり新幹線を脱線させたが,この余震活動は数か月続くと予想される.今後,前弧沖震源帯を通過した同心円状屈曲Slabの平面化に伴う地震に警戒が必要である,これらの地震の深度は今回の前弧沖震源帯より深いため今回ほどの被害は出ないであろう.
 琉球海溝域では沖縄海盆拡大期の次に予想される琉球海溝震源帯のM7.0以上の大地震を待つ状態にあり(月刊地震予報147),警戒が必要である.