月刊地震予報80)琉球海溝域の大深度地震・千島海溝の地震・2016年6月の月刊地震予報

1.2016年5月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2016年5月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で27個0.278月分,千島海溝域で4個0.339月分,日本海溝域で5個0.125月分,伊豆・小笠原海溝域で4個0.084月分,南海・琉球海溝域で14個0.372月分であった(2016年5月日本全図月別).
2016年5月の最大地震は2016年5月31日石垣島沖のフィリッピン海プレート内M6.2tr230kmである.M6以上の地震は2016年5月31日千島海溝の太平洋プレートでM6.1P30kmが起こっている.

2.琉球海溝域の大深度地震

 2016年5月31日M6.2tr230kmが石垣島北西沖で起った.この地震のCMT深度は257kmで,2014年12月11日M6.1-t250km(CMT深度267km)の最深記録(速報63)に次ぐ琉球海溝域第2位の深度記録になる(図186).最深地震の発震機構が異なるのは海溝傾斜補正を海溝距離100km以上から150km以上に変更したためである(特報6).
 本地震は,琉球海溝からフィリピン海プレートがそのまま沈込む琉球弧と衝突による断層で重複する台湾の境界部で起こったもので,台湾の衝突過程と沖縄トラフ・別府-島原地溝帯の拡大過程と直結しており,これらの過程の活発化を示している.

図186.琉球海溝域第2位の深度を記録した2016年5月31日石垣島北西沖の地震M6.2tr230km. 琉球海溝域の1994年9月以降のCMT発震機構解.衝突境界の台湾に最も近い本震源域で2014年12月11日M6.1-t250kmが琉球海溝域最大深度を記録している.

図186.琉球海溝域第2位の深度を記録した2016年5月31日石垣島北西沖の地震M6.2tr230km.
琉球海溝域の1994年9月以降のCMT発震機構解.衝突境界の台湾に最も近い本震源域で2014年12月11日M6.1-t250kmが琉球海溝域最大深度を記録している.

3.千島海溝の地震

2016年5月31日19時03分に得撫島東方千島海溝の太平洋スラブ上面でM6.1P30kmが起こった.この地震の震源から100km範囲内の地震活動を検討した(図187).本検討範囲ではCMT震源解が2006年11月から報告されている.
千島海溝域最大の地震はカムチャツカ半島西方沖太平洋スラブ最深部で起こった2013年5月24日M8.3P609kmである.本検討範囲の最大地震は2007年1月13日M8.2Te30kmであり,千島海溝域全体では第2位の地震になる.本検討範囲最大の地震とそれに伴う引張過剰正断層型地震の後に,逆断層型地震が2009年1月から続いている.今回の地震もこの逆断層型後続地震であろう.

図187. 2016年5月31日千島海溝域のM6.1P30kmの震源域における地震活動.  2016年5月31日の震源から100kmの範囲の1994年9月以降のCMT発震機構解.この範囲は,気象庁の観測範囲の北東縁に位置するため,2006年11月からしかCMT発震機構解が報告されていない.本検討範囲では千島海溝沿いで最大の2007年1月13日M8.2T30kmが起こっている.正断層型のこの最大地震後,2009年1月から逆断層型地震が起こっている.本地震もこの逆断層型地震であろう.+印は,千島海溝全域の最大地震2013年5月24日M8.3P609km.

図187. 2016年5月31日千島海溝域のM6.1P30kmの震源域における地震活動.
 2016年5月31日の震源から100kmの範囲の1994年9月以降のCMT発震機構解.この範囲は,気象庁の観測範囲の北東縁に位置するため,2006年11月からしかCMT発震機構解が報告されていない.本検討範囲では千島海溝沿いで最大の2007年1月13日M8.2T30kmが起こっている.正断層型のこの最大地震後,2009年1月から逆断層型地震が起こっている.本地震もこの逆断層型地震であろう.+印は,千島海溝全域の最大地震2013年5月24日M8.3P609km.

4.2016年6月の月刊地震予報

図188.低調な琉球海溝・南海トラフ域の地震活動. 日本全域の2005年以降のCMT発震機構解の地震断層面積とプレート相対運動面積を比較するベニオフ図(上)と対数移動平均図(下).日本全域では,これまで蓄積してきたプレート運動の歪を地震として解放し,地震断層面積のプレート相対運動面積に対する比は2.87と大きい.しかし,琉球海溝・南海トラフ域(RykNnk:赤色塗)の比は0.35と歪を解放していないことから,巨大地震による解放が警戒される.

図188.低調な琉球海溝・南海トラフ域の地震活動.
日本全域の2005年以降のCMT発震機構解の地震断層面積とプレート相対運動面積を比較するベニオフ図(上)と対数移動平均図(下).日本全域では,これまで蓄積してきたプレート運動の歪を地震として解放し,地震断層面積のプレート相対運動面積に対する比は2.87と大きい.しかし,琉球海溝・南海トラフ域(RykNnk:赤色塗)の比は0.35と歪を解放していないことから,巨大地震による解放が警戒される.

2005年からの地震断層面積のプレート運動面積に対する比は,日本全域で2.847と約3倍になっている.これは東日本大震災M9.0の日本海溝域が12.667倍と大きいことが効いているが,千島海溝域も1.688,伊豆・Mariana海溝域も1.934と1.5倍以上であるのに対し,琉球海溝・南海トラフ域では0.347と約3分の1である.この事実は琉球海溝・南海トラフ域にプレート運動の歪が蓄積しており,巨大地震による解放が近付いていることを示している(図188).
石垣島北西沖の第2位深度記録地震,土佐湾の地震・丹沢の下に沈込む相模スラブ内地震(西日本IS月別),金華山沖地震(東日本IS月別)の活発化などは,日本列島に働く応力状態が変化していることを示しており,東南海地震・南海地震の再来が警戒される(速報79).
今後の発震機構解の変化を注意深く解析し,プレート運動の歪が何処に集中しているかを今後も解析していくつもりだが.いまだ特定に到っていないので,日本全域において厳重な警戒が必要である.