速報69)東日本大震災は伊豆スラブの下部マントル崩落によって起こった, 2015年7月の地震予報

1.2015年6月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2015年6月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で21個0.657月分,千島海溝域で1個0.004月分,日本海溝域で12個0.927月分,伊豆・小笠原海溝域で5個3.161月分,南海・琉球海溝域で1個0.004月分であった(2015年6月日本全図月別).
 M6.0以上の地震は,2015年6月23日小笠原西方沖M6.8p深度484kmが1個起こった.この地震に先立ち南東側で2015年6月15日M5.5P深度404kmも起こっている.この小笠原西方沖では,先月2015年5月30日M8.1深度682kmが起こったが,今月に入って2015年6月3日にM5.6-t深度695kmが起こり,日本列島における最深記録を大幅に更新した.更新深度は,下部マントル上面深度660kmを確実に超えており,伊豆スラブが下部マントルへ崩落していることを示している.

2.東日本大震災は伊豆スラブの下部マントルへの崩落によって起こった

 先月2015年5月30日M8.1t深度682kmは,下部マントル上面深度660kmを確実に超え,下部マントル内で起こった地震である(速報68).今月2015年6月3日M5.6-t深度695kmは,伊豆スラブ先端が下部マントルに到達していることを確実にした.
 これらの地震は,低温のスラブは相転移できず,下部マントル上面に停滞して下部マントルに沈み込めないとの常識を覆すものである.また,停滞スラブが相転移を開始すると連鎖的に進行すると考えられており,「日本沈没」などの大異変が起こることも予想されている.宮城県北東部の新北上川河口の長面地区では,東日本大震災の地盤沈下のため,4年以上も行えなかった遺体捜索を2015年6月に開始している.
 三陸沿岸に起こったこの地盤沈下は,スラブの下部マントルへの崩落による「日本沈没」の幕開けであり,東日本大震災はその結果であるのか,東日本大震災によってスラブの下部マントルへの崩落が開始されたのか検討する.
 300年以上も沈み込めないでいた太平洋プレートが2011年3月11日に50m沈み込み,東日本大震災を起こした(特報1特報2特報5).太平洋プレートのこの急激な沈み込みによって伊豆スラブ先端で下部マントルへの相転移が開始されたとも考えられる.しかし,大震災から4年2ケ月半しか経過していない2015年5月30日・6月3日に伊豆スラブの下部マントル地震M8.1深度682km・M5.6深度695kmが起こっている.これらの震源域が大震災まで下部マントル上面深度660kmに位置していたとすると, 5km/年から8km/年の速度で崩落しなければならず,考え難い.
 東日本大震災後,千島スラブ最深記録更新2012年8月14日M7.3p深度654km(速報30)・マリアナスラブ最深記録更新2013年5月14日M7.3pr深度619km(速報42)が続き,太平洋プレートが沈み込んだスラブ300km以深の地震活動が活発化している(図160).最大の地震は2013年5月24日M8.3P深度609kmカムチャツカ半島西方であるが,この地震と2013年10月1日M6.7-np深度581kmは日本全域のCMT解に掲載されておらず,2009年からの世界のCMT解に掲載されていたため,本速報で取り扱っていなかったが,今後,日本全域図内に入るこれらの地震も含めて取り扱う.

図160.深度300km以深の震源分布とベニオフ図.  左:震央図,中:海溝断面図,右:ベニオフ図.  図中の文字は本文中の地震の年月日マグニチュード発震機構型.  ベニオフ図の「Total」日本全域,「RykNnk」南海トラフ・琉球海溝・台湾域,「OgsIz」伊豆・小笠原・Mariana海溝域,「Jpn」日本海溝域,「Chishima」千島海溝域.楯軸:時間,横軸:総地震断層面積(赤色曲線)・プレート運動面積(黒斜線)・日本全域については各海溝域の面積を合計して4分の1にしてある(ピンク色曲線).

図160.深度300km以深の震源分布とベニオフ図.
 左:震央図,中:海溝断面図,右:ベニオフ図.
 図中の文字は本文中の地震の年月日マグニチュード発震機構型.
 ベニオフ図の「Total」日本全域,「RykNnk」南海トラフ・琉球海溝・台湾域,「OgsIz」伊豆・小笠原・Mariana海溝域,「Jpn」日本海溝域,「Chishima」千島海溝域.楯軸:時間,横軸:総地震断層面積(赤色曲線)・プレート運動面積(黒斜線)・日本全域については各海溝域の面積を合計して4分の1にしてある(ピンク色曲線).

 伊豆スラブの下部マントル地震は,東日本大震災後のスラブ深部地震の活発化によって起こったとも考えられる.しかし,千島スラブの300km以深の地震については震災後に活発化しているのに対し,伊豆スラブについては震災前の2010年11月30日M7.1P深度494kmから活発化し,2015年5月30日M8.1に継続している.従って,伊豆スラブの下部マントルへの崩落は2010年から既に開始されていたと考えることができる.
 伊豆・小笠原・Mariana海溝域の主応力軸方位図(図161)の時系列図左脇に付けたベニオフ図(特報5)において,累積地震断層面積を表す赤色のベニオフ曲線は,プレート相対運動面積を表す黒色の斜線に沿っているが,2000年,2004年,2007年,2010年,2015年に段差のある階段状になっている.歪みが破壊強度限界まで蓄積した階段の左端は黒斜線より傾斜の大きい黄緑色線上に載っている.歪みを解放した階段の右端は2000年,2004年,2007年の段差までは,左端の黄緑色線にほぼ並行する直線に載っているのに対して,2007年以降の段差についてはもっと傾斜の大きな黄色線に載っており,2007年の地震から地震の起こり方に変化が生じていることを示している.

図161.小笠原海溝域の主応力軸方位図.  左図:震央図と海溝断面図.右上図:縦断面図,右中図:時系列図・ベニオフ図,右下図:主応力軸方位図.  文字は本文中の地震の年月日マグニチュード発震機構型.  ベニオフ図中の黄色線と黄緑線は,赤色のベニオフ曲線の右と左に接する線.いずれの線もプレート運動面積を表す黒斜線よりも傾斜が大きい.

図161.小笠原海溝域の主応力軸方位図.
 左図:震央図と海溝断面図.右上図:縦断面図,右中図:時系列図・ベニオフ図,右下図:主応力軸方位図.
 文字は本文中の地震の年月日マグニチュード発震機構型.
 ベニオフ図中の黄色線と黄緑線は,赤色のベニオフ曲線の右と左に接する線.いずれの線もプレート運動面積を表す黒斜線よりも傾斜が大きい.

 2007年以後は,プレート相対運動面積の集積よりも短期間で地震が起こり,起こった地震の断層面積もプレート運動面積より過大であることを意味している.この変化が伊豆スラブの下部マントルへの崩落に因れば,崩落は2007年に既に開始していることになる.
 ベニオフ図上の数値「1.63」は総地震断層面積のプレート運動面積に対する比であるが,プレート運動の1.6倍以上の地震が起こっていることを示している.この地震過剰は,2004年以後赤色のベニオフ曲線がプレート運動面積の黒斜線の右側に出ていることから,2004年から起こっていると考えることができる.
 伊豆・小笠原・Mariana海溝域のベニオフ図は,地震過剰が2011年3月の東日本大震災以前から開始されていることを示しており,東日本大震災が伊豆スラブの下部マントルへの崩落によって起こされたと考えられる.

3.2015年7月の地震予報:

 太平洋プレートの伊豆スラブ南端の下部マントルへの崩落(速報68)は,東日本大震災を起こし,三陸沿岸部を沈没させ,「日本沈没」を開始している.東日本大震災に見られるような,これまでの歴史記録の枠を超えた活動が今後起こることが充分予想されるので,日本海拡大などの地質記録に基づく対応が必要である.
 活発化している日本列島の中でフィリピン海プレート沈み込み境界に沿う南海トラフ・琉球海溝・台湾域の地震活動は極めて静穏であることにも警戒が必要である.