月刊地震予報93)飛騨の地震M5.6・2017年7月の月刊地震予報

1.2017年6月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2017年6月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で18個0.074月分,千島海溝域で3個0.091,日本海溝域で4個0.027月分,伊豆・小笠原海溝域で2個0.016月分,南海・琉球海溝域で9個0.105月分であった(2017年6月日本全図月別).
2017年6月の最大地震は6月28日根室沖M5.7-t33(-3)kmで,連発地震は飛騨の2017年6月25日7時2分M5.6P7(-36)km・15時17分M4.7P7(-36)kmであり,M6以上の地震はなかった.飛騨の地震は,これまでの最大地震1998年8月16日M5.6np3(-57)kmと同規模である.

2.2017年6月25日飛騨の連発地震M5.6

今回の飛騨の連発地震のCMT解は2017年6月25日7時2分M5.6P・15時17分M4.7Pの2個であるが,初動発震機構IS解は6月28日までに9個あった.最大地震は最初の2017年6月25日7時2分M5.6であり,CMT解は圧縮過剰逆断層P型であるが,IS解は圧縮横擦断層np型と異なっている.
飛騨ではM5.5以上の地震が,1998年8月16日M5.6np・2011年2月27日M5.5P・2017年6月25日M5.6Pの3回起こっている.1998年8月16日の活動は1998年8月7日から1998年9月20日まで続きCMT解3個・これらの地震の総地震断層面積をマグニチュードに換算した総規模M5.7,IS解23個・総規模M5.9,であった.2011年2月27日の活動は2011年2月6日から2011年12月2日まで続きCMT解9個・総規模M6.0,IS解61個・総規模M6.0であった.今回の2017年6月25日の活動は2017年6月25日から2017年6月28日までにCMT解2個・総規模M5.6,IS解9個・総規模M5.6である.今回のみ最初の地震が最大地震となっている.総規模では,東日本大震災の前震と交互に起こった2011年2月のM6.0が最大である.
最初の最大地震1998年8月16日M5.6npのCMT解(P317+19T220+19N89+63)を基準とし,発震機構方位差・応力場極性の判別(月刊地震予報87)と震源位置を比較する.2011年2月27日のM5.5Pの震央は南東24kmに位置し,CMT解(P144+1T49+79N234+11)は,方位差が69.1°と大きいが,非双偶力成分比が-30%と圧縮過剰で,T軸とN軸との強度差が小さく入替易く,T軸とN軸の入替TexNで22.6°となる.入替のないP軸方位144°は317°の基準とは逆方位でほぼ一致している.今回の2017年6月25日の震央は基準から南方51kmと最も離れており,CMT解(P118+3T5+81N208+8)も逆断層型であるが,IS解(P121+10T219+37N18+51)は圧縮横擦断層型と異なり,基準からの方位差は85.1°・38.1°と異なっている.方位差の大きなCMT解は非双偶力成分が-20%と圧縮過剰であり,T軸強度とN軸強度の差が小さく入替易く,応力軸入替TexNによって方位差は30.4°となる.
これら3つのM5.5以上の飛騨地震では,応力軸入替のないP軸方位は,フィリピン海プレートとアムールプレートの相対運動の方位および逆方位とほぼ合致している.フィリピン海プレートは南部フォッサマグナを境界として日本列島中部に衝突している.このプレート運動による歪の蓄積が破壊限界強度を越えて飛騨の地震が起こしている.プレート運動による圧縮応力が働き,上下に伸長するのが逆断層型で,左右に伸長するのが横擦断層型である.この相違は主応力軸入替TexNによって起こる.

図216.飛騨地震の初動発震機構IS解の1998年8月16日の飛騨最大地震CMT解を基準にした震央距離・方位・深度差と発震機構方位差・応力場極性・方位差.

今回の飛騨連発地震のIS解265個の応力場極性を判定すると,正極性が217個・総規模M6.3,逆極性が48個・総規模M5.5である(図216).これらの発震機構型は逆断層p型と横擦断層np型を主体とするが,そのP軸方位は正極性では北西方向のプレート相対運動方位とその逆方位(図217:左下図中央付近の紫折線)であるが,逆極性では東西方向と異なる(図217:右下図).
東西方向の圧縮応力は,飛騨地域の跡津川断層・阿寺断層・根尾谷断層や近畿の主要活断層の変位に対応することから,「太平洋の力」(Huzita, 1980)と呼ばれている.現在観測されている地震活動では少数の逆極性応力場であるが,歴史地震では巨大変位を起こしており,防災上注目される.

図217.飛騨地震の初動発震機構IS解の1998年8月16日の飛騨最大地震CMT解を基準にした応力場極性別,主応力軸方位の比較.

これまでの飛騨の最大地震1998年8月16日M5.6np3kmは,西南日本最大地震1998年5月4日M7.7-nto36kmの3か月後である(表23).これらの地震の前には,1995年1月17日阪神淡路地震M7.3nt16km,1997年3月26日沖縄トラフ最大地震M6.6+nt12kmがあり, 1998年8月16日の飛騨地震後,1999年9月21日台湾最大の集集地震M7.7+p0km,南海トラフ最大地震2004年9月5日M7.4Pe44km ,2007年4月20日沖縄トラフ最大更新地震M6.7T21km,2011年2月6日に開始した飛騨地震とともに前震を開始した東日本大震災が3月11日に本震に到った(速報55).
今回の飛騨連発地震は,沖縄トラフ最大更新地震2015年11月14日M7.1+nt17km(速報74)・2016年2月6日台湾南部地震M6.4(月刊地震予報77)・2016年4月16日熊本地震M7.3+nt12km(月刊地震予報79)そして2016年10月21日M6.6+np11km鳥取県中部地震(月刊地震予報85)の8ヶ月後に起こっている.

年月日時分 smallcir小円区 海溝距離km M発震機構型 深度(スラブ上面)km 震央距離(方位)/深度差km 「発震機構方位差org 極方位・伏角org 応力場極性区分 極性方位差
2017/6/28(18:23) 足柄西 129 M3.5p 5(-38) 53(186.2)/+2 67.1 126-21 TexN 39.4
2017/6/27(8:40) 足柄西 127 M3.3p 7(-36) 51(183.2)/+4 88.3 120-38 TPexN 134.0
2017/6/27(2:09) 足柄西 129 M3.3p 5(-38) 52(186.3)/+2 79.5 126-10 TexN 29.8
2017/6/26(0:38) 足柄西 129 M3.5np 5(-38) 51(185.4)/+2 32.8 336-58 org 32.8
2017/6/25(23:29) 足柄西 129 M3.6np 6(-37) 51(184.3)/+3 34.2 347-62 org 34.2
2017/6/25(23:13) 足柄西 128 M3.6np 6(-37) 51(184.6)/+3 33.7 334-55 org 33.7
2017/6/25(15:17) 足柄西 127 M4.7P 7(-36) 52(184.1)/+4 89.6 314-23) TexN 44.9
2017/6/25(15:16) 足柄西 127 M3.4p 7(-36) 52(184.3)/+4 80.0 309-18 TexN 40.5
2017/6/25(9:48) 足柄西 128 M3.5p 6(-37) 52(185.6)/+3 82.2 137-24 TexN 28.3
2017/6/25(7:02) 足柄西 128 M5.6np 7(-36) 51(184.0)/+4 55.5 116-24 TexN 52.3
2017/6/25(7:02) 足柄西 128 M5.6P 7(-36) 51(184.0)/+4 76.4 319-18 TexN 35.9
2016/10/21(14:07) 紀南 324 M6.6+np 11(-132) 鳥取県中部 33.9 147-84 org 33.9
2016/4/16(1:25) 九州 269 M7.3+nt 12(-90) 熊本地震 62.8 91-73 PexT 146.6
2016/4/1(11:39) 東南海 56 M6.5p 29(+11) 紀伊沖 95.1 338-15 TexN 34.7
2016/2/06(04:57) 台湾 60 M6.4+pr 16(-1) 台南 85.9 204-35 PTexN 134.5
2015/11/14(05:51) 琉球 352 M7.1+nt 17(-151) 沖縄トラフ最大更新 102.1 107-14 PTexN 129.9
2014/11/22(22:08) 足柄西 182 M6.7P 5(-66) 47(30.2)/+2上越 38.3 255+7 org 38.3
2014/8/29(4:14) 南海 133 M6.0P 18(-27) 日向灘 92.1 122-0 TexN 36.7
2014/3/14(2:06) 南海 286 M6.2Tr 8(-46) 周防灘 81.6 106-11 TPexN 128.0
2013/4/17(17:57) 駿河 -89 M6.2+npo 9(+3) 三宅島 32.5 154-8 org 32.5
2013/4/13(5:33) 紀南 192 M6.3+pr 15(-61) 淡路島 92.5 289-24 TPexN 145.4
2011/11/8(11:59) 琉球 333 M7.0tr 217(+65) 琉球スラブ 69.3 13-25 PexT 141.7
2011/3/15(22:31) 足柄西 12 M6.4npe 14(+5) 富士山 57.4 126+12 TexN 46.1
2011/2/27( 足柄西 158 M5.5P 4(-54) 24(218.9)/+1 49.1 205+42 org 49.1
2010/2/27(5:31) 琉球 22 M7.2+nt 37(+27) 琉球スラブ 84.7 106-27 PexN 39.2
2009/9/3(22:26) 琉球 209 M6.0t 167(+101) 薩摩半島 92.2 116-4 TexN 48.8
2009/8/11(5:07) 駿河 11 M6.5+nte 23(+14) 駿河トラフ 69.0 168+45 PexT 129.8
2007/4/20(10:45) 八重山 247 M6.7T 21(-66) 沖縄トラフ最大更新 71.5 71+26 TexN 50.3
2007/3/25(9:41) 足柄西 291 M6.9P 11(-116) 能登 53.7 308-35 org 53.7
2006/6/12(5:01) 南海 262 M6.2t 145(+33) スラブ内 71.3 330-26 TexN 45.2
2005/11/22(0:36) 琉球 198 M6.0T 146(+85) スラブ内 95.0 100-3 TPexN 133.7
2005/3/20(10:53) 九州 385 M7.0+nt 9(-188) 福岡県北部 76.3 139-69 PexT 140.5
2004/9/8(23:58) 東南海 -5 M6.5Po 36(+28) 紀伊沖 84.2 356+10 TexN 40.3
2004/9/7(8:29) 東南海 4 M6.5Pe 41(+33) 紀伊沖 90.2 153+17 TexN 33.7
2004/9/5(23.57) 東南海 5 M7.4Pe 44(+35) 紀伊沖 67.2 3+25 TexN 54.2
2004/9/5(19:07) 東南海 10 M7.1Pe 38(+29) 紀伊沖 92.8 155+17 TexN 34.6
2002/3/31(15:52) 花蓮 0 M7.0Pe 55(+49) 台湾花蓮 62.3 270+55 PexN 33.4
2002/3/26(12:45) 八重山 17 M7.0+po 0(-6) 八重山沖 29.6 293+38 org 29.6
2001/12/18(13:02) 八重山 51 M7.3Tr 8(-6) 八重山沖 3.7.3 328+5 org 37.3
2001/3/24(15:27) 南海 279 M6.7Tr 46(-75) 広島沖 74.9 80+13 PexN 31.7
2000/10/6(13:30) 紀南 336 M7.3-nt 9(-140) 鳥取県 50.8 43-57 PexT 133.7
2000/7/1(16:01) 駿河 -69 M6.5npo 16(+10) 三宅島 40.8 56-10 org 40.8
2000/6/25(15:34) 琉球 87 M6.0P 36(+15) 大隅半島沖 96.6 331-30) TexN 52.9
2000/6/7(6:16) 足柄西 337 M6.2P 21(-128) 敦賀沖 89.0 128-29 TexN 40.4
2000/6/6(23:57) 琉球 13 M6.2pe 28(+19) 屋久島沖 71.7 134-5 TexN 24.5
1999/9/21(02:47) 台湾 57 M7.7+p 0(-16) 蒐集地震 53.4 224+9 PexT 136.1
1999/1/24(9:37) 琉球 98 M6.6T 40(+16) 種子島 105.8 103+16 PTexN 140.6
1998/8/16(3:31) 足柄西 161 M5.6np 3(-57) 基準 基準 基準 基準 基準
1998/5/4(08:30) 八重山 -123 M7.7-nto 35(+29) 八重山沖 94.3 116+9 Texn 39.7
1997/6/25(18:50) 南海 364 M6.6-np 8(-155) 山口県 59.9 161-59 PexT 124.0
1997/5/24(2:50) 駿河 85 M6.0-t 23(-3) 浜名湖沖 92.2 285+8) PTexN 131.0
1997/3/26(17:31) 九州 252 M6.6+nt 12(-78) 川内 90.5 114+78 PexT 156.2
1996/10/19(23:44) 九州 111 M6.9P 34(+7) 日向灘 84.0 335-14 TexN 30.7
1996/10/18(19:50) 九州 107 M6.4p 38(+12) 種子島沖 85.2 337-12 TexN 29.3
1995/1/17(5:46) 東南海 227 M7.3nt 16(-78) 阪神淡路 57.6 106-66 PexT 136.4

3.2017年7月の月刊地震予報

2017年6月の日本全域CMT個数は,18個と先月2017年5月の13個から増加したが,地震断層面積のプレート運動面積に対する比は0.074と先月の0.205より減少し,先々月の1割以下に逆戻りした.2017年前半を0.093の1割以下に保ち,1997年の年間最低記録0.107を凌いでいる.嵐の前の静けさは続いており警戒が必要である.
最も警戒を要するのがフィリピン海プレート衝突・沈込域である.2017年6月のCMT解数9個・比0.105とプレート運動の1割しか消化されていない.フィリピン海プレート運動に敏感に反応するとともに東日本の太平洋プレート運動とも関係の深い飛騨で連発地震が起こった.今後予想される巨大南海トラフ地震に備えて表23を作成した.今回はその兆候に迫るに到らなかったが,解析を進める予定である.応力場極性によってフィリピン海プレートと太平洋プレートの影響を分離できたことは今後の解析に役立つであろう.
先月の宮古島沖連発地震(月刊地震予報92)は, 2017年5月9日10時54分M6.4と5月30日15時20分M5.3であるが,この発震機構方位差が22.0°とほぼ一致しており,震源域の応力は5月9日M6.4によって解放されず,5月30日まで保持していることを示していた.2017年6月3日2時26分にも南南西15km でM5.3+nt50/68(+54)kmが起こったが発震機構方位差17.3と最初の地震と変化せず,応力場は保持された状態のまま6月末まで地震が起こっていない.今後の動静に警戒が必要である.
日本海溝域の三陸沖でも5月20日に連発地震が起こったが(月刊地震予報92),以後,6月末まで地震は全く起こっていない.
千島海溝域では,2016年10月の1個0.155以降,4か月間0.003以下であったが,2017年3月に4個0.022と活動を再開し警戒を呼び掛けていた.2017年4月には3個0.054, 5月には2個0.070, 6月には3個と0.091と着実に比を増大させているので警戒が必要である.

引用文献

Huzita, K. (1980) Role of the Median Tectonic Line in the Quaternary tectonics of the Japanese Islands. Memoirs of Geological Society of Japan, 18, 335-348.