速報59)八戸沖の地震・日向灘の地震・2014年9月の地震予報

1.2014年8月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2014年8月の地震個数と,プレート運動面積に対する総地震断層面積の比(速報36)は,日本全域で22個0.197月分,千島海溝域で0個,日本海溝域で9個0.499月分,伊豆・小笠原海溝域で4個0.064月分,南海・琉球海溝域で9個0.214月分であった(2014年8月日本全図(月別)).
 日本全域の地震断層面積比が0.197月分と,地震断層面積がプレート相対運動面積の5分の1に減少した.2014年に入ってからの地震断層面積比も0.309で,1997年の0.114に次いで小さい状態である(2014年(1-8月)日本全国(年別)).
 南海・琉球海溝域の地震断層面積比は,沖縄・伊予灘・台湾でM6以上の地震のあった2014年3月が0.753であった.その後0.009から0.059とプレート運動面積の10分の1以下であったが,8月には日向灘M6.0が起こってプレート運動面積の数分の1に増加した.2014年1月からの地震断層面積比は0.146(2014年(1-8月)日本全国(年別))と1994年以降の0.471の3分の1以下である.

2.2014年8月のM6.0以上の地震

1)2014年8月10日M6.1深度51km襟裳小円南区八戸沖の太平洋スラブ上面
 太平洋スラブが日本列島側の地殻・マントルの下に沈み込む際に,スラブ上面に沿う摩擦力が働くために圧縮主応力P軸が海溝側に傾斜する.本地震の発震機構の圧縮P主応力軸が海溝側(109°)に25°傾斜する逆断層型であり,摩擦のあるスラブ上面に沿う沈み込みに起因していることを示している.東日本大震災本震の発震機構も圧縮主応力P軸が海溝側(113°)へ36°傾斜しており,摩擦のあるスラブ上面に沿って沈み込んだ地震であることを示している.本地震の発震機構を東日本大震災本震の発震機構に合致させるには,北北西方向(339°)のオイラー回転軸に沿って9.9°海溝側へ回転することによって実現できる.
 本地震の発震機構を基準にこれまで報告されている初動発震機構のオイラー回転を検討する.発震機構のオイラー回転の算出法について報告したが(速報58),表示に回転角の絶対値を用いて作図していた.今回からは島弧側(スラブ傾斜方向)への回転を正,海洋側への回転を負とし,回転方向を区別して作図する(図133).

図133.2014年8月10日八戸沖の地震M6.1の発震機構応力場を基準にした東北日本における初動発震機構解(精査後)のオイラー回転軸方位.スラブ傾斜側への回転が正,海洋側への回転が負.彩色:オイラー回転角.十:基準震源.

図133.2014年8月10日八戸沖の地震M6.1の発震機構応力場を基準にした東北日本における初動発震機構解(精査後)のオイラー回転軸方位.スラブ傾斜側への回転が正,海洋側への回転が負.彩色:オイラー回転角.十:基準震源.

 発震機構のオイラー回転角が15°以内(黒色)の地震は,青森県東方沖で定常的に起こっており(図133:左震央地図),ほぼ同じ深度で千島海溝から日本海溝の北海道・東北地方海岸線に平行して起こっている(図133:右上縦断面図).ただし,震源域は連続せず,孤立した震源域が数珠つなぎに分布しており(図133:左震央地図),その下のスラブ上部にスラブ面に平行する震源域(島弧側に45~80°回転:赤色)を伴っている(図133:中断面図・右上縦断面図).襟裳小円南区では,十勝沖・浦河沖・下北沖・八戸沖・久慈沖に震源域があり,本地震は八戸沖の北東縁に位置する(十字印).最上小円区の震源域は大船渡沖・金華山沖・福島沖にある(図133:左震央地図;右上縦断面図).スラブ上部の地震(赤色)は海溝からの同心円状屈曲スラブが深発地震面へ平面化する際に起こるので(速報),今回のような地震(黒色)も屈曲スラブの平面化に関連しているであろう.島弧側に45°以上回転した応力場(赤色)を持つスラブ上部の下には海洋側に45-80°回転してP軸がスラブ面に直交し,引張T主応力軸がスラブ面に平行する正断層t型と引張横ずれ断層nt型の地震が起こっている(空色).
 時系列図(図133:右下図)によると,襟裳小円南区において本地震(十字印)と同様の地震は,2002年・2008年・2012年に起こっている.最も集中して起こったのは2008年である.
 本地震の起こった襟裳小円区は,海溝軸が日本列島側に凸なため,海溝に沿って沈み込んだスラブは過剰になり(速報28).沈み込みスラブと島弧地殻・マントルとの剪断応力場が形成され易い.海溝軸が海洋側に凸の最上小円区では沈み込みスラブが不足するために形成され難い.剪断応力による地震が余り起こらない最上小円区の中軸部で東日本大震災本震が起こったため,大規模になったのであろう.時系列図で最も注目されるのは,2003年から2007年に大船渡域で屈曲スラブ平面化地震(赤色)が連続して多数起こっていることである.東日本大震災直前の2010年から2011年にかけても起こっている.2003年・2005年・2008年はM7.0以上の地震が起こり,地震活動が活発な年であり,大船渡域の平面化地震が東日本大震災に到る地震活動に大きな役割を担っていたことを示唆している.
 2014年7月日から開始した同心円状屈曲沈み込み活動の広域化(速報58)との関連が注目される.
2)8月29日M6.0圧縮過剰逆断層P型深度18km九州・南海小円区境界の日向灘
 西南日本では横ずれ断層型地震(黄緑色・空色)の多い中で,日向灘から北北東方向に芸予灘まで直線的に伸びる正断層型(黒色)・逆断層型(赤色)の日向灘-芸予灘地震帯が際立っている(図134).本地震はこの地震帯の九州小円区と南海小円区境界で起こった(2014年8月西南日本(月別)IS).
 西南日本の地震活動は下部地殻の空白域を挟み,上部地殻およびモホ面と沈み込みスラブの間の楔マントルで観測される.本地震は楔マントルのトラフ側上縁で起きた(図134:中断面図).発震機構は,圧縮P軸が南海トラフ側に16°傾斜する逆断層型であり,楔マントルと沈み込みスラブとの間に摩擦の働く応力場で起こったことを示している.

図134.西南日本における2014年8月までの初動発震機構解(精査後)の主応力軸方位.彩色:発震機構型.

図134.西南日本における2014年8月までの初動発震機構解(精査後)の主応力軸方位.彩色:発震機構型.

 この地震帯は約30km以深の正断層型地震層で特徴付けられるが,九州小円区では正断層層の上に逆断層型地震層が載る(図134:中断面図・右上縦断面図).本地震は九州小円区逆断層型地震層の北東縁で起こった.
 西南日本のM5.5以上の楔マントル内初動発震機構震源9個の内,8個が日向灘-芸予灘地震帯で起こっており,その地震断層面積0.025km2の内0.0242km2を占めており,西南日本楔マントルで最も地震活動の活発な震源域である.
 M6.0の本地震は,2001年3月24日に正断層型の芸予地震M6.7と今年2014年3月14日伊予灘の圧縮横ずれnp型M6.2(速報53)に次ぐ規模である.2002年11月4日には本震央の深度35kmで正断層型M5.9が起こっている.
 時系列図(図134:右下図)における正断層型地震(黒色)の分布は,芸予地震M6.7が起こった2000-2003年と2010年に南海小円域の東方に拡大している.
 本地震帯の初動発震機構解震源数は2001年の74個が最大で2002年の37個が続き,2010年の33個が第3位であるが,地震断層面積は2001年の0.0158km2が最大で,今年2014年の8月までの0.0056km2が次いでおり,第3位は2002年の0.0018km2であり,今年の活動が極めて活発であることを示している.
 琉球海峡沿いの地震活動が盛んになり,瀬戸内海と沖縄トラフでも地震活動が活発化している.

3.2014年9月の地震予報

 2014年8月のCMT発震機構解震源個数22個・M6.0以上の地震が2個と少なく,地震断層面積のプレート相対運動面積に対する比が0.197と5分の1以下と静穏であった.しかし,2014年3月の伊予灘M6.2に続いて8月に日向灘M6.0が日向灘-芸予灘地震帯で起こったことは,静穏であった西南日本の地震活動が活発化する前兆と捉えることもできるので,今後の警戒が必要である.
 東北日本でも八戸沖M6.1が起こり,地震断層面積比が2014年7月のプレート運動の5倍から半分に減じたが,応力場分布変動を詳細に解析できる初動発震機構解(精査後)は1997年10月から17年分しか存在せず,今後のどのように展開するか予報が難しいので警戒を要する.