月刊地震予報121)初動解・CMT解の主軸の呼び方の変更,2019年10月の月刊地震予報

1.2019年9月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2019年9月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で8個0.008月分,千島海溝域で0個,日本海溝域で6個0.048月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.009月分,南海・琉球海溝域で1個0.001月分であった(2019年9月日本全図月別).2019年8月まで4割以上を保持していた日本全域の比が1分以下に急減した.この比は2009年11月の0.004以来の低さである.今月より低いCMT解は2008年1月・11月,2001年5月と2000年以後は5回しかないが,CMT解の公開を開始した1994年9月から2000年までは12回あった.観測体制確立を考慮すると,今月の比は2011年3月の東北沖巨大地震前の2008・2009年の極小期以来の減衰と言える.
 2019年9月7日前弧沖帯下北のM5.0pが最大地震で,M6.0以上の地震はなかった.

2.初動解・CMT解の主軸の呼び方の変更

図85 発震機構型の細分.  nonDC:非双偶力成分(non Double Couple)比,黒矢印:引張主歪T軸,赤矢印:圧縮主歪P軸,綠線:中間主歪N軸.

図350 発震機構型の細分.
nonDC:非双偶力(non Double Couple)成分比,黒矢印:引張主歪T軸,赤矢印:圧縮主歪P軸,綠線:中間主歪N軸.

 初動解とCMT解では地震動の押引から算出される主軸を公開している.これまでこの主軸を主応力軸と呼んできたが,これらは震源で解放された主歪軸であって必ずしも主応力と一致しないとの指摘(山路 敦,地質学会2019年会)を受けた.これまで「圧縮主応力P軸」・「引張主応力T軸」・「中間主応力N軸」としていたが(震源震央分布:新震源震央分布の解説:図2),今後,「圧縮主歪P軸」・「引張主歪T軸」・「中間主歪N軸」と呼ぶことにする(図350).

3.2019年10月の月刊地震予報

 総地震断層面積のPlate運動面積に対する比の2009年以来の急減が,2019年7月・8月の日本海溝域・琉球海溝域の活発化に次いで起ったことは,2011年3月東北沖巨大地震によって解放された歪がM6程度の地震を起こせる程度まで蓄積したが,8月の地震によって解放されたからであろう.今後,このような増減を経て,より大きな地震を起せる歪を蓄積するようになると予想される.
 このように増減しながら進行する日本列島の歪蓄積過程と,南海Trough域の歪蓄積と巨大地震の発生がどのように関わっているかが問題であり,今後の地震活動の進展を注意深く解析する必要がある.