月刊地震予報127)Kamchatka沖千島海溝の同心円状屈曲地震M7.5,2020年4月の月刊地震予報
2020年4月24日 発行
1.2020年3月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解によると,2020年3月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で9個3.117月分,千島海溝域で2個8.786月分,日本海溝域で3個0.047月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.009月分,南海・琉球海溝域で3個0.074月分であった(2020年3月日本全図月別).日本全域総地震断層比が2019年9月から1割以下へ急減し,1割前後の異常静穏化が5ヶ月継続したが(月刊地震予報125),2020年2月の千島海溝域の4ヶ月分によって停止した(月刊地震予報126).2020年3月は千島海溝域の9ヶ月分によって更に3ヶ月分を越した.ただし,千島海溝域以外では1割以下の異常静穏化が継続している.
最大地震は2020年3月25日のKamchatka沖の千島海溝M7.5Pで,他にM6.0以上の地震は無かった.
2.Kamchatka沖千島海溝の同心円状屈曲地震M7.5
2020年3月25日11時49分, Kamchatka沖千島海溝軸部の深度77km(Slab深度+43)M7.5Pが起った.圧縮主歪P軸方位(丸印)はPlate運動方位(方位図中央付近の紫色斜線Sub)とほぼ一致しており,太平洋Plate運動による同心円状屈曲に対応している(図361).
千島海溝域のM7.0以上の地震は,7年ぶりに先月2020年2月13日択捉島沖で正断層型地震M7.2tが深度155(Slab深度+79)kmで起った(月刊地震予報126).今月2020年3月7日にもM7.2の震源から南西(236°)方106kmの択捉島沖深度151(+73)kmでM4.7Tの正断層型地震が起っている.この2つの正断層型地震の主歪軸偏位角(速報29)は23°と小さく,海溝に沿う同心円状屈曲に伴い圧縮した太平洋Slab深部が平面化によって伸張していることを示している.
平面化による正断層型地震は,先々月の2020年1月15日に根室沖深度91(+66)kmでM4.8tが起こっており,次いで2020年1月28日に根室沖深度96(+30)kmで逆断層型地震M5.5pが起っている(図361).逆断層型のSlab深度が30kmと,正断層型の66kmよりも浅い.同心円状屈曲に伴いSlab深部は圧縮され,平面化によって伸張するが,Slab表層は逆に同心円状屈曲に伴い伸張して平面化によって圧縮することSlab深度の差が良く対応している.従って,同心円状屈曲と平面化に伴う圧縮と伸張の境界Slab深度は30kmと66kmの間に位置するのであろう.
今回のKamchatka 沖のM7.5のSlab深度40kmは境界Slab深度付近であり,Slab深部の同心円状屈曲に伴う逆断層型なのか,太平洋Plate押がSlab引張りを上回っての逆断層型である.2020年1月以降の平面化地震の発生は平面化の進行を示しており,平面化はSlab沈込の障害を減少させて海溝軸付近のSlabに引張力を及ぼすと考えられるので,今回のM7.5の逆断層型はSlab深層の同心円状屈曲による圧縮によるであろう.
東日本巨大地震の際に,日本海溝域ではSlabが50m沈込むと共に平面化も起ったが,千島海溝域の海溝軸付近の沈込や平面化が進行しなかったので,今年に入り平面化と海溝軸部の沈込が進行しているのであろう.
3.2020年4月の月刊地震予報
千島海溝域で2020年2月に平面化の最大地震M7.2の翌月にM7.5の海溝軸部地震が起ったことは,M8.0以上の巨大地震の発生も予想され,警戒が必要である(月刊地震予報126).不明な点の多い異常静穏化を継続している千島海溝域以外との力学的関係の構築を目指し,今後の地震活動を注意深く監視することにする.