月刊地震予報96)海溝外太平洋スラブ地震・久慈沖地震・伊豆スラブ地震・秋田県仙北連発地震・2017年10月の月刊地震予報

1.2017年9月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2017年9月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で14個0.380月分,千島海溝域で1個0.070月分,日本海溝域で6個1.419月分,伊豆・小笠原海溝域で4個0.820月分,南海・琉球海溝域で3個0.038月分であった(2017年9月日本全図月別).
2017年9月の最大地震は9月21日の日本海溝外M6.3で,M6以上の地震は,9月8日小笠原M6.1,9月27日久慈沖M6.1を加え,3個であった.
今年に入ってからのCMT解は147個で面積比が0.137と1割代に留まっている(2017年9月日本全図年別).
連発地震は,秋田県仙北の2017年9月8日M5.2npと9月13日M3.2ntであった(2017年9月東日本IS月別).

2.海溝外の太平洋スラブ地震M6.3

2017年9月21日1時37分に日本海溝外でM6.3to深度53(スラブ深度+47)kmがあった.
 太平洋スラブPcSlab海溝外地震のCMT解はこれまで235個報告されており,最大は小笠原沖2010年12月22日M7.8T,平均がM6.1,最小がM4.0であった,震源は海溝距離0-189kmと深度0-105(+99)kmの範囲にあり,地震断層面積のプレート運動面積に対する比は0.111で,太平洋スラブ沈込面積の1割を担っている.東日本大震災前年の2010年に最大に達した地震断層面積の対数は極大・極小を繰返しながら直線的に減少している.2016年から2017年かけての極小は異常な減少を見せたが,その後の極大はこれまでの傾向を保っている(図247).

図247.太平洋スラブ海溝外地震CMT解の主応力軸方位.
 左図:震央地図,中:海溝距離断面図,右上:縦断面図,右下:時系列図,右下図左端(logArea):総地震断層面積の168.6日移動平均の対数曲線で彩色は発震機構型による線形内部配分.

 海溝外には,スラブ沈込による引張応力と海洋プレートによる押応力のみが働いているので,海溝外地震の発震機構型はいずれの応力が優勢であるかを判定できる(速報).正断層型ならスラブ引張力,逆断層型なら海洋プレート押力が優勢である.スラブ沈込を島弧地殻が停止させるとスラブ引張力が海溝外に及ばず逆断層型地震が起こる.正断層型と逆断層型の海溝外地震の総断層面積を用いれば定量的に比較できる.
 これまでのCMT解は正断層型が94.1%と圧倒的に多いことは,スラブ引張応力が太平洋プレートの沈込を支配していることを示している.海溝外地震の年間総地震面積は,東日本大震災前には全期間平均の88%しかないが,震災後は130%と5割増加し,沈込障害除去後の海溝外における引張力増大を示している.また,全期間で4.5%を占める逆断層型は,東日本大震災前の2010年以前に6.2%も占めていたのに,震災後に1.7%と4分の1に減少している.東日本大震災本震がスラブ沈込障害を除いたことを示している(表24).

表24.東日本大震災前後の太平洋スラブ海溝外地震断層面積の比較.

期間 年間断層 面積比% 全体年間比
正断層型 逆断層型 横擦断層型
東日本大震災後 98.0 1.7 0.3 1.30
東日本大震災前 91.8 6.2 2.0 0.88
合計 94.1 4.5 1.4 1.00

 固着して沈込めないでいた太平洋スラブの沈込を再開したのが東日本大震災本震であろう(特報1).この固着解除は太平洋スラブ上面の摩擦力が剪断力より減少すれば起こるが,この減少の主役を,①太平洋プレート押力の増大あるいは②太平洋スラブ沈込引張力の増大のいずれが担っていたのであろうか.
 太平洋スラブ引張力と太平洋プレート押力が均衡した定常スラブ沈込状態において,固着域が発生すると,固着は太平洋プレート押力を妨げ,固着域前面の逆断層型海溝地震を起こす.固着は太平洋プレート押力を減少させるとともに固着域下方のスラブ引張力を増大させる.固着域下方のスラブは周辺域に連続しているので周辺域でも引張力優勢になり正断層型海溝外地震を起こす.
 固着域の海溝外では太平洋プレート押力がプレート運動の進行とともに増大し,固着解除直前に最大に達する.固着のない周辺域の太平洋スラブが通常通り沈込めば,周囲の太平洋スラブと連続している固着域下方のスラブ引張力を増大させるとともに,周辺域海溝外の引張力も最大になる.
 海溝外地震断層面積曲線(図247:右下図左端logArea)では正断層型(黒色)の増大が2011年3月以前に認められることは,①の太平洋プレート押力の増大でなく,②太平洋スラブ引張力の増大が東日本大震災の固着解除の主因であることを示している.
 固着解除した太平洋スラブ引張力増大に千島海溝や伊豆・小笠原海溝からのスラブ沈込が関与していることは2010年以前からの正断層型海溝外地震によって知ることができる(図247).太平洋スラブ張力増大については,スラブ先端の下部マントルへの沈込の関与も予想される(速報68).太平洋スラブの下部マントル上面深度660km以下では,ウラジオストックで2009年4月18日M5.0+np深度671km,小笠原の2015年5月30日M8.1t深度682km(速報68)・2015年6月3日M5.6-t深度695km(速報69)が起こっている.低温のスラブ先端は下部マントル上面を通過できず停滞して沈込引張力を低下させるが,一度通過すると後続のスラブを引摺込み引張力を急増させスラブ崩落に到ることも考えられる(速報68).東日本大震災を招いた太平洋スラブ引張力の増大が2009年4月から既に開始されていた太平洋スラブの下部マントルへの崩落であれば,東日本大震災はこれまで日本人が経験したことのない地震活動の序章であったことになる.
 時系列図(図247:右下図)において2011年3月11日の東日本大震災の横線の上の最上小円区に多数の正断層型地震(黒・紫・青色)が分布しているが,2016年から2017年に掛けて様相が変化し,地震断層面積(logArea)の谷の後に増大している.これらの地震個数は少ないことから,大きな海溝外地震が起こっていることを示している.千島海溝・小笠原海溝域でも大きな海溝外地震が起こっており,太平洋スラブの下部マントルへの崩落も考えられ,1933年3月3日の昭和三陸地震M8.1のような巨大海溝外地震へと発展する可能性がある.
 

3.久慈沖の地震M6.1

2017年9月27日5時22分に久慈沖でM6.1p深度35(+4)kmがあった.
東北地方三陸海岸の北部に位置する久慈地域は,逆断層型地震が頻発する地域である.今回の地震の圧縮P軸傾斜が海溝側傾斜であることは剪断力による破壊であることを示し,島弧マントルが屈曲スラブ上面と接触し引摺られて起こす「久慈沖震源域(oKuj)」の地震活動であると判定できる(図248).

図248.久慈沖震源域のCMT解(左)・IS解(右)の主応力軸方位と歴史地震の震央(右).
 左:震央地図,右上:海溝距離断面図,右中:縦断面図,右下:時系列図,右下左端(logArea):総地震断層面積の168.6日移動平均の対数曲線で彩色は発震機構型による線形内部配分.最右下端:歴史地震とCMT解の地震断層面積積算Benioff図と時系列図.

太平洋スラブを日本海溝に沿って屈曲して沈込ませているのは,東北日本弧の地殻とマントルであるが,島弧地殻・マントルの強度は深度とともに上昇する温度のため減少する.地殻は石英を主体とする上部地殻と長石を主体とする下部地殻に区分されるが,下部地殻は上部地殻より高温でも強度が大きく,下部地殻の中でも温度の低い上面は強度が極大になる.カンラン石を主体とするマントルはさらに高温でも強度が大きく,マントル上面のモホ面付近で極大になる.久慈沖震源域は,東北日本弧モホ面付近の強度極大部が太平洋スラブに接触して同心円状屈曲させている現場である.
久慈沖震源域のCMT解はこれまで61個あり,M6.0以上は5個ある.スラブ上面からの深度は0~+16kmの範囲にあり,今回の地震は+4kmで,スラブ上面に沿う剪断応力によるスラブ上面下の破壊による地震である.
最大のCMT解は東日本大震災当日2011年3月11日15時08分の誘発地震M7.4Pであり,今回の地震M6.1pは,1995年1月7日M7.2+p・2010年7月5日M6.2p・2011年6月23日M6.9Pに次ぎ5番目に大きい(表25).今回の震央は震源域の北端に位置している.最大地震M7.4Pの震央は,震源域中央の海溝寄にある.

表25.久慈沖震源域の歴史地震とM6.0以上のCMT解
距離・方位:基準震源からの震央距離と方位,番号:宇佐美(2003)の地震番号で括弧内はSeno &Eguchi(1983)の地震番号,応力場:応力場極性解析区分と応力場偏角.

M 北緯° 東経° 深度
(km)
Slab
(km)
距離
(km)
方位° 番号 応力場
2017 9 27 5 22 6.1 p 40.267 142.455 35 +4 56 332 CMT org16.6
2011 6 23 6 50 6.9 P 39.947 142.590 36 +9 21 313 CMT org24.7
2011 3 11 15 8 7.4 P 39.820 142.767 32 +9 0 基準 CMT 基準
2010 7 5 6 55 6.2 p 39.657 142.652 34 +10 21 275 CMT org21.3
1995 1 7 7 37 7.2 +p 40.223 142.305 48 +13 60 319 CMT org15.6
1974 9 4 18 20 5.6 40.183 141.933 40 -5 82 300 613
1960 7 30 2 31 6.7 40.300 142.517 50 +20 57 338 (116)
1928 5 27 18 50 7.0 40.060 142.977 27 +7 32 34 449
1907 12 2 22 53 6.7 40.100 142.300 ? 50 308 369
1901 9 30 19 19 6.9 40.200 141.900 ? 85 300 345
1772 6 3 ? ? 6.8 39.350 141.900 ? 91 235 203

最大地震M7.4Pの発震機構(P111+35T297+55N203+3)を基準にすると今回の地震(P104+22T320+64N200+14)の応力場偏角はorg=16.6°とほぼ一致している.久慈沖震源域のCMT解61個の全てが基準区分orgに入り,59個の応力場偏角が25°以内であることは,極めて安定な応力場の保持を示している.
CMT解は,1995年1月7日M7.2+p(org=15.6)の後途絶え,2004年8月10日M5.8p(org=18.5)から活動を開始し,東日本大震災後の2011年に活動が最大になった後,2012年・2015-2016年に活動が低下したが,2016年から活発化して今回の地震に到っている.初動発震機構解は1997年12月23日M5.2p(org=25.0)から活動を連続的しているが,活動の盛衰はCMT解と類似している.
 久慈沖震源域の歴史地震は,1772年から1974年にM5.6からM7.0の6個があり,その最大は1928年5月27日M7.0で,CMT解最大の2011年3月11日M7.4Pより小さい(表25;図248右下端;宇佐美,2003).久慈沖震源域最大の地震が東日本大震災本震当日誘発地震であることは,東日本大震災本震域と同様にこの久慈沖震源域も数百年に及ぶスラブ固着域であったことを示唆する.東日本大震災に誘発されて固着を解消したが,今回の地震はその北端で起こっており,未だ固着を解消していない北側の歪集中が限界に達しつつある兆候であるとも考えられるので警戒が必要である.

4.伊豆スラブ地震M6.1

 2017年9月8日2時26分に小笠原の伊豆スラブでM6.1p深度475(+277)kmがあった(図249).震源は伊豆小円南区と小笠原小円区の境界付近のほぼ垂直に沈込む伊豆スラブ南端に位置している.

図249.伊豆・小笠原・Mariana海溝域の太平洋スラブCMT解の主応力軸方位.
 左上:震央地図,左下:縦断面図,中上下図・右上下図:小円区海溝感面図

 伊豆・小笠原海溝域の震源は殆ど太平洋スラブ内にあり,海溝から同心円状屈曲して沈込開始を開始する深度100kmまでと平面化する300kmから500kmに集中している.平面化震源深度は南に向かって深くなるが,平面化スラブ傾斜も南に向って増大している.平面化スラブ傾斜が大きければ同心円状屈曲から平面化する深度が大きくなることと調和的である.
伊豆小円南区・小笠原小円区の深度400~600kmのM6.0以上の平面化地震CMT解は18個ある.その最大は2000年8月6日M7.2P深度445(+299)kmであり,その発震機構(P281+59T53+22N152+21)を基準とすると,15個が基準区分orgでその中の11個が応力場偏角25°以内にある.今回の地震も基準区分orgで応力場偏角が2.1°とほぼ一致し,典型的な平面化地震である.
 2015年6月3日最深地震M5.6-t深度695kmは太平洋スラブが下部マントルに沈込んだことを示したが,今回の平面化地震の応力場が2000年の最大地震とほぼ一致していることは,下部マントルの沈込の影響がまだ現れていないのか,または2000年の段階で既にその影響下にあったのか注意深く見守る必要がある.

5.秋田県仙北の連発地震

 秋田県仙北地域,田沢湖南西方の横手盆地北部大曲付近で2017年9月8日22時23分M5.2np深度9(-93)km・9月13日4時00分M3.2nt深度10(-92)kmの連発地震があった.今回の連発地震の震源は1896年8月31日M7.2陸羽地震が起こった陸羽震源域の南西縁にある(図250).発震機構解は初動IS(2017年9月東日本IS月別)のみでCMT解は公表されていない.

図250.秋田県仙北の連発地震と陸羽震源域の地震.
 左:震央地図,右上:海溝距離断面図,右中:縦断面図,右下:時系列図.右下左端:地震断層面積積算Benioff図.陸羽震源域では総計M7.5分の地震が起こっている.その殆どを1986年6月15日の明治三陸地震M8.5に続く1986年8月31日陸羽地震M7.2と1914年3月15日の秋田県仙北地震M7.1が占めている.

本連発地震は,震源距離が1km以下の同所連発地震である.本震源の西方2kmでは,1914年3月15日に秋田県仙北地震M7.1があり,死者94,負傷者324,家屋全壊640,半潰575,最大推定加速度450ガルが報告されている(表27;宇佐美,2003).

表26.2017年9月の秋田県仙北連発地震および陸羽震源域の歴史地震とM6.0以上のCMT解
距離・方位:基準震源からの震央距離と方位,番号:宇佐美(2003)の地震番号,応力場:応力場極性解析区分と応力場偏角.

M 北緯° 東経° 深度
(km)
Slab
(km)
距離
(km)
方位° 番号 応力場
2017 9 13 4 0 3.2 nt 39.488 140.423 10 -92 1 162 IS org20.8
2017 9 8 22 23 5.2 np 39.500 140.418 9 -93 0 基準 IS 基準
1998 9 3 16 58 6.2 P 39.805 140.900 8 -72 53 50 CMT TPexN134.9
(org97.4)
1986 8 10 17 50 4.5 ? 40.678 140.815 10 -81 135 14 655
1986 5 26 11 59 4.7 ? 40.082 141.205 10 -59 93 46 654
1914 3 28 2 50 6.1 ? 39.200 140.400 ? 33 183 399
1914 3 15 4 59 7.1 ? 39.500 140.400 ? 2 270 398
1896 8 31 17 6 7.2 ? 39.500 140.700 ? 24 90 317
1896 8 31 16 37 6.4 ? 39.600 140.700 ? 27 65 317
1896 8 23 15 56 5.2 ? 39.700 140.800 ? 39 56 317
1843 4 29 ? 6.0 ? 39.450 140.700 ? 25 103 246
1823 9 29 ? 6.0 ? 40.000 141.100 ? 80 46 232

 本連発地震の9月8日M5.2npの発震機構(P222+34T325+18N78+50)を基準とすると,9月13日M3.2nt(P212+16 T308+21N87+63)の応力場偏角は20.3°とほぼ一致しており,震源域の応力場は9月8日のM5.2npの後にも保持されていることを示している.今後の応力蓄積によって更に大きな地震が起こることが心配されるので警戒の必要がある.

6.2017年10月の月刊地震予報

2017年9月の日本全域CMT個数は14個と先月17個より減少したが,地震断層面積のプレート運動面積に対する比は先月の0.066から0.380に増加している.今年に入ってからのCMT解は147個で比が0.137の1割に留まり,1997年の最小比0.107と2014年の次席比0.280の間に位置する静穏さである.嵐の前の静けさは続いているが,次第に総地震断層面積は増加している.
今月のM6.0以上の地震と連発地震の活動は,いずれも太平洋スラブ沈込増大と関係している.太平洋スラブの下部マントルへの崩落も考慮し,巨大海溝外地震・巨大海溝内地震・内陸地震に警戒が必要である.

引用文献

Seno,T. &Eguchi,T.(1983) Seismotectonics of the western Pacific Region. Geodynamic Series, 11, American Geophysical Union, 5-40.
宇佐美龍夫(2003)日本被害地震総覧.東京大学出版会,605p.