月刊地震予報(149)花蓮沖M6.3,小笠原沖M6.1,延岡沖M6.6,2022年2月の月刊地震予報
2022年2月28日 発行
1.2022年1月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解によると,2022年1月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で7個0.432月分,千島海溝域で0個,日本海溝域で1個0.009月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.412月分,南海・琉球海溝域で5個0.987月分であった(2022年1月日本全図月別).総地震断層面積規模はΣM6.8で.M6.0以上の地震は,1月3日琉球海溝域花蓮沖の琉球海溝震源帯M6.3+p,1月4日小笠原海溝域の小笠原海溝震源帯M6.1np,1月22日南海Trough域の日向震源帯M6.6Tの3個である(図455).
2021年2月13日の最大地震M7.3(月刊地震予報138)を起こした日本海溝域(図455B)の地震活動が静穏化した2021年7月以降,南海・琉球海溝域(図455D)と伊豆・小笠原海溝域(図455C)で呼応するように地震活動が活発化したが,2022年1月も南海・琉球海溝域と小笠原海溝域でM6.0以上の地震が起こった..
これらの地震の震度分布は,花蓮沖の地震では八重山諸島で震度5に達し(図456左),小笠原沖の地震では小笠原諸島で震度4まで(図456中図),日向灘の地震では西南日本全域で震度5強まで(図456右図)となっている.
.2.1月3日琉球海溝域花蓮沖の琉球海溝震源帯M6.3+p
2022年1月3日18時46分,琉球海溝域八重山小円区の花蓮沖琉球海溝震源帯TrPh深度27kmでM6.3+pが発生した(図456).この震源は琉球Slab上面下12㎞である.震央は,八重山小円区と花蓮小円区との境界部に位置するが,この境界部は,海溝軸輪郭が八重山小円区に設定されている海溝軸位置から北側に屈曲して大きく外れる異常な地域である.
.今回の花蓮沖の震央域は,ここ半年間に4個のCMT解がある繰り返し震源域である(図457).今回のM6.3から震央距離30㎞以内には,28個のCMT解があり,2015年4月20日M6.8P(速報67)が最大で,9個がM6.0以上である.この30㎞震央範囲内のCMT解の地震断層面積の移動平均規模曲線とBenioff曲線を,琉球海溝域の歪蓄積解放周期(月刊地震予報147)と比較すると,沖縄海盆拡大(Okw)の曲線に最も良く対応する(図458).30㎞範囲最大CMTの2015年4月20日M6.8Pが,沖縄海盆拡大最大の2015年11月14日M7.1に半年先行して対応している.
沖縄海盆の拡大は琉球Slab下を通過流入する随行Mantleによって駆動されている.2021年12月の悪石島M6.1と宮古島沖M6,1はこの随行Mantleの増大を示している(/7091>地震予報148).従って,琉球海溝域歪蓄積解放周期の最終段階である沖縄海盆拡大が継続することも予想される.
3.小笠原海溝域の小笠原海溝震源帯の小笠原沖M6.1np
2022年1月4日6時8分,小笠原海溝域小笠原震源帯の小笠原沖深度77㎞でM6.1npが発生,震源は小笠原Slab上面下36㎞である(図459).
今回の地震は,小笠原小円区南縁の圧縮横擦断層np型で,主圧縮歪P軸は海溝傾斜方位TrDipと逆方位(図459右下図上縁)へ2°傾斜と,ほぼ水平である(図459左図右).小笠原小円区南縁は,Plate運動方位(Sub紫色折線)と基準の海溝傾斜方位(中央黒直線TrDip)がほぼ一致しているので,今回の地震はPlate運動による圧縮により起こっていると言える.この圧縮については.Slab深部の屈曲による短縮あるいは行き場を失ったSlab随行Mantleによる圧縮が考えられる.
4. 延岡沖の日向震源帯M6.6T
2022年1月22日1時8分,南海Trough域南海小円区日向震源帯Hygの延岡沖深度45㎞でM6.6Tが発生した.この地震の震源は,南海Slab上面から29㎞上の島弧Mantle内で起こったもので,南海Slab内の地震ではない(図460).
日向震源帯の全CMT解の総地震断層面積規模はΣM7.1,最大CMT解は2001年3月24日安芸灘M6.7Trで,今回のM6.6は,それに次ぐ規模である.しかし,観測点の豊富な西南日本において,IS解が報告されていない.
今回の震源域の震源距離10㎞以内の0-7㎞上方には,同日2022年1月22日5時31分に深度38㎞M4.7-trのCMT解1個が報告されている.時間の経過を辿ると,3時17分深度45㎞のM4.0tr・3時43分深度39㎞のM4.0tr・5時31分深度38㎞のM4.7tr・13時20分深度40㎞のM4.1prのIS解4個が続いた.
これらの地震の中で5時31分M4.7-trのみがCMT解とIS解が報告されているので,
このCMT解の歪場方位を基準に他の地震の歪場を比較する.何れも基準の極性を保ち,最初のM6.6TのCMT歪場偏角は+20.7°と大差ない.基準地震のIS解の歪場偏角も-25.4°と変わらない.他のIS解の歪場偏角は,時刻順に-38.9・-44.5・-42.3°と歪場に大きな変動は認められない(図461).日向震源帯最大規模に次ぐ今回の地震を発生させた歪は完全に解放されないまま,
CMT解とIS解が途絶えたことになる.歪場が解放されず保持されているので,今後,同程度の地震が起こることも予想され,警戒が必要である.
5.2022年2月の月刊地震予報
現在の琉球海溝域は,歪蓄積解放周期における沖縄海盆拡大期から, 琉球海溝震源帯M7.0以上の大地震を待つ状態にある(月刊地震予報144).しかし,2021年12月の悪石島M6.1と宮古島沖M6.1によって随行Mantleが背弧側へ流入していることが明らかになり(月刊地震予報148),今回,沖縄海盆拡大と対応して活動する花蓮沖震源域でM6.3が起こったことから,沖縄海盆拡大が継続することも予想され,関連して活動した熊本地震(速報予報79)についても警戒が必要である.
今回,島弧上部Mantleで起こった日向震源帯の活動は,歪を解放せず休止状態に入っており,今回のM6.6程度の活動にも警戒が必要である.