月刊地震予報137)伊豆・小笠原・Mariana海溝域の地震活動,日本海溝域前弧沖震源帯の地震活動,2021年2月の月刊地震予報
2021年2月27日 発行
1.2021年1月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解によると,2021年1月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で14個0.085月分,千島海溝域で3個0.033月分,日本海溝域で3個0.314月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.041月分,南海・琉球海溝域で7個0.063月分であった(2021年1月日本全図月別).日本全域総地震断層面積比は2020年7月の1.5割への減少後,0.5割まで減少して12月に2割に増大したが,2021年1月に0.1割以下に減少した.
最大は2020年1月1日新島北方の伊豆諸島の地震M4.7npである.日本全域のCMT総地震断層面積規模はM5.5でM6.0以上の地震はなかった.
伊豆・小笠原・Mariana海溝域や日本海溝域の前弧沖震源帯で異常が発生していないかとの問い合わせがあったので,2021年1月までの発震機構に基づく解析結果を述べる.
2.伊豆・小笠原・Mariana海溝域の地震活動
伊豆・小笠原・Mariana海溝域におけるM6.0以上の地震は,2020年1月以後,翼震源帯小笠原震源区WingDogの2020年4月18日M6.8P(月刊地震予報128)と伊豆海溝震源帯伊豆震源区TrPcIの2020年7月30日M6.0Pe(月刊地震予報131)である.
2020年1月以後の深発CMT解は27個であるが,上部Mantleの相転移に関係する翼震源帯(月刊地震予報131,図377)のα>β相転移に関係するβ震源域先端で2020年12月29日M5.7とβ>γ相転移に関係するγ震源域先端で2020年7月17日M5.1が発生している(図391).
伊豆・小笠原・Mariana海溝域では,深度660kmの下部Mantle上面(γ>δ相転移境界)以深で2015年5月30日M8.1深度682kmと2015年6月3日M5.6深度695kmが発生している.それ以降2021年1月までのCMT解で,上部Mantle相転移に伴う翼状Slabの最大海溝距離が2020年7月と12月であることは,太平洋底のPlate運動に随行してきた上部Mantleが伊豆海溝域のSlab沈込によって行き場を失いSlabを翼状に吹き上げていることを示している.これが翼状Slabと定義した(月刊地震予報131).2020年後半にその最大海溝距離を記録し,随行Mantleの噴出が強化されていることを示している.また,2個の下部Mantle地震の間に発生した2015年5月31日M6.6深度45kmよりも大深度の海溝外地震2020年11月7日M5.9深度100kmが発生しており(図392),太平洋Plateの沈込みが強化されている.
気象庁が公開している発震機構解には,精査後のCMT解やIS解の他に精査前の発震機構解が「速報解」として地震発生後5日間公開されている.近年,精査前の海外のCMT解も速報解として公開されており,2020年から2021年1月までに海外CMT解の速報解が35個公開されている.
2021年1月12日MongorM6.8
2021年1月7日SulawesiM6.3
2021年1月7日SolomonM5.9
2020年12月29日M5.2β
2020年12月29日CroatiaM6.4
2020年12月25日PhilippineM6.5
2020年12月24日offPhilipineM6.3
2020年12月20日offChileM6.8
2020年12月16日PhilippineM6.3
2020年12月2日AleutianM6.4・
2020年11月7日M5.9o
2020年10月1日TongaM6.7・
2020年9月11日ChileM6.2
2020年9月7日VanuatuM6.6
2020年9月7日MindanaoM6.6
2020年9月1日ChileM6.8
2020年8月21日MollucaM6.9
2020年8月18日PhilippineM6.9
2020年8月5日VanuatuM6.1
2020年7月17日M5.1γ
2020年7月17日NewGiniaM7.3
2020年7月7日GuamM6.2
2020年7月6日NewHebridesM6.0
2020年6月26日ChibetM6.3
2020年6月24日MexicoM7.7
2020年6月18日NewZealandM7.4
2020年6月3日ChileM6.8
2020年5月15日SanAndreasM6.4
2020年5月13日SantaCruzM6.6
2020年5月7日BougainvilleM6.1
2020年5月6日BandaM6.8
2020年5月2日GreekM6.7
2020年3月14日KermadecM6.7
2020年4月6日MoluccaM6.3
2020年1月20日HalmaheraM6.1
2020年1月23日AleutianM6.2
2020年1月25日eastTorkeyM6.7
2020年1月29日CaymanM7.3
地球表面はPlateで敷き詰められているので,何れのPlateやPlate境界で歪を開放する地震が起れば全てのPlateに影響を及ぼす.地球上最大の太平洋Plateについては特に影響が大きいであろう.ここで取上げた伊豆海溝域の太平洋Plateの沈込の増強が,海外CMT速報解が途絶えた時に起っていることは,地球表面を敷き詰めるPlate全ての歪の連鎖を解析するための出発点となるであろう.
3.日本海溝域前弧沖震源帯の地震活動
日本海溝域の前弧沖震源帯では,2020年12月21日2時23分に下北沖震源域の深度43km(Slab上面深度+13km)でM6.5Pが起こっている(月刊地震予報136).
前弧沖震源帯の震源は日本海溝から同心円状屈曲して沈込む太平洋Slab上面に沿って分布しており,P軸はSlab上面と逆傾斜の海溝側に傾斜しており,摩擦のあるSlab上面に沿うPlate運動による地震である(月刊地震予報136).
2020年1月から2020年12月以前の前弧沖震源帯のM6.0以上のCMT解は,2020年4月20日M6.2p深度46km(月刊地震予報128)と2020年9月12日M6.2P深度43km(月刊地震予報133)があり,Benioff図に3つの明確な段差となっている(図393右中図左端).
前弧沖震源帯は陸域に近いため67個のIS解が報告されている.CMT解のM6.0以上の地震も兼備地震(月刊地震予報109)としてIS解に含まれているため.CMT解と同じBenioff図の3つの段差が認められる(図394右中図左端).Benioff図の左脇の地震面積規模図areaMは,作図期間を150等分し,前後の等分区間の地震断層面積を加え規模Mに換算して作図したもので,本図の等分区間は2.6日で,前後を加えた期間は4.8日になる.4.8日間にIS解がなければ,左端の基底線になり,IS解があれば嶺として作図される.嶺の連なる活動期と嶺のない静穏期の繰り返しを知ることができる.2020年10月から11月の静穏期の後は,襟裳小円区から最上小円区北部にかけて震源が分布し,2020年12月21日M6.5が発生した.2021年になると震源分布は,2020年10月から11月の静穏期以前のように襟裳小円区南から最上小円区・鹿島小円区へと南方に移動拡大している.この移動拡大は襟裳小円区の下北沖震源域のM6.5によって歪が解消されたが,南方の前弧沖震源帯の歪がM6.0以下の地震によって開放されているのであろう.
4.2021年2月の月刊地震予報
2021年1月はPlate運動による歪の1割以下しか地震活動がなく,2011年3月11日東北沖巨大地震による歪開放後の歪蓄積が着実に進行している.
伊豆海溝域でも太平洋Plate運動による沈込が活発化しており,日本海溝域でも2020年12月21日下北沖震源域の最大地震M6.5は,太平洋Slabを屈曲させる東北弧の筋金に当る前弧沖震源帯で起った(月刊地震予報136).前弧沖震源帯のIS解は最上小円区から鹿島小円区に移動しており,今後の動静に注目したい.