速報61)襟裳岬南方沖の地震・2014年11月の地震予報「十勝沖地震への緊急特別警戒」

1.2014年10月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2014年10月の地震個数と,プレート運動面積に対する総地震断層面積の比(速報36)は,日本全域で14個0.180月分,千島海溝域で1個0.009月分,日本海溝域で7個0.655月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.154月分,南海・琉球海溝域で5個0.075月分であった(2014年10月日本全図月別).
 日本全域の地震断層面積比が0.180月分と,地震断層面積がプレート相対運動面積の数分の1以下の状態を保っている.2014年に入ってからの地震断層面積比も0.272で,1997年の0.114に次いで小さい状態を保っている(2014年10月日本全図年別).

2.2014年10月のM6.0以上の襟裳岬南方沖地震

 2014年10月のM6.0以上の地震は,2014年10月11日11時35分,襟裳小円南区に位置する襟裳岬南方沖の太平洋スラブ内,深度36kmで起こったM6.1正断層t型地震1個である(2014年10月東日本CMT月別).
 この地震のCMT発震機構解の主応力軸方位と傾斜は[P113+29T302+60N205+4]で,引張主応力T軸方位302はスラブ傾斜方位296(図140右下の主応力軸方位図のTrDip)とほぼ一致するとともに,プレート相対運動方位(図140右下の主応力軸方位図のSub)とも一致し,圧縮主応力P軸方位はその逆方位である.本地震に次いで, 10月11日14時20分に深度34kmでM5.6圧縮過剰逆断層P型地震[P102+17T329+67N197+16]が,そして10月15日3時08分に深度35kmでM5.0正断層t型地震[P117+31T310+58N211+6]が起こっている.これらの地震の非双偶力成分比は2つの正断層型地震で-1%と-3%,逆断層型地震で-25%であり,いずれも負の圧縮過剰である.

図140.襟裳岬南方沖震央域のCMT発震機構回転角.  1999年1個,2003年2個,2004年3個,2010年1個,2012年1個,2014年5個と断続的に起こっているが,2014年が最も多く起こっている.回転角の符号は,上半球のスラブ傾斜側回転を正,海溝側回転を負としている.2004年以前の発震機構回転角は海溝側回転である.+:2014年10月11日M6.1基準.

図140.襟裳岬南方沖震央域のCMT発震機構回転角.
 1999年1個,2003年2個,2004年3個,2010年1個,2012年1個,2014年5個と断続的に起こっているが,2014年が最も多く起こっている.回転角の符号は,上半球のスラブ傾斜側回転を正,海溝側回転を負としている.2004年以前の発震機構回転角は海溝側回転である.+:2014年10月11日M6.1基準.

 本地震M6.1tは圧縮主応力P軸が海溝側に29°傾斜,引張主応力T軸が日本列島側に60°傾斜しているのに対し,M5.6PのP軸が海溝側に17°傾斜,T軸が日本列島側に67°傾斜している.プレート相対運動によって起こるこれらのプレート境界地震のP軸は,海溝側に傾斜している.プレート境界面に摩擦抵抗がなければP軸は境界面に沿うが,抵抗の増大とともに海溝側への傾斜が増大する.P軸傾斜が本地震M6.1tの29°からM5.6Pの17°への減少は,本地震による震源域の摩擦抵抗に対応する応力の解放を示唆している.ただし,4日後の15日M5.0tの発震機構解ではP軸の海溝側傾斜が31°とM6.1tの傾斜に戻っており,この応力解放が局部的であることを示している.
 これらの地震の発震機構解の主応力軸方位が,本地震からどの程度変化したか定量的に算出するために,本地震を基準にした発震機構解回転角(速報58)を用いて解析した.回転角の符号は,上半球のスラブ傾斜側回転を正,海溝側回転を負にしている.10月11日の本地震3時間後に起こったM5.6Pの回転角は海溝向きのP軸傾斜が減少する+21.6°であるが,15日のM5.0tではP軸傾斜が増大する-2.6°と基準を越えて戻っており,震源域の応力場は変化していないことを示している.
 これらの地震の震央は,襟裳小円方位292°から300°,海溝距離80kmから152kmの範囲に収まっている.この震央範囲内のCMT発震機構解[本地震基準の発震機構解回転角]の各年個数は,
1999年3月19日29kmM5.8t[-14.5]1個,
2003年1月28日41kmM5.0+p[-28.4]・6月20日26kmM5.1t[-18.5]2個,
2004年7月3日23kmM5.2t[-10.9]・7月21日37kmM5.5t[-8.8]・30kmM5.4t[-8.4]3個,
2010年12月6日7kmM5.8p[+0.2]1個,
2012年6月28日21kmM4.4p[+1.3]1個,
2014年には2014年3月29日26kmM4.8t[-4.2]・8月27日42kmM5.4t[+6.1]を10月の3個に加え,合計5個と最も多く,断続的に起こっている.
 1994年9月以降この震央範囲のCMT発震機構解13個の内,12個が本地震M6.1と同様,同心円状屈曲スラブ上面付近で起こっているが,残る1個は東日本大震災前の2010年12月6日に,深度7kmのスラブに沈み込まれる日本列島地殻内で起こっている.
 この震央域の最初の地震は,日本全域CMT地震断層面積比が最小であった1998年の翌年1999年である.15°を越す海溝側への負の発震機構回転角の地震2個が起こった2003年は,同心円状屈曲スラブの平面化地震が活発化する契機となった2003年5月26日深度72kmM7.1Pの大船渡の地震(速報59)の4ヶ月前と1ヶ月後である.本震央範囲は東日本大震災の震央域同様,地震が余り起こらない空白域である(図141).
 本震央範囲の歴史地震は,1943年6月13日深度10km M7.1と1968年5月16日深度7km M8.1「十勝沖地震」が起こっている(宇佐美,2003).

図141.東日本のCMT発震機構回転角.   襟裳岬南方沖2014年10月11日M6.1の発震機構を基準(+印)として算出した発震機構回転角.符号は,上半球のスラブ傾斜側回転を正,海溝側回転を負としている.基準地震は地震が散発的にしか起こらない地震空白域で起こっている.同域では1943年6月13日M7.1と1968年5月16日十勝沖地震M8.1が起こっており,警戒が必要である.

図141.東日本のCMT発震機構回転角.
 襟裳岬南方沖2014年10月11日M6.1の発震機構を基準(+印)として算出した発震機構回転角.符号は,上半球のスラブ傾斜側回転を正,海溝側回転を負としている.基準地震は地震が散発的にしか起こらない地震空白域で起こっている.同域では1943年6月13日M7.1と1968年5月16日十勝沖地震M8.1が起こっており,警戒が必要である.

3.2014年11月の地震予報:十勝沖地震への緊急特別警戒

 2014年10月のCMT発震機構解数14個は,本年に入って2014年1月の13個に次ぐ少なさである.地震断層面積のプレート相対運動面積に対する比が0.180と,プレート運動の数分の1以下と静穏であった.M6.0以上のCMT発震機構解は,襟裳岬南方沖の地震M6.1が1個であった.
 この襟裳岬南方沖の地震M6.1の震央域には,東北地方で東日本大震災に次ぐ被害をもたらした1968年十勝沖地震M8.1の震央が位置している.この震央域は東日本大震災の震央域同様,地震が余り起こらない空白域である.プレート相対運動による歪を蓄積できる地域は,余り地震を起さないが,起こると大地震になることが心配される.
 東日本大震災の最初の余震M7.4が起こったのは,この震央域から南南西130kmの地震頻発地域であり(速報34),東日本大震災によってこの震央域の歪が解放されていないことも予想される.
 2014年10月の襟裳岬南方沖の地震は,11日と15日の間に3個連発しており,発震機構は同心円状屈曲する太平洋スラブと日本列島の地殻が固着していることを示している.発震機構が10月15日の地震M5.0でも変化していないことから,M8級の大地震を起こすことも予想されるので,東北地方北部から北海道西部では厳重な警戒が必要である.東日本大震災の前震が2月16日から起こり,本震が26日後の3月11日に起こったことを考えると,既に特別警戒期間に入っていることになる.

引用文献

宇佐美龍夫(2003)日本被害地震総覧.東京大学出版会,605p.