月刊地震予報112)Kamchatka沖M7.3,房総沖三重会合点連発地震, 2019年1月の月刊地震予報
2019年1月25日 発行
1.2018年12月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解によると,2018年12月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で21個1.911月分,千島海溝域で2個5.057月分,日本海溝域で9個0.153月分,伊豆・小笠原海溝域で5個0.655月分,南海・琉球海溝域で5個0.033月分であった(2018年12月日本全図月別).2018年10月に3割以下に低下していた比が,千島海溝北東端のKamchatka半島沖のM7.3によって2か月分近くまで増大した.
2018年12月の最大地震は2018年12月21日Kamchatka半島東方沖のM7.3で,この他にM6.0以上の地震はなかった.房総沖Plate三重会合点で2,018年12月24日M5.9・M5.9・25日M5.7の連発地震があった.国後島M4.7T・与那国島M4.5p・台湾M5.4-npの活動が続いている.IS解では,飛騨でM4.3np・M3.3np・M3.4trの連発があり,胆振M4.0pr・M3.5ntと相模TroughM4.5nt・M3.1np・M3.5ntの活動も続いている.
2.2018年12月21日のKamchatka沖M7.3
2018年12月21日2時01分にKamchatka沖の千島海溝北東端とAleutian海溝北西端が接合する海溝外40kmでM7.3+nto深度17(Slab深度+11)kmが起こった.千島海溝は千島小円に沿う島弧であるが,その北半分を千島小円Kamchatka区と区分している.Kamchatka区の大部分は国内のCMT観測域の外側にあるため,2009年から公開されている気象庁の「世界のCMT解」に収録されているCMT解とともに解析している.
Kamchatka区にはCMT解が4個あり,最初の2013年5月24日M8.3が最大で,2013年からの5年間に2013年10月1日M6.7-np581km・2016年1月30日M7.2-np161kmおよび今回のM7.3と総地震断層面積はPlate運動面積20年分にもなり,深度範囲も今回の海溝外から最大地震の深度620kmの下部Mantle上面近くにまで達している.CMT解の並ぶ和達深発地震面の傾斜は千島小円区と差がない(図303).
千島小円に沿う千島海溝域のKamchatka区と千島区のCMT解の発震機構型は逆断層型が7割以上を占める.圧縮P主応力軸方位(図303右下の主応力方位図の赤丸印)は,方位図中央横線(海溝傾斜方位:TrDip)およびその逆方位の上下端に集中しているが,右に向かって下がっている.その下がり具合が中央付近のPlate相対運動方位線(紫色斜実線:Sub)と対応していることは,海溝傾斜などの千島海溝域の地形と主応力軸方位が太平洋と北米のPlate相対運動に支配されていることを示している.
千島区とKamchatka区の総地震断層面積規模曲線(図303右中図:AreaM)には対応が見られ,Kamchatka区の地震に先行し千島区での増大が認められる.
Kamchatka区の地震は600km以深の太平洋Slab深部地震に対応している.Kamchatka区最初の2013年5月24日M8.3P609kmと2013年10月1日M6.7-np581kmには,2012年8月14日M7.3p654km千島・2013年4月6日M5.7+p646kmVladivostokが先行,次の2016年1月30日M7.2-np161kmには,2016年1月2日M5.7P681kmVladivostok・2015年5月 30日M8.1t682km ・6月3日M5.6-t695km小笠原が先行し,今回は2,017年7月13日M6.3-np603kmVladivostokが先行している(図304).
3.2018年12月24・25日の房総沖三重会合点の連発地震
2018年12月24日9時18分M5.9+p33km・9時43分M5.9+pe33km・25日9時10分M5.7P36kmの連発地震があった(図305).
房総沖三重会合点は,北米-太平洋・太平洋-比海・比海-北米の3つのPlate境界線が交わる点であるが,太平洋Plateが沈込む日本海溝と伊豆海溝を結ぶ線を加えた三角形域が北米・太平洋・比海の3つのPlateが直接相互作用する海域になる.今回の連発地震はこの三角形の南端の西側で起こった.この三角形域は1994年9月以降のCMT解が36個太平洋Slab内で報告され(月刊地震予報84),震源密集域となっている(図306).密集域中央の2015年3月28日M4.5-npから震央距離55km の円内に密集域震源が納まっている.
今回の連発地震最大2018年12月24日9時18分M5.9+p33(+20)kmの主応力軸方位を基準にした密集域の応力場極性偏角区分では,正極性が4分3を占めるが,2015年3月15日M5.3Prから2017年7月14日M4.3+ntまで逆極性が認められる.逆極性は三角形北縁の太平洋Slab上部を占める(図307).
密集域のBenioff図では,2005年と2016年に大きな段差をなし,1996年・2003年・今回に小さな段が認められる他,2010年から2012年にも活動が認められる.
このBenioff図を日本全域のBenioff図と比較すると,最も良く適応するのは南海Trough域(図307右中図右端)である.2004年と2016年に明瞭な段差が認められる.2004年の段は2004年9月5日東海道沖地震M7.4Peと2005年3月20日福岡地震M7.0+ntに因り,2016年の段は2016年4月16日熊本地震M7.3+ntに起因している.1996年の段は1996年10月19日日向灘M6.9Pと1997年3月26日沖縄TroughM6.6+ntに因る.これらの段の他に南海Trough域では2000年10月6日鳥取県東部地震M7.3-ntに対応する段が加わる.また,2010年から2012年には2009年8月11日駿河TroughM6.5+nteと2011年3月15日富士山西方M6.4npeがある.
逆極性応力場期間は2016年の段に対応し,2015年5月30日M8.1t682km・6月3日M5.6-t695km小笠原の下部Mantle地震と2015年11月14日沖縄Trough最大のM7.1+ntが起こっている.
4.2019年1月の月刊地震予報
Kamchatka沖M7.3と国後島の地震は千島海溝域の地震活動が活発化していることを示しており,得撫島の大地震に警戒が必要である.
三重会合点は太平洋・北米・比海Plateが会合して相互作用する海域で震源密集域を形成しているが,その活動動向が西南日本の地震活動と対応していることは,西南日本が太平洋Slabと比海Slabの沈込を支配していることを示唆する.また,西南日本の地震活動に沖縄Trough拡大が関連していることも,日本列島全域の地震活動を予報するために念頭に置く必要があろう.
本震に至らない前震と考えられる連発地震が択捉島(月刊地震予報101)・国後島( 月刊地震予報111)・三重会合点(本号) ・大阪府北部(月刊地震予報106)・島根県西部(月刊地震予報104)・琉球海溝(月刊地震予報109)・与那国島(月刊地震予報110)・台湾(月刊地震予報102)と全国的に起こっており,一触即発の状況と言えるので厳重な警戒が必要である.